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ダブルリフト  作者: 桜乃倖
第一条 演じる前に現象を説明してはならない
4/14

  忽然として現れた抜け穴を三人は見つけていた。

「田瀬さん。これは外からも開けられるものなんですか?」

 佐々木は隠し扉の役割を担っている本棚を軽く左右にスライドさせながら

 尋ねた。

「いいえ。本来は外からは開けられません。ですけど、今日はここに

 来たときには少し開いていたました。不思議に感じて、

 そこから中に入ったという訳です。」

「つまり、ここは完全な密室ではなく、ここから誰でも出入り出来たと

 いうことですね。」

「存在を知っている人間ならできるでしょうね。」

 香椎が反射で返事をしていたが、目は佐々木が無造作に動かす本棚を

 追っていた。

 まるで、猫じゃらしを追いかける猫のような愛くるしい仕草だった。

 佐々木はその目線に気づいていたのかいないのか、本棚を動かす手を止めた。

「この抜け穴の事を知っているのは十鳴さんと田瀬さんだけですか?」

「私と同じ助手の透子さんも知っているはずですね。」

 佐々木の質問に対して田瀬は新たな登場人物の名前を口にした。

 佐々木が香椎に目線を送ると、香椎は本棚から手帳に慌てて目線を戻した。

「飯沼 透子さん。田瀬さんと同じく十鳴さんの助手をしているマジシャンです。

 今は十鳴さんの本宅でお待ちいただいています。」

 この練習小屋は十鳴邸の敷地内に離れの様に単独で建てられたものだった。

 飯沼は死体発見時は本宅で家事をしていたとの証言だ。

 田瀬と飯沼は、この本宅で住み込みでマジックの勉強や練習をしていた。

 レッスン料などは払ってなかったが、その見返りに家事手伝いを

 担っていたのだ。


  佐々木と香椎は飯沼に会うために田瀬を連れて本宅へ移動した。

 飯沼は広いリビングにある大きなL字型のソファに静かに座っていた。

 飯沼も田瀬と同じく美人と呼ばれる部類の人間だろう。

 そして、佐々木は先ほど田瀬に感じたのと同じように飯沼を見た時に

 謎の()()()に見舞われていた。

 二人は雰囲気こそ似ていたが見た目は田瀬の髪型はボブ、飯沼はロングヘアー。

 スタイルも田瀬の方が背も高く、全体的な肉付きも良かった。

 この既視感は一体なんなのだろうか。

「飯沼 透子さんですね。」

 香椎が話しかけると、飯沼は立ち上がり一礼をした。

 佐々木と香椎はテーブルを挟み、飯沼の正面にあった一人掛け用のソファへ

 それぞれ座った。

 田瀬は飯沼の座るソファの斜め後ろで立ったまま待機していた。

「はい。私が飯沼です。」

「確認なのですが、事件が発覚した時は本宅で家事をされていた

 ということですね。」

 飯沼は田瀬と同様に表情こそ暗いが涙を流した様子はなかった。

「はい。私は呼ばれていませんでしたので、その時間は一人で

 お掃除をしていました。」

「なるほど。それと確認したいことがあるんですが、練習小屋にある

 抜け穴のことはご存じだったんですよね?」

 佐々木の問いに表情を変えることなく、はっきりとした口調で答えていた。

「はい。脱出マジックなどで使う仕組みに近いものということで先生が特注で

 お作りになったものです。」

「そうですか。では十鳴さんとマジックを作成したり練習するのは、

 いつも一人づつだったんですか?」

 話し始めてから初めて飯沼の瞳に変化があった。顔こそ質問者の佐々木の方を

 見たままだったが、瞳が一瞬だけ田瀬の方へ向かったのだ。

 田瀬は、その視線に対して表情一つ変えずに立ったまま微動だに

 していなかった。

「いえ。基本的には、いつも二人でした。稀に一人づつだったり、先生がお一人で

 籠っていることもありました。」

「わかりました。ありがとうございます。今日はお疲れでしょうし、

 一度帰らせて頂きます。また何かわかりましたらお話をお伺いすることも

 あると思います。その際はお手数ですが、ご協力をお願い致します。」

 佐々木と香椎は立ち上がり、一礼すると部屋を出た。



  二人は近くに止めていた車へと歩いていた。

「香椎。お前はどっちだと思う?」

「はい?」

 香椎は首を傾げた。

「どう考えても助手の二人のどっちかが犯人だろう。田瀬か飯沼か…。状況的には

 田瀬だろうが、いくら何でも密室に近い現場に被害者と一緒に残るのは、

 明らかにおかしいんだよな。」

「どちらでもないですよ。」

 予想外の答えが佐々木の思考と言葉を遮った。

「ん?お前は外部犯だと思ってるのか?」

「はい。少なくとも二人は()()()()()()()()()()()()()

 香椎は真っすぐに佐々木を見つめながら、はっきりと答えていた。

「お前も()()()()()()()刑事なんだから、根拠はあるんだろうな。」

「もちろんです。」

 香椎は上着のポケットから二枚の紙を取り出し、それを佐々木へ渡した。

 佐々木はそれを受け取ると、すぐに目を通した。

 その紙には田瀬と飯沼の写真が貼られていて、下には年数などが

 書き込まれており、一見すると履歴書のようなものだった。

「…なるほどね。確かに()()()()()()()()()()()()()()()()

 香椎が提出した確実な根拠によって、外部犯での再捜査をすることを

 余儀なくされた。

 佐々木にはその悩みと同時に、あの二人を見た時の()()()()()()

 はっきりとわかったのだった。


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