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「スバルさん。タクシーお願い。」
ローズに言われ、スバルは二人のためにタクシーを呼んだ。
ローズもアコと同じくらいの酒を飲んでいたが、
顔が少し赤くなっているぐらいで、あまり変わった様子もなかった。
「ところでスバルさん。この間、アコちゃんに見せたマジックって
どうやったの?」
ローズはにっこりと微笑むとJokerのカードをスバルへ差し出した。
スバルはカードを受け取らず、カードを見つめたまま動かなかった。
「サーストンだ。」
「えっ?」
スバルは受け取らずに洗い物を始めた。
「サーストンの三原則だよ。第一条は事前に説明しない。
第二条は同じマジックを二度繰り返さない。そして...。」
「第三条は種明かしをしてはならない。」
そう言うとローズはJokerのカードをトランプの山の一番上に戻した。
「その通り。マジックを行う上でタブーとされている行為。
観客に新鮮な驚きを与えるための教訓です。」
「そうね。でも...。」
ローズは自分で置いたトランプの山から一番上のカードをめくった。
「もうすぐ完成しそうなのよ。」
「ん?何がだい?」
その時、バーの扉が開かれる音が聞こえてきた。
「お待たせしました。KKタクシーです。」
タクシーの運転手であろう初老の男性が、そこには立っていた。
「あら。アコちゃん。ほら帰るわよ。」
ローズは隣で気持ちよさそうに眠っているアコの体をゆっくりと揺らした。
「ん?んあ?」
アコは目をこすりながら、カウンターから顔を持ち上げた。
そのまま甘えたような声をあげながら、ローズの腕にしがみ付いた。
「一緒に帰ろうね。」
アコの体を支えながら、二人はフラフラと扉の方へ向かっていった。
スバルも傍で付き添い扉まで行くと、二人は無事にタクシーへと
乗り込んで行った。手を振るローズたちを見送くり店内へと戻った。
誰も居なくなった店内を見渡して、スバルは片付けを始めることにした。
カウンターの上の空きグラスを片付けていると、傍らにあったトランプの山が
目に止まった。それはさっきまでローズが触っていたものだ。
一番上で表になっていたのはハートのAだった。




