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サーストンの三原則
第一条 マジックを演じる前に、現象を説明してはならない。
第二条 同じマジックを二度繰り返して見せてはいけない。
第三条 種明かしをしてはならない。
◎登場人物
十鳴 潤
ネット、テレビと人気のイケメンマジシャン。
飯沼 透子
十鳴の助手兼見習いマジシャン。
田瀬 琉璃
十鳴の助手兼見習いマジシャン。
Joker
本名は一木 遼二。人気マジシャン。
ステージに立つ際にピエロのようなメイクをしている。
今居 友介
Jokerの助手兼見習いマジシャン
屋久敷 ローズ(やくしき ろーず)
Jokerの助手兼見習いマジシャン。
出紋 昴
元マジシャンでマジックバーのマスター。
愛酒はスプリングバンク十年。
間宮 杏子
出紋のマジックバーの常連客。酒とマジックを愛する。
佐々木 朔也
今回の事件の担当刑事。
香椎 結
今回の事件の担当刑事。佐々木の部下。
「アドボカートをロックでもう一杯。」
百五十センチ代の小柄で金縁丸眼鏡の一見すると未成年のような容姿の女性が
カウンター越しにオーダーを伝えた。
「アコちゃんは本当に『これ』好きだね。」
黒の長髪を後ろで束ねた男性はアコの前に置かれていた丸みを帯びたロックグラスを片づけた。
小さな灯りが点々とあるだけの薄暗い店内には微かにジャズが流れていた。
壁に設置された棚やカウンターの上には多種多様なダイスやトランプが
インテリアとして置かれていた。
その中には人気ロボットアニメのプラモデルやプレミアがついていそうな
超合金ロボットなども飾れていた。
アコと呼ばれている女性の座っているL字型のカウンターには七席。
その背面には四人掛けのテーブル席が三卓あるのだが、今はアコだけしか客は
見当たらなかった。
「お待たせ。」
この日、三杯目のアドボカートをアコの前へ置いた。
「ありがとう。スバルさん。良かったらスバルさんも飲んで?」
アコはカウンターの上に無造作に投げ出されていたトランプの中から
ハートのAをスバルへ手渡した。
スバルは笑顔でトランプを受け取った。
「よろしいんですか?ではお言葉に甘えて一杯頂きます。」
受け取ったトランプをカウンターの上に裏返しに伏せると、バックカウンターから
スバル愛酒のスプリングバンク十年のボトルを取ると、白い無地のマグカップに注いだ。
このマグカップはスバルのお気に入りのマイカップだ。
昔、アコは何故マグカップでお酒を飲むのかと聞いた事があった。
スバルは、これなら何を飲んでるかがわからないだろう?と笑いながら答えたことがあった。
確かに陶器の白いカップでは中身の種類も量も見えないし、よもやウイスキーが
入っているとも思うまい。
「では、いただきます。乾杯。」
スバルはカウンター越しにマグカップを少しアコの方へ傾けた。
アコも笑顔でマグカップへグラスを軽く当てた。
スバルは愛酒を一口飲み、フーと一息ついた。
「では、どうぞ。」
スバルは先ほどカウンターへ伏せたトランプをめくる様にと仕草でアコを促した。
それに従いアコは、ゆっくりとトランプをめくった。
『Joker_』
トランプの図柄がいつの間にかJokerへと変わっていた。
実はこここは小さい店ながらマジックバーとして有名な店だった。
白いワイシャツに黒のカマーベスト、腰の辺りには黒いエプロンを巻いている男。
出紋 昴も昔はマジシャンの一人だった。
元々お酒好きということもありマジシャンを引退した後、このバーを開いたのだ。
月に何度かプロアマ問わず、マジシャンがゲストとして店を訪れ、
お客を相手にマジックを披露していた。
マジシャンにとって実技実践の場として重宝されていた。
見習いマジシャンにとってはもちろんだったが、メディアで露出があるような
有名なマジシャンも頻繁に訪れていた。
「さっすがー!これはお酒が進んじゃうなー。」
嬉しそうにアドボカートを口へ運んだ。
間宮杏子は二十代前半の卵酒とマジックをこよなく愛する常連客だ。
小柄な容姿に愛くるしい仕草で、このバーの他の常連客やマジシャンの間で
妹的な存在として可愛がられていた。
二人は小さなマジックの成功を祝すように、再び乾杯をした。




