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残念、ゆえに

アクセスありがとうございます!



 翌日の日曜、俺は退院した。


 輸血したとはいえ死にかけたのに一晩で退院なんてさすが魔術師……なんて関係なく、まだ気怠さは残っている。

 なのに強引な退院をさせたのは他ならぬ姉貴だ。

 俺と白が兄妹の誓いを交わして間もなく、姉貴が顔を出してある提案をした。

 今後はなで子さんが監視役として神山町で暮らす。一族でも俺たち姉弟への忠誠心が強いので今回のような事件は起こさないし、実力も高いので俺以外への危険もグンと減る。自分の右腕ともいえる存在を監視役にするとは、さすがの姉貴も今回の事件を大きく捉えているようだ。

 でもその提案を断った。なで子さんを信頼していないわけじゃない、むしろ願ってもない申し出だけどもう遅い。

 俺は既に言い訳のできない状況に追い込んでいる。茜や光ちゃんを巻き込んで、魔術師としての正体を打ち明けないと納得できないようにしていた。

 だから打ち明けた後で記憶を消すこと、神山町での暮らしを捨てると。そして白も、俺の妹として、魔術の弟子として共に生きていくと姉貴に話した。

 まあその決意にならば切腹してお詫びを――となで子さんが本気で腹切りしようとするのを止めるのが大変だったけど。

 結果として姉貴は俺たちの決意を受け入れ、さっさと済ませてこいと追い出されるような形で退院することになった。

 そんなわけで昼過ぎ、俺と白は帰宅したのだが――


「退院おめでとうでっすトモ先輩! 白ちゃんも付き添いお疲れさま!」

「待ちわびたぞ心の朋よ。そしてシロンナ」


 玄関を開けるなり出迎えてくれた光ちゃんと茜。手にはクラッカーと熱烈大歓迎だ。

 勝手に家に入ってるのはいいだろう。円と同じ二人にも合い鍵は渡している。


「シロンナってなんだよ語呂わりぃ!」

「ツッこむところはそこですかっ?」


 なので取りあえず茜の呼び方についてツッこむと更に白がツッコミ。なんか新鮮だ……俺以外のツッコミ、さすがは妹。

 でもおかしいだろ? マドンナと呼んでる円に似てるから白がシロンナって。


「あの……どうしてお二人がいるですか?」


 そんな俺の疑問を無視して白が正しい指摘。

 そういや今日退院するって連絡入れてなかったのに、何で二人が居るんだ?


「ふ……今朝方、師匠から心の朋が退院すると連絡を受けた。誰も居ない家へ帰ってくるのも寂しいだろうとはせ参じた」

「くっ……良い奴め」

「どうしてトモさんは悔しがるですか……」


 簡単だぞ白、茜のこういった気遣いは照れくさいんだ。それが男ってもんだ。


「それと早くパーティーしたくて勝手にお邪魔しました!」


 続いて光ちゃんが笑顔で手を上げる。パーティー? もしかして……俺の退院祝いか?

 ちくしょう、めっちゃ嬉しいじゃねぇか。


「とにかく入ってください! わたしお料理すっごく頑張ったんだから!」

「シロンナも来るといい」


 そう言って光ちゃんは俺の手を掴み、茜は白を招き入れる。一応俺の家なんだけど……なんて無粋なツッコミはしない。

 とにかく二人の気持ちは嬉しくて、だからこそ辛い。

 複雑な気持ちの中、連れられたリビングには言葉通りパーティーの用意がされていた。テーブルの上にはたくさんの料理、中央にはケーキまで。


「とっても美味しそうです! ヒカリさんは本当にお料理が得意なんですね!」

「えへへ。ほら、白ちゃんがハンバーグ大好きだって聞いたからちゃんと用意してるよ」

「これがハンバーグですか! 凄く大きいです!」


 得意げに自分の顔ほどの大きさのハンバーグを指さす光ちゃんに白は大興奮。


「ちなみにケーキはオレが焼いた」

「レツさんがですか! 意外です!」


 たしかに……ごつい茜がイチゴのケーキを作る姿は想像できない。


「あの……トモ先輩、まだ体調が悪いの?」


 などと呆れている俺に光ちゃんが問いかける。


「いや、問題ないから退院したんだけど……どうして?」


 ホントはまだ怠いけど、勤めて明るく返すが光ちゃんの表情は優れない。


「だって……トモ先輩がツッコミしないから」

「だな。心の朋が他人にツッコミのチャンスを譲るとはおかしい」

「…………」


 二人のマジ心配に泣きそう。俺ってそんなにツッコミ好きに思われてるの?


「ちょっと感激してて……悪いな二人とも」


 悲しいけどまずは気持ちを落ち着かせて、感謝を述べれば二人は安心してくれた。

 いかんいかん。嬉しいのに、でももうすぐお別れって事実で素直に喜べなかった。

 けど、最後だからこそ心の底から楽しまないともったいない。


「にしても退院祝いにしては気合い入れすぎじゃないか」

「違うよトモ先輩。今日はたくさんのお祝いだもん!」


 両手を広げて光ちゃんが飛び跳ねるが、たくさんのお祝いってなんだ?


「ところでマスターはどこですか?」


 疑問を口にする前に白から別の疑問。

 そういや円がいない。あいつは昨日のうちに帰ってるハズだけど……。


「マドンナは家にいる。しかし案ずるな、立て込んではいたが来ると言っていた」


『――失礼する』


 茜の説明と同時に玄関の開く音。


『む? 朋と白も帰宅しているな。私が最後か』


「円さんだ! 準備しないと」


 どうやら円も来たと思うより早く光ちゃんが慌てて床に置いてある紙袋をごそごそ、取り出したクラッカーを俺たちに渡していく。


「入ってきたらおめでとうでクラッカーね。白ちゃんもクラッカー分かる?」

「扱うのは初めてですが、問題ないです」


 状況が掴めないけど、とにかく円がリビングに入ってきたらこれでお出迎えらしい。


「円さん驚くかな? 喜んでくれるかな?」


 想像もつかない……円の驚く顔。でもこんなお出迎えされたらさすがに驚くかもな。

 などとイタズラ気分で待ち構えていると、リビングのドアが開き――


「遅くなってすまない」


「「「「…………」」」」


 クラッカーお出迎え作戦は失敗に終わった。つーか驚かせるつもりが、俺たちの方が驚いてしまった。


「キミたちは何をしているんだ」


 硬直状態の俺たちに首を傾げる円は相変わらず白い肌に白のワンピース、白い白衣と白三連発。

 だが一カ所だけ変化があった。


「甘いな朋。下着も白だ」

「相変わらず心を読むな! そして恥じらいを持て!」


 白四連発はさておき、どや顔の円を取りあえずツッコミでお出迎え。


「お前その髪どうしたよ!」

「見れば分かるだろう。ここへ来る前に床屋で切った」


 床屋って……まあ神山町に美容院なんてオサレな店は無いけどさ……。

 とにかく腰まで伸びていた円の髪が、肩当たりでバッサリ切りそろえられていた。

 急な変化に俺たちは驚いたわけだが……。


「ほえ……円さん思い切ったイメチェンだね。でも似合ってます!」

「イカすぜマドンナ」

「イカすです!」

「そうか。ありがとう」


 光ちゃん、茜、白が口々に褒めると円は微笑を浮かべ、ため息を吐いた。


「やれやれ。朋も何か言ったらどうだ? これでも生物学的に私は女だ、なのに些細な変化を指摘ではなくツッコミとは……これだからモテないんだ」

「些細じゃねぇけどな! でもその通りだすまんかった似合ってるよ!」


 俺もツッこみながら褒めておいた。


「しかし急にどうしたんだ」

「まあいいだろう。それよりも随分と豪華な料理だ」

「そうでしょ? わたし頑張った!」

「では、面子も揃ったことだ。さっそくパーチーを始めようじゃないか」


 茜の言葉を合図に俺たちはテーブルへ。玄関側に俺と白、向かいに茜と光ちゃん、お誕生日席には会長の円が陣取る。


「さて、祝いを始める前に私から言っておきたいことがある」


 それぞれにジュースが行き渡ったところで、祝いの席には向かない真剣な表情で円が俺たちを見回す。


「申し訳なかった」


 そして深々と頭を下げた。


「経緯は胡夜さんとなで子さんから聞いている。白の開発がどこぞの企業に露見してしまったらしいな。今回の一件、私の面倒ごとに巻き込んでしまって……そして、危険も顧みず救出に来てくれて、本当にありがとう」


 更にもう一度、今度は感謝の気持ちを込めて頭を下げる。


「円さんが謝ることじゃないよ! 悪いのは円さんの頑張りを取っちゃおうとした悪い人なんだから!」

「感謝も無用だ。仲間のピンチに駆けつける、そしてマドンナの救出に向かうのは変身ヒーローとして当然のこと」


 光ちゃんと茜の心遣いに円の表情が和らぐ。

 だけど俺はなにも言えない。本来なら俺が謝罪をするべきことだ。

 でも何も知らない円は負い目を感じている。もしかすると髪を切ったのもせめてものケジメだろうか?

 真相を知る白も複雑な表情で俺と円を交互に見ていた。


「それに今は円さんの夢が叶ったお祝いなんだから! そーゆーのはナシナシ!」


 微妙な空気を払拭しようと光ちゃんが笑顔でブンブン手を振る。そういや今日はたくさんのお祝いって言ってたけど、円の夢が叶ったお祝いもかねてだったのか。


「夢が叶ったか……そういえば二人も夢が叶ったそうだな」


 少し遠い目をしていた円が不意に口にした話題で俺と白は息を呑む。

 なで子さんから聞いたのか分からないが、円だけでなく茜や光ちゃんの夢も叶っている。

 だが、俺の魔力による仮初めの形でだ。

 もしかして……今が真相を告白するタイミングだろうか? 話題に触れないようにしていたけど、せめてパーティーが終わるまで待ってほしかった。


「ずいぶんと辛気くさい顔をしているがどうした」


 円の指摘は俺じゃなく、茜と光ちゃんに向けてのもの。

 夢が叶ったのに二人も、俺と同じように表情が優れない。当然だ、所詮は仮初め、二人の夢は本当に叶っていない。


「……残念だが、オレの夢はまだ叶っていない」


 そして重い息と共に茜は告白する。


「たしかにオレはマドンナの救出作戦の際、カミヤマンへと変身することに成功した。だが、それ以降一度として変身できない」

「わたしも……エスパーになれたはずなのに、今はスプーンも曲げられないんだ」


 続いて光ちゃんも悲しげに告白。

 更に二人はテーブルの上に変身ベルトとペンダントを置いた。いや、だったモノを置いたが正しいだろう。

 なんせ茜自慢の変身ベルトはプロペラ周辺のユニットが爆発したような跡があり、光ちゃんのペンダントも鎖しか残っていない。魔力で無理やり依り代としたことでベルトとガラス球が耐えきれなかったのだろう。

 もう言い逃れはできない。二人の大切にしていた物を壊して、騙していた真実を謝罪するのは今しかない。


「あの……さ、二人とも――」


「すまなかった心の朋よ!」

「ごめんなさいトモ先輩!」


「実は……て、あれ?」


 謝罪するつもりが逆に茜と光ちゃんに謝罪されてしまい呆気にとられてしまう。


「心の朋……オレは、オレはお前の信頼を裏切ってしまったんだ! お前はオレに誓ってくれた……どんなことがあろうとマドンナを助けると……! そして見事に救出してくれたにも関わらず……オレって奴は!」


 グッと拳を握り締め、ハラハラと涙を流す茜だが意味が全く分かりません。


「お前は知らないだろう、だから白状する。お前とシロンナが救出に向かった後もオレは悪と激闘を繰り広げていた……だがしかし! その中に居たんだ……人妻が」


 ……なに言ってんのこいつ?


「屈強な男達の中にたしかに居たんだ……そう、戦場の中に咲く一輪の花のように……いや、他にも女性は居たが、たった一人だけ人妻はいた」


 …………マジなに言ってんのこいつ?


「そしてオレは思ったんだ。敵味方と出会ってはならない二人が出会い、激闘を繰り広げた先に恋が、愛が芽生えると! 心の朋が命がけで戦っているにも関わらず、オレは彼女との出会いに酔ってしまった!」


 ………………。


「ついには一度負けておくのもセオリーかと頭に過ぎった瞬間、どこからともなく大きな爆発が起きて、オレの変身ベルトまで爆発していた。友の信頼を裏切り、不純な動機により手を抜くなど変身ヒーローとしてあるまじき行為と言わんばかりに……な。故に――」


「お前なにやってたんだよ!」


 ついに我慢できず全力でツッこんだ。


「俺が頑張ってたのになに考えちゃってるのかなこの人妻フェチが! そもそもなんでそいつが人妻だってわかんだよ!」

「心の朋は知らないだろうが、カミヤマンは相手が人妻かどうか分かる特殊能力が――」

「どんな特殊能力だよ!」


 つーか俺の魔力でなんて能力開眼しちゃってんのっ? 知らなかったけど片棒担いだみたいですげぇ恥ずかしいんだけど!


「わたしもトモ先輩を騙してたから……おにいみたいに神さまが罰を与えたんだ」


 言い表せぬ怒りが収まる前に今度は光ちゃんがペコリ。

 騙してたって……光ちゃんが? 俺を? むしろ俺が騙してたのに……。


「……どういうこと?」

「あのゲームをわたしが頑張ってクリアしてたから、トモ先輩は超能力が開発してるって言ってたけど……実はね、ズルしてました」


 …………ずる?


「例えば真剣衰弱なら右上と左下、上と下って法則があったり、ジャンケンならぐーちょきぱーって順番に出してくるんだ……わたし、それに気づいてたから簡単に進められたの」

「どこまで適当なんだよあのゲーム!」

「なのにトモ先輩は信じてくれて……ごめんなさい。わたし、ズルした悪い子だから……もっと純粋な気持ちで頑張りなさいって神さまが力を取り上げちゃったんだね」

「理由がとっても可愛い! つーか光ちゃん以上に純粋な子なんてこの世にいねぇ!」


「とにかくオレは今回の一件でまだまだ修業が足りぬと反省した。変身できなくなったのは残念だが、高い授業料と思えばいいだろう。これからはより精進を積み重ね、いつかカミヤマンZとして進化をすると心の朋に誓おう」

「わたしも! トモ先輩が本当に信頼してもらえるように今よりもっともっと頑張って、スーパーエスパー光ちゃんに目覚めます!」

「カミヤマンZってまたドラゴンホールネタかよ! スーパーエスパーも語呂悪いし!」


「なるほど……二人も私と同じく、結局夢は叶わなかったということか」


 ツッコミに急がしい俺を尻目に納得したように頷き、円がわけわからんことを口走る。


「は? なに言ってんだよ。お前の夢はちゃんと叶ってるだろ」


 俺の魔力の手助けがあっても……だけど。


「朋こそ何を言っている。私の夢は叶ってなどいない」

「いや、だから叶ってるだろ。ほら、白がその証拠だ」

「はいです! シロはマスターの開発したアンドロイドです」


 俺に同意するよう白が手を上げてアピール、しかし円はため息を吐いた。


「白はアンドロイドではない。普通の人間だ」


「「「「…………?」」」」


 その指摘に俺たちだけでなく茜や光ちゃんまでも目が点。開発者が否定ってどゆこと? つーか人間って?


「順を追って話そう。今回の一件で私はキミたちに随分と迷惑をかけた。特に胡夜さんは私を誘拐した企業を突き止め、公にならないよう解体したそうだな。宝石商と聞いていたがいったいどのような方法を使ったのか、朋と同じく謎の多い人だ」


 それは……そもそも企業とかじゃなくて自分の統括してる一族だからだろうけど。


「おかげで私がアンドロイドを開発したと他の企業に知られることはないようだが、万が一を考慮して対策は必要だろう。故にまず白の開発に関する資料、データを全て処分した。これで私がアンドロイドを開発した痕跡はなくなった」

「そんなことをすればマドンナは困るのではないか? それとも全て記憶しているのか」

「まさか。さすがの私もあれほどの膨大なデータを記憶できるはずがない。だが白のメンテナンスに関しては問題ないだろう。そしてここからが肝心だが、私はアンドロイドなど開発していない。そこにいるのは鳴神白――キミの妹だ」


 ちょっと待て。なんか今、凄いこと言わなかったか?


「とまあ先ほど、そのように戸籍を書き換えた。なんなら役所で見せてもらうといい」

「はぁっ?」

「ついでに白の神山高校への転校手続きをしておいた。光と同じ一年生だ」

「はぁっ? てかはぁっ?」

「案ずるな、費用は全て出す。キミは今後も変わらず白とこの家で暮らしてくれればいい」

「そんな心配よりも俺の妹っ? なんでお前の妹としてじゃないんだよ!」

「言っただろう。私はアンドロイドなど開発していない。なのに私の妹として戸籍を書き換えて、どう両親に説明すればいい。秘密というのは知る者が増えるだけ明るみに出るリスクも増える。つまり、これがもっとも安全な策ということだ」


 たしかに……白がアンドロイドと知るのはここに居るメンバーに姉貴となで子さんだけ。加えて両親のいない俺なら、妹として戸籍を書き換えても口裏を合わせるのは簡単。

 もともと兄妹としての契りを交わしたから白が妹になるのに文句はないけど、そんな大事なことはせめて前もって相談して欲しい。

 だが口にしていない批判をやはり円は読み取り微笑を浮かべて返す。


「白が生まれてよかったと思えることは、私たちの願い。今回ばかりはいくらでも迷惑をかけてもいいとキミは言ってくれたな」


 もちろん覚えてるので反論できない。


「そして私は必ず恩を返すと言った。喜べ、妹フェチにはたまらない可愛い妹だ」

「だから妹フェッチじゃねぇよ! ヘソフェチだ!」


 気のせいか光ちゃんと白にドン引かれたが、ここは譲れないと訂正。


「なんだ? 白が妹になるのは不満か」

「不満はないけども!」

「決まりだな。後は胡夜さんの了承が必要だがあの人のことだ、面白いと受け入れるだろう。これで白は朋の妹として、同時に私たち同好会の一員としての居場所ができた」


 どや顔で胸(つるつる~ん)を張る円に、白は目をぱちくりさせて


「……じゃあ、シロも学校に通えるですか? みなさんと一緒に……」

「白ちゃん同じクラスだよ! 同好会でわたしだけ一年生だったからすっごく嬉しい!」


 先に喜びを爆発させて抱きつく光ちゃんに状況を理解して、同じく喜びを爆発させた。


「シロも嬉しいです! ヒカリさん、これからよろしくです!」

「オレも歓迎するぜシロンナ! これから共に熱い青春を謳歌しようじゃないか!」

「はいです!」


 更に茜も加わり三人は大はしゃぎ。


 ……なんだよこの状況? 俺のくそったれな覚悟よりも白が幸せそうじゃないか。


「やれやれ、この髪形にしたことが無駄にならなくて安心しているよ」


 呆然と眺めている俺に円が苦笑する。


「……何の話だよ」

「私と同じ外見をした白が学校へ通えば疑問を持つ者もいるだろう。だが髪形一つで印象は変わる。加えて白の髪を結っていれば多少似た者同士という印象で済む」


 なにより自分と違い白は表情豊かだ――と円が自虐するように、今も笑顔を振りまく白と見比べてもたいした違和感がない。

 なんつーか、昨日の今日でよくもまあここまで考えて行動できるよな。


「必死にもなるさ」

「そんでもってまた俺の心を勝手に読む」

「表情を読んでいるだけだ。なんせ朋は地味だからな。とにかく白の居場所を与えるのは開発者として当然のこと。それに、私の手元には開発に関する資料もデータもない。今後は白のメンテナンスを加えた最新データのみで私の夢を叶えなければならない」

「だから、お前の夢は叶ってるだろ。どう改ざんしたところでアンドロイドは開発してる」

「何度も言わせるな。私の夢は叶っていない」


 意固地なまでに否定されて呆れる俺に円はほくそ笑み


「理想の嫁、香澄ちゃんを開発し、きゃっきゃうふふする夢はな」

「お前……ホント残念な」

「キミこそ、気のせいか残念そうに見えるが?」


 見当違いな指摘に俺は苦笑するしかない。

 誰が残念だって? ただ恥ずかしいんだよ。なんせこっちは悲痛な気持ちで覚悟決めてたってのに、お前らときたらどこまで残念なんだ?

 勝手に勘違いして裏切っただの嘘ついただの、俺の台詞をとって少しは見せ場を残せ。

 しかも前向きに捉えて目をキラキラさせて、今さら魔術の話とか恥ずかしくて出来ない。なによりお兄ちゃんとの約束を忘れて喜ぶ白の幸せを、俺の都合で奪うわけにいかねー。

つーかバカバカしくなってきた。なんで残念なこいつらと同じように、俺まで残念な道を選ぶ必要がある?

 そんなのねーよ。

 なら、茜と光ちゃんと今後について話している白にただ一言。


「白――予定は中止だ」

「……! はいです!」


 本当に忘れてたみたいで一瞬ポカンとなる白も、俺の意図に気づいて目を輝かせた。

 そのやり取りに俺と白を交互に見詰めて円が首を傾げる。


「……なんの予定だ?」


「んなの、兄妹の秘密だ」


完結っぽいですが次回はちょっとした裏話です。

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