11話
2章11話
10年後
「クソ!またスタンピードが起きたのか。」
そこはとある建物の一室。そこでは重大な報告を受けていた。
「自然現象ですからしょうがないですよ」
「だがな、そう割り切れるもんじゃ無いだろ。前回のスタンピードで何人死んだと思ってんだ。」
スタンピード。それは発生原因不明でいつ何時起こるか分からない、魔物の大群による進行だ。ただ、普通の進行ではない。スタンピードと呼ばれるには100体以上の魔物である必要がある。
そして、今回スタンピードと報告をしたと言う事は100体以上と言う事だ。
「それはそうですが・・・くよくよしていても仕方ないですし早く対応しましょう。」
「そうだな。今は一分一秒を争う。」
とあるギルドの一室での報告。だが、その事は重大な事みたいでその部屋にいた人は全員焦っている様子であった。実際にギルド長と副部長以外の人間は言葉を発する事さえしていなかったのだから。
だが、そんな焦っている状態でも何もしていなかったわけではない。
「どの位の規模だ?」
「・・・どうでしょう。私もよく分かっていないんです。」
申し訳なさそうだが、ここまで早く報告が出来たのは情報の質を度外視したからだ。だが、スタンピードが起きていると言う情報は何よりも早く持っていなければいけない。それほどスタンピードは怖いなのだから。
「S級の討伐者を呼ぶのであれば時間が必要だから、分かる事だけでいい。」
「多分ですが……前回よりも大規模です。2倍とまでは行かないですが1.5はいました。」
「・・・」
その言葉にその場は何の音も聞こえなくなった。だって、そうだろう。前回のスタンピードでは一部の城壁が崩されて対応できなかった、数百体が市民エリアになだれ込んだのだから。だが、それでも数えることが出来る程度しか死ななかったのは、S級討伐者の努力があったからだろう。
それほどS級討伐者とは偉大なのだ。
「それなら・・・3人。いや、5人は欲しい。」
「それで足りるならいいんですが・・人数が1.5倍になったと言う事は戦力で言うと。。2倍以上には膨れ上がっていると思いますから。」
「・・。だが。それだとギルド経済が破綻するぞ。」
そもそも討伐者とはこのギルドと呼ばれる組合に討伐者として入っている人の事を言っているのだ。だが、組合に入っているとはいえ討伐者たちには命令をしていい訳では無い。ギルドは依頼側として存在しているだけで、討伐者に対しての強制力は持ち合わせておらず対等な立場である。
だから、討伐者を動かすには命令と言う野蛮な行為ではなく、依頼と言う金銭が発生する方法でないといけないのだ。
そして重要な事なのだが、討伐者には達成した依頼のレベルによって位が分けられており、、一般的にC級、B級、そしてA急に分かれている。だが、そのA級の中でも突出して高い難易度の依頼を達成してくれる人はS級と言う位を与えられるのだ。
だから、S級の人たちは全員強い人たちなのだが・・・そのぶん依頼するにはお金がかかるのだ。A級とは比べ物にならない程のお金が。
それなら依頼をしなければ良いのではないのか?と思うかも知れないがそうはいけないのだ。そもそも、ギルドが依頼を出すためのお金はこの国の税金から出ている。だから、今回の様な市民の命が関わっている時にその原因であるスタンピードを止めなければギルドは生きていけない。
「S級には依頼を出しおいてくれ。」
お金よりも市民の命が大切だと考え、S級に依頼を出すことにした。これは前回のスタンピードでの反省点である。前回はS級に依頼を出すのを躊躇したおかげで死人が出てしまった。
「誰に出しますか?私としては、剣豪のパーティーに出したいのですが。」
「剣豪か・・・あいつのパーティーは雷鳴と氷結がいたよな?」
「はいS級に限ればですが。他にもA級の討伐者が2名ほど。」
パーティーで活動しているS級討伐者は希少である。基本的にS級になれる奴はその強さのあまり群れる事が多い。なぜなら自分についてこれる奴がいないからだ。だからこそ、パーティーになれるのは人望が厚いのだ。
「・・・それなら、その剣豪のパーティーと個人のS級5人くらいに、、いや近場のS級全員に5億ベリーで依頼してくれ。どうせ依頼しても来ないような奴らだ。数うちゃ当たる。出来るだけ多くのS急に依頼を出せ。」
「近場のS級全員に5億ベリーですね。分かりました。」
先ほども言ったが、S級とは強者の集まりである。だから、と言うべきなのかS級の人間には変人が多いのだ。ある人は常に修行をしていて。ある人は全財産をギャンブルで溶かした癖に翌日にもまたギャンブルをやる。だから確実に依頼を受ける事は無い。なので、出来るだけ依頼を受けてくれるように、いい条件にしないといけないのだ。
だがら、苦肉の策だがこの一回の依頼に通常の人の生涯年収の2倍の報酬を出させてもらった。それも1人1人に対してだ。だが、これだけ出しても来てくれるS級は少ないだろう。だって、S級になれる実力者なら、お金なんて湯水のように持っている。
だけど、ギルドが出せるのはこのくらいしかない。
「お願いだから来てくれよ。」
ギルド長はお願いをする事しかできない。S級は自由なのだから。
☆
「くそが!!!」
それはギルド長の涙たらしく屈辱に溢れた声だ。なぜそんな声を出しているかと言うと・・・スタンピードを止める事が出来なかったからだ。S級の討伐者に多額の報酬で依頼を出したり、市民の人たちや国の騎士団の方たちと協力して、万全の準備でスタンピードを迎えたのだが、結果は敗北。
原因は単純だ。S級討伐者が誰一人この依頼を受けなかったのだ。
S級討伐者が来ることを想定した事を軸として考えられていたこの準備はゴミの様に吹き飛ばされ、魔物たちがその物量を使って簡単に城壁の中に入って来る。・・・前回の用にはならないために、市民の非難はすんでいるが、城壁を破壊された今このスタンピードを止める方法が見付からない。
それは指揮官としての立場であるギルド長にとっては絶体絶命の状況であった。
もし、自分にS級の力があれば・・・もし自分に才能が有れば。そう思って仕方がないくらい目の前の光景は悲惨な事だ。だって、さっきまで会議をしていたギルドは木片となってしまっている。
「どうすれば・・・どうすればよかったんだよ。」
どうにもならないからこそ、ギルドの長として言ってはいけない言葉を発した。これでもギルド長と言う名誉正しき立場に居座っている。だから、舌のものを不安にさせる様な弱めを吐く事はダメなのだ。全体の式が下がってしまう。
「5億では足りませんでしたか・・・・。」
それはただの後祭りだ。だって、特定のS級にとってはこの程度の魔物たちは片手間で倒せるはずだ。何度かS級を見てきたがそれくらい規格外なのだ。だからこそ、5億も貰えるなら小銭稼ぎ程度に来てくれるのではないのかと楽観視していた。
苦労しないで、ここまで多額の報酬を貰える依頼は他に無いのだから。
それなのに1人も来なかったと言う事は・・・この依頼は魅力的ではなかったと言う事。S級の人を動かすには物足りなかったのだ。多分S級の人たちそれぞれには予定は普通にあるだろう。だけど、それを押しのけてでも来たいと思うくらい魅力的に見せるのが俺の仕事のはずだったんだ。
それが出来ていないと言う事は、俺はギルド長として失格であったと言う事。
「終わったんだもう。」
俺はその光景を今後忘れることが無いよう目に焼き付けようと、その光景を見ていた。いつも言っていた飲食店が潰れているなとか、あそこの広場の噴水は跡形もないなとか。そんな様子は俺にとって最悪である。
だが、そんな時安全な城壁の上に乗っていた俺の後ろから声をかけられた。
「あれ、依頼の受付は終わっているの?」
それは少し甲高いと言うか、女性の様な声である。だが、その容姿は男性・・・いやまだ成長途中の少年の様な物で、だが、日光に当たる事が少ないのか病的な白さをしている。
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