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51話 ザ・モブ。


 51話 ザ・モブ。


 ここまでくれば、流石に、タナカトウシに勝てない事は分かっていた。

 岡葉や鈴木や佐藤や雷堂や味崎やナツミやジュリアにも勝てないだろうとは思っていた。

 これまでの、ちょっとした会話でも、『部隊長クラスの面々』の、ぶっちぎった知性の高さは感じとることができた。

 だから、トウシや『部隊長クラス』には勝てないだろうと理解はしていた。

 しかし、

 飛び抜けた上位層『以外』になら勝てるとふんでいた。

 十位以内には入っていると信じていた。

 ――しかし、


「お、おれ……ちょっと、トイレ……行ってくる……」


 そう言って、虹宮は講堂を抜けだした。

 そして、後ろ手に扉をしめると同時に、ガクっと、力なく膝をついた。

 糸の切れた人形。

 重たい絶望に、全身の精気が奪われる。

 己を支える力が抜けて、膝の皿が割れる事も気にせず、ただ崩れ落ちてしまう瞬間――


(こんなザマじゃ……トウシくんのバディなんか……なれるはずもない……)


 このゲームに参加するまでの虹宮は、

 『なんの夢も持っていないカラっぽの少年』だった。


 神童ともてはやされて、地元で有名な私立の中学にノー勉で進学し、

 そこでも、特に努力することなくトップを維持し、

 大きな期待をされ、楽勝でそれに応え、チヤホヤされて、

 気分良く毎日を過ごしていて、

 けれど、

 『それだけでしかない』という日々に埋もれていた、空っぽのガキ。


(おれは……いったい……なんのために産まれてきたんだ……)


 空虚な日々を送っていた。

 特に頑張らなくても神童と称えられる安っぽい毎日。

 特に目標も夢もなく、ただ淡々と過ぎていく、ぶっちぎった秀才としての日々。


 そんなある日、突然訪れた、とびっきりの非日常。


 異世界デスゲームに巻き込まれた彼は、心のどこかで歓喜していた。

 ここから『自分の人生』は始まるのだと思った。

 『この物語の主人公』は『自分』だと確信していた。

 選ばれた天才である自分こそが『このデスームを終わらせる主役なのだ』と信じていた。


 しかし、彼はヒーローではなく、ただのモブだった。


 虹宮は、間違いなくレアな天才型。

 100校に一人、いるかいないかというレベルの、稀有な人材。

 しかし、今、この場には、その手の『レアな天才型』しかいない。

 凶悪に優れた連中が集まった『この集団の中』では、虹宮など、中の下でしかなかった。

 上には上がいる。


 賢さは中の下、強さは下の下。

 スペックだけを見れば、完全にモブ。

 ピッカピカの、その他大勢。


 ――そして、なにより、

 ジャミとのイベントで、岡葉から、必死に助けを求められた時、

 虹宮は一歩も動けなかった。

 何も出来ず、ただ、震えていた。


 スペック云々ではなく、彼は、性根の部分がモブだった。


 あの瞬間、虹宮は、この物語の『主役』の存在を知った。

 当り前のように、ステージへと飛び込んでいって、驚くほど華麗に、『誰も勝てないと思った強大な敵』をぶっとばしてみせたスーパーヒーロー。


(おれは……)


 あの瞬間、虹宮の目標は決まった。

 トウシというヒーローのバディになること。

 バッドマンにはロビンがいるように、ホームズにはワトソンがいるように、

 スーパーヒーローには、優秀な相棒がいるもの。


 虹宮は、自分がソレになれると思った。

 いや、自分は、トウシのバディになるために産まれてきたのだと思った。

 ど真ん中のヒーローにはなれずとも、天才の自分なら、ヒーローを支える相棒にはなれると思った。


 しかし、


(このままじゃ、おれは……)


 現状の彼はド直球のモブでしかなかった。

 主役のバディなど夢のまた夢。

 虹宮という少年は、背景の一部でしかなかった。

 その他大勢の中に埋もれた、ザコAでしかない。


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