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4.奴隷強化期間

 カリアに勇気を貰ってから、2週間が経った。


 この日も炭鉱で石炭を運ばされている。


 俺は足をもつらせて転んだ。


「おい、何やっているんだ! この間抜け!」


 そう叫んでバルンさんが近づいてきた。

 俺の傍までやってくると、しゃがみこんで耳打ちしてきた。


「奴隷No.26、貴様の教えてくれたように運搬経路を変えたら、大成功よ! 採取効率が大幅に上がったぞ」


 俺はちいさく頷いた。


「でもいいのか? これを貴様の手柄にしなくても。俺の方から上に貴様から進言があったと伝えてもいいのだが……」


「いいよ。これでバルンさんの点数が上がるんだろ?」


「まぁ、そりゃそうなんだが……」



 あの日を境に、俺は発想を変えた。

 とにかく生き抜いて活路を見出してやる。


 その為には話の分かる人間を見つけ、情報を集めること。

 バルンさんは奴隷上がり故なのか、俺達に無茶をしないし、時折気にかけてくれてくれる。

 だから俺はことあるごとに、こうやってこっそりと誰にも気づかれないように改善案をバルンさんに伝えていた。

 業務改善提案については、あっちで死線が見えるまで散々繰り返してきたことだ。

 直接動いているのだから、いくらでも無駄は見えてくる。

 

 俺の話に最初は半信半疑の顔をしていたバルンさんだったが、一度提案がうまくいってからは、俺の話に耳を傾けてくれるようになった。

 この短期間でバルンさんの評価はうなぎ登りらしい。

 

 そしてバルンさんは俺を上に紹介したいと言ってくれているが、それには首を横に振っている。


 理由?


 俺には新しい目標ができた。

 それは、カリアを助けること。


 これはバルンさんに教えてもらったのだが、俺の想像は当たっていた。

 彼女は故郷を滅ぼされている。


 ――逆族。


 そう呼ばれ、蔑まされている。

 俺が奴隷の世界で管理者になったくらいでは、逆賊とまで貶められた彼女を解放することは難しいだろう。それにこんな非道な社会で俺のような不器用なやつが出世なんてしてしまったら、間違いなく逆恨みされるだけだ。実は逆恨みされまくって辛い思いをした苦い経験がある。


 話しはそれてしまったが、つまり正攻法だけではなく、いろいろな角度を想定して、脱出を試みないといけないということになる。



 だから策がまとまるまで、あまり目を付けられるのは得策ではないと俺は判断し、行動している。

 なにも消極的な手でいこうと思っているのではない。

 別の形で、対価はきっちり貰うつもりだ。


「その代わり、あれ、持ってきてくれましたか?」


「おう。今回は赤の魔法辞典だったよな。どうするんだ? こんなもの」


「俺には魔力がない。魔法は使えない。でも、この世界にある情報はひとつでも多く仕入れておきたい」


「そっか。貴様も変わった奴だ。見つかったら大変だから、こっそり見ろよ」


 バルンさんから分厚い本を受け取ると、シャツの中に隠した。



 俺はここに来た当初、強力なパーティに所属していた。

 その時、いくら修行しても強くなれなかった。

 どんなに経験を積んでも、レベル1のままだった。

 だからみんなにボロ雑巾のようにこき使われて、挙句の果てには奴隷として売られた。

 

 

 俺はどうやっても強くなれないのだと思っていた。

 剣技の習得は不可能、魔法の習得も不可能……

 力で勝てないのなら、知恵で。

 だったらせめて、この世界にどのようなものがあるかくらいは最低限抑えておく必要があるだろう。



 

 実はもうひとつ。

 しばらくの間、過酷な環境下にいることで、面白いことを発見したのだ。


 俺は強くなれないのではなく、強くなる方法を知らなかっただけだったみたいなのだ。


 この世界の住人は、主にモンスターを倒して、そのスピリッツゲートとか呼ばれる――モンスターが消滅した時に出てくる光の粒子を体に浴びることで経験が蓄積されてレベルが上がり、ステータスが成長しているようなのだ。



 俺はそんな仕様ではなかった。



 パーティ所属時、いくらスピリッツゲートを浴びても何も変化がなかった。

 ずっとレベル1のまま。

 子どもでも持てそうな細身の剣すら、まともに扱えなかったくらいだ。



 俺は虚空を指でタップした。

 青いスクリーンが表示される。

 

 これはステータスウィンドと呼ばれるもので、自分の能力を数値化してみることができる。

 

 魔法辞書を通じて学習してきたおかげで、この世界の文字もある程度スラスラと読めるようになった。

 

 

 

 レベルこそ1ではあるが……

 

 

 計画通り、ステータスの数字は向上していた。

 先日は主として、HPと防御力を鍛えていた。

 

 

 HPと防御力の鍛え方は至ってシンプルだった。

 思いっきり殴られたらいいのだ。

 死ぬ一歩手前までボコボコにされても、寝て起きたらHPだけは回復している。

 体に疲労は残っているが、とにかく傷だけは癒えているのだ。

 

 いわゆる一般的なトレーニング――つまり一回筋肉をぶっ壊して再生させるという超回復筋トレが俺には適用されているみたいなのだ。



 ありがたいことに、ここだと手加減無しで思いっきり殴ってくる輩がゴロゴロいる。

 さらに都合の良いことに、死ぬ直前でやめてくれる。

 奴らはギリギリまで負荷をかけてくれる、究極のフィットネスマシーン。

 こんなことを繰り返されてしまうと普通のやつなら廃人になっちまうだろうが、俺の肉体はこれによって強化される。



 同じ要領で、筋力のアップも可能だった。

 つるはしを使い、腕が上がらなくなる限界ギリギリまで体を酷使して働けば、筋力の数値が上がるようだ。

 

 

 こんなことを繰り返して、作戦を考えながら肉体の強化を試みていた。

 

 

 改めて、俺はステータスに視線を落とす。

 以前は1並びだった数値が、この短期間で驚くくらい改善されていた。

 

 つるはしで掘り進める速度は、大幅に向上できた。

 あと課題になっているのは、HPと防御力の向上。

 当初より殴られたときの痛みは軽減できているようだが、まだまだ雑魚の域から脱していない。

 

 俺の目標は、看守の素手による攻撃でHPの減少がゼロになるまで。

 そうなれば可能性は随分と広がる。

 またここでこれ以上の修行を積むことができないので、ここにいる意味もなくなるって訳だ。

 そこまでが俺の期限リミット

 

 

 ステータスの最下部に視線を落とした。

 そこだけは、どうやっても改善できなかった箇所だ。

 

 

 ユニークスキル『-』

 

 

 おそらく皆はここに、赤魔法やら、剣技やらが入っているのだと思う。

 この世界の人間なら誰しもが持つ特別な力。

 残念なことに俺にはその能力がない。

 しかし無いものねだりしていても仕方がない。

 俺はこの超回復による肉体強化で、密に期をうかがっている。


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