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幕間 全てを知っていた少女の夢

アクセスありがとうございます!



「――これが、マドの知りたかった鳴神朋の全てさ」


 病室のベッドの上でノートパソコンのディスプレイを注視する円に、壁により掛かる胡夜が苦笑を浮かべる。

 ディスプレイには同じ病院の別室で入院している朋の姿。病室に設置された監視カメラは音声も拾うので、白との会話が聞こえていた。

 つまり円は二人の会話を盗み聞きしているのだが


「……どうして私に見せたのだ」


 その内容は胡夜の言うように円が追い求めていた真実、しかし例え姉でも本人の許可なく公開していい内容ではない。


「それはマドが最初っからトモが魔術師――不思議な力を宿してると気づいてたからさ」

「――っ」

「おやおや? どうして気づかれたかと驚いている顔だねぇ。なら説明してあげようか。理由は二つ、まず一つ」


 不意の返答に目を見開く円をからかうように胡夜は白の――延いては自分の真似事で人差し指を立てた。


「トモに奇術師の夢を持つよう提案したのがマドだから。魔術師に奇術師になれって誘うのはちーと出来すぎかなって」


 随分と強引な理由、しかし円は反論しない。理由は二つ、他人の意見を最後まで聞くことは大切だ。

 胡夜も意図を読んだのか、中指を立てるとニタリと笑みを零す。


「そしてもう一つ。マドはシロをアンドロイドとして作ったんだって? んで、起動後も検査をした。あたしらもさせてもらったけど、シロは人間だったよ」


 先ほどとは違う決定的な理由だった。

 そう、白は完全な人間としての身体を持っている。朋は知らないのだ。

 神の領域とも言える生命体を生み出すことが出来るほど自分の魔力が異常だと。


「アンドロイドを作ったのに、起動してみれば人間が出来ちゃった。不思議だねー科学のレベルじゃないねー。んで、マドこそいつ気づいたんだい?」

「…………正直に言おう。私はあなたが苦手だ」


 感情を読まれないよう表情を変えずにいた円も、これ以上の反抗は無意味と判断してため息を吐いた。


「ちょっちショックだねぇ。あたしはマドのこと気に入ってるんだけど」

「苦手なだけで嫌ってはいない。むしろ改めて尊敬したほどだ。……いや、今はそのような話をしていないな。私が朋の秘密に気づいていた時期か。それは彼と出会う前からだ」

「……出会う前?」

「朋が転校生として現れる前、私はある依頼を受けた」


 さすがに予想していない返答なのか、目を見開く胡夜に少しは意地を見せられたと円はほくそ笑み、半年前の出来事を口にする。

 依頼とは農業を営む住民から農作物を管理している監視カメラの修理。以前農作物が荒らされた事件で設置したモノの内、いくつかのカメラが不調となったので修理を依頼され、チェックの為に一晩放置した映像を確認したのだが。


「その映像でクマと対峙している朋の姿が映っていた」

「……あ~越した日に星が綺麗で夜のお散歩してたら、童謡みたいにクマさんに出会ったってトモが言ってたわ」


 苦笑する円に対し胡夜は呆れたように額に手を当てる。


「んで? 迎撃する為にあの子が魔術を使ったのを見たと」

「いや、そもそも対峙していたクマは怪我をしていたようで動けなかった。だが……くく……あの時の朋は実に傑作だったよ」


 と、円は思い出し笑いを零す。

 映像の中でクマを目撃した朋は驚き逃げようとした。しかしそのクマが怪我をしていると分かった途端――


『治してやるからお前絶対に俺を襲うなよっ? いいか、絶対だぞっ?』


 まるで芸人の押すなのように何度も確認した後、手をかざすと月のような淡い輝きがクマを包み込んだ。


『フリじゃねぇよこの恩知らずが!』


 結果、大人しかったクマが襲いかかり、ツッコミを残し朋は映像から消えてしまった。

 一連の不可思議な現象を円は信じられず映像の解析を何度も行ったが、どれほど調べたところで現象の解明は出来ず終い。


「科学で解明できない現象にモヤモヤとしていたが、その後転校してきた朋を見て分かったよ。彼は私の常識を越えた何かを持っていると」


 謎の現象を起こした朋との出会いに円は驚いた。機会があれば何をしたかを尋ねてみようとも思ったが、彼を観察している内にその気は失せた。

 代わりに同好会に誘った。奇術師を提案したのは隠したい力を万が一にでも使ってしまっても、奇術だと誤魔化せるという理由。

 だが今回の事件は強引な手口で朋を楽にさせようとした円の計画で起きた。

 それがアンドロイドの完成と銘打った起動実験。

 実はあのアンドロイドの内部は適当に組んだモノで、朋を騙す為に外見のみ精巧に作られた張りぼての人形。思い当たって以降、何度も計算と実験を試みた。

 人形が爆発した際の破片の撒布量、角度、その際朋が起こす行動。自分がこう動けば朋はこう返す、守ろうと飛びつけば必ず自分を楯にしてでも円を守る。

 だからラボを片付け、破片の反射角度まで精密に計算して、正確に自分の背中に刺さるとまで導き出した。

 もし円が負傷すれば朋は迷うことなく治療をする、あの時クマへ行った不思議な力で。


「だが……やはり人の心というのは計算できないモノだ。まさか私を助けるどころか人形を人間として生み出してしまうとは」

「ま、人を生み出すまでは誰も計算できんよ。つーか、あたしは何でまたアンドロイドが人間になったか疑問だけど」

「……恐らくだが、私が起動前に朋へアンドロイドと人の違いについて話したからだろう。私としてはより朋へ信じ込ませようと述べたつもりだが」

「結果として単純なトモは人って意識したと」

「プロジェクト『OS―U』、文字通り嘘から出た誠か……いや、それ以上のオチを用意してくれるとは、やはり朋は面白い」


 そう締めくくり円は小さく息を吐く。


「さて、胡夜さんこそまだ私の質問に答えていない。朋が自身の口で話すと言っているのに、なぜ事前にこれを見せた」


 これまで一人で抱えていた秘密を吐き出せたことで少しだけ気が楽になり、話題を戻す。


「それはあんたの返答次第で答えてあげよう。マド、なんでトモを同好会に誘った? なんで強引にトモの秘密を暴こうとした?」


 しかし胡夜は教えない。代わりに矢継ぎ早な問いかけ。

 それでも自身に負い目がある円は観念したように口を開いた。


「私の夢はアンドロイドを開発することだった」


 過去形の呟きに胡夜は眉根をひそめる。

 これでは既に叶えたからか、諦めてしまったか、どちらにしても間違った表現。

 現に円は夢同の会長としてアンドロイドの開発に尽力を注いでいるし、白は朋の魔力により生み出された人間であって彼女の夢はまだ叶っていない。

 らしくない言葉の謝りに疑問を持つ胡夜の反応に、円はさすがだと頷く。


「アンドロイドの開発はあくまで最終目的の過程でしかない。私の夢は開発の先にあった」


 わずか十歳で様々な発明業界で持てはやされた天才少女。同年代では到底届かない地位や名誉や金を手に入れたが、代償として同年代では手に入れているはずのモノを手に入れることは出来なかった。

 そして手にする方法を知らず、子供が故の短絡的な方法で手に入れることにした。

 手に入らないのなら作ればいい――結果としてアンドロイドの開発だ。

 しかし決意後わずか三ヶ月で夢は叶った。朋に話した経緯を経て、神山町に引っ越し自分と同じように……いや、更に輪をかけた残念な夢を持つ兄妹に出会ったことで。


「友達が……欲しかったんだ」


 天才少女は能力の高さ故に同年代の子供から敬遠され、傍にいるのは自分の能力を利用するつもりの大人達。だから円にとって茜と光は初めて出来た友達。


「なるほど……あの二人に出会ったお陰でマドの夢は叶ってたんだねぇ。しかしまあ、友達が欲しいからアンドロイドを開発って、さすが天才少女はぶっ飛んでる」

「天才が故の結果だろう。所詮、教育の場とは生きる上での基礎知能の向上と、人との接し方や思い出を作る場所だ。私の場合、知能の向上は必要以上にできたが、もっとも大切な経験を無視していたからな」


 その経験は天才少女として過ごした時間よりも充実していた。地位や名誉や金以上に大切な、友達との思い出作り。最高に楽しい時間だ。

 だからこそ円は朋を同好会に誘った。

 なぜなら人当たりのいい素振りを見せているのに、朋は何かに怯えてるような表情を時折見せていた。魔術という力がバレないようにと今なら分かる。

 故にそんな暇も与えないほど賑やかな時間を過ごしてもらう為に誘い、だからこそ強引な手を使ってでも朋の秘密を暴こうとした。

 魔術師としての自分を隠し続けることで負い目を感じる朋を楽にしてあげたかった。 


「私も朋の居場所を作りたかった……何とも傲慢な考えだ」


 例え自己満足でも、神明寺兄妹との出会いで今が幸せと感じるように、朋にも自分との出会いが幸せと感じて欲しいと、ただ、それだけの願い。


「以上が疑問に対する回答の全てだ。さて、私は私の疑問に対する回答を得る権利は得たのかな」

「もちろん。なんせあたしはとっても弟思いなお姉ちゃんだからねぇ」


 と、微笑む胡夜だがそれ以上何も答えない。

 なぜ朋の秘密を先に知る必要があったのか、という質問の返答はない。しかし円は先ほどの言葉が回答だと理解する。


「なるほど……私たちはあなたから見て、朋に必要な友人と認めてもらえたようだ」


 つまり朋が円たちの前から姿を消すことを姉として良しとしていない。


「だからあたしからトモに提案はしておくよ。今回の一件を参考に、これからはナデが神山町で暮らし監視する。あの子もトモとあんたらを危険にさせたと勝手に負い目を感じてるから進んで任を受けた。拒否られたら切腹でわびるとトモにも一応脅しておく」

「後は私の対応次第と言うことか」


 だから記憶を消される前に朋の意志を変えて欲しくて、お膳立てをしてくれた。


「加えてレツとヒカのね。ま、あの子達は問題ないかな? なんせマドを受け入れちゃうような残念思考だ」


 ウィンクする胡夜に嘆息する円だが神明寺兄妹については同意できる。あの二人は真実を知らなくとも、自分の計算外な行動を起こすことは誰よりも知っていた。


「なんにせよ、あたしはあんた達がどうトモの意志を揺らがせるか楽しみにしてるよ」


 そして円の推測が正しいと言わんばかりに胡夜は手を振り病室を出ようとする。


「一つだけ訂正しておく」


 だが、最後に円は言っておくことがあった。


「私は夢同の会長だ。公言したからには努力を重ねなければならない」


 自分の夢はアンドロイドを開発することだった――過去形にしたのは本来の夢、友達が欲しいとの願いが叶っているから、だけではない。


「既にアンドロイドの基礎設計は終えている」


 言葉通り、既に叶えられる段階まで到達していたからだ。


「ただ急ぐこともない開発だ、ノンビリと楽しんでいるがな」

「……ホント、あんたも規格外の天才だ」


 苦笑する円に対し胡夜は肩をすくめる。

 生命体を生み出す魔術師と、個人の力でアンドロイドを開発できる科学者。

 どちらが規格外か? などとどうでもいい推測を楽しみながら胡夜は病室を後にした。


「しかし、我が同好会もずいぶんと愉快な構図になったモノだ」


 一人になり、円は再びディスプレイに視線を向ける。


 友達が欲しくてアンドロイドの開発を夢見た、友達のいる少女。


 妹を救う為に変身ヒーローを夢見る少年。


 決められた未来から逃げる為にエスパーを夢見る少女。


 奇術師を夢見る魔術師の少年。


 そして新たに加わるであろう、人間になりたいと夢見る人間の少女。


 会員の夢は実に愉快で、残念なモノ。それでも真剣に取り組み続けている。

 だからこそ、退屈しない楽しい時間を過ごせる仲間。

 故に誰一人欠けてはならない。


「白を大切に思うのは私だけではない……その言葉、そっくりキミに返してやろう。娘を大切に思うのは父親だけではない、母親も同じだ」


 以前思案した白の父母論を口にする円は笑みを浮かべていて。


「なにより、キミも私の夢だ。失ってたまるものか」


 自分を抜きにした勝手な未来を語る朋の声を最後に、ノートパソコンを閉じた。


次回最終話!


みなさまにお願いと感謝を。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!

また感想もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

読んでいただき、ありがとうございました!

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