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天才少女の夢

アクセスありがとうございます!


 二年になってもうすぐ一月、つっても一学年一クラスしかないからクラス替えはないんで新鮮みもない。


「朋、今日の予定は」


 そんな普段通りの土曜日、帰り支度をしてると円が声をかけてきた。


「いつもどおり同好会に顔出すくらい。お前は?」


 俺の所属する『夢を叶える為に努力を重ねる同好会』――通称夢同の会長は円だが、その名の通り夢を叶える為の努力は各々異なるから参加は自由。

 実のところ出席率が一番いいのは俺と光ちゃん。まあ俺たちの目指す奇術師とエスパーはインドアっつーか、室内で練習(?)できるからな。

 対し残りの二人は週一程度。変身ヒーローを目指す茜は正義を成す為に町のパトロールや奉仕活動で基本は校外、同好会には自分の考えたかっこいいポーズの意見を訊いたり後は昔の特撮ヒーローの話をしに来るくらい。

 アンドロイド開発が夢の円は基本インドア、でも研究をするには教室の設備では足りなく家の裏に建てているラボに入り浸り。同好会には人と接することでのインスピレーション狙いと、息抜きに来る程度だ。

 なので会員が全員揃うのは月一で行われる発表会か、休日とかで普通に遊ぶとき程度。


「私はバイトだ。そこで特に用がないなら手伝って欲しい。今日は五件ある」


 ああ忘れてた。円は町内の電化製品を修理するってバイトもあるので顔を出しにくい。

 発明するには部品代がバカにならないし、でもアンドロイド作るって豪語してるだけあって円は理系に突起しているから結構依頼がくる。

 そして俺に手伝いを求めるのは足が必要ってことで、協力するのも会員同士として当然と了承した。


 ◇


 昇降口から駐輪場へ向かう間、光ちゃんに今日は同好会を休むとメールを送れば『じゃあ家でイメトレします』と返ってきた。茜はいつも通りパトロールで顔出さないから当然、放課後の教室で一人とか寂しすぎる。


「一度家へ戻りたい」


 自転車を押して戻れば円は端的な指示を出して後ろの荷台へ横座り、俺も荷カゴへカバンを入れるとペダルを踏んだ。

 慣れているのは当然のこと、俺たちはいつも一緒に登校している。

 円の家が学校から徒歩二〇分、そこから更に一〇分歩けば俺の住んでいる家。で、体力なしで自転車に乗れない円にはきつい距離なのでこうして二人乗りで登校。帰りが一緒なら下校も同じだが、別の時はちゃんと歩いて帰っている。

 そしてバイトで多く回る時は足代わりに同行しているわけだが。


「にしても、手伝いが必要なら朝のウチに言ってくれ」

「私が朝、まともに話せたことが一度でもあるか」

「ないなぁ」


 基本研究で夜更かしだし、加えて低血圧。授業中も寝てばかりと昼まで会話が成立しない。そのくせ赤点とかないのはやっぱ天才なのか。


「それに三件は先ほど連絡が入った緊急のモノだ」

「じゃあ仕方ねーな」


 納得したところで無言、別に珍しいことじゃない。

 もともと俺たちはお喋り好きってわけでもなく、静かなのを好む。

 逆に神明寺兄妹はお喋り好き、だからと言ってあいつらとの時間を苦痛に思うわけでもない。アレはアレで楽しいし、適材適所ってことだ。

 だから嫌な空気を感じることなく自転車を走らせると円の家が見えてくる。

 別に変わったところのない赤い屋根の二階建て一軒家。

 ただし建物の裏にプレハブが建てられて、そこが円の研究ラボだ。


「準備をしてくるから少し待て」

「なら一度帰るぞ。荷物置いてくる」


 円を降ろして俺は再びペダルを踏み――五分とかからず平屋の一軒家に。

 リビングキッチンの他に三部屋あるがここには俺が一人で住んでいる。

 高校生の一人暮らしに一軒家は贅沢かもしれないが、昔ここに住んでいた知り合いの家族が上京したので、代わりに使わせてもらっているからタダだ。

 なので気兼ねなく玄関に通学カバンを置いて、作業中の暇つぶしに本を何冊か見繕う。昼食の用意なんてもちろんないからそのまま出発、作業中にコンビニで適当に買えばいい。

 元来た道を戻ると家の前で円が立っていた。

 先ほどとは違い傍らにはスポーツバッグが置いてあるなら準備できたってことだ。それに白衣の下が制服からワンピースに変わってるし、相変わらず白だけど。


「どこから行くんだ?」

「まずは酒屋だ」

「りょーかいっと」


 スポーツバッグを手にするとガチョリとした音、相変わらず工具とか適当に入れてるんだろうな。

 荷物をかごに入れて、円が荷台へ横座りすると商店街に向けてペダルを踏んだ。


 ◇


「悪いね円ちゃん」


 酒屋へ到着すると待ってましたと言わんばかりに店主のおじさんが出迎えた。


「今朝から冷蔵庫から変な音がしてな。早速で悪いけど見てくれないか」


 酒屋の業務用冷蔵庫の調子が悪いなら仕事に支障が出る、待ち遠しかっただろう。

 おじさんの話を聞いて円は白衣のポケットから白い髪ゴムを取り出し長い髪をポニーテールに。仕事モードだ。邪魔にならないよう今のウチに昼食を済ませとこう。


「朋。母が食事を用意している」

「え、マジで?」

「バッグに入っているから必要なら食べておけ」


 そう言って白衣から取り出したペンライトを咥えると冷蔵庫の背後へ。

 ならありがたくと俺もバッグを開ける…………工具だけでなくよく分からない部品やらコードやらが乱雑に入れられている中にタッパーを見つけた。食品をこんなところに一緒に入れているのはどうかと思うがまあ円だから仕方ない。

 タッパーの中はおにぎり二つと玉子焼き、シンプルでも一人暮らしにはこういった手作り感のある弁当はなんだか嬉しい。


「朋ちゃん、ここにお茶置いておくわね」

「あ、すみません」


 その間に酒屋のおばさんが湯飲みを用意してくれた。事務的ではなく子供のお友達みたいな対応は、田舎ならではの温かさ。

 感謝しつつ店内で食事をしながら円を見る。冷蔵庫のカバーを外して咥えたペンライトで照らしながら何かをやっている。ただ普段の気だるげな表情とは違い真剣そのモノ。


「どうだい? 円ちゃん」

「ふむ……」


 心配そうに問いかけるおじさんに円はペンライトを口から離すと


「冷却ファンのホコリの根詰まりが音の原因だが、配線がネズミに囓られて断線しかけている。ついでに直しておこう」

「よろしく頼むよ」


 取りあえず直ると分かりおじさんは安堵して仕事に戻り、円はバッグを引き寄せいくつかの工具と配線を用意。そのまま床に寝そべると早速修理を始めた。

 いつも思うが平気で床に寝そべる女子高生はシュールな光景だ。服は白衣で汚れないけどスカートだから丸見えだぞ? まあスパッツ穿いてるから気にしないんだろうけど……。ちなみに円のスパッツは白と、どこまでも白好きだ。

 食事を終えた俺は持ってきた本を開く。集中している円は朝以上に会話が成立しないし、邪魔をするわけにもいかない。用があれば向こうから声をかけてくるしな。


「――朋」


 カチャカチャとした作業音をBGMに読書をしていると早速お声がかかる。


「完了したから確認の為にコンセントを入れてほしい」


 まだ一五分くらいしか経ってないけど……もうか? 相変わらずの手際の良さだ。

 指示通りコンセントを刺すと起動音以外は静かなモノで、再びペンライトで照らしながらチェックをしていた円が小さく頷き


「問題ない。カバーを取り付けるから抜いてくれ。ついでに店主殿を呼んでほしい」


 ◇


「さっすが円ちゃん。助かったよ」

「このくらい造作もない。フィルターの掃除はマメに、ネズミ対策もした方がいい」


 起動を確認したおじさんが両手早に褒めるのに対し、おばさんの用意した濡れタオルで顔や手を拭きながら円は注意を促す。


「ご苦労さま。それで円ちゃん、おいくらかしら?」

「手持ちの部品で足りた。修理費のみでいい」

「じゃあちょっと待っててね」


 おばさんはレジから千円札を一枚取り出して封筒に。


「ありがとう」

「いつも思うが本当にそれっぽっちでいいのか?」


 封筒を受け取る円におじさんが申し訳なさそうに問いかける。

 円は修理に必要な部品代と、手間賃の千円以外受け取らない。時給にしたら破格だが、本来こう言った修理を業者に頼むとそれこそ何倍も請求されるんだから気持ちは分かる。


「私は素人だ。それに勉強を兼ねているからな、貰えるだけでもありがたい」


 だが円は気にしない。修理も夢を叶える為の努力の一つで、自分は素人だからと。

 修理業者を呼ぶには時間のかかる田舎で、緊急を要する修理や手際の良さ、加えて一度も失敗のない仕事ぶり。なによりこの志が認められて円は町の大人達に重宝される人気者、俺も残念と思う反面その姿勢は尊敬していた。

 続いて商店街でパン屋のオーブンと本屋の空調と修理をこなして、その度に酒屋のおじさんのように感謝をされていた。


 そして四件目の集会場でカラオケセットの修理を終えた俺たちは公園へ。休憩ではなく五件目の沢村さん宅の訪問予定時間まで余裕が出来たからだ。


「ほいよ」

「すまない」


 途中のコンビニで購入した飲み物を手渡すと円はコクコクと飲んでいく。ちなみにカルペスソーダとどこまでも白い。

 俺もスポーツドリンクを飲んで一息ついた。


「そういやさ、何でアンドロイドを作りたいんだ?」


 ふと頭に浮かんだ疑問を口にすると、隣りで円は意外と言わんばかりに目を見開く。


「あれ? 何か変なこと聞いた?」


 その反応に戸惑う中、円は苦笑を浮かべる。


「いや、実に今さらな質問だと驚いただけだ」

「そうかな?」

「そうだろう。私たちが知り合いもう半年になるが、キミから一度としてその質問をされたことはなかった。本来ならば真っ先に聞かれることなのにな」


 言われてみればそうかもしれない。田舎に住む女子高生がアンドロイドを作る――そんな夢物語を本気で目指し、本気で努力をしているならルーツは気になるところ。


「事実、私の夢を知った烈や光からは真っ先に理由について問われたものだ」


 続けて口にした円の口調に違和感を覚える。

 何だろうと考えるより先に、円は微かに笑った。


「私は中学に上がると同時にこの町へ超してきた。それ以前は都心に住んでいた」

「……そうなの?」


 意外な事実に驚くと同時に先ほどの違和感を解消する。

 円がこの町で生まれて育ち、神明寺兄妹とは幼なじみのような関係だと思い込んでいたから、昔からの付き合いのハズの二人が俺と同じようにルーツを探るような聞き方に違和感があったのだろう。

 そしてこの半年間、毎日と言っていいほど一緒にいる円や神明寺兄妹のことを全然知らないことに驚いた。

 三人がどこで生まれ、どう過ごしてきたか。俺は知らない、聞こうともしなかった。

 それは恐らく聞いたことで自分の話をしなければならない流れになるのを、自然と避けていたから――


「良い機会だ。少し私の話をしてやろう」

「……いや、別にしなくても」


 やはり反射的に避けようとする俺に構わず、円は立ち上がり落ちていた小石を拾う。


 ガリガリガリガリガリガリガリガリ――


 いきなり地面にしゃがみ込むと猛スピードで数式を書き始めた。

 それが何の数式かさっぱり分からないが、一心不乱に書き進めていく姿はさながら少し前に流行ったドラマ『ガリレイ』に出てくる准教授を彷彿とさせて、まるで作中のBGMが聞こえてきそうなほど。


 ダララダララダララ――♪


「本当に聴こえるんですけどっ?」


 錯覚ではなく本当にあのお約束の曲がどこからともなく流れていて俺はキョロキョロ。しかし円は全く気にせず地面を数式で埋め尽くし――


「まあこんなモノか」


 最後に『Ⅴ』の数字を書き終えて満足げに一息つき、小石を捨てて俺を見る。


「どうだ」

「どうだ――じゃなくてなっ? なにいきなりガリレイの真似事してんのっ? つーかどっから曲流れてる!」

「スマホからだ」


 円は白衣のポケットからスマホを取り出し、操作をすると曲が止まった。

 つまり数式を書くときに円が曲を流し始めたと言うことで


「なぜにっ?」


 その行動理念が全く分からずツッこんだ。


「曲に意味はない。せいぜい朋にツッコミどころを作ったくらいか」

「よけいな気遣いだよ!」

「それよりもこれが何を証明しているか分かるか?」


 ツッコミを無視して円が胸 (ツルン)を張り地面を軽く蹴り上げるので、仕方なく目を通す。数字だけでなくアルファベットが乱雑した数式は公園の四分の一を締めるほど書き上げているが、分かるわけがない。俺は数学苦手なんだ。そもそもこれは数学なのか?


「まあ分からないだろうな。ところで朋、一つ訂正しておくが先ほどキミはガリレイさんの真似事とツッコミをしたが」

「ガリレイさんって……友達かよ」

「私は一〇年前からこのようなことをしていたぞ」


 平然と告げられて呆気にとられる。一〇年前と言えば円はまだ小学校に上がるかくらいの歳、その頃から意味不明な数式を書いていたということで。


「自分で言うのも何だが、私は天才と呼ばれる部類に入る子供だった」


 ベンチに座り円は淡々と教えてくれた。

 幼少期からみんなが絵本を読んでいる中、数字や数式の書かれた本を読んでいたりと円は少し周囲の子供と違っていた。理由は数字が好きで、数式の美しさに惹かれたらしいが、とにかく変わった子なのは間違いない。

 そして幼稚園の年長組のころから頭に浮かび始めた数式を無意識に書くようになった。ところ構わず思いつけばで、先ほどのように地面だったり廊下だったり、本当にガリレイのようだ。

 周囲の大人達は変な子供と認識していたが小学校に上がった時の先生が、興味本位で大学の教授に円の書いた落書きを見せたことで事態は一変。

 何故ならその落書きが物理学の証明としてある分野の立証になっていたこと、それを小学生が書いたのなら無理もない。とにかくその教授がぜひ会いたいと円を訪ねて、話を聞く内にシンプルな答えを出した。


 この子は天才だと。


 ならば育ててみたいと思うのが人の性、小学校で習う算数が簡単すぎて興味のない円も新しい知識を教えてくれる教授の進めに喜んで特別カリキュラムを受けた。

 結果、わずか十歳で様々な発明業界で引っ張りだこの天才少女が誕生、当時は世間でも大いに騒がれたらしいが――


「いや、それガチ天才じゃん」


 予想以上の生い立ちにただ驚いた。円の頭が良い、天才だと思っていたがここまでとは考えも付かない。

 同時に疑問が浮かぶ。なぜ世間を騒がせた天才少女がこんな田舎町で、人知れずアンドロイド開発のような夢を持っているのか。


「簡単だ。バカになった、それだけのこと」

「は?」

「一二の時だ、私は高熱で寝込んだことがある。そして目覚めてみれば何も分からないバカになった」

「それっておかしくないか? だってお前――」


「という演技をすれば、周りの大人達が興味を無くして寄りつかなくなるだろう」


 いたずらっ子のように笑顔を浮かべる円に絶句した。


「周りの反応は事実傑作だった。それまでは私に発明をさせようとチヤホヤしていたくせに、バカになった途端興味をなくしてどんどん去って行った。治そうと試みた企業もあったが、治るわけがなかろう。なんせ私にはどこの異常もないんだからな」

「なんでまたそんな演技を……」


「いい加減、面倒になった」


 俺の疑問に円は煩わしげに吐き捨てた。


「能力を持つ者は世の為に尽くすべき、よく言ったモノだ。しかし私は地位も名誉も金にも特に興味はない。ただやりたいようにやりたい。なのに私に近づく大人どもは綺麗事を並べて私に研究をさせ、私の興味の無い地位や名誉や金にご執心だ。なぜそんな奴らに付き合って時間を消費せねばならん」

「…………」

「それは私の両親も同じ気持ちだったようでな。幼少から普通の子供のような生活が出来ない私を危惧してくれていたのか、仕事を辞めたいと申し出たときも協力してくれた。その証拠に私の演技に付き合ってくれて、周囲が興味を無くした後にこの町へ引っ越してくれた。私が純粋に研究を続けても騒ぎにならないような、田舎へな。父と母の子供として生まれて感謝して……すまない。ご両親が存命していないキミには配慮のない話だった」


 饒舌に話していた円がふと表情を引き締め謝罪するように、俺の両親は四年前に亡くなっている。残念なくせに律儀な奴だ。


「気にするな。それよりも続き、話せよ」

「……だな。機敏な気遣いは逆に失礼か」


 円は微笑し、改めて俺を見る。


「なあ朋よ、私の考えは傲慢だと思うか? 能力があるなら最善を尽くし、世に貢献すべきだと思うか?」

「いや。自分の人生なら自分のやりたいように生きるのは当然だろ。別に誰かに迷惑かけてるわけでもないし」


 円が嘘をついていることで何かの研究が滞っているのかもしれないが、その分この町で能力を生かし喜んでもらっている。

 規模は小さいかもしれないが、それこそ円の勝手だ。


「さすがは朋。だから私はキミにこの話をしたのかもしれん。ちなみに父と母以外では烈と光しか知らんので秘密で頼む」

「当然だろ。で」

「で? とは」

「だから、お前が凄いのは分かったけどなんでアンドロイドを作ろうとしたかって」

「ああ、そう言えば最初はその質問だったな。まあ大した理由ではない、美少女アンドロイド、萌えるだろう?」


「…………は?」


 なんとも意味不明な理由に首を傾げると、円は再び教えてくれた。

 それは高熱を出す半年前、気晴らしのネット巡回で偶然見つけた一本のアニメ。

 内容は平凡な高校生の主人公の前に、ある日突然未来からアンドロイドがやってくる。そのアンドロイドは純粋無垢な美少女で、最初に出会った主人公をマスターと認め尽くしていくという……まあ萌え系アニメだ。

 しかしこの話がいったいなぜアンドロイドを夢見るのかを疑問に持ってしまう。


「私は驚愕した。現在のロボット技術は実用的なモノばかりなのに、見目麗しい少女で正直何の役に立つか分からないが、より人に近い感情を持ち、さらにはエロイことまで出来てしまうという革新的な発想に」


 あっれー?


「当時の私の周りと言えば加齢臭漂うおっさんかインテリで無駄にプライドの高いおばさんばかり。それも不満の原因だろう、とにかく純粋無垢という少女の柔肌に飢えていた」


 なんかおかしな方向に熱弁されてるぞー?


「なら作ればいいと思うだろう。しかし作ったらどうなる? 寝取られること確定だ」


 しかも発想がおっさん臭い上に寝取られるって言っちゃってるよー? それは研究の成果を奪われるってことかなー?


「ならば人知れず研究するしかないだろう。企業の力を使えないのは研究を遅延させるが知ったことか。私は見た目は人間と何の変わりもないアンドロイドを作る。戸籍など私の手に掛かればどうとでもなるしな」


 おおう、犯罪臭がプンプンすることを堂々と言っちゃえる円さんパネェっす。


「どれだけ時間がかかろうとも私は私の理想とする香澄ちゃんを作り上げて――」


「香澄ちゃんってお前の考えた萌えキャラだったのかよ!」


 ついに我慢できずツッこんだ。


「ああ、なるほど。朋は天音ちゃん派か。案ずるな、香澄ちゃんを完成させたあかつきにはキミの為に天音ちゃんも――」

「ちげぇよ! そこにツッこんでるわけじゃねぇよ!」


 なにこのオタクの夢を実現させようとしてる感じ!?

 なにこの二次元美少女は俺の嫁ーって発想を現実にしようとしてる感じ!?

 しかも実現するかもしれない能力があるから実にたちが悪い!


「まあ私がなぜアンドロイドを作りたいかと言えば、自分の理想の嫁とキャッキャウフフしたいと……大した理由ではないだろう?」

「たしかにな! 残念な理由だったよ!」


 前半のシリアスな話が嘘のようにバカバカしいルーツ。

 ……だけどまあ、円の人生だ。

 残念なのは今さらだし、夢を目指して努力を続けながら笑ってられるならいいんだろう。


「どうせなら理想の美少年がいいんじゃないか。つーかお前、そっちの気があんの?」

「くだらない質問だ。私は萌えられれば性別などどうでもいい。ただ萌えるのは美少女がセオリー。男のエロイシーンなんぞに興味はない」

「お前ホントに残念だよな!」

「私のことをよく理解してくれたようで何より。さて、そろそろ行こうか」


 話し込んでいるうちにずいぶんと時間が経っていたようで、訪問時間が迫っていた。

 まあツッコミどころは多かったが円を知れた有意義な時間だと満足して立ち上がり、足下に並ぶ数式に目を向ける。


「結局さ、この数式って何だったんだ?」


 まさかアレをやりたかっただけでもないだろう。


「人の心というのは計算できんモノだ」

「あん?」

「いや……朋が私の過去を聞いてツッこむ回数を計算してみた」

「この壮大な数式がそんだくだらない計算だったと!」

「おお、これで五回だ」


 してやったりと口の端をつり上げ円は先を行く。

 何とも負けた気分でもう一度ツッこんでやろうかと思ったが……止めた。


 無駄なことするのは円だけでいいし、天才の答えを覆す必要もない。



 その後――沢村さん家のテレビを修理する円の顔を眺めながら思うこと。


 天才少女と呼ばれていた頃も、今のように真剣な顔でいただろうか。

 同時に修理を終えてお礼を言われたとき


「このくらい造作もない」


 誇らしげに自分の成果を告げながら、嬉しそうに笑っていただろうか。

 多分、違うんだろうな。

 じゃなけりゃ面倒だなんて投げ出さないだろう。


 なら、円がこの町に来たことは良かったってことで。

 

みなさまにお願いと感謝を。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!

また感想もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

読んでいただき、ありがとうございました!

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