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❸
相変わらず、客はアコ一人だった。
アコはカウンターで先ほどのトランプを一人でいじっていた。
「今からこのJokerをスペードのAに変えて見せましょう。」
アコは独り言を呟きながらJokerのカードを裏返しで伏せた。
アドボカートを一口飲むと、そのカードを自分で開けた。
そのカードはJokerのままだった。
アコはスバルと違いマジシャンでもなければ、手先が器用なわけでもなかった。
「駄目だよ。アコちゃん。」
既にマグカップが空になっていたスバルは洗い物を始めていた。
「あらら。見られちゃった?私にはできないよねー。」
アコは笑いながらJokerのカードを団扇のようにパタパタと仰いで見せた。
本当に微かな風を受けたスバルは洗い物を中断し、Jokerのカードを
アコの手からスッと引き抜くと、再びカウンターに伏せた。
「マジックをする時はね、事前に現象を説明しちゃいけないのさ。
例えば、このカードが今から消えますとか、別のものになりますとか。
観客の驚きの鮮度が落ちてしまうからね。」
アコが伏せられたカードを開けると、それはJokerのままだった。
しかし、カードの下には、さっきまではなかったはずのピカピカの金貨が
一枚置かれていた。




