ep34魔神ちゃん止まって!:丘と海の境界で、穏やかな結末を願った(前編)
クゥちゃんは再びマネコリスのもとへ戻る。
聞かなければならない、そして伝えるべきだと思った。ノクスマリは誤解しているのだと、お互いに誤解し敵だと思い込んでいるだけではないのかと。
二人、そのどちらもが、警戒はしても、即座に攻撃するようなことはなかった。きちんと話し合えば仲違いも解消するはずだ。
知っている仲で、まるで喧嘩のような関係になるのは悲しいことだ。どうしても向き合えないのなら、無理やりにでも会わせる。そして仲を取り持つ役をしてもいい。
そんなことを考えた。だけれど――。
森の中、戻る途中でマネコリスの遺体を見た……。
それは木に背を預けるように横たっていた。
そしてその骸を見下ろす、者がいた。
訳が分からなかった。何故ならその者は、マネコリスだったのだから――。
横たわるマネコリスには帽子はなく、それを被るのは、立って自身の遺骸を見下ろす本人だった。
「あぁ、戻ってきたということは、もう事を成したのか?」
立ちすくむクゥちゃんに気が付いて、首だけを向け、吉報を聞きたがっていた。
「どういう、こと?」
恐る恐るに口にした。震えるほどではないが、声はその言葉をなめらかに紡げず、動揺を隠すことはできなかった。
「なに、さすがに限界だったから取り換えただけだ。複製の魔法でな」
「複製の魔法……」
「どうした? このとんがり帽を見ているのだから、私が魔女であることは既に知っていると思ったが……まさか君はそんな常識を知らなかったのか。なら驚かせてしまったか、それは申し訳ないな。 だが見ての通り、今は肉体もこの通り不便なく、だ」
腕を広げて、自身の五体満足で怪我のない姿を晒し、無事であることを主張した。
「そう……」
遺骸に視線を向けながら、状況を無理やりのみ込んだ。
いろいろ言いたいことはできてしまったが、ひとまず置いて、先にノクスマリのことについて再度尋ねなければ……。
「君ならやってくれると思ったよ。 それで遺体はどこに?」
ノクスマリを殺害した証拠が見たいと、色のない表情で尋ねている。だが当然そんなことはしていないし、確認しなくてはならないことがある。
本当に殺すべきだとは思えない――。
けれど、マネコリスは本当にそう思っている。あるいは思い込んでいるように感じる。
『生命は簡単に奪ってはならないんだ……』その言葉が記憶の奥から浮き上がる。
そしてゆっくり、言葉を紡いだ。
「ノクスマリからは攻撃的な反応は見られなかった、互いに敵だと思わされている気がする。 元凶を絶った方が良い、確定的じゃない理由で命は奪えない」
「そうか、君はそう言うんだな……なら間を取り持て。 そのつもりなんだろう?」
考えが二転三転している。まるで2人居るかのようだ。
(どういうつもりなの?殺すつもりのお願いをしてきたり、話をしたがったり……意味が分からない)
それでも、クゥちゃんにできることは少なく、そうする他ないのだった。
――――――――――――――
間を取り持つべく、2人はノクスマリの元へ向かっていた。
その間は終始互いに無言で、息が詰まる思いだった。
あの瞬間から、マネコリスは得体のしれない何かになってしまったように感じる。
再会した後、無表情に自分の遺骸を燃やすのをみて、その瞳に人の欠片を感じることが出来なかった。それがもとよりの性格からなのか、それとも別の何かによるものなのかは分からない。
けれど、本質にまっすぐな線が見えなかった。まるで歪んで、折れて、正しい位置に戻れなくなったような、そんな気持ちの悪い感覚が胸にこびりついていた。
人として芯が通らない不気味さは、耐えがたかった。
それでも、今は立ち止まってはいられない。
クゥちゃんは決意を噛みしめながら、マネコリスを連れて森の奥へと足を踏み入れた。
ノクスマリたちは、すでに出会った場所を離れていた。
クゥちゃんはマネコリスを伴い、足跡や折れた枝、踏みならされた草など、わずかな痕跡を頼りにその後を追っていた。
時おり振り返っては、マネコリスが無事についてきているかを確かめながら――慎重に、一歩ずつ。
一歩ごとに不安が募る中、森の奥深く、人の気配が感じられる距離まで近づいていた。
小高い丘の向こうの木々の間に、人影が揺れる。ノクスマリと、その護衛たちだ。
クゥちゃんの姿を見つけた護衛の一人が、軽く手を挙げる。すでに彼らは警戒を解いていた。先ほど交わした言葉が信頼の端緒となったのだろう。
だがノクスマリの目は違った。彼女は鋭い視線をマネコリスに向け、動きを止めたまま微動だにしない。
クゥちゃんは2人の間に立ち、深く息を吸って声を発した。
「やっと会えた……お願い、話をして。きっと誤解があるはずだから」
ノクスマリは返事をしなかった。ただ、じっとマネコリスの顔を見つめ続けていた。
マネコリスもまた、無言でその視線に応え、一歩、二歩と前へ進む。
森の静寂に、心臓の音だけが響く。
――それは過ちだったのかもしれない。二人を合わせようだなんて……。




