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残念な日常

アクセスありがとうございます!



 四月、満開の桜がすっかり散った普通の日。


 木造平屋と田舎らしい神山高校の空き教室で放課後、何も書かれていない黒板の前に立つのは同級生の水越円(みずこしまどか)

 左サイドをヘアピンで留めた腰まで伸びる艶のある黒髪、切れ長な瞳に整った鼻筋、白雪のような肌とハイレベルな美少女。

 ただ残念なことに一七一センチの俺と頭一つ分低い体格はとってもスレンダー……スレンダーだよなぁ。まあ性格はもっと残念で、それが一目で分かるように白いセーラー服の上に白衣を纏う彼女の服装。

 肌の白、制服の白、白衣と白三連発だ。


「それでは本日の夢同発表会を始める」


 そんな残念美少女の円が淡々と告げた。

 ちなみに夢同は略語、正式名所は『夢を叶える為に努力を重ねる同好会』。つまり高校の同好会で、名前の通り会員全員(と言っても俺を含めて四人)が何かしらの夢を持っている。

 ……微妙な夢だけど。

 入会してる俺が言うのも何だけど。

 とにかく今日は月一の夢を叶える為に、会員がどんな努力を重ねたかを発表する日だ。


「ではいつも通り光から」

「りょーかいでっす!」


 円の指名に俺の前に座る女子が元気よく立ち上がる。

 神明寺光(しんみょうじひかり)――銀髪ショートにクリンとした瞳、犬歯と元気いっぱいのワンコ系。

 何が楽しいのかいつもニコニコと可愛い、この同好会唯一の一年生。

 ちなみに円とは違い一五〇ちょいの小柄な体格でも立ち上がる際、ぶるんと揺れる胸が何とも眼福。

 だがエロく見えないのは光ちゃんの純粋な性格故か、残念な夢のせいか……。


「ではでは、エスパー光の修行の成果を見せちゃいます!」


 はい、光ちゃんの夢はエスパー――超能力者になること。

 彼女の銀髪も実は染めてるだけで生え際が黒い。染めている理由も『神秘的でエスパーっぽい』とのこと。実に残念だ。

 そもそもエスパーって努力してなれるのか? なんてツッコミはなしだ。

 光ちゃんは本気も本気、どんなことでも努力するのは良いことだ……多分な。


「まずは念力、いっきまーす!」


 やはり元気いっぱいにポケットから取り出したのはスプーン。

 念力でスプーンとくればスプーン曲げ、昔流行った超能力の定番だ。


「むむむむむむむ――――っ! 曲がれ……曲がれ……!」


 すんごい気合い入れてるけど、曲がらない。


「曲がれ……曲がれ……お願い、曲がって♪」


 可愛く言っても曲がらないぞ♪


「うぅ……曲がろうよぉ……ほら、ちょっとだけでいいからね? 恥ずかしがらずに、みんな見てても平気だから」


 まあ俺がスプーンなら曲がったけど、ホントに光ちゃんは可愛いなぁ。


「約束したじゃない! あの戦いから帰ってきたら『俺、光の為に曲がるんだ』って! あの誓いは嘘だったのっ?」


 ……。


「だからわたし……信じてたのに! 曲がってくれるの……待ってるのに!」


 …………っ。


「そっか……わたしとは遊びだったんだ……だから曲がってくれずに……わたしにささやいてくれた愛の言葉も……うそ、だったんだね……」


「なんの話だ!」


 我慢できずにたまらずツッこんだ。

 いや、俺も結構我慢したよね?

 小芝居に付き合って『光ちゃん可愛いなぁ』って許したよね?

 なのに光ちゃんはさっきの熱演が嘘みたいにキョトンとしてる。


「ほえ? どうしたんですかトモ先輩」

「どうもこうもいまスプーン曲げ披露してるんだよね? なのにどうして死亡フラグ的な話から昼ドラになってんのっ?」

「トモ先輩こそなんの話? わたしはただミッチェルと会話をしてただけだよ」

「ミッチェルって誰っ?」

「このスプーン」

「意味不明!」

「ほら、予知夢ってあるじゃないですか」

「あるけど今の会話になんの関係がっ?」

「夢の中でミッチェルは神魔大戦の切り札として戦場に赴く前、無事帰ってきたら明日曲がるよってわたしと約束してくれました。つまり予知夢でしょ」

「ただの夢だよ! 病的な!」

「わたしとの出会いから結婚するまでのラブストーリーに感動です」

「どんな夢だよ! つーか光ちゃんスプーンとラブストーリーしたのっ?」

「そういえばミッチェルってトモ先輩ソックリだったな~」

「俺にそっくりなスプーンってなにっ?」

「わたしにあんな恥ずかしいことしたくせに……トモ先輩の鬼畜!」

「ミッチェルが俺になってるから!」


 しかし夢の中でミッチェル()は何やったんだ? ま、まあ恥ずかしいってことはアレ的なことで……夢とはいえ羨まし――


「結婚式で『ほーら欲しければ取ってごらん』って結婚指輪を掲げるからちっちゃいわたしはピョンピョンして……とっても恥ずかしかったよ!」

「全然羨ましくなかった! つーかこの前俺が光ちゃんにイタズラした『ジュース飲みたかったら取ってごらん』の別バージョンじゃねぇか!」


「――おいおい心の朋よ。オレの妹になんて辱めをしてるんだ」


 俺の無罪を咎めるのは光ちゃんの隣りに座る神明寺茜(しんみょうじあかね)

 その言葉と名字で分かるように光ちゃんの実の兄で俺と円の同級生なんだが……。


「いくら心の朋とはいえ、最愛の妹を辱めたとあれば……オレは正義の名の下に成敗せなばならない」


 立ち上がった茜は腰に手を添える。そこには赤いプロペラが中央にある――言わば変身ベルト。もちろんオモチャ、でも茜の手作り。

 もうおわかりだろうが、この同好会に所属している茜の夢は変身ヒーローになるだ。

 黒髪ロングを一つにまとめ彫が深く整った顔立ちの美形、身長も一八〇近い高身長なのに、常に左から風を受けているような奇妙な前髪と頭にあるゴーグル、学ランに赤いマフラー、極めつけの変身ベルトを常に身につけたとても残念な男。


東郷烈(とうごうれつ)……変身!」


 あ、ちなみに東郷烈じゃないから。神明寺茜だから。ヒーローっぽい名前(本人曰く魂の名前――ソウルネーム)を考えて勝手に名乗ってるだけですから。

 ついでに変身もしてませんから。ベルトのプロペラ回ってますけど単三電池二本が頑張ってるだけですから。なにより変身って上半身脱ぐだけですから。


「もーおにい! 気持ち悪いから脱がないでよー!」


 ほらね? 隣りで光ちゃんが嫌がってる。

 こいつ細身なのにわりと筋肉質で脱ぎたがりだから気持ち悪いんだよな。

 でも光ちゃんは兄嫌いでもない。普段この兄妹は仲良しさんだ。


「おっと妹よ。今日はいつもとひと味違うぞ。ちょうどいい――マドンナ! オレの努力の成果を発表していいかっ?」


 嫌がる光ちゃんにニカッと白い歯を見せつけ(ただし上半身裸に赤いマフラー)茜は壇上で見守っている円に挙手。

 ちなみにマドンナとは円のこと。

 名前をもじっているのと変身ヒーローにはマドンナが付きものらしい、こいつのヒーロー像は微妙に古い。


「どうぞどうぞ」

「では見ていろ――っ!」


 ぞんざいな扱いにも茜は爽やかな笑み。

 心と身体の頑丈さだけはヒーローだ。


「ヒーローと言えばやはり変身! 瞬時に変身してこそ真のヒーロー! 唸れ……トリプルタイフーン!」


 一人熱く語りながら茜が右手、左手と交差しつつ変身ベルトを触るとプロペラの両サイドに小さなプロペラが出現。


「解説しよう。トリプルタイフーンとは東郷烈の正義魂が頂点に達したときに現れる変身ベルトの真の力である――」


 そして淡々と解説。

 昔の特撮ヒーローモノにありがちなナレーションだろうか? どうでもいいが本人がすると残念通り越して悲しいぞ。


「これにより東郷烈は瞬時に変身することが出来るのだ」


 俺の同情の視線も気にせず茜は語り終え、もう一度ベルトに手を伸ばす。恐らくスイッチでも押してるのか、三つのプロペラがグルグル回っている。

 さて、どうなるんだ?


 ベチャ――ヌリヌリ――キラン


「変身完了!」


 どや顔で茜が右手を天に伸ばしてポーズ。

 うん……取りあえず茜に変わって俺が今の出来事を解説しようか。

 まずプロペラが回って、ベルトの上から緑色の液体(恐らく絵の具)が飛び出して茜のお腹を緑色に染めて、その液体を自分の手で身体に塗った、白い歯見せる――終了。

 ……ライダーか? 一号なのか? ライダーってよりナメク星人みたいだぞ?

 つーか絵の具足りなくてそこら中に肌色残ってるし。


「……烈」

「……おにい」


 ツッこむのも忘れて呆れていると円と光ちゃんが同時に廊下を指さした。


「「絵の具落として床掃除」」

「あっはっは!」


 ちなみに茜は笑顔で従った。


 ◇


「……まったく、烈といい光といいもっと真面目に努力をしないか」


 茜が絵の具を落として床掃除を済ませると、壇上から円がやれやれのポーズ。


「わたしは真面目だったよ。トモ先輩が邪魔して失敗しちゃったけど」

「なにも邪魔してないよねっ?」

「オレも真面目に床掃除をしたぞ」

「お前はベクトル間違ってるんだよ!」


 そして真面目にツッコミを続ける俺。


「ここは場を引き締める為に会長として、私の発表をしよう」


 と、(無い)胸を張り壇上を降りる円の手には大きなバッグ。

 そのまま俺の隣りへ座り、会議テーブルにバッグを置いた。


「まず私はこの一週間、夢を叶える為に必要な努力を様々な観点で考えた」


 円の夢は前の二人と少し違う。

 違うというのは超能力や変身ヒーローのような、努力で何とかなるかは微妙な夢ではなく、努力次第では実現可能ということ。

 ただ実現するには相当の努力を続けても難しい。

 なんせアンドロイド開発が夢だ。

 壮大な夢でも円は本気だ。テストの成績はパッとしないのに、茜の変身ベルトのような工作レベルではない妙な発明もいくつかしている。

 ただ妙なというだけあり、何に使うか微妙なモノばかりだが。

 例えば自動醤油差し、例えば自動納豆混ぜ機、例えば自動肩たたき機――これは普通に電気按摩として売ってるが、円の場合は自ら理論を組み立てゼロから作り上げたのだから無駄に凄い。残念な白衣は伊達じゃない。

 だからこの発表会でも一番まともな成果を上げている。


「そこで原点回帰がてらこのような物を作ってみた」


 それなりに期待していると円はバッグからアンドロイドを取り出す。

 ……つってもフィギュアだけどな。美少女の、萌え系ってやつ。なんのキャラか知らんが赤髪ロングで目のぱっちりとしたスク水着てる。


「どうだ」

「工作じゃん!」


 どや顔で胸 (ペッターン)を張る円にたまらずツッこんだ。


「お前の夢はアンドロイド作ることだろ? なのになにこの『研究に行き詰まって息抜きしました』みたいな成果は!」

「よくわかったな朋。フィギュア造りもたまにやると楽しいものだ」

「そうだろうよ!」

「しかし私がただフィギュアを作ったと思うか? 例えばこの天音あまねちゃん、自動で動く」

「マジでっ? それは凄い――」

「ように改造したが、一人目の天音ちゃんは内蔵モーターに耐えきれず木っ端微塵」

「失敗したのかよ!」

「仕方ないので人工知能を搭載してどのような言葉でも受け答えできる」

「マジでっ? じゃあなにか喋って――」

「ようにしようとしたが設計段階で一件家並みのサイズになり断念」

「つまり作ってもないんだよな!」

「仕方ないので二人目の天音ちゃんを火薬で木っ端微塵」

「何故にっ? お前は木っ端微塵オチが好きなのかっ?」

「だが会長として何も用意しないのは面子も潰れると、昨夜造った三音さんねちゃんだ」

「もう充分潰れてるよ! つーか面倒くさがって省略するな!」


 三人目の天音ちゃん可哀想……ん? 設計図が作成できるだけでも凄いのか? 今の科学がどれだけのモノか知らんが人工知能でどんな言葉でも喋れるとは思えないぞ。


「まあ私が作りたいのは知性のあるアンドロイド、ただ喋れる機能とか興味ないので設計すらしなかったが」

「じゃあなんで二音ふたねちゃん木っ端微塵にした!」

「……実はだな朋」

「な、なんだよ」

「私は天音ちゃんより香澄かすみちゃんの方がタイプなんだ」

「じゃあ香澄ちゃん造れよ!」

「それでは木っ端微塵を躊躇ってしまう」

「なら木っ端微塵を止めればいいんじゃないですかねぇ!?」

「なん……だと。朋は天音ちゃんが好きなのか。仕方ない、帰って木っ端微塵にするつもりでいたがこれは朋にプレゼントだ」

「違うけど! 木っ端微塵は天音ちゃんが可哀想だからもらっとくよ!」


 いったい天音ちゃんになんの恨みがあるんだこいつは?

 とにかく俺は天音ちゃんを守る為に自分のバッグへ。


「ちなみにこんな物も造ってみたぞ」


 その間に円が再びバッグから取り出したのは、やっぱりフィギュア。

 ただ見覚えのある……つーか光ちゃんに茜、俺と円にそっくりなの。


「……お前もう造形師になればいいと思う」

「すごい! わたしにソックリ!」

「まさに東郷烈……イカスじゃないか」


 完成度の高さに円の新たな夢を推進する俺を無視して、光ちゃんと茜が自分のフィギュアを手に大喜び。

 仕方なく俺も自分のフィギュアを手にするけど……微妙な気分だ。自分のフィギュアって。無駄に似てるからよけいに。


「当然、それぞれのフィギュアには本人の特徴を表現するような仕掛けがある」

「とか言いながらも失敗してんじゃないのか?」


 さっきは無駄なノリツッコミをしたので警戒するのは当然。


「甘いな朋。私がそのような失敗を繰り返すと思うか」


 円は嘲笑すると、自分のフィギュアにポーズを決めている茜へ視線を向けた。


「烈、そのフィギュアをテーブルに置くといい」

「おう」

「そして叫べ。変身、と」

「いいだろう。東郷烈……へん、しん――とう!」


 気持ちを込めて茜が叫び、本当にジャンプした。


 ボンっ!


 茜のフィギュアが木っ端微塵に。


「すげぇけど! どんな仕掛けか知らないけど結局木っ端微塵かよ!」


 しかもなんで茜の特徴が木っ端微塵なんだ? せっかく造ったのに、茜も喜んでたのに酷い仕打ちだ。


「わっはっは! さすがはマドンナ、ヒーローとは爆発あってこそ。素晴らしい!」


 うわぁ……喜んじゃってるよ。ヒーローの登場で爆発とかなら分かるけどさ、本人爆発ってなんだよ。


「ね、ね! わたしの特徴ってなにっ?」


 呆れる俺に対し光ちゃんはノリノリで尋ねていた。


「では同じようにテーブルに置くといい」

「うん!」

「そして叫べ。サイコキネシスと」

「はーい! むむむ……サイコキネシス!」


 茜と同じく自分のフィギュアに光ちゃんが叫ぶ。


 ひらり


 光ちゃん(フィギュア)のスカートが捲れて……見えた。黄色いのが。


「いやすげぇけど! どんな仕掛けか知らないけどなんでスカートめくりっ?」

「サイコキネシスのお約束だ」

「お前世の超能力者さんに謝れよ!」


 せっかくのサイコキネシスでスカートめくりなんてしょぼいことしないから!

 なによりフィギュアといえど自分のパンツ見られた光ちゃんの乙女心を考えろ。


「す、すごいよ円さん! どうしてわたしの今日のパンツが黄色だってわかったのっ? もしかして予知っ?」


 乙女の恥じらいはどこへっ? いやしかし! 今日の光ちゃんは黄色なのか!

 よくわからんが円にお礼が言いたくなった。寸でで止めたけど。

 変わりに心の中で言っておこう。


 あざっしたぁぁぁ――っ!


「じゃあさじゃあさ! トモ先輩の特徴ってなに?」

「いや……俺は知りたくないんだが」


 それはさておき、俺のフィギュアか……なんかここまで微妙だから知りたくもない。


「いい質問だ光。ではまず朋のフィギュアを手にしろ」

「はーい! トモ先輩、貸して貸して」


 了承する前に光ちゃんが手を伸ばしてフィギュアをかっさらう。いいけどね。


「手にしました!」

「ではここに水がある。まあ先ほど自動販売機で買った普通の水だ」


 円はバッグから取り出したペットボトルを光ちゃんへ。


「かけてみろ」

「いいの?」

「かまわん。全部かけていい。後で烈が掃除をする」

「まかされた!」

「じゃあ……ゴメンね、トモ先輩」


 言われたとおり光ちゃんが俺のフィギュアに水をかける。


 変化なし――と思いきや!


「わ、わ! どうしてトモ先輩全裸になるのっ?」

「フィギュアのな!」


 まるで俺が脱ぎ始めたように聞こえるので取りあえずツッこんだが……何故か俺のフィギュアが素っ裸に!


「ちょっ! 光ちゃん返して!」

「へぇ……トモ先輩の身体ってこうなってるんだ」

「いやぁぁぁぁ下からのぞかないでぇぇぇ!」

「あれ? でも男の人っておまたに付いてるんだよね? もしかしてトモ先輩女の子?」

「男だよ! 付いてるよ!」

「私は本物を見たことがない。直で見たことのないものを付けるのもプライドが許さないので微妙な出来になってしまった」

「それ以前のプライドもてよ! つーかなんで全裸なんだっ?」

「服の塗料が特殊でな。一定の温度以下になると消える仕様だ」

「無駄にすげぇ! けど俺はなんで俺の特徴が全裸だときいてんだよ!」


 むしろ茜の特徴だ。


「いや、だって、朋だし」

「意味わからねぇ!」

「あれ? 服が浮かんできた」

「なんとっ?」

「ああ。一定時間で元に戻る仕様だ」

「もうその塗料売り出せばいいよ! 絶対儲かるから!」

「ふ~ん。円さん、このフィギュアわたしにちょうだい?」

「いるの光ちゃんっ?」

「だってトモ先輩のフィギュアだもん」


 おおう……なんだその笑顔。キュンときたぞ。いや……冷やせば全裸になるフィギュアが欲しいのは微妙だ。もしかして透視の練習とかに使うのか?


「私は構わない。そもそもプレゼントするつもりで作ったのでな、朋がよければだ」

「じゃあトモ先輩、このフィギュアわたしにちょうだい?」

「いや……でもな」

「代わりにわたしのフィギュアあげるから」

「仕方ないなぁ光ちゃんは。じゃあ交換ね」

「やったぁ!」


 俺もやったぁ!


 ………………いや、家でこっそりサイコキネシスとか言わないから。

 ただ天音ちゃんが一人ぼっちで寂しいからお友達として欲しいだけだから。


「朋……まあいいが、あの音声機能は一度きりだぞ」


 なん……だと?


 いやいや! 別にいいし! ガッカリとかしないし!


「トモ先輩、下からのぞいちゃダメだからね」

「…………うん」

「がっかりするな朋。ほら、私のフィギュアもプレゼントだ」

「だからしてねーし。まあ、くれるってなら貰うけど……お前のフィギュアはどんな仕掛けがあるんだ」

「全身がゴムのように伸びる」

「お前はどこの海賊王になるんだ!」


 そしてなんの特徴だ。


「ちなみに除いても構わんぞ。どうせ白だ」

「恥じらいを持て!」


 白四連発な円だった。


 ◇


 ペットボトルの水で濡れた床を茜が掃除して一段落。


「ではなし崩しにトリとなった朋の番だ」

「ようやくか」


 円の指名に俺はポケットへ手を伸ばす。

 まったく、どいつもこいつも本気で夢を叶える気があるのかね? まあ本気すぎて暴走してんのだろうけど。

 とにかくここは一つ、会員で最も夢に近い俺の成果で発破をかけてやるか。


「さて、ここにあるのは普通のトランプ。円、確認してくれ」

「どれ……たしかに普通だな。地味で面白味もない、朋を体現したようなトランプだ」


 ツッこまないぞ……今の俺はクールなんだ。ニヒルな笑みだって浮かべてやる。


「じゃあこのトランプを切るぞ」


 返してもらったトランプを素早くシャッフル。本職ディーラーに引けを取らない見事なカード捌き、この半年間メッチャ練習したからな。

 光ちゃんはワクワクした目で、茜も頻りに頷いている。

 隣りからは冷めた視線を感じるが気にせずシャッフルし終えたトランプをテーブルに置いて半分に分けた。


「茜、どっちの山がいい?」

「そうだな……ではこちらを」


 選んだのは俺から見て右側のトランプ。


「ならこっちは一先ず下げて、と」


 左手で左側のトランプを引き寄せる間に右側のトランプを右手で取る。

 もちろん表が見えないように気をつけながら、そのまま光ちゃんの前に差し出した。


「じゃあ光ちゃん、俺に見えないように上のカードを一枚引いて確認したらポケットに隠して。もちろんなにを引いたか言っちゃダメだよ」

「りょーかいでっす!」


 注文通り光ちゃんが一枚引いてカードを見ると制服のポケットに入れた。


「隠したよ!」

「なんのカードか覚えてるよね?」

「もちろん!」


 なら――と右手で顔を覆いポーズを取る。意味はないが雰囲気だ。


「光ちゃん……」

「なんでしょう?」

「光ちゃんが引いたカードはずばり――ダイヤのエースだ!」

「当たりです!」


 おお、と光ちゃんが驚いて取り出したカードを掲げた。それは宣言通りダイヤのエース。

 これぞ俺の努力の成果、さあみんな拍手喝采を――


「朋」

「なんだ、円」

「先ほどカードを二つに分けて烈に選ばせた際、右手の袖に隠していたカードを上にのせたのが隣りから丸見えだぞ」


「タネばらすなよ! そしてしまったぁぁぁぁ――っ!」


 冷静に分析されて俺は両手を頭に項垂れた。

 くっ……この仕掛けは横から丸見えじゃねぇか……うかつだぜ、俺。


「むー……トモ先輩の発表って毎回地味だよね」

「地味だな」

「朋だけに」


 勝算どころか冷ややかなツッコミ……でもな、難しいんだぞこのマジック。

 とまあ、これでわかるように俺の夢は奇術師――マジシャンだ。

 他の面子に比べて地味かもしれんが、奇術師だってすげぇ難しいと思う。

 でもよくないか? タネも仕掛けもあるけど不思議な現象起こしてみんなを驚かせて、更に楽しませる。

 不思議なモノなんてこの世にはない。でもだからこそ奇術師のように努力を積み重ねて不思議な現象を起こす、いい夢だ。

 でもま……


「さて、オチも決まったことだし本日の夢同は解散」

「お疲れさまでした~!」

「楽しい時間だった」


 会長の円の宣言に活動も終了。これから一緒に帰るわけだが――


「俺の夢は……多分、叶わないだろうな」


 最後に教室を出るとき、先ほどの賑やかさが嘘のように静かな室内に思わず声に出た。

 こうして四人で、毎日くだらないことでも真剣に楽しむ。


 それがずっと続けば良い……なんて俺の夢は、叶わない。



  

このように基本はツッコミ主人公と残念な仲間たちのハートフル(?)な青春モノです。よければ読んで頂いて少しでも楽しんで頂ければ幸いかと。


またみなさまにお願いと感謝を。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!

また感想もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

読んでいただき、ありがとうございました!

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