no.071 爆乳エロババア
よろしくお願いします!
強大な斬撃波がリヴァイアさんを飲み込み、海を叩き割ってからすぐ。
少なくない数の海洋生物を巻き込み、海流を切断し、大小様々な岩礁を粉砕し、それなりの大惨事を引き起こしていた。その自体を引き起こした張本人は、まろびでた海底より遥か上で浮遊感を感じていた。
海を割るほどの凄まじい威力の一閃は、その反動で海抜100メートル程度の高度までコウタを弾き飛ばしたからだ。
「あーこれ着地のこととか何も考えてなかったなぁ……うぷっ」
莫大なエネルギーを扱った後遺症の吐き気を感じつつ、コウタは己の想像力の浅さに呆れていた。当然である。足場もろとも吹き飛ばせば、足場はなくなるのだ。そして重力があるゆえ、この浮遊感はやがて落下感に変わる。
「そろそろ僕も空を飛べるようにならないとなぁ……」
小型飛行装置についてはメニカとアミスが鋭意開発中である。装置の小型化に苦戦しているのもあるが、そもそもコウタは我が身を省みぬ乱雑な戦い方をさせられるきらいがあるので、頑丈さにネックがあり開発が難航している。
「バリアは30秒くらい使ったから……再使用まで結構かかるな。海底に落ち切る前に水が迫ってくるかな?」
海を割ったとは言うものの、魔法的な何かで割ったのではなく物理的に蹴り飛ばしただけだ。海はその圧倒的な質量圧で既に戻りつつある。
落ちゆくコウタを海水の触手が絡めとった。
「儂の鎧をこうも容易く砕くとはな! 攻撃の方も認めてやろう!」
その触手の元を辿ると、ひと回り小さくなったリヴァイアさんがそこにいた。透明感がほとんどなく、生体の質感を感じさせる。着の身着のまま、生身の龍龍しい龍体だ。
「まだやる気か!」
「合格点は付けてやってもいいが、試験終了のチャイムは鳴っていないぞ! この滾りを受け止めよ!」
「さぞかし名のあるヌシと見受ける! 鎮まりたまえー!」
――強烈すぎるほどの一撃を浴びせたというのに、リヴァイアさんはダメージを受けた様子もなく、興奮するに留まっている。
間髪入れずもう一度叩き込めるならダメージも見込めるだろうが、生憎とツッコミで精一杯だ。
「ふむ……ではいいか。お祝いに面白いものを見せてやろうか?」
「もう充分見たから結構です!」
「そう遠慮するな」
「マジでいらないのに……!」
うろこの一枚がうごめくと、やがて人間の五体を模したちいさな人形のように貌を変えた。
そしてその人形を核として、人間の身体が生える。そうとしか表現出来ぬほどの早業だ。
「儂ともなるとこんなことも出来る。我が肉体の一部を触媒に、生体魔法を用いて人間の身体を作り上げ、それを我が身のように扱うこともな」
リヴァイアさんが依代として作り出したのは、透き通るようなみずいろの髪をした美女だ。
鋭いながらどこか慈愛を感じさせる眼差しと、ぴんと通った細い鼻筋に、小ぶりながらも白い肌にとても映える赤い唇。そして、マリア・グレイスにも負けず劣らずの豊満な乳房と抜群のプロポーション。
しかしそれよりも目を引くのは、両手と両脚、そして喉元を覆っている、リヴァイアさんと同じ青藍の鱗だ。よくよく観れば、手足に鋭く、太く鉤を巻くような爪が生えている。にこりと妖艶に笑ったその口元には、犬歯と呼ぶには長すぎる牙が見え隠れしている。
「運が良いなコータ。龍人を目の当たりに出来るなぞ、そうそうないぞ」
概念革命以後雑多な種族が増えたホモ・サピエンスながら、未だ史上四名しか確認されていない種族。ホモ・サピエンス・ドラコ――すなわち、龍人である。
「服着ろー!!」
産まれたてゆえ当然だが、服を着ていない。まさに産まれたままの姿そのものだ。色々突っ込みたいところはあったが、コウタはそこに突っ込んだ。
「おっぱいでっか! 爆乳エロババアめ! 服着ろ!」
コウタはこんらんしている!
「なかなか礼に欠くなコータよ。出来たてほやほやの赤ちゃんぞ?」
龍体と人体と、同時にくすくす笑いながら、リヴァイアさんはコウタのデリカシーゼロ発言をたしなめる。だが、コウタの魔力酩酊はまだ続いているため、口は容易く滑る。
「身体が若くても中身がばぁばじゃん。自分で老骨だとか言ってたし。一人称も儂だし。ドラゴンが何類か知りませんけど、海亀理論で行くとそれは海水だ!」
「言うなれば人間を模した生体マギカロイドだからの。涙ではあるぞ」
「マギ……僕の真反対のやつだっけか」
マギカロイドのエレメントは、理論上は生体でも作ることが可能だ。しかし見た目だけならともかく、内臓や骨格を始めとする人体機能を持たせるとなると、コストパフォーマンスが悪すぎる。倫理的な問題もあるにはあり、研究者の間でもあまり良いものとはされていない。
「それで、急にどうしてそんなのを作ったんですか? 人質? 僕より強いのに?」
「なに。ほんの戯れよ。そうさな、二対一はどうだ?」
「僕より強いのに!!」
ギラついた視線を向けてくる美女と龍王にじたばたともがき、水触手とその場から逃れようとするコウタだが、その足掻きは徒労に終わる。
「クハ、冗談ぞ。わくわくしたろう?」
「本当に面白いものを見せるつもりだったのか……! 心臓に悪い!」
「お主はあまり戦いたがりではないしの」
「それわかってるならわざわざ……いや、これもしかして裏勇者試験とか? 念じる系能力が必要なやつ?」
コウタは疑ってかかったが、リヴァイアさんの回答はすっぱりとあっけらかんとしたものだった。
「儂の趣味である。任命された時点でお主は正真正銘の勇者ぞ」
「このババア! 趣味で殺しに来てんじゃないよ!」
「この老骨の介護も勇者の責務よ。耄碌して暴れられても困るだろう?」
「ぐぬぬ」
無論そんな義務はないが、勇者のことをろくに知らないコウタはぐぬりながら引き下がるしかなかった。リヴァイアさんが野生のままに暴れるなぞ、災害以外の何物でもないことは既に理解してしまっているからだ。
「して、何処に行くんだったかの。送ってやろう」
「確かウィカルってとこですね。あなたが来たら大騒ぎになりそうですけど」
「安心せい。龍のまま人里には近付かんよ。何のために人の身体を作ったと思っておる」
「あ、まさか飛べる感じなのか。じゃあお言葉に甘えようかな……」
「あぁ、その手があったか。まぁこっちの方が速い」
「へ?」
リヴァイアさんは水触手の一部を砲台のような筒状に作り替えた。臨界魔法だからこそ為せる魔法のような魔法だが、ほんのひとまたたきでそれを完遂するのは並大抵の業ではない。
「あーもうなにされるかわかったもんね」
コウタは出来上がった砲台と身動きが出来ない状況を受け、即座に自分が次に何をされるかを看破した。伊達に日頃ろくな目に遭っていないわけではない。
そしてリヴァイアさんはコウタの予想通り、一機と一体を砲台にねじ込んだ。
「しっかりと掴まっておれよ。ほれ、乳は好きかろう?」
「……服着なよ」
「なに、人里に着いたら着てやろう」
「マジで着いてこなくていいのに……」
「ふむ、ウィカルはこちらの方角か」
リヴァイアさんはコウタの意見を聞く気はないのか、発射角度の調整を進めている。
「それでは、準備はよいな? 勇者殿」
「事後承諾ばっかりなの、僕に問題がある気がしてきたな」
単に運と間が悪すぎるだけである。
「ハイドロ・バリスティック・カノン!」
大陸間弾道カノンが、コウタとリヴァイアさんを載せ、ウィカルへと向けて放たれた。
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