異様な眼差しと裏通りの謀略
当然のことながら、宮島政哉はその日の授業で終始集中出来なかった。クラスメイト達もそうらしく、ボーッとしていたり口を小さく動かしてブツブツ言っていたり。香芝雪だけが冷静であったが、そうであるが故に返って非難の的となっている様だった。
漸く午前中の授業が終わり、昼食の時間になった。政哉の元へは、いつも通り佐野雄輝がやって来ていた。
「政哉、これは噂なんだけどさ」
「…?」
「今回のカードゲーム廃止、殆どの先生が反対だったんだって。というか、スマホ禁止の辺りから必ずしも賛成派が主流では無かったって」
言われてみれば、その噂は妙に納得がいく。今日の授業で、先生達は対応がいつもと違っていた。
…1組の担任でもある国語の国見房枝先生は放心状態の生徒を見ても何も言わなかったし、寧ろ申し訳無さそうに見ていた。
…新卒の副担任である理科の上郷玲斗先生は元々優しい先生だが、今日は色んな対応が一段と甘かった印象が強い。
…厳しい事で有名な4組担任、社会の古賀充文先生すら、表情こそ見せなかったものの当てた生徒がボーッとしていても怒鳴ったりせず、諭すように話しかけるだけだった。
つまり、少なくともその3人は反対していたと言う事だ。上郷先生は兎も角、国見先生と古賀先生は経験も長い重鎮の先生だ。そんな先生達すら抑え込まれたと言うことが、半ば信じられない。
3人以外となると、我らが2組の担任である英語の南条光江先生、3組の担任で体育の川登啓治先生、副担任で数学の妙高萌先生ぐらいしかいない。しかし、政哉には誰も古賀先生を妥協させられるようには見えない。
そんな考え事は雄輝に中断された。こちらが考えていることを察してか、じゃあな、とだけ言うと他の友達の所へ行ってしまった。
政哉は考え事がしようと、校舎の外れの廊下に来た。かつて百合奈が教室から逃げ込んだ場所だ。そして、
人の気配を感じた。
政哉は存在感を隠しながら慎重に様子を見る。そこにいたのは
香芝雪と山江敬人だった。
隠れて会話を聞くことにした。
「雪、また強行採決だったのか」
「そう、もう毎回こうなのよ」
「何となく察してはいるが、雪自身も反対したんだろ?」
「…えぇ」
政哉は信じられなかった。彼女自身も反対していた…?では、強行採決させたのは一体誰なんだろうか。
「室長だから何も出来ない事は承知の上だが…ひとまず聞いて見るか」
そう言うと敬人は此方に歩いて来たので慌てて逃げた。未だに元凶は想像の範囲に過ぎない。
☆
「やっぱり聞かれていたか…」
廊下を歩きながら、山江敬人は呟く。
「2組の人間だったら大変だ。
担任の裏切りみたいなものだからな」
小さな声でそう言った。