表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽善者は宴に酔いしれる  作者: ホシタネ
第参章 真に望む願いは遊楽都市の眺め
13/36

恋心隠れし静寂は暴風の前触れ也


 砂川(すながわ)百合奈(ゆりな)の毎朝の日課は、秘密を共有する存在である宮島(みやじま)政哉(まさや)と共に学校へと向かうことだった。政哉はイマイチ良い顔をしなかったが、百合奈はそんなことなど気にも咎めなかった。政哉自身が口にしなかった為、百合奈が政哉が妹とクラスメイトに白眼視されていることなど知る筈も無かった。もっとも、知った所で行動を変える筈が無いのだが。



 宮島政哉は登校してクラスに入り、黒板に貼られている紙と群がる生徒を見た。自分の席に荷物を置いてから生徒が減ったタイミングで見に行くと、紙にはこう書いてあった。


[今後、校舎内でカードゲームをすることを禁じる]


「…!?」


 政哉は思わず息を呑んだ。そして次の瞬間、誰にも聞こえないような氷点下の声で呟いた。



「またか…」



 1ヶ月前、進級と同時にこの学年だけはスマホを禁止され、違反者は容赦なく取り上げられた。困った生徒がゲームソフトに走れば、今度はそれも禁止されスマホと同様の処置が取られた。

 生徒達の抵抗もしぶとく、その後生徒会や校長に訴えたり署名を集めたりなどしたが、結局変わらなかった。その後、皆がカードゲームに逃げ込んで、漸く一息ついていたのだ。

 その矢先にこの始末である。その通達の紙を見た生徒は嘆いたり絶句したり、遂には泣き出す者すら現れた。

 政哉は無理も無い、と思っていた。寧ろ、そうやって感情を爆発させられるのが羨ましくすら感じていた。政哉は半ば予想がついていた為に、かえって感情を吐露させる暇が与えられず、内側に籠らせるしか無かった。



 その後、朝のホームルームで、クラスの風紀委員が詳細を語っていた。


「以後、カードゲームをしていた者、それを見ていた者は容赦なく指導対象となります」


 政哉は怒りを隠しきれていなかった。それは中身の不条理もさることながら、風紀委員の声が冷酷としか言いようが無かったからだ。

 風紀委員の名は香芝(かしば)(ゆき)。その冷たい性格からクラス内では割と嫌われている。しかし、有無を言わさぬ言動と雰囲気が故に、クラスの中で存在感は中々に迫力がある。最も、当の本人は恐らくクラスメイト自体眼中に無いんだろう。それだけ無頓着な女なのだ。

 そんな感じだから、当然クラス内でも嫌われていた。佐野(さの)雄輝(ゆうき)安濃(あのう)香保(かほ)は嫌いだとハッキリ言っていたし、室長の山江(やまえ)敬人(けいと)すら出来る限り関わら無いようにしている。そんな人間があの通達をしているのだから、クラスメイトは全員敵意を向けていた。意図的だったり、本能的だったり、消極的だったりと差はあれど、全員の意思にさほど大差は無さそうだった。



 勿論、この時の宮島政哉がこれが新たなる試練であることなど微塵も気付いていなかった。



 山江敬人は無言で雪の様子を見つめていた。またいつも通りだと感じた。周りのクラスメイト達は不満を隠しきれていないが、裏の事情を知る敬人は何も言えなかった。だからこそ雪は不幸だなと思っていた。そして同時に、何処か安心している自分がいることにも気づいた。あの一件で奇妙な協力関係でありながら、裏では明確な対立関係にある雪は敬人にとって複雑な感情を抱く存在だった。


 敬人は後で雪に呼ばれる予感がした。何故なら



雪の精神状態は限界に近いことを知っているからである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] うぅう……数珠つなぎ的に出て来る登場人物たちが、皆秘密を抱えている……そして、皆辛そう(´・ω・) ここからは雪と敬人に焦点があたっていくのかな……。
[一言] 関係無い話ですが、自分は学生の頃、学校にトレカを持ち込んで先生に見つかり、没収されたりなんて経験があるので、読んでいてすごく親近感が湧きますね。 やはりこの手の学園ものは親近感が湧くと、読…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ