預けられた赤ん坊
他の作品を書いてしまいました。
しかし、元々こちらの方が色々と考えていたので許してください。
朝日が地上を照らしていく中、ある森の中を神速の速さで走る一人の魔族がいた。
その魔族がその速さで移動しつつも、丁寧に抱きかかえられているのは小さな魔族の赤ん坊である。
(戦には敗れたけど、この子だけは)
その魔族はひたすら走る、そうしてどれだけ走ったのかわからなくなるほどの距離にて見つけた。
(こんな辺境に村があったなんてね)
足を止めたその魔族の数十キロ先に小規模だが村があった。
(あの村にこの子を預けて…間に合うかしら)
考えつつもその魔族は村へ向かう。
村人達は森の方から膨大な魔力が接近することに混乱していた。
村の者達は女と子供を隠し、男総出で対峙する。
しばらくするとその魔族が姿を見せて、村人達の10メートル前で止まった。
深くフードを被っていて顔が見えない。
「何者だ」
村長が少し前に出ながらその魔族へ怒鳴る。
しかし、その魔族は臆することなく話始めた。
「ここでこの子を育ててくれないかしら」
そう言ってからその魔族は抱えていた赤ん坊を見せて来た。
「話をする前にそのフードを取れ」
相手に敵意がないとわかり村長も強気な態度を引っ込めた。
「わかったわ」
フードを取ったその魔族は声や口調でわかっていたが女性だった、女性は頬に傷があるがとても美しい顔立ちに漆黒の長い髪がとても似合っている。
「それでその赤ん坊をなぜ、儂らのような魔族に任せる」
女性は少しの間黙っていたが理由を話す気は無いのだろう、条件を出して来た。
「悪いけど理由は言えないわ、その代わりこの子を育ててくれるのなら私の魔法でこの村一帯を幻影で隠す、それでどうかしら」
彼女の提案は村人達にとっては有難い話だ。
彼女ほどの魔力を持った魔族が行使した魔法なら村も安泰である。
こんな時代だけあっていつ襲われるかわからない、だから幻影で隠せるなら隠しておきたいのだが…
「その提案は魅力的だが儂らにそこまでする必要が…その子を絶対に育てろというわけか」
村長は自分たちのような魔族にそのようなことをする価値がないと思ったがこの子を預かり、育てるのならその価値が生まれることに気づいた。
「どうかしら」
少し彼女が焦っているのが気になるが村長の答えは
「いいじゃろう、しかし村が襲われた場合その子も含めて子供達を優先して逃すが、生きられるかはわからんぞ」
これは事実だ、この村には戦闘力を持つ者が少ない、そしてその少数の者達もさほど強くない。
そのため魔族以外、魔物ですら脅威なのだ。
「それでいいわ、それとこの子の名前はルディア……ルディアよ、ルディアのことよろしくね」
彼女は涙を浮かべながら村長に赤ん坊を預けた。
「受け入れたからにはしっかり育てるから安心せい」
その言葉を聞くと彼女は背を向けた。
しばらくして彼女が向かって言った方向から膨大な魔力が感じ取れた。
次の瞬間、空が歪んだがすぐに直った。
彼女がこの村に預け、幻影の魔法で村を隠したことによって赤ん坊、ルディアは生き残ることができ、無事育っていくのだった。
その日、魔界にある、一国が堕ちた。
その国が火の海になる中、彼女はただ泣き叫ぶのであった、最愛の夫の亡骸を抱きしめながら。
時が過ぎ、あれから7年後。
村近くの森にて巨大な魔物が暴れていた。
その魔物は肌の色は灰色、四足歩行で顎が発達しており牙がむき出しの体調は全長20メートルを超える魔物が、幹が直径10メートルもある大木を何本もなぎ倒しながら一人の魔族に向かう。
ガァァァァァァァァァァァァァァアアアア
「うるさいなぁあ、今は僕の昼寝の時間なんだよ、それに村に近づくなら…バイバイ」
巨大な魔物が接近する中、ハンモックの上で伸びをしながら言う、その魔族はルディアである。
ハンモックから降りその魔物に向かって手をかざす。
すると手のひらに魔法陣が浮かび上がり、それに魔力を送り。
「落っこちちゃえ、《地形変化》」
ルディアが使った魔法によりルディアの前に縦横40メートル、深さ40メートルの綺麗な立方体の穴が一瞬で出来上がり、その魔物は穴へ落ちた。
グァアアガァァァァァァァァァァアアアアア
頭から穴に落ちてグァなどと面白い声を上げたためルディアは笑ってしまう。
「あはははは、君面白いねでも村の方に来ちゃったからねここでお別れだ」
穴の下から今にも飛びかかろうとしているその魔物に手のひらを向けて魔法を使う。
《地形変化》
同じ魔法を使ったが先ほどとは違う、穴が
さらに深くなり、そのまま上から土がなだれ込む。
土に完全に埋まったのを確認し、手のひらをゆっくり閉じる。
ゆっくりと閉じる手のひらと同じように土の中にいる魔物は潰れた。
魔物は魔力の塊なのでまたすぐにどこかで新しく生まれるだろう。
「ふぅう、終わったけど…」
魔物退治が終わりお昼休憩に戻ろうとしたのだが、目が覚めてしまった。
「目が覚めちゃったし早めに作業済ますかね」
ルディアは村へ向かう。
この村にはいろんな魔族がいる。
なんでも僕と同じように外に居場所がなくなった者たちが集まって徐々に村という形になっていったそうだ。
村の前には畑が広がっている、ここで村の人たちのみんなの野菜などを育てている。
僕の仕事は《地形変化》で畑を耕すことだ。
「おう、来たかルディア」
「ルディア頼んだぜ」
「俺らの魔法じゃ時間かかっちまうからな」
「ほんとルディアはすごいな」
僕が使っている魔法は村のみんなが使っていた魔法を参考にして創った物だ、つまり僕のオリジナル。
「ちょっと離れて」
村人達が畑から離れたのを確認してから、《地形変化》を発動する、
波打つように地面が盛り返り、数秒であたり一帯を耕すことができた。
「おおおおおおお」
「いつも、すまねぇな」
「ありがとな」
「相変わらず、すごい魔法だな」
みんなの笑顔を見れてルディアも笑顔になる。
ルディアは村のみんなのことが大好きである、育ててくれたのもそうだが、一緒にいるだけで幸せになれるからであった。
「なんでも手伝うから言ってね」
そう言ってから村へ入って行く。
ルディアはこの村では一番魔法などに詳しかった村長に教わり、その後、数少ない魔道書などを読んだりして、最近独学で魔法を創るなど出来るようになり、自分の魔法を使うことによって、今では村でルディアに勝てる者はいない。
それに参考にした魔法が元々が農業などに使う、【階級魔法】のひとつだったために、自分の魔法の方が効率が良いため、こうしてお手伝いもするのだ。
「ただいま」
ルディアは村の入り口から真っ直ぐ歩き、この村で一番大きい家に入る。
この家は村長の家だ。
ルディアはここにきてから今日まで7年間村長の家で寝泊まりしている。
「ただいま、村長」
家に入ると奥にある椅子に座りながら本を読んでいる村長がいた。
「おかえり」
本を読むのを一度止めて僕の顔を見てから返事を返す。
「この村から少し離れた場所で昼寝をしていたらまた複数の魔物が襲ってきたよ」
僕の言葉を聞き村長が読書をやめる。
「またか、最近村に近寄ってくる魔物が増えたな…」
この結果は7年前に発動した幻影の魔法の効力が無くなったことを意味する。
それは事実であり、彼女による幻影の魔法が無くなったこの村は7年間魔物と戦っていなかった怠慢な魔族しかいない。
魔物からすれば7年間何もなかった縄張りの中に村が現れ、その村から感じ取れる脅威がたった一人しかいないのなら、大量の餌が現れたと思うだろう。
「僕が昼寝…見張っているから今の数だけだったら大丈夫だけど、複数で攻めてきた際、きついよ」
今日はあの魔物意外にも2体、村に近寄ってきた。
村は森の開けた場所にあり四方八方から複数体で攻めてきた場合対処が間に合わないのだ。
「やはり、この村から移動した方がいいかの」
移動というが村のみんながこの場所のように暮らしていける場所はそう簡単に見つからない。
それに村の外は魔物達の領域だ、村のみんなで探しに行くよりも…
「少数の部隊を作ってちょっとずつ探すのがいいと思うよ、なんなら僕一人でもいいよ」
ルディアは何度も森の奥まで魔法の練習をしにいっているため魔物の討伐数は7年間でこの村の中で一番である。
「皆が暮らせる場所を探すのだ、遠出をしなくてわならない、いくらルディアとて一人で行くのは危ないのでわないか」
村長もこの辺の魔物が魔界の中で弱いことを知っているが僕を一人で行かせるのが心配なのだろう。
「大丈夫だよ、強い相手を感じ取れたりしたら挑戦なんてしないで逃げるから」
少し考えていたが村長はこちらを見ながら言う。
「いいじゃろう、出発は5日だなそれまでに3つ目の魔法を使えるようになるのだな」
村長に許可をもらい5日後にルディアは初めて村から遠出するのであった。
この魔界は僕の手の中に!をよろしくお願いします。