第2話
「だからほんっとうに申し訳ないんだけど、あなた達とは旅に行くつもりはないんだって!」
「行くつもりではない、で済む問題ではありません! いいですか、これは勅命でございます。貴女はこの私、ボム=ミーダフと彼女たちを連れて、魔王討伐の旅に出る義務があるのです!」
オルディナらが西門に着くや否や、聞こえてきたのはそんな喧騒だ。気配に近づいていくと、門を境にして彼らは言い争っていた。
外側には、白を基調として控えめに黒い装飾が施されたドレスメイルを装着した少女がいた。身長は170ほどのオルディナより少し小さい程度で、艶やかな黒髪をショートボブにしている。
内側には、カソックのような黒い服装の上から、外側を縁取るように赤いラインの入ったマント付きのフードを被った男が立っていた。鼻先近くまで深く被るフードにはこの国の最高位の魔法使いであることを示す、剣と盾を担った人間の姿が描かれた紋章がついており、只者ではないことが容易に理解できた。
そんな男の後ろには、困ったように頭をかく赤いショートヘアの少女と、聖職者の格好をした少女がオロオロとしていた。
痴情の縺れか? おお? と計画がぶっ壊れたことよりも勇者が困っている様子が愉快に思えるのか、フェリルがニヤニヤとする。観戦に回った元魔王の様子にお前もか、と村人がガクリと肩を落とす。せっかく人目につきにくいだろう時間帯に脱走しようとしたのに、意味がなくなってしまったことに半ギレしつつ、オルディナが勇者に向かって歩き始める。できる限り気配を殺した歩みは最後までバレず、後ろに回りこむことに成功してその肩に手を置く。
「なぁ勇者サマ? あんたここが何処だと思っている?」
「え? あー! オルディナ! 何処行ってたのさ!」
すわ助け舟か、と笑顔になるも一転して、遅刻してきた彼に向かってプンプンと眉にしわを寄せる。何者だ? と様子を見るボムこと賢者と、何かを察した様子の剣士と僧侶を視界に入れることなく、肩に置く力を強めてもう一度尋ねる。
「ここは、どこだと、思い、ますか?」
「え、何でそんなこと? 東門集合って言ったんだから東門でしょう? だから、その、肩ミシミシいってるから、離し───」
「「ここは『西門』だこの、 馬鹿者 / 方向音痴 が!!」」
「うえっ!?」
思わず動いてしまったのか、もう片方の肩に転移したフェリルとオルディナは彼女の頭の上から怒鳴りつけた。まさか自分が怒られるとは思っていなかった優香は飛び上がって驚く。
「ちょ、ちょっと待って! ちゃんと教えられた通りにしたよ!? お城に向かって『ひがしひだり』で『にしがみぎ』でしょう!?」
「ちっがう! 『ひがしみぎ』と『にしひだり』で五文字ずつだ!」
「うえぇ!?」
怒りが一周回ってその致命的欠陥に呆れたのか、フェリルが「ハハハハハハ」と乾いた笑いを出し始めたなか、ええい、と我慢できなくなったかとうとう門の外にまで来た男が吠えた。
「貴様ら何者だ。そこにいるお方を誰と存じる!」
何処からか取り出した杖の先をオルディナへと向けながら言う。変な行動を起こせば即座に攻撃するという意志表示だ。
あっ、となった優香につられてオルディナとフェリルも彼に目を向ける。
一瞬だけ「誰だこいつ」となったオルディナだが、ローブについた紋章に見覚えがあり、この大陸の『賢者』だと当たりをつける。優秀、なんてものじゃない。最高位の魔法使いとは、その国の顔であり、プライドその物のようなものだ。ここ最近では国間の戦争は無いため目立っていないものの、賢者一人で戦略が成り立つ、いわば国の最終兵器のような立場の人間だ。
色んな意味でここで彼が勇者を引き止めている理由が不可解で謎ではあるが、テキトーな対応はプライドに触り面倒なことになりそうだ、とオルディナは冷静に判断した。それは、早いとこ此処から去りたい彼らからしたら避けたい問題だ。
───しかし、オルディナの身分は村人だ。伊達にへりくだった育ちをしてきていない。目上に対する態度には人一倍の自負を持っている。
任せておけ、と魔王と勇者に流し目を送ると、なぜか諦めた表情をされる。疑問符を浮かべつつ、なんの躊躇いもなく、穏便への一手を取った。
「あれ、いつからいたんですか賢者サマ」
ピキッ、という擬音が、優香にはキチンと届いていた。オルディナには届いていない。
しかし、賢者の表情を見てなんとなく察しがついた。少しだけ、選択を間違えたようだ。
ケラケラと笑い声を隠そうともしない魔王を視界の端で睨みつけつつ、教わった通りなんだがなぁ、と相手の血管が切れたことに疑問を持つ。自分が考えうる最高の返答だった筈なのに。
プルプルと震える相手の出方を伺う。
ふと賢者の背中ごしで見える赤髪の少女と目が合った。「絶対めんどくさいことになるよ」という顔をしている。「マジで?」とオルディナが顔で聞くと「マジマジ」と返ってくる。しかし彼女もまた、彼がまだ爆発していないことに違和感を持っているように見えるので、「まだ?」と聞くと「そろそろだと思うんだけど」と返ってくる。
この間、僅か2秒。それでも長く感じるような静寂の中、とうとう爆弾が動き始めた。
「…………ふぅ………」
「…………?」
「こうも虚仮にされると怒りも一周回るものだな?」
「アッ」
こいつ冷静にブチ切れてやがる。こういう理性の中で荒れ狂った感情を飼えるような輩は、鎖を緩める具合やタイミングが上手で酷く面倒くさいのだ。口調すら変化していて、やる気マンマンなのが見て取れる。
強引にでも撤退するべきか、と考え、オルディナが横二人に視線を送ると、フェリルが今度は顔を背けてプルプル震えており、優香はあちゃあという顔をして賢者の背後を見ていた。
その先にいるのは少女が二人だった筈だが、と村人は疑問符を頭の上に乗せながらそれを追うようにして視線を動かし、───ブフォッ、と吹き出した。
「なんです?」と目を細めてイイ笑顔でこちらを見る賢者の後ろには、王冠を被った筋肉質の筋肉が立っていた。
「……oh…………」
「……? 私の後、ろ、に………え゛っ」
「ふむ? なんだ、ワシに構わなくてもよいぞ? 頭も下げなくてよい、これは命令だ」
「………はっ!」
「さぁ、───話を続けたまえ」
キラーン、とサムズアップする筋肉。しかし、恐るべき筋肉に空気が彼の筋肉のようにバッキバキに壊されてしまった。この筋肉には賢者の表情筋も流石に複雑なものにならざるを得ない。嗚呼、しかし、しかし。これは王の命令である。それが如何なるものでも、実行するのが己が役目。
精神統一するように目を閉じ、再び彼が開けたときにはもう、筋肉の名残は存在していなかった。
「───それで、君達二人が勇者様が見初めた仲間ということでいいのかね?」
何事もなかったかのように振る舞った上に、先の怒りをも克服し冷静な面持ちの状態で話を再開させた。
その落ち着きようと、それでいて熱く燃えたぎったかのような視線でこちらを射抜く真剣な表情は、正しく大陸一と呼ばれ尊敬される『賢者』そのものに見えた。
勇者優香が初めて彼に尊敬の念を向けた瞬間でもあった。ふっ、とオルディナもまた彼を認めながら、優香の前に立つ。それとこれとは話は別なのだ。
───ちなみにフェリルはというと、筋肉騒動でとうとう腹筋がよじれ切れたのか、そうそうに身代わりを置いて転移で逃げていった。
おぉ魔王サマよ、敵前逃亡とは情けない。村人は嗤い、勇者は笑う。
優香とオルディナの後頭部に小石が飛んできたのは気のせいである。すんでの所で避けれなかった村人の頭から血が吹き出ていようと気のせいである。
頭に走る痛みを無視して、賢者の問いに応える。
「えぇ、その通り。ワタシとこちらの方が勇者のパーティとなるものです」
右の掌を胸に置き腰を少し屈めて、今度こそ間違いのない純度100%目上の人向けの笑顔でそう言い放った。
賢者はその能面のような貼り付けられた表情にゾッ、と背筋に走るものを感じながらも、居丈高にハッと嗤う。
「貴様が? 冗談じゃない。そっちの女……男? は、まぁ……じゃないな、むしろ良い。魔力量はそこそこどころか上の中、先の転移を見るに魔法の練度は私と比肩…………いや、失礼。少し誇張した。───私以上か。恐ろしいな、一体どこの者だ? まさか、これほどの宝石が『人族』に残されているとは」
まぁこいつ分類上では一応『魔族』だし、分身体だから魔力量は元の半分もないけどな、オルディナは内心で毒づく。しかし、確かに魔王クオリティと言うべきか、魔族に対する『人族』のカテゴリーに入る『竜族』『海使』『エルフ』『獣人』そして『人間』の中でも先代魔王たるフェリルを超える魔力量を持つ者はいないだろう。
「それに比べてどうだ貴様は。魔力量は下の下。下級魔法が限界ではないのか? 碌に魔法も使えないヤツが勇者様のパーティにいたところで何になる」
馬鹿にする笑みに対してニィ、とオルディナは口角を吊り上げた。ようやく小言を終わらせ、自分の土俵に持っていく口実ができた。
「これ以上の御託が必要というのですか? いい加減聞き飽きましたよ、賢者サマの小言も……確かめたいんですよね、ワタシの力を」
オルディナ渾身の敬語も炸裂し、青筋を浮かばせながらも賢者はローブの陰から、細い目で射抜いていた。未だ、下ろした杖は掲げない。慢心か、余裕か。否、どちらでもない。彼に対して態と隙を与え、飛び込んで来るチャンスを待っていたのだ。
内心で、これにかかるような馬鹿だったら楽なものを、と賢者は舌打ちをする。
───今の賢者の目的は見定めである。口出ししてこない以上、何故かは知らないが王は勇者のパーティが自分たちではなく、オルディナとフェリルとなることを良しとしている。態と曝けた隙に掛からないように、彼が相応の判断力と実力を持っているのは確かだろう。もしかすると、彼らが伝承にある『運命を共にする者』なのかもしれないとまでも考えた。
だが、それでは納得できない。賢者らしからぬ下心を抱いていたとしても、三十年という短くも激動の修練の果てに得た矜持は伊達じゃないのだ。───最も、その年月によって遅れてしまったことが原因で焦りが生じ、下心を抱いていたのだが。
無礼を承知で王の前にも関わらず、私情を突き通しているのは、やはり諦めきれないからだ。もちろん色欲ではなく、『名誉』をである。
勇者という生きる伝説の隣に立ち、彼の魔王を打ち倒すという名誉。一世紀に一度、それも選ばれた極々少数の人間にのみ許される多大なる名誉だ。それがあれば言い寄ってくる女性も増え───ではなく、歴史に名を刻むことができる。それは、考えただけで打ち震えるほどの報酬だ。
それを、ポッと出の雑魚に奪われるなど考えたくもなかった。故に、王が是とした者であっても逆らいたかった。己の方が適任なんだ───、と。
「【では、先手をイタダキマショウか】───!」
予想外の魔力の動きに眉をぴくりとさせる。あの村人の魔力量の少なさと、丸腰で拳ダコが見えたため、奴の対抗手段は肉弾戦だと考えていた。それに、まさかこの『賢者』に『魔法』を用いてくるとは思いもしなかったのだ。
そして、彼の唱えた詠唱は闇。利己的で傲慢な詠唱は、そこの無謀を体現する少年に相応しいだろうと見下した。
魔法の属性には『基本属性』と呼ばれる炎、水、風、地と、『希少属性』と呼ばれる闇と光が存在する。
魔法とは決して自身の体で完結しているものではなく、『魔法』という超常の力を各属性に存在する『精霊』からその都度与えられることで行使できる代物である。
それを使用する対価として支払うのが自身に宿る魔力で、強大な力になる程多くの魔力を言の葉に乗せて捧げる必要がある。それが俗に『詠唱』と呼ばれるもので、構成上『宣言詠唱』と『創造詠唱』の二つに分けることができる。
最初に唱えるのが『宣言詠唱』。精霊へ向けて魔力の通り道を創る段階だ。文字通りなところがあり、道を創ることよりも「精霊に魔力を送る」と宣言をするのが主としていたりする。
そのため、詠唱にこれといった形はない───が、基本属性と希少属性の精霊で趣向が異なるため、ここの特徴が大きく違ってくる。
基本属性の精霊は特に魔法を行使する者に要求する訳でもないため、「魔力を捧げよ」というスタンスだ。それでも彼らなりにプライドのような物があるのか、【我が炎の精霊に捧げます】といった内容の宣言詠唱が、学び舎などで教えられるスタンダード型となっている。
対して希少属性の精霊は魔法の行使者に「力を示してみよ」というスタンスを取っている。
人によって要求されるものも微細に変わってくるために、学び舎などで教えることのできるスタンダードタイプがない。
その分、自らで考えなければいけないという難易度はあるものの、慣れることができれば、先のオルディナのように会話の一部として含ませることが基本属性と比べて容易である。
それ以外で特筆するとすれば、与えられた魔法を我が物顔で使う者が多いという点だ。それを「選ばれたのだから当然の権利だ」と捉えるか、傲慢と捉えるかは人それぞれであるが、『利己的で傲慢だ』と言う人は少なくない。
そして、宣言詠唱の次に続くのが『創造詠唱』だ。精霊に欲しい魔法の“鮮明なイメージ”を送り、力を受け取ってから行使すると宣言する詠唱である。
この二つの工程が線密に、正確に行うことが魔法のクオリティに繋がる。
「(さて、貴様の魔力量でどれほどのものが繰り出せる?)
賢者はほくそ笑む。闇属性は『希少』と呼ばれるだけあって、基本属性とは毛色の変わった魔法を扱うことができる。それはつまり、魔法においてはイメージがし辛いということである。故に、下級魔法でも魔力の消費量が段違いに大きくなる。
にも関わらず、彼の魔力量は下の下。決して珍しい訳ではないが、希少属性を扱う上でそれは余りにも厳しいものだった。
もしも精霊に気に入られていれば宣言詠唱による道の構築に使われる魔力が減り、イメージの想像が上手ければ精霊に捧げる魔力も減少するため、魔力量が少なくともやっていけるだろう。
しかし、それが重なることは滅多にない上、重なっていたとしても『勇者』のパーティとしてやっていくのは厳しい、というのが賢者の結論だ。
それくらいならば早々に魔法を切り捨て、足を洗った方がいいに決まっている。馬鹿で愚鈍とは救いようがない、と同情の色を漏らす。『賢者』を馬鹿にしていると言われても仕方のない動きにもいっそ哀れに思い、怒りすら湧いてこない。
───そう、考えていた。
「ひらけゴマ、ってなァ───!」
言葉と共にオルディナの肩の上に黒いモヤがかかる。それを見た賢者の眉間に皺が入り、とうとう【杖を掲げた】。
「───なるほど。本命はこちらか。それに、魔法のセンスもさほど悪くないようだな」
「お褒め頂き、恐悦至極。───精々寝首を掻かれませんよう」
「ハっ、戯け! 私に傷一つ付けれると思うなよ!」
杖を振るった勢いで取れたフードの下には、真紅の髪をオールバックに、鋭い目つきが覗くメガネを付けた賢者の姿があった。
戦闘意欲を刺激されたか、口尻を僅かに吊り上げた彼の前には、二メートルほどの剣と盾を構えた『ゴーレム』が立ち、オルディナが取り出した両手剣による斬り上げを止めていた。その高い位置関係を利用し、押しつぶさんと盾がオルディナを圧迫する。
「かっ!」
ついでのように突き刺さんとする逆手に握られた剣を、盾を弾き横に跳ぶことで避ける。目標を損ねた剣が地面に深々と突き刺さり土煙が舞った。奇襲が失敗したため次の機会を伺うか、と仕切り直そうとオルディナがそれに紛れるように後ろに下がる。
───しかし、そのゴーレムに視界という概念はない。
例え視界が悪くとも、担い手が相手の行動を先読みし、現在地を把握していれば追うことは容易なのだ。
そして、天才であると語られるアウルス大陸の代表者が一人『地の賢者』にとって、このような小さなフィールドであると、相手の性格と攻撃手段さえ理解すれば目を瞑っていても大まかな位置は把握できる。
故に、一つの長物が得物なのにも関わらず、それよりもいくらか長く重く、更に速く剣を振るうゴーレムに対して戦いづらいオルディナが、本体である賢者を討つべくしてゴーレムの間合いより少し退いた距離を保ち、円を描くように走りながら投石しようとすることを脳内に捉えていた。
容赦なしのヘッドショット。更にいえば眼球狙いか、と頭を傾け、避けることを想定され投げ込まれていたもう一つの石ころを上半身を捻りやり過ごす。三つはない。『賢者』のゴーレムを警戒しているならば二つが上限と見た。
正解だ、と身を捻った賢者が杖を振るう。するとゴーレムが地面に刺さった剣を順手に持ち替え、そのまま地を裂きながら走り出し、オルディナに向かって切り上げた。地面が捲り上がる音と共に、噴火の如き土塊の数々が襲いかかる。剣を順手に持ち替えた時点で嫌な予感を察知していた彼は走り抜けそれらを避ける、───が
「───纏え」
杖が振るわれる。オルディナを中心に捉えて広がった土塊が、意思を持ったかのように空中で止まったかと思えば、一つの柱状の塊となっていき元の剣と一体化した。
「ちぃ───!」
長さにして30メートルほどとなった土の剣が、オルディナを叩き斬らんと水平に振るわれる。動揺はしたものの、砕かれるつもりは毛頭ない。駆ける脚を加速させ、賢者の後ろを通り過ぎるようにして回り込む。当然、それを追う剣は賢者を通過しようとする、が
「動きが陳腐に過ぎんな」
予定調和だと言いたげに設置された土の壁が、賢者をも斬らんとする土の剣から守り、破壊した剣の残骸が後方へとばらけていった。賢者は衝撃から飛んだ礫をローブで守ったが、強い遠心力を持ったゴーレムは直ぐには止まれず、目標と大きく外れた方向でその勢いを止めた。
その隙を逃す手はなかった。
「シッ───!」
兵と盾を失い無防備を晒す賢者との距離はあるおよそ20メートルほど。隙を逃さぬように距離を一息で跳ぶ。
「甘いといったのが解らなかったようだな!」
読めている。ここしかない。まともに魔法すら使えぬ人間に、本丸に斬り込むチャンスはここしかない。
「荒削りではあるが、騎士団長程度の実力はありそうだな」と安心しながらも「大人しくその席を私に寄越せ」と憤りながら、点として跳んでくるオルディナに対し、後方に吹き飛んだ剣の残骸を操り、礫を面として射出する。
これで終いだ。頑丈ならば全治二週間ほどだろう、と射出の過程で粒を鋭くし攻撃力を持たせていく。その上で、砂煙の向こう側に見えた人影に向かって、「やはりもう少し痛み付けてやるか」ともう少しだけ固めて、顔面大サイズの弾丸として収束させると共に加速させた。
まさかその残骸をも利用し、まともに受ければ余裕で死にそうな弾を撃ってくるとは考えていなかったオルディナはそれを空中で受け───てもなお何事もないかのように直線運動を続けた。
「なに───っ!?」
「ハハハハハハ───! 【頭上注意だ】賢者サマァ! 防げるもんなら防いでみな!」
霞のようにオルディナが霧散したかと思えば、賢者の真後ろから声が発せられた。
小賢しい真似を、と逡巡して気づく。先の分身は、そこにあると見せかけられた幻覚だった。そんなものを見せられた自分の認識が正しいとは思えない。
ちぃ、と咄嗟に自らを中心にドーム状の土の壁を張ろうとするも、時は既に遅く。
「お前の負けだぜ、ボム=ミーダフ」
「…………っ、クソッ……手を抜きすぎたか」
膝を折り地に手をつく賢者の前には、地面に両手剣を突き立てるオルディナの姿があった。
あと2話ほど、明日の夜に投稿して、そのあとは月更新くらいにしようかなぁと考えておりますー。