幕間 間違われた少女の反撃
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(いつまでこうしていれば良いのだ……)
目を閉じたまま身じろぎせず円はうんざりしていた。
昼頃、突然朋の家に押し入ってきた奇妙な集団にスタンガンで意識を失わされてからというもの円は意識を取り戻して以降、ずっと気を失っているフリをしていた。
そのお陰か両手足を縛られているも乱暴な扱いは受けておらず、隙を見て周囲を伺った際には、教室ほどの広さがあるにも関わらずなにも無い奇妙な部屋に閉じ込められているとまで知ることが出来た。
誘拐される理由はいくつか思い当たるも、相手の狙いや正体がわからないままならまずは情報が必要。そして下手に騒ぐより意識を失ったままの方が身の安全を守れると非常に冷静な判断だ。
更に何度か出入りを繰り返す人物の会話でほとんどの情報を得ていた。
どうやら自分は白と間違われてさらわれている。これは全く目の覚めない自分に対し『壊れたのか』と気にしていたからだ。精密機械の塊のアンドロイドに電気ショックを与えておいて何をバカなことをと説教したい気分になったが、とにかく無理やり目を覚めさせられた場合は白のフリをした方がいいだろうとも決めていた。
他にもここが神山町とさほど離れていない山間にある建物だということ、首謀者はメイヤという名前、目的は自分の研究ではなく魔力だということ。
魔力――魔術師や魔法使いといった想像上の人物が持つ不思議な力。ここにいる者は子供騙しだと笑われるような会話を平然と交わしていた。
半年前の円なら同じように笑って聞き流していただろう。しかし今は納得して受け入れている。科学者として認めたくはないが、この半年で魔法というモノを肯定しなければ解明できない現象を二度も目撃しているからだ。
なにより起動するはずのないアンドロイド――白が現に自分の想像以上の形で誕生している。それこそ魔力でもなければ不可能な現象でだ。
だとすれば今の状況は自業自得、やぶをつついて蛇を出してしまった。相手が秘匿していた事実を無理やり知ろうとした罰だ。
故にどうなろうと素直に受け入れるべき……なのだが円は少しでも無事に生還できる方法を模索している。
そうしないと間違いなく彼は傷つく。自分の過ちなのに関係なく無事を祈るお人好しだ。
そして、なぜ白がさらわれる必要があるのか?
それは魔術による儀式で、白の体内にある朋の魔力を依り代とやらに移すこと。
(実にバカバカしい……)
科学者として否定どころ満載な言葉の数々、しかし円が苛立っているのは別の意志。
首謀者であるメイヤという男の目的、自分(白と勘違いしているが)の体内にある朋の魔力が手に入れば世界すらも征服できると悦になっているらしい。
力を手に入れて世界征服、なんとテンプレな目的だろう。今時物語にもならないクソのような首謀者の思想は面白味がなさすぎる。
しかも力を手に入れて最初の目的は朋を殺すこと。強大な力を持っているのに一族の栄光の為に働かないだの、崇高な魔術を毛嫌いしているだの、挙げ句は普通の人間として暮らす腑抜けだのというバカらしい理由でだ。
以前円は問いかけた――能力があるなら最善を尽くし、世に貢献すべきかと。
その問いに朋は答えた――自分の人生なら自分のやりたいように生きるのは当然と。
まさにその通り。一族の繁栄だの勝手にやっていろ、魔術を崇高とあがめるなら好きにしろ。だが朋の人生をお前達が否定するな。
朋が普通に暮らしたいのなら朋の自由、なのに勝手な言い分で自分の行動を正当化するメイヤに殺意さえ沸いていた。
それでも怒りを堪えて円は気を失ったフリを続けている。
朋のやりたいようにやらせる為に、恐らく自分はなにもしないが正解だと。
『――なぜあの目狐がここへ居るのだ!』
『わかりません。本家を監視している者からの連絡では動きはないと……』
『言い訳はよい!』
堪え忍ぶ円の耳に慌ただしい声と共に室内の入る二人の声。一人は高圧で苛正しく、もう一人は宥めようと低姿勢に。
(ようやく本命のお出ましか)
苛正しい声の主が首謀者のメイヤであると円は理解する。面白味のない思想と独裁的思考を持つ者はおおよそ部下の話を聞かないモノだ。
「くっ……桐ヶ谷の目狐がかぎつけているのなら頭首も出しゃばる可能性は高い」
桐ヶ谷という名字を円は知っている。朋の姉、胡夜の秘書の桐ヶ谷なで子だ。
「とにかくお前達は足止めをしておけ! 我々は儀式に入る!」
「わかりました!」
足早に立ち去る男の気配が消えるより先にメイヤが動いた。
「少々予定とは違うがまあいい。このガラクタの魔力さえ手に入れれば本家の者などおそるにたらずよ」
焦り少し、残りは自信に満ちた言葉に円は笑いを堪えるのに必死だった。
なぜなら――
「…………おかしい。なぜ魔力の反応がない」
呪文のような言葉を紡いでいたメイヤが狐につままれたように声を漏らす。
「どういうことだ? このガラクタは愚息の魔力によって動いているのだろう」
「はい……間違いないかと」
「ではなぜ魔力反応がない!」
完全に焦り一色となったメイヤに対し、円は頃合いだと目を開ける。
そこには和装の男以外に黒スーツの男も四人いた。
「当然だバカ者が」
まず円は見上げた先にいる男、恐らくメイヤという首謀者に嘆息した。
和装の上からも分かる屈強な体格でまだ三〇代半ばに見える。声音や口調でもっと年配と予想していただけに意外だ。
「いつの間に目を覚ました……そもそもキサマは何者だ!」
そちらから誘っておいて何を、と呆れつつ円はため息一つ。
「キミがガラクタ呼ばわりした白の生みの親だ。いや、白のボディを設計したと言えば……ん? となると生命を吹き込んだ朋は父親、私は母親となるのか? まあ悪くないか」
殺意むき出しのメイヤの前でも考えごとをする円はどこまでもぶれなかった。
「それよりも先ほどから聞いていればキミの目的はくだらない。その程度のボケでは朋ですらツッこんではくれんぞ」
そして発言も淡々としたモノで、冷静な態度にメイヤは憤怒を露わに。
「なにより私と白を間違えた時点でキミの計画は破綻している。まあ仕方の無いこと、キミのような思考の持ち主の考える計画では――」
「だまれぇ!」
「…………っ」
怒り任せにメイヤが蹴り上げたつま先が円の頭を直撃した。
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