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お約束は大切に

アクセスありがとうございます!



「――あれが敵のアジトか」


 山道の途中で車を止めて森の中を歩くことしばし、視界の開けた場所から見下ろす茜がどこか満足そうにほくそ笑む。

 日も落ちた新月の暗闇に灯る建物の光が遠くに見えている。うちの高校よりも広い面積を誇るそれは矢神のおっさんが保有する屋敷の一つだ。


「それでマドンナの救出はどのように? やはりここはヒーローらしく正面突破か」

「おにい……それはダメじゃないかな」


 力強くバカな提案をする茜を呆れつつ否定する光ちゃん。

 普通なら不安や恐怖を感じるはずなのに二人は相変わらず。端から見ればふざけるなって憤りを覚えるかもしれないが、真剣が故のこと。

 目的があるなら失敗も恐れず直向きに。不安や恐怖を感じる暇もないくらい進んでいく。

 残念だけど、この真っ直ぐな気持ちがこいつらの強さだ。


「トモ先輩もなにか言ってよ」

「ああ。おい茜、今は――」

「それかいつもみたいにツッこんで。らしくないよ」

「まるで俺が日常的にツッこんでるみたいにっ?」


 いや、ツッこんでるかもだけど……光ちゃんにそんなケロッとした顔でいわれると存在意義を疑いそうだ。

 でもま、シリアスはらしくないか。どんな時でも真剣にふざけるだ。


「とにかく茜、今は先走っても仕方ないだろ。なで子さんと白が帰ってくるのを待て」

「仲間を信じ座して待つ……ふ、これもまたヒーロー」


 取りあえず納得したみたいで茜は岩場に胡座をかく。

 俺たちはただ本丸を見に来たのではなく偵察に向かったなで子さんと白を待っている。茜のバカな提案のように真正面から乗り込めば多勢に無勢、結果は見えてるからな。

 まあ本当の狙いは別の為、一度なで子さんと神明寺兄妹を離す必要があったからだ。

 ちなみに白はなで子さんの指名で一緒に行っているが、なぜかは大凡の予想は付く。


「ただいま戻りました」

「ただいまです」


 しばらくして二人が木々の間から顔を出す。暗いから顔はよく見えないが白の声に少し緊張が感じ取れた。


「予想通り屋敷周辺の監視は完璧でした」

「それって赤外センサーとかですか?」

「そのようなモノかと」


 光ちゃんの問いになで子さんが頷き俺に視線を向けた。その対応で監視とやらが赤外線より厄介だと理解する。

 なんせ相手は分家とは言え元頭首クラスの魔術師だ。屋敷周辺に感知魔術を張るくらいわけないだろう。それを探ってもらう為にいま唯一、魔術の使えるなで子さんに調べてもらったんだし。なんせ神明寺兄妹はまだこの世に魔力が存在すること、円が魔術師がらみの事件に巻き込まれてると気づかずアンドロイドを開発したことでさらわれたと思ってるからな。俺としてはその方が助かるんだけど。


「円の居場所は?」

「さすがに距離がありすぎて……せめて敷地内に入れば探せるかと」


 小声でなで子さんにもう一つの目的を確認すると首を振られてしまう。やはり遠すぎて探知魔術は使えないらしい。それに相手も魔術で結界張ってるならバレるかもだし……。

 となると、やっぱあの方法しかないか。


「忍び込めないとなるとやはり正面突破か?」

「だからおにい、それじゃみんな捕まっちゃうって」

「いや、それでいこう」

「ほえ?」


 茜の愚直発言に俺が肯定すると光ちゃんがポカンとなる。


「さすがは心の朋、勇気ある決断だ!」


 逆に茜のテンションは上がるも無視して考えていた作戦を口にする。


「ただし突っ走って正面からじゃなく、もっと良い方法でな」

「ほう? 聞こうじゃないか」

「いいか、監視に引っかかって向こうに警戒されたら厄介だ。そこでまず、あそこまで一瞬で移動する」

「「…………?」」

「んで、不意を突かれて驚く相手を茜が攪乱。そのスキになで子さんが円を探す。見つけたら俺と白で救出して終わりだ。いい考えだろ?」


 どや顔でふんぞる俺に向けられる神明寺兄妹の視線が冷ややかだぜ。逆になで子さんは同意しかねたくないって視線を逸らし、白はポカンとしてる。まあ当然だろうけど。


「トモ先輩……いくら地味って言われるからって奇抜ならいいとは思わないよ」

「地味な心の朋にはナイスな作戦だが、もう少し自分のキャラを見つめ直したらどうだ」

「地味地味うるさいなぁ、傷つくだろ」

「そもそも一瞬で移動ってどうやるの? トモ先輩のマジックでやるの?」

「それにさすがのオレも数には勝てん。なによりマドンナを救出した後はどうする?」


 加えて現実的な意見。少なくとも正面突破の茜には言われたくない。

 ただ想定内の反応なので俺は自信満々に返せた。


「一瞬で移動するのは俺の力じゃなくて光ちゃんね。ほら、エスパーならテレポーテーションなんて基本じゃん」

「……え」

「それに茜、ずいぶんと弱腰だな。俺の知ってる変身ヒーローは数なんてもろともしない強さだぞ」

「むぅ……」


 この反論に二人は視線を落とすのは当然だ。エスパーと変身ヒーロー、残念な夢でも本気でなれると信じていてもまだ夢の途中。

 どれだけ努力しても光ちゃんはスプーンすら曲げられない。

 どれだけ鍛えても茜は変身できない。

 なのにいきなり現実を突きつけて、嫌味のような反論をされて、どう思うだろう?


 でもな、本気で言ってんだ。お前達の夢は今――叶うってな。


「光ちゃん、今日もそのペンダント付けてるんだ」


 俺は唐突に光ちゃんの胸元を指出す。それは超能力者開発ゲームの特典で付いていたペンダント、水晶もどきのガラス球を光ちゃんは肌身離さず身につけている。


「そう言えばあのゲームのデータ見たよ。もう半分もクリアしてたね」


 うさんくさいアイテムを光ちゃんは大切にしている。うさんくさいゲームを何十時間もかけてコツコツとクリアしている。

 エスパーになれると信じて諦めない。あのペンダントやゲームが偽物でも、その気持ちは本物だ。


「なら光ちゃんが気づかないだけで、もう力の半分位は開発されてるんじゃないかな。だったらすごく遠く、見えない場所は無理でもあそこにテレポートくらいはできるよ」

「……トモ先輩」


 見上げる光ちゃんの頭を優しく撫でて、今度は茜に視線を向ける。


「それと茜、さっきの言葉でお前に足りないモノ。変身出来ない理由がわかったぞ」

「オレに足りないモノ……だと?」

「いいか? お前は仲間を信じてる。バカ発言連発だけどよく俺たちを見てくれてるよ」


 俺の過去について触れたとき、白の正体がバレたとき、茜は自分の気持ちは二の次で、まず俺たち仲間を案じて納得している。


「でもさ、お前は自分の可能性を信じてるのか? 正義の味方が周囲に目を向けるのは大切だ。でも自分を信じられない奴が相手を、仲間を信じることが出来るのかよ」


 しかし夢は、変身ヒーローになることに関しては譲らない。

 変身できることと身体を鍛えることは繋がらないのに、慈善活動で正義を貫けば変身できるわけでもないのに、今の出来ることを真剣にやっている。

 この気持ちもまた本物だ。


「信じるだけじゃ叶わない。努力するだけでも叶わない。その二つを最後まで投げ出さない奴が夢を叶えるんだ。違うか?」

「心の朋よ……」

「お前の夢は叶う。俺はいつだって信じて応援してる。だからお前も俺を信じてくれ」


 茜の胸に拳を当てて、俺は二人に向けて笑った。


「俺と白が円の元に辿り着いたら全てが上手くいく。命を賭けてもいい」


 その宣言を最後に周囲は静まりかえる。

 虫の鳴き声もない静寂を最初に破ったのは光ちゃんだ。


「わたしとトモ先輩、二人が信じてるならきっとできる! わたしは今、エスパーとして目覚めちゃいました!」

「ふ……いいだろう心の朋。ヒーローとはオレ自身の可能性と、友の言葉を信じてこそのヒーローだ」


 続いて茜も拳を握り気合いを入れた。信じて疑わない、真っ直ぐな瞳で。


 ……うん。なんか今すっげぇいい雰囲気だけど胸が痛い。俺ってマジ最低じゃね?


 いやいや、二人に言ったのは本音だし、いつか叶うと信じてるけどさ? ぶっちゃけ知ってる奴が聞いてるとただ友人の気持ちを利用してるだけだもん。

 でも仕方ないんだよな……円を無事に助けるにはどうしても二人の協力いるし。

 それに、この償いはちゃんと受けるから許してくれ。


「決まったな。なで子さんも、それでいいよね」

「……仰せのままに」


 はは……なで子さんも複雑な感じ。俺の立場知ってるだけに一番微妙な気分だろうな。


「トモさん……シロはどうするです」

「白は俺のサポート頼む。詳しくはおいおい」

「はぁ……」


 ぞんざいな扱いを受けて白も微妙な顔。

 何とも締まりのない感じだが、まあいいか。俺の立場よりも円の無事だ。


「んじゃ、みんなの力で円を助けるぞ!」

「おう!」

「りょーかいでっす!」

「かしこまりました」

「はいです」


 俺のかけ声にバラバラな返しとやはり締まらない中、


「それじゃいきますよ! エスパー光の――」

「あ、ちょっとタンマ」


 意識を集中させる光ちゃんの背後に回り、俺はペンダントの鎖に手をかける。


「なんですかトモ先輩?」

「いや、鎖の留め具が外れ掛かってるからさ……と」


 直すフリをして意識を集中――瞬間、倦怠感が身体を襲う。


「ぁ……も、もう大丈夫……お願い」


 それでも歯を食いしばり耐えて背中をポンと叩けば光ちゃんは笑顔でお礼を言い


「では今度こそ――むむむ……できる……できる……できるんです!」


 自分に言い聞かせるように集中し、目をカッと見開く。


「いっ………………けぇぇぇぇぇぇ――――っ!」


 まるで時をかけそうな少女が屋上から飛び出すような叫びと同時に視界が暗転。



「「「な――っ!」」」



 次の瞬間、聞こえたのは男の声がみっつ。視界も山の中ではなく広い日本庭園のような場所に変わっていた。

 そう、光ちゃんは本当にテレポートで俺たちを屋敷の庭へと瞬間移動させたのだ。


「ほえ……やった! やりましたよトモ先輩!」


 成功したと分かった光ちゃんが今までで一番の笑顔で俺に抱きついてくる。目の前に黒スーツの強面さんがいるにも関わらず。

 対しなで子さんは当然の結果と言わんばかりに即座に対応、抜刀し峰打ち、いきなり現れた俺たちに驚くと同時に見張り三人の強面さんは混沌した。

 でもまだ終わりじゃない。光ちゃんの歓喜を聞いた他の見張り連中が建物や庭先から次々出てくる。

 そして俺のするべきこともまだ終わってない。瞬間移動を体験し呆然としている茜の腰に巻かれている変身ベルトを叩いた。


「なにやってんだ東郷烈!」


 叫ぶと同時に触れた変身ベルトへ意識を集中――先ほど以上の重圧に視界が霞む。


「妹だけに仕事させといてテメェは見物か? さっさと変身しろ!」


 やはりなで子さんが即座に応戦してくれてるが数が多く、なにより円を探索する仕事も残ってる。だから茜の力が必要だ。


「は――っ! オレとしたことが……。なにやってんだオレ! ヒーロー失格じゃないかぁぁぁっ!」

「いいからさっさとしろ!」

「今こそ己の可能性を示すとき。そう……東郷烈ことカミヤマンは――」

「ナレーションはいいから! ほら見ろよ? 黒光りの銃口がたくさんこっち向いてるから! この人達はテレビみたいに待ってくれないから! 変身中はなにもしないってお約束とか守ってくれないから!」

「東郷烈……へん、しん――とう!」


 空気を読んだのか、それとも俺の魂のツッコミが伝わったのか茜は変身ポーズからジャンプ。


 瞬間、変身ベルトが光り輝き――茜の姿が消えた。



『うぉぉぉぉぉぉぉ――――っ!』



 どこだ? と周囲を見渡すより早く、背後に聳える松の木の上から咆哮が。

 視線を向ければカミヤマンのマスクと、緑のタイツの上に銀色のアーマーのようなモノを装着した人物が右拳を突き上げていた。

 そう、茜もまた見事カミヤマンへの変身に成功し、歓喜に打ち震えていた。


『見てくれたか心の朋よ! オレはついに……ついに本物のカミヤマンになれたんだ!』

「おにい凄い! やった!」


 光ちゃんも兄の成功に喜びピョンピョン跳びはねているが、俺はそれどころじゃない。


「喜びのところ失礼します。茜さま……いえカミヤマン、加勢を」


 変わって強面さんたちに奮闘しているなで子さんが淡々とツッこむ。


『まかされた! 今こそカミヤマンの力を見せてやる――とう!』


 そしてカミヤマンこと茜は高い松の木からジャンプ、なで子さんのいるところに着地。

 突然の変身、人間離れした跳躍に唖然となる強面さんたちへ襲いかかった。


『カミヤマンパンチ!』

「うげぇ!」

『カミヤマンキック!』

「ごふっ!」


 なぜいちいち声に出すとツッコミどころ満載だが、マンガみたいに強面さん達が吹き飛んでいる。


「わたしも負けられないよ!」


 更に感化された光ちゃんも別の場所で唖然としている強面さんたちに両手をかかげた。


「サイコキネシスごめんなさい!」

「うわっ!」

「うおっ!」


 可愛い叫びと同時に、驚愕する強面さんたちは宙に浮き互いの頭をゴツン。


「な、何なんだいったい! くそっ」


 次々おこる不思議現象に狂気した強面さん一人が発砲。


「サイコキネシスバリヤー!」


 しかし光ちゃんが手をかざすだけで銃弾は空中で静止、そのまま地面に落ちていく。


「……朋さま、お体は」


 二人の戦いはまさに無双、その間になで子さんが俺の元へ駆け寄ってくる。


「大丈夫……むしろツッコミの方がしんどい。それより円を」

「かしこまりました」


 安堵したなで子さんは千羽鶴で空中に印を書くと地面に突き刺し魔力を込める。

 刀身が淡い光に包まれるが茜と光ちゃんは戦いに必死(夢中かもしれない)で気づいていない。


「……居ました。この屋敷の裏側の建物、五階に」

「よりによって逆側かよ……きついけど行くか」


 茜と光ちゃんばかりに働かせても悪いし。


「白、行くぞ」

「……はいです」

『話は聞いた心の朋よ!』


 スキを伺い飛び出そうとする俺たちを茜が呼び止める。


『大切な言葉を伝えていなかった。出陣する前に聞いてくれ』


 なんだ? と息を呑むオレに茜は親指をグッと立て


『ここはオレに任せて先へ行け!』

「お前それ言いたいだけだよなっ?」


 たしかにお約束だけど戦闘中にわざわざ必要かっ? ほら強面さんたちが怒って銃口向けてるから! もう打っちゃうから!


『……無粋な真似を』


 俺の心配を余所に茜は放たれた銃弾を全て人差し指と中指で止めてしまう……あれはもうヒーローじゃない。スーパーヤサイ人だ。


「おにいずるい! トモ先輩、ここはわたしに任せて先に行ってください!」

「光ちゃんは完璧に言いたかっただけだよね!」


 何を張り合っているのか光ちゃんもお約束、相手は必死に応戦してるのに片手間に戦われてはあちらさんに同情してしまう。

 しかし二人の猛攻のお陰で俺と白、なで子さんは戦線を離脱――が、屋敷の陰に入ったところでなで子さんは立ち止まり抜刀、印を刻むように刀身を振るう。


「お二人に不可視の魔術をかけました。私の魔力では一分が限界なのでお早く」

「なで子さんはどうするの?」

「万が一の為に残ります。茜さまと光さまが心配なので」


 なるほど……あの二人は無双状態だけど戦闘にかけては素人、不測の事態になったら戦況は逆転する。その点、なで子さんはこういった荒事に馴れてるから心強い。


「わかった。二人を頼む」

「お二人もご武運を。特に朋さまは無理をなさらないよう」


 一礼し振り返るなで子さんだったが、ふと顔のみをこちらに向けて


「ここは私たちに任せてお先に」


 微かな笑みを残し飛び出した。

 結局なで子さんも言いたいだけだよね……。まあいいけど。


「時間が無いからさっさと行くか。魔術が効いてる間に建物には入っておきたいし」


 騒ぎを聞きつけた連中といつかち合うかわからないと俺は白の手を取る。


「……はいです」


 コクンと頷き俺に引かれるように歩く白からいつもの元気は感じ取れない。

 状況が状況なので大人しくしているのか――なんて勘違いはしていない。白の元気が無くなったのはなで子さんと偵察に行ってからだ。

 ちょうど良いし今のウチにちゃんと話しておくか。


「俺たち一族のことなで子さんから聞いたんだろ?」


 直球の問いかけに繋いでいた手がビクンと震えた。


「はいです……正直、信じられないですけど……」


 白の疑問は最もだ。魔力だの魔術だの夢物語を簡単に信じられるわけがない。

 でも残念なことに夢物語は本当に存在する。

 世界各地にごく少数ではあるが、魔術を使う一族が存在していた。

 その一つが俺の家系――月ノ一族つきのいちぞく

 魔力の塊と呼ばれる月を依り代に、絶大な魔術を振るっていた魔術師の血族。

 だが魔力の源である血は代を追うごとに薄くなり、今では月を依り代にできず代わりの媒体となる依り代の魔力を応用するのみ。しかも面倒なことに自身の魔力と依り代の相性があるので何でもとはいかず、使える魔術も限られていた。

 例えば霊刀・千羽鶴を媒体とするなで子さんは催眠や幻惑、探知といった魔術の類いしか使えず、相手の魔力量次第で効果は薄くなる。これは本人の魔力量と人工的に作られた依り代の魔力の限界だと聞いている。

 逆に天然の依り代を媒体にすると相手の魔力量関係なく様々な魔術を使えるが、自身も相応の魔力量がなければ扱えないので今は世界でも三人しかいない。

 その一人が俺の姉貴だ。姉貴は宝石という天然の依り代と一〇〇年に一人と言われる魔力量を保持し、わずか二〇歳で一族の頭首に登り詰める天才魔術師と呼ばれていた。


「でも……これだけ超常現象を目の当たりにしては信じるしかないです。レツさんとヒカリさんの力、あれはトモさんの魔術ですよね」

「やっぱりバレてたか」


 白の推理通り俺は茜の変身ベルトと光ちゃんのペンダントに魔力を与えた。

 つまり俺の魔力を二人の依り代になりそうな媒体に送り込んだことで、一時的に魔術師としての力を発揮しているだけ。

 簡単に聞こえるけど実は凄いことだ。いくら魔力があっても自身が本当に出来ると信じていなければ意味がない。空を飛べるのに飛べないと思い込んでいては飛べないままのように、二人は本当に変身できる、超能力が使えると信じてイメージできたからこその結果。


「ナデコさんから、トモさんは月を依り代にできる程の魔力を持った世界最強の魔術師と聞いたです。だけど今日は使えないんですよね?」


 こうして世界最強の魔術師と聞くと実に厨二クサくて認めたくないが、たしかに俺は祖先と同じく月を依り代にする魔術師だ。

 だが月の依り代と言うことは今夜のような月の魔力が失われるとされる新月の間、魔術を使えないとされている。故に白の疑問はもっとも。

 でもそれはあくまで月の魔力を当てに出来ないだけで、使う方法は一つだけある。その方法を知っているのは姉貴となで子さんのみ。知られてはかなり面倒なことになるからだ。

 なんせ俺はそれほど危険視されて、殺しておきたいと考える奴は腐るほどいる。


「そう言えば……白に言っておきたいことがあるんだわ」


 まあ白には別の意味で知られるわけにいかないから話題を変えた。


「俺が魔術師とか恥ずかしい存在だってのはみんなにはナイショな? これは俺の口からちゃんと話したいから」

「え……ですがトモさんはみなさんに知られたくないってナデコさんが……」


 知られたくないけどここまで巻き込んだら今さらだ。それに最後だし、変なケジメでもちゃんと付けておきたい。

 でもこれは話す必要ないから、俺は今のうちに謝罪を口にした。


「それと……ごめん、な? 俺のせいで白を巻き込んで……必要ない、荒事に……生まれ方しちまって……」


 今回の事件は矢神のおっさんが白の保持している魔力を狙ってのこと。恐らく何らかの方法で白の魔力を自分か、自分の依り代にでも移すつもりだろう。なんせ最強の魔術師の魔力だ、手に入れれば姉貴をも超える魔術師になれる。

 つまり白はアンドロイドではなく、魔力を源にした存在――あやふやな存在として誕生した。


「自分がどんな存在かわからないなんて……嫌だよな。魔力なんて……くそったれな力を持ってるなんて……嫌だよな……本当に、ごめん」


 アンドロイドでもなく人でもない、不可思議な存在。自分が何者なのか分からないなんて最悪だ。その罪をようやく謝罪できた。

 もちろん謝罪だけで済ませる気はない。ちゃんとケジメを取るつもりだ。

 全てを終わらせたら白の居場所を俺が作る。


「話は終わりな……さて、とっとと終わらせるか」


 なにも言わない白に構わず俺たちは目的地に到着した。

 五重塔かとツッこみたい建物、この最上階に円が居る。

 なで子さんの魔術のお陰でここまで無事に来れた、茜と光ちゃんが派手に暴れてるお陰で見張りもいない。

 後もう一息だと気合いを入れて扉に手をかけ――


「……マスターの言うとおりです。トモさんはすっごくバカです」


 たところでなぜか白に罵倒された。

 唖然となるも白は俺に詰め寄り頬を膨らませる。


「いいですか? トモさんが謝る必要はこれっぽっちもないです。むしろシロはトモさんにお礼をいっぱい言いたいです」

「……なんで?」

「だってトモさんのお陰でシロは誕生したです。まだ生まれたてなのに楽しいことたくさん経験したです。変なことも経験していますけど、生まれて意志を持っているからこそ出来ることです。なのに謝るとかおかしいです。自分を責めるとか間違ってるです。シロに幸せを教えてくれた人が罪を意識するとかどこまでトモさんはお人好しですか」

「…………」

「そんなお人好しバカなトモさんだからシロの疑問に答えてくれないのか、もう何となくわかったです」

「……なんのこと?」

「どうして使えないはずの魔術をトモさんが使えるかです」


 と、白は不意に手を伸ばし俺の胸を押す。

 たいした力でもないのに俺は簡単に倒れてしまった。


「すっごく顔色悪いです。身体も小刻みに震えてます。ずっと無理してるのが丸わかりです。気づかないと思ったですか?」


 見下ろしたまま矢継ぎ早に指摘する白になにも言えない。


「恐らく使えないはずの魔術を使ったからですね。だからシロは聞かないです。お人好しなトモさんはどうせ教えてくれないです」


 代わりに――と、白は倒れる俺を抱き上げた。


「でもシロはとっても良い子なので体調不良のトモさんを運んであげるです。後でたくさん褒めてほしいです」

「…………」

「それでマスターを助けた後、改めてたくさんお礼を言うです。マスターの夢を叶える手助けをしてくれたこと、シロにたくさんの幸せを教えてくれたことを」


 そう言って白は笑顔を向けてくれた。


「白……」

「なんですか?」


「お姫様抱っこはやめて……」


 恥ずかしさのあまり顔を両手で覆う。やだこの子力持ち。いくら白が力持ちさんでも女の子にお姫様抱っこされるとか居たたまれないわ。

 なによりこれから円を助けに親玉んとこ行くんだぜ? そこにお姫様抱っこされたまま登場とか締まらないだろ。


「まったく……トモさんは照れ屋さんですね」


 白は呆れつつも肩を貸してくれて、二人で階段を上っていく。


「シロの気持ちが嬉しいなら素直に喜べばいいですのに……はぐらかすです」

「はぐらかしてはないんだけど……」


 でも、照れ屋と言われたのは否定できない。

 だってさ、初めてなんだぞ?

 俺の魔術で喜んでもらえたの。ずっと疎ましいと思ってた力で、感謝されたのは。


 だからお礼を言うのは俺の方――なんて、最後まで言えないだろうな。


 なんせ照れ屋だからさ。


みなさまにお願いと感謝を。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!

また感想もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

読んでいただき、ありがとうございました!

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