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ダブルリフト  作者: 桜乃倖
第一条 演じる前に現象を説明してはならない
2/14

  「亡くなっていたのは十鳴 潤さん。三十五歳。有名なマジシャンです。」

 香椎警部補は手帳を見ながら続けた。

「死因は胸に刺さっているナイフです。指紋はなしです。」

「テレビだったかネット動画だか忘れたが、見たことあると思ったら手品師か。」

 香椎の隣に立つ百八十センチオーバーの大柄な男。佐々木警部は 

 室内を一瞥した。

「ここは彼のマジックのタネを考えたり、練習するために特別に作らせた

 小屋のようです。」

 佐々木の質問を先回りするように、香椎はどんどん説明を続けていった。

「窓はトイレ内を含めて五か所。全て施錠されていました。出入り口は

 一か所のみ。こちらも施錠されていました。」

「密室ってやつか?」

「そうなるでしょうね。」

 表情一つ変えずに説明をしていた香椎とは対照的に佐々木は

 大きなため息とともに顔を歪めた。

「お次は名探偵でも登場するのか?」

「名探偵は今のところは登場しませんが、手掛かりはあります。

 第一発見者はこの密室内に一緒に居たようです。」

「は?一緒?」

「ええ。第一発見者が遺体を発見した時、この小屋は密室状態でした。

 つまり、密室の中に第一発見者と被害者が一緒にいたことになります。」

 佐々木はもう一度、はっきりと聞こえるように大きくため息を漏らした。



 一人の女性が香椎に連れて来られた。

「田瀬 琉璃さん。十鳴さんの助手兼マジシャンです。」

 佐々木は田瀬を見た時に不思議な既視感に見舞われた。

 田瀬は百六十センチ代の香椎と同じぐらいの身長だ。香椎と佐々木は

『美女と野獣コンビ』と同僚から、良くからかわれていた。

 香椎は警察官にしておくのは勿体ない程の美貌とスタイルの持ち主だった。

 よく他部署のおとり捜査などに駆り出されていた。

 細身ながら胸など出るところはしっかりと自己主張をしていた。

 そんな香椎よりは見劣りするものの美人と呼ばれる部類に

 入るであろう容姿であった。

 綺麗に整った田瀬の表情は暗くはあったが、涙を流した様子はなかった。

 化粧も薄いながらもしっかり残っていた。

「田瀬さん。申し訳ありませんが、遺体発見時の状況をもう一度

 説明していただけますか。」

 香椎に促され、田瀬は静かに前を向き語り始めた。

「わかりました。私は十鳴先生が新しいマジックを作成するから十三時に、

 ここに来るように言われていました。時間通りに部屋を訪れると入口には

 鍵が掛かっていたので、先生は既に中にいらっしゃると思い何度かノックしたり

 声を掛けましたがお返事はありませんでした。心配になり、中へ入れたので

 入ってみると先生が倒れていたので、すぐに傍に行ったのですが血とナイフが

 見えたので急いで先生の生死を確認してから警察へ携帯から。」

「ちょ、ちょっと待ってください。」

 佐々木は慌てた様子で田瀬の話を遮った。

「香椎。最初に警察が到着した時には、この部屋の入口は

 施錠されていたんだろう?」

「はい。田瀬さんが鍵を開けてくれたようです。」

「事件発覚後で間違えないんだよな。」

「はい。そうですが。」

 香椎より先に答えたのは田瀬だった。何の迷うこともなく、

 はっきりとした口調だった。

「それではあなたは鍵を開けて中へ入り、中から鍵を掛け直した後で

 死体を発見した。それでそのまま待機していて、警察が到着してから

 鍵を開けたってことですか?」

「いいえ。私は小屋の鍵を開けていませんし、閉めれもいません。

 と言うよりも私は小屋の鍵は持っておりません。」

 私はマジシャンですから。とでも言うつもりなのであろうか。

 佐々木には田瀬が言っている意味がさっぱり分からなかった。

 田瀬はそんな佐々木の表情を堪能しているのか、

 暫く佐々木を見つめたままだった。

「田瀬さん。もう少しわかりやすくお話していただけませんか?」

 佐々木の変幻自在の表情を堪能し終わったのか、田瀬は種明かしを始めた。

「この小屋には抜け穴のような隠し出入口があるんです。

 私はそこから入りました。」 

 そう言うと田瀬は唯一の出入口とは対角線上にある壁際に置かれた

 本棚を指を指していた。田瀬がゆっくりと本棚に近づき、本棚左端中段にある

 一冊の分厚い本を手前に引っ張った。すると、本は前に倒れ、本棚から本の

 上半分が飛び出して取っ手のようになった。田瀬はそれを手にすると本棚を

 右にスライドさせた。本棚は右隣に並んだ本棚の側面へと収納されてしまった。

 よく見ると右の本棚は一回り大きく、本も全てイミテーションだった。

 スライド式の本棚があった所には壁が無く、外へと続く新たな入口が

 ぽっかりと姿を現わしていた。

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