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ナミダ

 


 sideシロ


 ……熱い。ひどく身体が熱い。溶けてしまいそうだ。とけて、自分が自分で無くなるみたいな……そんな感じがする。

 ここはどこだろう。ひどく無機質な空間。何もない、なにも聞こえない。感じるのは自分の身体かもわからない熱さ。

 あ……あそこに誰かいる。動くかな。


 スーッと視点だけが移動するようにそこにいる誰かにフォーカスが当たる。あれは……。


「ヒイロさん?!」

「わっびっくりした!」


 それが誰か分かった瞬間、ボクはガバッと身体を起こした。気づかぬ間に腕を前に伸ばしていたみたいだ。

 身体は夢? の中にいた時みたいに熱く、汗をかいて呼吸も落ち着かない。声がした気がして、横を向くとそこにはラニーさんがいた。


「あ……ラニーさん。え、ここ……あれ、ボク刺されて……あれ」

「シロさん目覚めたんですね! よかったぁ。シロさんが森の入り口で倒れているのを冒険者さんが見つけてくれたんですよ! なんであんなところで倒れていたんですか!? 誰かに襲われたとか!?」


 ラニーさんがボクが目を覚ますまでの間色々とお世話をして下さったみたいで、サイドテーブルには水瓶と桶とタオルやコップが見えた。フルーツも見える。

 まだ上手く頭が働かないボクはしどろもどろになりながら話す。


「え……ボク、刺されて……それで、毒で」

「刺され……毒?! え、ちょ、ちょっと身体見せてください! そんな傷……すみません、失礼します!」

「あ、え、あ、うん」


 ラニーさんは刺されたことと毒という単語に目を見開き、ボクに身体を見せて欲しいと言ってきた。言われるがまま、ラニーさんが着せてくれたんだろう寝巻きを脱ぎ、肌を見せる。ラニーさんが刺された箇所を確かめようと近づく。


「……どこを刺されたんですか?」

「え、刺されたのはここで……ええ?!」

「わっびっくりした」


 ボクがヒイロに刺された場所をラニーさんに教えようと、脇腹を見るとそこには傷一つなかった。自分の記憶と現実が食い違っていることにボクは衝撃を受けて取り乱してしまう。


「す、すみません! え、あれ。ボク確かに刺されて……あれ!? あ、ヒイロ、ヒイロさんは!?」

「えっヒイロさんはもうサザンクの街に向かわれたのでは……? シロさんお見送りに行ってたはずじゃ……」

「そ、そうでした……あれ……夢……? いや確かに……」


 先ほどの出来事で頭の中がぐちゃぐちゃになってしまい、頭を抱えた。


「……まだ本調子では無いみたいですね、なんで倒れられていたかはわかりませんが、今はお休みくださいね。あとでまたお食事を運んできますから」

「あ、は、はい。ありがとうございますラニーさん……」


 ラニーさんが何かあったら呼んでくださいね、と呼び鈴をサイドテーブルに置き、部屋から出て行った。

 ラニーさんの言葉に甘え、ひとまず落ち着こうと、サイドテーブルに置いてあるコップに水を注いで飲もうと思い、ベッドから立ち上がろうとする。


「うっあ……」


 身体に力が入らず、倒れそうになり、サイドテーブルを掴んで何とか立とうとするが、サイドテーブルと一緒に倒れてしまう。

 その際に呼び鈴が床に落ち、水瓶やコップ達と一緒に大きな音を立ててしまった。

 床に倒れ込む自分を認識して、無性に悲しくなり、昨日までの日常とのギャップに心が苦しくなった。下からバタバタと階段を上る音が聞こえた。


「シロさん! だ、大丈夫ですか!?」

「ラニーさん……すみません、水、こぼしちゃい、ました……」

「そんなのいいですから! ベッドに戻りましょう! 失礼します、身体起こしますよ?」

「はい……」


 ラニーさんに起こしてもらい、ベッドに戻る。思わず俯いてしまい、膝の上で結んだ手を見つめていると、手の甲に水滴が落ちた。気づかぬ内に泣いていたようだ。


「シロさん……何が、あったんですか?」


 それにラニーさんさんも気づいたようで、ベッドに座るボクの顔を覗き込むように屈み、心配そうにボクを見つめる。

 つい言ってしまいそうになる。ヒイロさんがボクを刺したんだって、でも、あれはきっと悪い夢で……幻覚系等の魔法を使う魔物がボクに悪い夢を見せたんだって、そう思いたかった。

 だから今はラニーさんに心配をかけないように……。


「大丈夫、です。ありがとうございます、ラニーさん……ちょっと、びっくりしちゃっただけなんです」


 泣きながら笑顔をつくり、そう嘘をついた。


 ラニーさんはそんなボクを見てどう思ったかはわからないけれど、そうですか、と言っただけだった。

 心配そうにしている顔は崩さずに、何かあったらすぐに呼んでくださいね、絶対ですよ! とだけ残し、倒れたサイドテーブルや物を戻して部屋を出た。


 それを何とかつくった笑顔で見送り、声を押し殺して涙を流した。

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