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アオイロ

 

 シロは少年が向けた視線に凍りついた。


「お姉さんも僕を殺すの?」


 たしかに少年はそう言った。シロはその言葉と少年の真っ黒な光を吸い込み、一切反射しない瞳に見つめられ凍ってしまったのだ。


「あ……」

「……殺さないの? なら僕がお姉さんを殺すね」

「っ!?」


 少年が右手を空に伸ばすと、その手に黒い気がまとわりつき、一本の黒い刃となりシロが登っている木に振り下ろした。刃はバターを切るかのように木を切り倒し、地面に倒れた。

 シロは間一髪で凍りついた体を動かし、木から飛び降り地面を転がっていた。


「…っはっ…っは…っは…」


 心臓が普段の何倍もの速度で鼓動し、身体中を凄まじい速度で血液が巡っている。視界はボヤけ、歯の根が合わずガチガチと奥歯がなっている。そんな状態でもシロは心だけは折らなかった。震える手で双剣を構え、以前は叶わなかった事に希望をかけ、語る。


「起きて……『アンドレイア』!」

 《起動コード確認。覚醒しました》


 シロの語りかけに応じ、双剣が翠色の光を放ち、シロを包み込む。その背には二対の翼が現れ、双剣は蒼色が混ざった刃となり、シロの瞳は蒼と翠が複雑に混じり合った光を放っている。


「お姉さんはテンシなんだね……いや、今の言葉で言うとイミターか……どっちでもいいね、殺すから」

「殺されないよ……君がどれだけ悲しい最期を辿ったとしても、ボクは殺されない。この世界を救うんだから」

「救う……? 世界を? なら僕も救ってよ!!」


 少年がそう叫び、手を振るい刃をシロに向けて飛ばした。シロは双剣を振るいその残光で刃を打ち消した。


「もちろん君も救うさ。君はアクマに取り込まれている。その身体の中はアクマで一杯なんだ。だから苦しんでるんだ。だから、ボクがそのアクマを浄化して君を救う」

「そんなこと……出来るの?」

「出来るよ。ボクを信じて」

「……わかったお姉さんを信じる」

「ありがとう……いくね。楽にしてあげるから」


 シロはそう言うと目を細め、力を双剣に込め始めた。すると剣が放っていた光が一層強くなり、少年は僅かに苦しみ始めた。


「ぐぁ……あ、熱い……」

「ごめんね……辛かったよね。今楽にしてあげるから」


 シロは少年にそう言うとその剣身を光により何倍にも増大させた双剣の鋒を天に向け、少年に向けて振り下ろした。


 その光を一身に浴びた少年は、始めはアクマの声で叫んでいたが、次第に少年の声に変わり、苦悶の表情も安らかなものとなった。そして、光の中シロに向けて口を動かした、


 光が消えると、そこには少年の姿も、アクマの体液もなく、一部だけ更地となった林と壊れた祠だけが残った。


 シロはそれを確認すると、息を吐き力を抜いた。すると翼は消え、光は治まり瞳の色が元の蒼色に戻った。双剣を二、三度振り鞘に収めた時、後ろからガヤガヤと声がした。


「シロさーーん! ご無事ですかあー!」

「……フランクさん?」


 後ろを向くと、遠くの方からこちらに駆け寄ってくるフランク達村民が見えた。あっという間にシロの元へたどり着くと、アクマのことを村の人々に話したら皆仇を討ちたいと言いだし、準備をしていたら祠の方から凄まじい光が見え、何事かと駆けつけたらしい。


「さっきの光はシロさんが……?」

「あー……そう、ですね」

「やっぱり! 僕の目は節穴ではありませんでした!」

「あはは……」

「シロさーん!」

「わっマチちゃん!」

「ぐすっ……よかった、シロさんが無事で……」


 マチはシロに抱きつき、涙声で無事でよかったと何度も言った。シロはそんなマチに苦笑いを浮かべながら頭を撫でた。


「いや、本当にありがとうございました。なんとあの光の後、失踪した人が戻ってきたんですよ」

「えっ? それは本当ですか?」

「はい、そのこともあって、シロさんのご無事を確認したくて……あ、きました。あれが村長です」


 シロが指さされた方を向くと、白髪で髭を蓄えた腰の曲がった老人が立っていた。


「シロさん。この度は、村の危機を救っていただいて、本当にありがとうございますですじゃ。村に戻ったら宴を開くので、よろしければご参加頂けると嬉しいですじゃ」


 そう言い残し、村長は村へと引き返していった。


「村長もああ言っていますし、是非とも参加を」

「あ、じゃ、じゃあお言葉に甘えて」


 その後シロが村へ戻ると、村民総出でもてなされた。


 翌朝シロが村を出る時、村民全員が見送りに来た。


「シロさん、この度は本当に、ありがとうございました。こちら、ホーリーアミュレットです。シロさんの旅路に幸多きよう、昨日マチが祈りを込めたんです。受け取っていただけますか?」

「是非とも、ありがとうございます! マチちゃん、ありがとうね、大事にするね」

「うん!」


 シロがマチにお礼を言い、指輪型のホーリーアミュレットを剣を握る際に邪魔にならない指に嵌めた。その色はシロの目と同じ、蒼色をしていた。


 シロが村を発ち、空を見上げると、視界いっぱいに蒼色が広がっていた。


 この先も多くの苦難や試練が待ち受けているだろうが、それを乗り越えた後、世界中にこの蒼が広がればいいな、と思いシロは今日も歩き続ける。

打ち切りのような形となりましたが、一段落とさせて頂きます。また次の話が書けたら投稿する予定です。

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