修復の対岸にて、燻る策略の声
…ふぅ。なんとか破局を防げたわね。南条光江は取り残された廊下で一人思い耽っていた。
「でも…」
彼らはまだまだ子供だ。手を打つ必要があるのは何もこれだけでは無い。
「そう言えば、カードで遊んでいたわね…」
次の一手は…
☆
その日、宮島政哉は一日中悩みながら授業を受けていた。あの後、とても百合奈に話しかける勇気など無かった。
そんな政哉に転機が訪れたのは、意外な人物の助言だった。
「政哉さ、まだ話せてないのか?」
雄輝だった。昼休みに共に弁当を食べようと机に来て、開口一番にこれである。政哉の意表を突いたのは間違いなかった。
「…なんでお前が口挟むのか不思議だけどな」
「いいだろ、別に。でさ、なんで政哉が悩んでるのか教えてあげようか」
「はあ!?お前、俺が悩んでる理由知ってるのか!?」
もしあれがバレてるならいよいよ百合奈がヤバい…いや、元々ヤバいんだけど…
「お、落ち着いて。それは知らないから」
「…ふぅ、ビックリさせるな…」
「でも、政哉って一人で抱え込むとこあるし」
「…」
少なくともこれを全面否定することは無理だろう。そう思う。自分でも薄々自覚しているのかもしれない。自覚した上でそうしているなら、益々自分が嫌になってくるが…雄輝が言いたいのはそんなことでも無いだろう。
「だからさ、もう少しリラックスして考えな。何も全て自分一人で考えなくて、周りに相談すりゃいい」
…未だかつて、ここまで真剣な口調の雄輝を見たことが無かったから、流石に驚きを隠せなかった。
「…なぁ、雄輝。嘘をつくって悪いことだと思うか?」
怖いが、聞いてみる。雄輝の返答はこうだった。
「場合によるだろ?」
救われた気分だった。それまでただひたすらに嘘を否定し続けていた自分が馬鹿みたいにすら感じられた。
そうだ、嘘をつくという事は悪いこととは限らない。例えば、料理があまり口に合わなくても、シェフに美味しかったと言うだろう。それと同じだ。自分がどう思っているかは二の次で、相手の気分を害さない様に嘘をつくべきだ…。
半分悟ったような、半分思い込むような気がしたが、取り敢えず落ち着くことは出来た。
「…雄輝、ちょっと行ってくる」
「了解」
それまで座っていたが、廊下へ向かって走った。百合奈の居場所が分かるわけでもないが、とにかく動かないわけにはいかなかった。まだ、まだ終わらせはしない。そう誓った。
☆
大慌てで走り去る親友を見て、佐野雄輝は孤独に残された。まさか、政哉があんなことを言うとは思っていなかった。
騒音の場と化している教室で、雄輝は独り呟く。
「偽善者だって?そんなもの…
裏切り者よりずっとマシだよ」
彼らしからぬ口調の声は、煩い教室に消えた。