天使(牡蠣サイドエピソード1)
天使は人を喰う
頭から
パリパリと小エビを食むように
そもそもは神の気まぐれで美しい天使が作られ
その食料にと人が作られた
天使は美しかったが優しさや慈愛はなく
逃げまどう人を見てたいそう滑稽だとそれはそれは神からの贈り物を喜んだ
「ああゴミのよう」
「命ごいの醜さよ」
「君たちは神に愛されてないから」
「怨むなら神に言え」
バリバリムシャムシャ
他の人間が怯えるようにあえて大きな音をたて骨を砕く
ほっておくと増えすぎる
でも絶えさせてはいけない
この世には死ななければいけないモノがいるからね
天使が通り過ぎても誰も泣かない、叫ばない それが正しい世界のあり方だ。
ただ一つ例外があるとするならば ある男が妻を失った時くらいだろう
彼は世界を恨んだ、憎み怒り絶望した。
だがそれだけ
「彼女のいない世界が必要だろうか?」
「俺が残る理由があるだろうか?」
まず男は首を吊った
枝が折れて男は死ななかった
2度目に海に飛んだ
鯨に飲み込まれ途中の商船そばで吐き出された
男はそのまま冒険者になった
3度目に男は聖剣を探し出し自分の腹に刺した
男は死なず聖剣は腹に飲み込まれた
4度目男はドラゴン討伐に出かけ
その前で懇願した
「俺を喰え」
「頼むからその腹の物騒なものごと帰ってくれ」
ドラゴンに拒否された
5度目は天使の前に出た
「初めからこうすればよかったんだ」
目を閉じて死を待った時
腹の聖剣が光り輝き
天使が無残な肉塊に変わった
天使は神に愛されし創造物
花のように微笑み、蝶のように瞬き
春の木漏れ日のように歌い
神の慈愛とはこのようなものかと体現した創造物
美しいものというのは畏怖を覚え
それだけで皆恐れ慄く存在
が
一瞬で肉と血と毛の汚いものに変わった
天使は同胞が殺されたことに怒り狂い男を次々襲う
男もあまりの勢いについ聖剣を握りしめて応戦してしまう
そもそも聖剣というのはより強い血を求めるように神に作られた遺物
剣が天使の血を求めた以上
男にはそれを振るうことしか出来なかった
見渡す限りの血の海と肉塊
ぐちゃぐちゃな上で呆けていると
「おーたまに起きてみると派手にやったね〜」
天使のように美しく、しかし羽ない人の男のようなのが笑った
「天使と人がそのうち交配するように世界設定して寝たはずなんだけどな〜」
「聖剣が天使を惨殺したって事は人もそれなりに天使に惨殺されたって事だね」
「うーん。また失敗かぁ」
「あ、僕はこの世界の神だよ。だから君の苦しみの元凶でもある」
…湧き上がる殺意。
しかし聖剣は地面に刺さりピクリとも動かない。
「遺物じゃ僕は殺せないんだよねぇ…」
「実は君が僕を殺そうとするのも100万回目なんだ」
「ごめんねガイル…
僕は君が幸せになれるように世界設定するんだけど
全部失敗したよ
ちょっと僕も自信喪失しちゃった…
次の世界では今までの君の記憶全部復活させて
僕と君でさらに上の創造神に殴り込みに行こうか…」
「再創造は、もういい」
「記憶の復活もいらない」
「このままでも行けるんだろう?
俺たちの不毛な挑戦を終わりにしないか」
ガイルと呼ばれた男はゆっくりと頭をふって呟く
なんとなく気づいてはいた。徒労感、繰り返す感じ
100万回…
神も俺も繰り返し続けた
もう充分だ
もう一度は必要ない
「おまえも疲れているんだろう?」
神が一瞬だけ泣きそうな顔に見えたがくしゃりと笑って答えた
「子に心配されるようじゃ神失格だよ」
それからはあっという間だった
俺の世界の神と俺はさらに上位の神「アイシア」に挑み
一瞬で神は蒸発して俺のいた世界も消えた
鯨もドラゴンも天使も商船も一緒で無。
俺が戦ったり恨んだモノってなんだったんだろう?
世界が消滅したせいか俺は最愛だった彼女の顔を忘れた
そもそも彼女もいなかった事になるらしい
「どうして俺は消えないんだろうか?」
「彼の方が消えたならその世界に属する俺が消えるのも理だろう?」
「うーん」
にっこりと美女が俺に微笑む
「面白そうだから君は残そうかな〜
100万回転生とか付喪神レベルだしぃ
顔もいいしぃ♡」
「あ、でも消滅したがってるから、あなた私を好きになるようにしとくわ♡簡単に消えたら楽しくないし」
「可愛い私の神を唆したのとお気に入りの天使を殺した罰よ♡呪われときなさい」
そう言ってアイシアは微笑んだ
その笑みは妻を食べ終わった後
口元を血だらけにしながら恍惚と微笑んだ天使の笑顔と同じく
とても美しく俺の胸は激しく脈打ち始めた
……。
〜〜〜 この話には続きがある。
その後牡蠣と共に旅に出て聖剣の付喪神として覚醒したガイルは、あらゆる世界を飛び回り、ある世界で人を救ったところ、女神や精霊にも崇められハーレムを作った事があるのだとかなんとか…… ------END-----