プロローグ
ただの暇つぶしなので、お気になさらず……。
学校にある二十五メートルプールよりも広い広間、そこに俺はいた。
【玉座の間】と呼ばれるそこは、国のトップである国王が公に人と謁見するための広間であり、国の中枢と言っても過言ではない厳かな場所だ。
数段ある段差の先には、背もたれが異様に長い石製の大きな椅子が置かれている。その椅子に腰を掛けた三十代中頃と思しき精悍な顔立ちの男が鎮座しており、その傍らには中世の貴族のような服を着た頭髪が少し寂しい五十代の小太りの男が控えている。他にも似たような服を着た男女の集団がこちらに視線を向けており、総じてこちらを値踏みするような不躾な類の視線ばかりだ。
そんな格式高い場所で、俺は今一人の女の子と口づけを交わしていた。お互いの息が掛かるほどの距離にまで近づき、唇を重ね合わせる。金髪碧眼の端正な顔立ちをした彼女の喉から、呻くようなぐぐもった声が響いてくる。ただその声は苦しいものではなく、自分の手で作り上げた状況を理解した上での純粋な反応であった。
彼女の柔らかな唇と温かい体温に幸せを感じながらも、いつまでもこうしていたいという悪魔の囁きような誘惑を振り払い彼女の唇を手放す。
「あっ……」
その直後、少女の口から艶のある声が俺に耳にだけ届くくらいの音量で発せられた。それは、口づけに対しての反応なのかそれとも彼女も俺と同じでもっとそうしていたかったという名残惜しさからくるものなのかは皆目見当はつかない。先ほどまで閉じていた瞳がゆっくりと開かれ、その視線は俺に釘付けだ。そして、騒然となり始めた周囲の人間の声に気にも留めず、俺は彼女に向かって不躾にこう言い放つ。
「もし、お前が俺の隣に立ちたいと思うのなら魔法の修行をして強くなれ。俺の進む道は修羅の道だ。俺の隣に立つ条件はたった一つ……自分の身を守れるくらい強くなることだ」
なぜ俺がこのような非日常的なシチュエーションに身を置くことになってしまったのかを説明するためには、今から三ヶ月ほど前まで時を遡らねばならないだろう。ただ、それを説明する前にあらかじめ断っておきたいことがある……。
“俺は悪いことは何もしていない!!”
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