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世界最強の魔術師の弟子

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『――だまれぇ!』


 ようやく五階へと辿り着いた途端、苛立ちを露わに叫ぶ声がふすま越しに聞こえた。


「あの部屋です」


 俺に肩を貸したまま白は警戒もなくふすまを開けてしまう。


 せめて様子を伺ってから――なんてツッこむのも忘れてしまった。


 精神統一用の簡素な部屋に見覚えのある男が五人、どいつも月ノ一族の魔術師。

 そして矢神のおっさんの足下にはロープで縛られ横たわる円の額から赤いモノが流れている。この状況を目の当たりにした瞬間、今までの倦怠感が嘘のように吹き飛んだ。


 ぶっちゃけムカ付いた。


「なぜキサマがここにいる!」


 俺を指さし矢神のおっさんが怒鳴るも無視、白の肩から腕をほどいて視線を外す。


「……白。俺の後ろに」


 素直に背後へ回る白の頭を軽く撫でて、改めて矢神のおっさんを睨みつけた。


「円に何をした」

「なんだその目は……ふん、そもそもキサマが何しにここへ来た」


 最後に会った時に敬意を向けていたのが嘘のような高圧的な態度。

 このおっさんは昔からこうだ。俺が魔術の使えない出来損ないと呼ばれていた頃は見下し、いざ覚醒して圧倒的な力を手に入れればウザイくらい崇める。


「魔術の使えぬ分際で、まさかこの娘を助けに来たのか?」


 だから新月の為、依り代の月に頼れない格下となれば余裕を見せるだ。

 なら分からせてやる。あんたの浅はかな考えで、俺の仲間を巻き込んだ報いってのをな。


「さて、ここにあるのはただのトランプ。タネも仕掛けもありません」


 そう言ってポケットから取り出したのは普段から持ち歩いている奇術の練習をする為のトランプ。四千円もしたんだけど、まあ仕方がない。

「このカードを軽くきって一枚引きます」


 見事なシャッフルにおっさんも取り巻き連中も見取れているのか……いきなりなにしてんだこいつ? って呆れてんだろうなぁ。

 そんな冷ややかな視線も当然無視して、カードの束から適当に一枚引いた。

 出たカードは……ダイヤのエースか。ぶっちゃけ何でもいいけど。

 とにかくカードを連中に見せてから天井へ投げた。

 これまた必死に練習したカード投げ、クルクルと勢いよく飛んだカードに向けて


『爆ぜろ』


 魔力を込めた声で命令する。


 ドンッ!


「「「「「なっ!」」」」」

「ほえ……」


 突然の爆風に顔を覆っていた連中は空を見上げて驚愕し、俺の背中を風よけにしていた白が間抜けな声を漏らす。

 見上げてみれば綺麗な星空。本当はカードを爆発させるつもりだったのに、天井そのモノを粉砕してしまったらしい。


「……本当に奇術師としての技術ならすげーんだけどな」


 でも残念なことにタネも仕掛けもある。魔力というくそったれな力による魔術だ。

 だけどまあ、デモンストレーションにはちょうどいい。さっきまで小馬鹿にしたような視線を向けていた連中を馬鹿面には出来た。


「あんたの想像通り俺は新月の間、魔術は使えない。でもここには俺の魔力を宿した白が居るんだぜ? 月を依り代にした魔力で動く白がだ」


 そして白の肩に手を置く。それだけで連中はハッとなり、顔を青ざめた。


「あんたらと同じだよ。自分の魔力で補えない分を依り代の魔力で補う。月の魔力が無くても、白を依り代にすれば今の俺も魔術は使える」


 当たり前だろと言わんばかり肩をすくめると、実際に魔術を使うのを目の当たりにした連中は、恐怖で正常に頭が働かず完全に信じ込んでいる。


「なあ白、俺ってなんだっけ?」

「世界最強の魔術師さんです」


 場を掌握した俺の問いに、白はキラッキラした目で注文に応えてくれた。


「つまり世界最強の魔術師なら、ここにいる全員を一瞬で消し炭にできるってわけだ」


 連中が動揺するのは当然、こいつらは俺がその程度のことを簡単にやれると知っている。


 人殺しができない――なんて温い思考もない。


 なんせ俺は既に殺人者だ。


「試してみるか?」

「助けてくれぇ!」


 だから出来る限り悪い顔で脅すと一人が堰を切ったように駆け出すのを合図に一人、また一人と俺たちの隣を走り去る。

 プークスクス、冷静に考えれば分かるだろうに。

 白を依り代に魔術が使える? んなの出来るわけねー。そんな芸当が可能なら普段から魔力をため込んだ依り代を用意しておくっての。

 だからさっきの魔術は別の、もっとシンプルな方法だ。

 とにかく、これで充分だろう。さっきの爆発に加えて魔術師が血相変えて逃げたと分かれば、茜たちが相手をしている魔力を持たない連中も戦意喪失。これで俺たちも無事にここから退散できる。

 でもま……その前に仕上げといこうか。


「き、キサマ……! この娘がどうなっても良いのか!」


 唯一逃げなかった矢神のおっさんが倒れている円に向けて右手を伸ばす。その手には黒い数珠、あれがおっさんの依り代だ。


「いいか! 一歩でも動けばこの娘を殺す! 妙な真似もゆるさん!」


 ホント……想像通りのクズっぷり。あんたなら往生際が悪く、最後まで抵抗してくれると信じてたぜ。

 期待通りのお礼として一歩も動かず、妙な仕草もしない。

 代わりにただ一言。


『弾けろ』

「ひぎぃ!」


 魔力を込めた命令に従うように数珠が弾ける。衝撃でおっさんの身体も吹っ飛び壁に激突した。

 やっぱり今の状態だと上手くコントロールできないけど、これで円をどうかできなくなったんで結果オーライ。


「さてと……他にやりたいことは?」

「かは……ひ…………くるな……こないでくれ……」


 近づくとおっさんは泣きながら後ずさるが、壁が邪魔をして当然距離は縮まっていく中、表情を作らず淡々とカードを切る。


「ないなら死ぬか」

「や……やめて……殺さないで……」


 涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにするおっさんの恐怖は相当だろう。でも、あんただけは他の連中以上の報いを受けてもらう。

 テメェの野望の為に関係ない連中を巻き込んで、最後は円を人質に取るような奴は命を持って償え。


「おあつらえ向きに出たカードはあんたにピッタリの一枚だ」


 引いたカードはジョーカー。偶然ではなく、あらかじめ袖に忍ばせた一枚を引いたように見せただけ。

 しかしおっさんには宣告を受けたように表情を強ばらせ、口をパクパクさせている。

 俺は見下ろしたまま、ただ一言


「死ね」

「――――っ」


 命令に従うようおっさんは白目を剥いて横たわるが、恐怖のあまり気絶しただけで身体はぴくぴくと痙攣していた。


「……なーんてな。魔力を込め(タネも仕掛けも)なけりゃただの言葉だ」


 本当に殺されるとでも思ったのかね? そりゃ勘違いだ。

 つーか監視をしてたなら気づくだろ。今の俺は魔術師とは関係ない残念系の日常を楽しんでるツッコミ担当だ。


 今はまだ……な。


「……やれやれ」


 これにて一件落着と一息つく――瞬間、身体が浮かび上がる錯覚に襲われた。


「あの……トモさん」


 呼ばれた気がして振り返ると白の顔が引きつった……ように見える。

 なんだ……? 霞んでよく見えない。


「トモさん! どうしたですか!」


 いったい白は何を驚いてるんだ?

 よくわからない。思考が上手く働かない。

 つーか……眠い。やばいな……ちょっと張り切りすぎたかも。


「――マドンナは無事か心の朋よ!」

「トモ先輩!」


 遠くから茜と光ちゃんの声が聞こえる。

 そうか、予定通り連中が逃げたから応援に来てくれたのか。

 だったら、俺もお約束を言ってやらないと。


「おせーよ……もうパーティーは……おわ……り…………だ……………………」


 してやったりの笑みを浮かべて、視界が完全に黒く染まった。


 ◇


 視界に飛び込んだのは真っ白な天井。

 つい最近、同じ体験をした。あの時は病院に運ばれたと勘違いしてたな。

 でも今回は勘違いでもなさそうだ。微かにかぎつける消毒の匂いや後頭部から伝わる枕の感触、残念なことに膝枕ではない。

 何にせよ、生きていたことに安堵する。ホント、生きてるって素晴らしい。


「なにが素晴らしいですか……っ」


 俺の思考を読んだように否定する声、顔を動かすとベッドの脇に座る人影。

 円……じゃない、白だ。泣きながら白がとても怒っていらっしゃる。


「やっと目を覚ましてくれたです……シロは本当に……本当に心配したです……」

「えっと……それはご丁寧にありがとうです」


 取りあえずお礼を言うと白の目がかっと見開いた。


「なにをバカなこと言ってるですか! トモさん本当に死にかけたんですよっ? 分かってるですかっ? 魔力の使いすぎで本来ならショック死してもおかしくないくらい血液が消失してたですよ!」


 まくし立てられて今さらながらゾッとする。想像以上に血液を失っていたようだ……アドレナリンって凄いね。

 一般的な魔術師は弱まった魔力を補う為に依り代の魔力を応用して魔術を使う。そして月を依り代にする俺が使えないはずの新月の間、魔術を使う方法は一つだけある。

 それは実に単純、魔力の源である血液そのモノを消費させればいい。つまり俺は魔術を使う度に体内を巡る血液を失っていた。

 この裏技は最強の魔術師と呼ばれる魔力を持つ俺だけの特権。本来は自分の血液を消費させたところで大した魔術を使えないので考えにすら及ばない。

 ではなぜこの裏技を秘密にしているのか、これも単純。俺を殺したい連中に新月の間を狙って無理やりにでも魔術を使う状況を作らせない為。だから矢神のおっさんにも白を依り代にして魔術を使ったとハッタリを述べただけ。

 でも生きてるなら良しとして、俺は気になることを問いかけた。


「それ誰に教えてもらった」

「トモさんのお姉さんです! あの後大変だったですよっ? トモさん倒れてレツさんとヒカリさんが騒いでナデコさんがヘリになって――」

「……わかったから落ち着いて教えてくれ」


 身振り手振りで説明する白を落ち着かせて、改めて気を失っている間の状況を聞いた。

 なんでも土気色の顔で倒れた俺に駆けつけた茜と光ちゃんが慌てる中、なで子さんが魔術で二人を眠らせ、こうなると予想して呼んでおいたヘリで病院まで運んだらしい。少しでも輸血が遅れていれば死んでいたそうだ。なで子さんの機転に感謝です。

 そして一族の息が掛かった病院で俺は丸一日眠っていた。その間に事情を聞きかけ付けた姉貴から白は裏技の説明を受け、同時に検査を受けることになった。

 体内構造は科学者でもない姉貴には意味不明だったが、予想通り白は俺の魔力を動力として生きているらしい。


「みんなはどうしてる」

「レツさんとヒカリさんは自宅に帰ったです。言い訳がとても大変でした」


 魔術を解かれた後も二人は心配していたが、真実を知らない。白が俺の状態は敵の爆弾による負傷の出血によるモノで、矢神のおっさんはその風圧で頭を打って気絶したことにしたそうだ。咄嗟の言い訳にしてはまあ良い方か。

 ちなみに矢神のおっさんを始め、計画に荷担した連中もなで子さんの指揮の下、本家が総動員で捕らえたらしい。


「マスターは他の病院で検査の後、無事意識を取り戻したそうです」


 そして円も意識を取り戻した後、姉貴が出向き今回の事件は研究成果を盗もうとした企業の陰謀と説明した。あいつはさらわれてからずっと意識を失ってたので信じてくれたらしく、両親を心配させないよう、ただ俺の家に泊まったことにすると決めた。

 つまり今回の一件が一族のバカみたいな思想が発端と誰も気づかないまま終わった。

 姉貴も魔術師として真実を知られるわけにいかないと尽力を注いだのかもしれない。


「トモさん……質問があるです」


 とにかく、ちゃんと俺の口から真実を話す機会を用意されていることに安心したところで白が表情を引き締める。


「あれほどの魔術が使えるのに、どうしてレツさんやヒカリさんを連れてったですか。トモさんなら一人でも簡単にマスターを助けられたように思えるです」


 白は俺の魔術を直に見てるからそう感じても仕方ないが、それは過大評価だ。


「それが俺一人じゃ助けられないんだわ。なんせ依り代なしだとコントロールが上手く出来なくて、下手すると円もろとも皆殺しにしかねないし」


 内容が内容だけに白が唖然となるも本当のこと。

 依り代を媒体にするのは自身の魔力、血液を消費するリスクを無くして魔術を使うため。特に俺のような魔力の塊の月を依り代にしていれば無限の魔力を供給してもらえるけど、自身の魔力は限りがある。今回使用した魔術は四回、そのどれもが小規模や個人に向けたモノばかり。なのにギリギリだった。

 でだ、矢神邸に単独で乗り込んだとして相手の戦力が少なく見積もって五〇人とすれば物量差で呆気なく敗北、大規模魔術で一発――しかし規模が広がればそれだけ消費量も多くなる。なのに催眠魔術を使えば維持をするだけでミイラ確定。

 つまり相手を完全に無力化するには、細かな制御を無視した大量殺戮以外の方法がない。


「だから茜と光ちゃんに陽動を頼むことで、俺は本丸でしょぼい魔術でハッタリ、これが

一番リスクのない方法ってわけ」

「なるほどです」


 納得してくれたようで白はニッコリ。


「やっぱりトモさんは誤魔化しばかりで、真実を教えてくれないゲス野郎です」

「……は?」


 この子笑顔でなんて言葉使っちゃってるかな? お父さんは悲しいぞ。

 いや、それよりも


「誤魔化しって……俺はちゃんと真実を――」

「嘘です。状況が語っているです」


 では一つずつ立証していくです――と、白は円が難しいうんちくを語るような感じで指を立てる。


「まず一つです。トモさんは催眠魔術を維持すればミイラになると言いましたが、催眠ではなく睡眠にすれば維持する必要はなく誰も傷つかず、簡単にマスターを救出できるです。それとも気づかなかったと反論するですか?」

「…………」

「二つです。どうして魔術師と知られたくないトモさんが強引にレツさんとヒカリさんを巻き込み、お二人の夢を魔術で叶えるような非効率的な選択を命がけで選んだですか?」

「…………」

「そして三つ目です。そもそもトモさんは世界最強の魔術師です。なら今回の一件を知られても、マスター、レツさん、ヒカリさんの記憶を操作して何事もなかったように出来るはずです。なのに、ちゃんと自分の口で話したいと言うのですか?」

「…………」


 三本指を立てる白に俺は何の反論も出来なかった。


「答えられないなら代わりにシロが答えるです。まず一つ目の疑問、これは二つ目の疑問と同じ答えですが、トモさんはマスターの夢を自身の魔力で叶えたならレツさんとヒカリさんの夢も叶えてあげないと不公平、一人だけ贔屓にするのは仲間として間違っているとこじつけて理由を作ったです」


 薬指、中指と折りたたみ白は真っ直ぐ俺を見詰める。


「三つ目の疑問……トモさんは本当に自身の口で三人にお話するです。だからレツさんとヒカリさんの夢をあえて叶えることで、魔術のことを全て話さなければならない、追い込む状況を作ったです。そうでもしないと諦められなかったです」


 最後に人差し指をたたんで


「あの町で過ごした時間、三人と過ごした楽しい時間を諦めて、みなさんの記憶を消して、トモさんも姿を消すつもりです。巻き込んでしまった償いとして……」


 涙まで浮かべてしまった。

 そして俺は最後まで反論できなかった。なぜなら白の立証は正解だから。

 あいつらの仲間として、最後だけはケジメを付けて自分の口で真実を語る。その上で記憶を消してあの町から居なくなる。

 そして白から魔力を消し去り本来円の努力が実って開発したアンドロイドとして、あいつらと共に生きて欲しいと、俺の代わりに楽しい時間を過ごして欲しいと決めていた。

 これが精一杯のケジメなんだから白の言うようにとんだゲス野郎だ。

 でも今回の一件で痛感した。俺のせいで、いつかまた魔術師の争いに巻き込んでしまう。結局普通の人として、魔術師という事実から目を背けて生きていくのは無理なんだ。ならこれが誰も傷つかない、最善な方法だろ。

 なんて言ったら怒られそうだと口を閉じていると、白は涙を拭いて俯き笑顔を浮かべた。


「トモさんが決めたならシロは止めないです」

「そうか……悪い――」

「でも、シロはこれからもトモさんと一緒に生きるです」

「――な。って……はぁ?」

「なのでマスター達の元に残すシロの分身を魔術で生み出すです。名前はシロにちなんでクロでお願いするです」

「いやいやいや! 分身って忍者じゃないんだから! そもそも白はあいつらと一緒に暮らしたくないのか?」

「暮らしたいですよ? みなさんとっても良い人です。きっと楽しいです」

「だったら――」

「でもシロには夢ができたです」


 晴れやかな笑顔で夢と口にする白は、円達が夢を語るときと同じく良い笑顔だった。



「シロは人間になるです!」



 そしてその内容も同じく、とてもぶっ飛んでいた。

 アンドロイドが人間になる。それはアンドロイドの開発よりも、変身ヒーローよりも、エスパーよりも常識外れな夢。


「可能性はあるです。なんせシロは世界最強の魔術師の魔力を保持しているです。上手くコントロールできるようになれば叶うかもです。だからシロも一緒に生きるです。世界最強の魔術師の弟子になって、夢を叶えるです」


 それでも疑いもせず白は可能性を語る。

 だがそれはいくらなんでも無謀すぎる。たしかに俺の魔力を保持しているとはいえ白の魔力はせいぜい姉貴クラス……いや、たとえ俺と同等の魔力でも不可能だ。

 アンドロイドの動力源を魔力で補うならまだしも、一つの生命体を生み出すのはもはや魔術のレベルじゃない、神の領域だ。


「そして夢を叶えて、いつかマスター達とまたお友達になるです」


 ……でも、キラキラとした目で語る白の夢をどうして否定できようか。

 なにより自分の常識で相手の可能性を否定するのは間違ってるし、純粋な気持ちで努力を続けていれば俺の見解なんて鼻息で吹き飛ばすことを白はしそうだ。

 だとすれば白の保持している魔力を消すことはできない。でも魔力を残したアンドロイドのままあいつらの元に置いておけない。

 つまり白の提案を受け入れるしかないわけで


「……だったら、ちゃんと話しておかないとな」

「なにをです?」

「ずっとあいつらに知られたくなかった俺の過去。魔術師とかじゃなくて、もっと最悪な事実を――俺がとんでもない犯罪者だってことを」


 犯罪者という言葉に白の目が丸くなるが構わず続けた。


「その前に弟子になる予定の白に魔術師についてのうんちくを少し。まず魔術師――月ノ一族は魔力を持つ血縁から産まれてくる可能性がある。可能性があるってのは持たない子供も生まれてくるんだ。で、俺は持たない子供として生まれた」

「でもトモさんは――」

「今は持ってるけど生まれた当時は持ってなかったんだ。大変だったぞ? なんせ姉貴は一〇〇年に一人の天才魔術師なのに、弟の俺は出来損ないとして本家でも分家でも……つーか親にもぞんざいに扱われてた」


 本当を言えばもっと悲惨な目に合わされたけど。知ったら白が引きかねん。


「姉貴だけは優しくしてくれた。そもそも姉貴も魔術とかどうでもいいみたいだったし……けど、まあ……四年前、中学に上がるくらいの時に何でか分からんけど覚醒したって言うか……いきなり魔力が身体から溢れてきたんだ」


 更に本当のことを言えば両親に殺されかけたんだけど。出来のいい娘と出来損ないの息子、魔力量が全ての一族にとって俺の存在は汚点にでも感じたんだろ。

 結果として両親に殺されそうになった。でも――


「その魔力が暴走して、両親を消滅させた。つまり俺は親殺しの殺人者ってわけ」


 逆に扱えきれない魔力を暴走させて殺した犯罪者になった。

 その後はもう滅茶苦茶な事態。俺が月を依り代にする魔術師と分かった本家の連中は他の一族どころか世界を掌握しようとか意味不明なこと言い出すし、今までゴミ扱いしてきたくせに手の平返すような態度になるし。

 でもそれに腹を立てたのが姉貴で、両親を消滅させたショックでふさぎ込んだ俺に魔術の使い方を教えてくれて、同時に暮らしやすい環境を作る為に当時の頭首を力でねじ伏せ、新しい頭首となって方針を変えた。

 鳴神朋の存在を他の一族に隠し、魔術師というモノに嫌悪感を抱いていた俺に普通の暮らしが出来るように尽力を注いでくれた。

 しかしいつ他族に存在がバレるか分からないと、神山町に来た俺に監視を付けて――まあ、その矢神のおっさんが今回いらんことをしたわけだが。

 それは話す必要もない。今は俺が本当はどんな奴か白に知ってもらいたいだけだし。

 その白と言えば唖然としたまま動かない。当然か、俺がどれだけ危険な奴か知れば――


「なんか在り来たりな過去すぎてガッカリです。やはりトモさんはどこか地味ですね」


「て、あれ?」

「もしかしてそれを聞いてシロが怖がるとでも思ったですか?」


 怖がると腹をくくってたのに、もの凄く呆れた顔で問われてしまう。


「甘いです、シロはトモさんがどうしようもないほどお人好しだと知ってるです。それにまた肝心な部分は誤魔化して、自分だけが悪いみたいに話してるだけです。どうせ両親を消したのも、トモさんを出来損ないと見下した両親に殺されかけたとかですね」


 ……ホント、円といい白といい、どうして俺の心が読めるわけ?


「だったら同情の余地なしです。まあ殺人を肯定する気はないですが、子供に手をかけようとする両親に同情して、どうしてシロがトモさんを嫌いにならなければならないのですか? そんなの嫌です。シロはシロの嫌いな人も自分の気持ちで決めるです」


 降参だ……俺としては結構勇気出して話した過去なのに、そんな簡単に受け入れて一蹴されたらもうなにも言えない。


 だったら――俺はあいつらにしてきたように、白の夢が叶う手伝いをしないとな。


「そっか……なら今日から白は鳴神白で、俺の妹な」

「マスターの言うようにトモさんはやはり妹フェチです?」

「ちげぇよ! 一緒に生きていくなら名字があった方が良いだろ!」


 俺のツッこみに白はキョトンとして、目を輝かせる。


「それとさ、俺たち二人で夢同を立ち上げようか。俺は夢まで捨てるつもりはないし」

「それは奇術師ですね? でも魔術師のトモさんが奇術師になる夢を持つなんて変な話です。どうしてそのような夢を持ったか興味があるです」


 端から見れば当然の疑問、でもこれを話すのはちょっと恥ずかしいけど……仕方ないか。


「始まりはまあ……円に進められたから」

「マスターですか?」

「神高に転校してすぐに同好会に誘われてな。夢が無いなら奇術師にでもなれって」


 ついでに『地味なキミが派手なことができれば面白い』と、会って間もないのに地味扱いされたけど。

 あげく同好会の入会テストとして、一週間以内に何か一つマジックを覚えてこいとマジックの入門書を渡された。こっちは入会するとも言ってないのに無理やりだ。

 つーか魔術師の俺に奇術師になれって。いくら知らないとはいえ何てモノを進めるんだと呆れたけど当時は特にやりたいこともなかったし、暇つぶしがてらに入門書を読んでコイン一つあれば出来るマジックを覚えたっけな。

 んで、一週間後に俺はそのマジックを披露した。円は当然として当時は同じクラスでも面倒くさそうなキャラでお近づきになりたくなかった茜と、まだ中学生なのに同好会に顔を出す為に高校へ来ていた光ちゃんの前で。


「なるほどです。そこで大成功した快楽の病みつきになったですね」

「快楽言うな。それに、結果は大失敗だよ」


 そう、失敗した。一人で練習するのと人前で披露するじゃ視線が気になって、簡単なマジックでも失敗に終わっている。あの時の三人が見せた残念顔は今でも忘れられない。

 だから改めてチャンスをもらった。

 別に同好会に入りたいワケじゃない、ただあの時は出来損ないとして生まれた俺を見下す一族の連中と同じように見えたからだ。

 ホント、あいつらとあの連中を一緒にするなんて俺も卑屈になってたもんだ。でも見返したい気持ちで必死に練習した結果、成功したマジックを目の当たりにしたあいつらの顔もまた忘れられない。

 握ったコインが開いたら消えていた程度、タネを明かせば握った際に指の間に挟み、開いた瞬間手の甲から服の袖に落とすなんて、不思議でもなんでもない現象。魔術を使えば消えるどころか何十枚にも増やせる。


「……それでもみんな拍手してくれて、特に光ちゃんはテレポートだって飛び跳ねてた」


 その笑顔を見て俺も充実感で笑顔になっていた。

 同時に夢を手に入れたんだ。

 魔術師の俺は両親を殺め、一族を混乱させ、姉貴の人生を変えたくそったれ。どれだけ強大でも誰一人笑顔にできず、居場所さえなくなった。

 でも奇術師なら笑顔を生み出せる。タネも仕掛けもあるけど不思議な現象を起こしてみんなを驚かせて、更に楽しませる。そんな奇術師としての自分に夢を見いだせた。

 そして夢同は初めて努力を積み重ねて手に入れた俺の居場所。


「だからまあ……切っ掛けをくれた円に、受け入れてくれた茜や光ちゃんに感謝してる。だからこそ、あいつらをこれ以上危険な目に合わせたくない。なにより、もう言い訳できない状況に追い込んだしな」


 茜の変身、光ちゃんの超能力。例えその記憶を消しても、俺はもうあの場所にいられない。仲間の記憶を魔術で改ざんした俺が、どの面下げて一緒にいられるのか。 

 それが分かっているから白も提案しない。


「……トモさんが奇術師になったら、神山町に公演へ行くです」


 代わりに愉快な提案。


「努力の成果で……マスター達を笑顔にするです」

「何年かかるか分からないけど、それもいいな」

「はいです!」


 神山町で過ごした時間が無くなるのは本当に寂しいけど。


 それでも俺には白っていう可愛い妹がいるんだから、寂しがってる時間は無いよな。


みなさまにお願いと感謝を。

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作者のテンションがめちゃ上がります!

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