旅の始まり
村を出たルディアとアゼルは森の中を走っていた。
アゼルは飛ぼうとして【種族魔法】の《漆黒の翼》を使用して翼を出そうとしたのだが、ルディアが走って行くと言い、アゼルも走ることにしたのであった。
しばらく進み、ルディアの魔力が尽きたので休憩時間となったため、アゼルはルディアに話しかける。
「ルディア様、なぜ空を飛んでいかないのですか」
アゼルがずっと思っていたことである。
「僕は自分の力をつけるために旅をするんだよ、だから旅に出て直ぐアゼルに頼っていたら続かないよ」
あの魔物にあのように簡単に負けたことでより強くなるために甘えることはない。
「それよりなんでアゼルは僕なんかに様を付けるの」
「それはルディア様が私の主君のご子息であり、ルディア様のご両親から教育係・護衛を任せてもらったためです」
「へー、よくわかんないや、あともう一つ僕の両親は今どこにいるの」
この質問には少し遅れて返してきた。
「ルディア様の父君、ルイス様は亡くなり、母君であるディア様は行方不明です」
「そうなんだ、でも僕は魔界を見て回るから、生きているお母さんにはその内、会えるかも」
「そうだといいですね」
ここでルディアはアゼルに魔法を見てもらうことにする。
「アゼル、僕の魔法を見てもらいたいんだけど」
「魔法ですか、でしたら見ましたよ【階級魔法】の第4階級の回復を、7歳で第4階級はすごいですよ」
「違う違う、僕だけの魔法の方」
この言葉にアゼルは自身が思っているより、遥かにルディアが成長していることを知る。
「わかりました、見せてください」
ルディアは【始源魔法】の3つを見せた。
「流石と言うべきでしょうか、あの環境で魔法を作り上げるとは」
「どうかな、僕は結構納得していたんだけど、村を襲った奴には効かなかったんだ」
アゼルは思う。
(魔法として完成しているが、独学なのでしょう、魔力の変換効率や魔法陣自体の耐久度など、この魔法には欠けている物が多い)
「【始源魔法】を使うことができるのは素晴らしいですね、ですが、ルディア様の魔法にはいくつかの欠点があります、これは魔法学を学んだ方がいいですね、昔はヴァリスロードにも魔法学園があったのですが」
「学校、行ってみたい」
ルディアは村人の一人に聞いたことがあった。
その村人は村に来る前の話をルディアに聞かせることが何度かあり、その中に学校の話があった。
「ルディア様は随分と魔法の勉強に興味があるようですね」
「うん、最終的に村では独学でやってたから、ちゃんと教えてもらってさっきアゼルが言った部分を直したり、新しい魔法を作りたい」
「ルディア様に教えたいのは山々なのですが、こんな森の中では…ですので、できるだけ早く行きましょう」
「じゃあ、出発しよう」
また二人は走り出す、深い森の中を。
数日間走り続け、二人は会話を交わし、少しずつ主従関係に慣れ始めた頃、やっと森を抜けることができた。
「ひっろーーーいーーーーーーーーーーー」
ルディアの目の前に広がるのは、大草原だあった。
初めて見るものもあった。
「アゼル、あの大きいのは何」
「あれは山ですね」
ここまで来る間もルディアはアゼルに知らないことを全部聞いてきた。
「登り切って上からアゼルの翼で降りてみたい」
「ルディア様、あの山はおそらくですが邪竜がいます、4、5体ならルディア様を連れてでもなんの問題もありませんが、それ以上いた場合、危険です」
「邪竜、見たかったな」
「邪竜を見るためにも、早く国へ帰り魔法を学び、強くなりましょう」
ルディアはアゼルに魔法のことを聞くのだがアゼルは早く帰ろうの一点張りなのだ。
村を出る時は急いでいないなんて言ってたくせにと何度もルディアは言い返しているが。
「ルディア様、少しお待ちください」
走り出したルディアを止めるアゼル。
「なに」
「そろそろ、移動方法を変えましょう、ここで転移魔法の魔法陣を見せるので、覚えてから転移で移動しましょう」
「転移…教えて」
それからアゼルが【階級魔法】の第13階級の《思考具現化》を使用して小屋を作った。
《思考具現化》は思考している物を魔力量に応じて具現化できる魔法。
「なにこれ、なにをしたのアゼル」
これにはルディアも驚く、ルディアではまだ理解、行使することができない領域であるため。
「13階級の《思考具現化》と言う魔法です、今の年齢で第4階級を行使できるルディア様なら数十年で使う事ができるかも知れませんね」
言いながら、アゼルは小屋の扉をあけてルディアが入るのを待つ。
しかし、ルディアの次の発言で…
「ねぇねぇアゼル、この小屋で魔法のこと教えられるんじゃないの、森の中じゃなくて、小屋の中なら」
「それは…えーーーーーと、そうだ、そうでしたこの魔法は具現化状態ですと魔力を消費し続けるのです、ですのでこの小屋では教えることができません」
何回目だろうか嘘で色々切り抜けてきたアゼル、今回はどうだ。
「そっか、じゃあ早く転移魔法を教えて」
ルディアが先に小屋へ入っていく、嘘で切り抜けることができアゼルは一時の安心を得る。
《思考具現化》は具現化する際だけ魔力を消費する。
具現化した物の強度なども消費した魔力に応じて変わる。
アゼルも小屋の中に入る。
小屋といっても思考によって作られたものであり、元々アゼルは天使であったため天島にあった、豪華な建物ばかり見てきたので、この小屋は眩しいほど豪華である。
ルディアは小屋の内装を見渡した後、真ん中にあった椅子に座る。
「アゼルはこのピカピカしたのが好きなの」
「好きと言うよりも、これが普通と言いますか慣れてしまっているのです、ちなみにこれから行く、グラファイト様つまりはお爺様のお城は少しだけ控えめですがこんな感じですよ、大きさはだいぶ違いますけど」
村の家や家具は木造だけだったため、魔法で1から作ったものに劣るのは当たり前である。
「それでは今からルディア様に覚えてもらう転移の魔法は【階級魔法】の転移魔法です」
アゼルが【階級魔法】の転移魔法である3つの魔法陣を見せてきた。
《転移下位》第5階級
《転移中位》第8階級
《転移上位》第11階級
「3つもあるのは結界などで転移が阻害されていても《転移上位》なら力技で転移することができたりします、しかしできたとしてもどこに現れるのかがわかってしまう事が、他には距離や難易度が変わります」
「うぅぅぅうん、《転移下位》は分かるけど、後の2つは魔法陣を見せられても読めない」
「それはルディア様が第5階級の魔法を行使できる証拠ですね、読めない2つはまだ使うことができない証拠です」
「じゃあ、今の僕は第5階級までしか使えないんだね」
「落ち込む必要はありません、ルディア様は7歳です、もし同年代の知り合いがいたら分かるでしょうが、ルディア様は天才ですよ」
アゼルは満足していた、自分が天使だった時だって【階級魔法】は使えたが、こんなに早く行使することはできなかったからである。
「それでは《転移下位》が読めるのでしたら、覚えてしまいましょう」
アゼル程の強者がルディアを天才と言うとは何も魔法の適切が高いことだけではない、魔法を独学で覚えて作っていたことこそすごい。
話を聞くと村長から魔力の制御のやり方を教わり、魔道書からは魔力制御によって使えるようになる能力などを学んだと言う。
そのため、階級魔法の魔字を読み作り上げたというのは天才といっても良いだろう。
それから数日後。
大草原にある小屋〝アゼルはあの後消すのを忘れている、そのため魔力を消費し続けている事になっている〟の周りを転移する1つの影が。
「どうかな、アゼル」
「《転移下位》での転移ならもう大丈夫ですね」
《転移下位》は【階級魔法】以外の魔法の中で最も簡単な転移魔法である。
転移する距離が最大10キロくらいなため、転移したい場所の座標などを魔力感知で感じ取れるだけで転移できる。
他の転移は他に魔法を使ったりして遠くの座標を調べなくてわならない。
「僕が転移魔法やったーーーーー」
喜びのあまり、その場に何度も転移するルディア。
「その場に転移わ、面白いですね」
アゼルの前で一瞬だけ消えるルディアがいた。
「それでは出発しましょう」
そう言って転移をしようとする、アゼルに質問が飛ぶ。
「結局、あの小屋ずっと具現化させていたね…やっぱり、具現化している時魔力を消費し続けるって言うの嘘でしょ」
「そんなことは」
言いながらアゼルは小屋をどうしようか迷っていた、具現化したので消えろと念じても消えない、かと言って攻撃系魔法でぶち壊したら明らかにおかしい。
「だいたいあの魔法13階級なんでしょ、そんな魔法をこの数日間ずっと使い続けるのはいくらアゼルでも難しいでしょ」
ごもっともですと心の中で言うアゼル。
「もういいよ、早く行こうよ」
ルディアが興味を失ったため、助かった。
「どっちに転移すればいいの」
「私が先に転移するのでルディア様は後から転移してきてください」
転移魔法は待ち伏せされやすい、転移した先に、相手も転移して戦闘ということだってある。
「それでは先に行きます」
ルディアもアゼルの後に転移して追いかける。
アゼルが転移魔法をルディアに教えたためルディアがグラファイトに会う日が近づいた。
よろしくお願いします