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no.070 サンイーター

よろしくお願いします!

「さっき『勇者は来ない』とか言ってたけど! 呼ばせないための方便で、本当は勇者が怖いんじゃないのか! やーいやーい!」



 見え透いた、あまりに子どもじみた挑発。そもそもコウタに勇者を呼び付ける術はない。

 それはリヴァイアさんの逆鱗を撫でることはなく、子供らしい微笑ましさを感じさせただけだ。



「ククク……。なかなかに言ってくれるな小童。あまりにも安い挑発だが。隙を突けば出せる大技でもあるのか?」

「内緒!」



 無論ある。なければこのような分かりやすい挑発などしない。しかし、それは今のコウタでは隙どころか小休止を挟まなければなし得ない。だからこそ、龍王から大技を引き出そうという、回りくどく危険な真似をしているのだ。



「ふむ……」



 悩むような素振りこそ見せているが、リヴァイアさんの答えは決まっている。

 ドラゴンブレスをどうにかしてみせると啖呵を切る。それが出来る存在がこの世に何人いようか。勇者や堕者ですら、そう安易に挑発してこない。自棄にも思えるが、コウタがそんな不合理なことをする理由がないことは理解していた。

 だから嬉しさと物珍しさ、純度100%の喜の感情に、龍相が凶悪な笑みに歪む。



「買った! 望み通りにしてやろう!」



 リヴァイアさんは先程出した小太陽の、さらに数十倍もの直径の煌炎球を繰り出す。より強い磁場と重力のせいか、海面が引き伸ばされる糸のように伸びてゆく。



「これを儂に使わせたのはアーサー、先代魔王、そしてシェリーとかいう小娘しかおらん! 儂が挑発に乗ってやったことを誇るがいい! たとえあの世であろうとも百目は置かれるぞ!」



 リヴァイアさんは煌々と焼き焦がさんばかりに熱を撒き散らすそれを、あんぐりとその口を大きく開き、垂れる海水ごと蛇のように丸呑みにした。半透明のうねりを乱反射して透かし、天に昇らんばかりの巨大な燈籠となる。



「クハハハハハ!!!」



 黄金のように輝く龍王は、高らかに吼え笑う。

 それは大海を沸き立たせ、大気を恐れ震わせ、天すらも揺るがさんばかりに轟く。

 そしてその空気とともに、コウタは己が震えていることに気付いた。



「……この振動は、通信とかじゃないだろうな」



 腹の奥底からせり上がってくるような、足元が覚束無くなるような、そんな震え。コウタはマリアふうに言えば「おビビり遊ばせ」ていた。

 この事態を招いたのは誰あろうコウタ自身だが、無理もない。刺されるのと刺さりに行くのでは、似ているようでまるで違うからだ。



「フン!!」



 何を思ったか、全力で胸に拳を叩きつけた。

 ガチ、ガチ、ガチ。一定のリズムで、金属が金属にぶつかる硬い音が鳴り響く。歯のシバリングによるそれとは違い、テンポは随分ゆっくりで、そして力強い。



「ふん、ふん、ふん……!」



 震えを別の振動で打ち消すように、拳を自身の胸に叩きつけるのを繰り返す。メトロノームの如き一定のリズムだが、奏でる音は乱雑で汚く、力強さしかない。



「ビビるな僕! スレンヒルデのアレに比べたらまだマシだ! 頑張れ3秒後の僕! 多分死なない! 多分! ……多分! ともかく頑張れ騎上晃太!!」



 押し寄せる不安もろとも胸部を砕かんばかりに何度も、何度も強く叩き、拳で己を鼓舞する。震えが起きる前に痛みで相殺する。

 やがてひとしきり殴ると、震えに意識がいかなくなる。止まったのかすら定かではないが、これ幸いとコウタは息を吸い込んだ。



「いくぞアーク!!」



 コウタのその叫びに呼応するように、アークはひときわ漏れ出す蒼を強めていく。淡く、白く、眩く、光を強めてゆく。

 リヴァイアさんは魔導臨界状態で放つ自らのブレスを、その仕草と様相から【太陽を喰らう者(サンイーター)】と名付けた。



「サンイーター」



 大きく開け放たれたその口腔の奥から、極大出力のエネルギーが解き放たれる。先程までの水蒸気爆発や収束熱線などでは比にすらならない圧倒的熱量で、コウタを呑み込まんばかりだ。



「アンチ・フォース・バリア!!」



 迎え討つは絶対不可侵の対物理現象バリア。瞬く間に展開されたそれは、サンイーターを当然のように遮断する。



「――!」



 ユーリやスレンヒルデなどに案外容易く攻略されてはいるが、それらはバリアそのものを破ったのではない。その絶対防御を掻い潜り、照射元を直接叩くという手段による攻略だ。

 現に今でさえも、リヴァイアさんが足場を消すなどでコウタを直接崩せば、緻密な構築により成り立っているバリアはその組成を保てなくなる。



「ぐうううう……!」



 だが、リヴァイアさんはそうはしない。銘を付けた大技を誇るというのもあるが、わざわざ大技のブレスを使ってやるというのに、そこに逃げる余地を作ってやる意味がないからだ。



「この質量、ビームだけじゃないのか……!?」



 計器に記された想定外のエネルギー量に、コウタは驚嘆する。

 水蒸気爆発を始めとする超高圧力の水圧砲と、高密度エネルギー圧縮砲の混合ブラスターだ。

 リヴァイアさんが極大の魔力を以て放つそれは、神纏の出力すらも凌駕する。



「ぐぎぎ……!」



 さしものアンチフォースバリアといえど、その圧倒的な質量とエネルギー量を全て吸収するには少しばかり時間を要する。

 つまり、コウタは耐えねばならない。踏ん張らなくてはならない。堪えねばならない。

 じりじりと押し寄せてくるバリアの内壁に、コウタは恐る恐るとしつつも、気合を入れて思いっきり手を突っ張った。



「――っっ! 冷たい冷たい!」



 肉が引っ張られはしないので痛みこそあまりないが、それでも文字通り凍てつく冷たさだ。

 銃弾や砲弾のように充分なエネルギーを有しつつ一瞬触れるだけならばまだしも、支えるためとはいえ長時間直接触れるのは自殺行為だ。



「このバリアマジで使い所……! 人に使えない し……!」



 ――生半可な攻撃には過剰すぎ、ちょうどいい出力かと思えば掻い潜られ、普通に強大すぎる力には押し負ける。さらに触れると凍てついてしまうせいで人の救助にも使えない。


 そんなわけで、コウタの苛立ちは結構な段階まで達していた。



「この……! アミスのアホー!!」



 使い所を迷わせすぎる自称無敵バリアを、怨念のこもったシャウトとともに、気合いを入れてその奔流もろとも押し返す。

 照射時間は28秒と長くはなかったものの、コウタにはその十倍で効かぬほどに感じられた。



「――!」



 しかしそれも、やがて萎むようにして掻き消えた。水蒸気がもうもうと立ちのぼる湯加減の中に、コウタはふらふらとしながらも立っていた。



「はぁ、はぁ……! どんなもんだ……!」



 肩で息をし、バリアに触れたことで氷結しかけた両手をぷるぷると震わせながら、半ばやけくそにそう吐き捨てる。

 辛うじてではあるが、コウタはリヴァイアさんのネームドブレスを正面から防ぎ切った。



「クハ、クハハハハ!!! サンイーターを正面から受け切るとはな! こうも素直、頑強な奴は記憶に新しいぞ!」



 そう高らかにコウタを賞賛するリヴァイアさんは、どこか様子が変だった。態度が不遜すぎるとか、笑い声がわざとらしいとか、老骨と自称する割に元気すぎるなどの今更な事態は置いておいて、もっとひと目でわかる、単純なところが変わっていた。



「ちっさ! ……くなってる」



 リヴァイアさんは見るからに縮んでいた。むろん今の状態でもコウタより遥かに巨大であることには変わりないが、初見の島すら喰らえそうな巨大さを持つ顔面とは程遠く、少し大きめのドラゴン程度まで小さくなっていた。


 ――どうやらこの立ちのぼる水蒸気の半分はリヴァイアさんから出ているようで、身体がぼこぼこと沸騰しているのがわかる。



「水鎧を使い捨ての砲身とするのでな。そうしないうちに戻るが……ほれ、チャンスであるぞ?」

「どうせそれも本体じゃないんでしょ。知ってるよ僕」

「ほう? よくぞ気付いたな」

「似たようなのと戦ったことがあるから!」



 シンデレラとは違い、リヴァイアさんは成体を通り越した老体だが、使用している魔法の分類としては似ている。マギカロイドの外面塗装に用いられる『エレメント・アーマー』という魔法だ。



「して、そのエネルギーを吸収してどうする?」

「……バレた?」



 図星こそ突かれたが、コウタに驚きはない。莫大な魔力を吸収してハイになっているのもあるが、ある程度予測は立てていたからだ。



「ただ受け止めたにしては余波すら残さぬのはおかしいだろうて」

「それは確かに」

「わざわざ大技を誘ってきたのだ。となるとその目的は、隙を突いた攻撃、カウンター、ガス欠狙い程度に限られる。そして隙を突いても来ず、消耗度合いを気にする素振りも見せぬ。残るはカウンターだが、ビームを受け流し、跳ね返すなどという物理法則をほとんど無視した人外の御業でもない」



 つまり、吸収したエネルギーをどうこうするタイプのカウンターである、とリヴァイアさんは看破したのだ。



「しかし、単体防御性能においては貴様の右に出る奴はおらんと太鼓判を押してやろう。このリヴァイア・ストリームの名においてな」

「それはどうも! ……どうも? まぁどうもか?」



 新たな烙印に首を傾げながつつも、コウタはそれを受け入れた。どうせ拒否しても押し付けられるであろうという経験からだ。



「ご期待通りお返しのターンだ! 」



 とう、と海面を思いっきり蹴り、コウタは大きく跳躍した。リヴァイアさんの頭上十数メートルあたりまで一気に跳びあがり、その全容を視界に捉える。



「アーク!」



 コウタの呼び掛けに呼応し、アークが一際強い蒼を放つ。



「フォース・リベンジ!」



 フォース・リベンジは、厳密には攻撃そのものではない。吸収したエネルギーを攻撃用に変換するためのシステムだ。

 それを用い、コウタはリヴァイアさんから奪ったエネルギーを変換し、そのほぼ全てを右脚に集約していく。



「機式剛術!」



 コウタが狙うはリヴァイアさんの全容――否。それよりもっと大きく、もっと深い。



刃脚極閃(じんきゃくごくせん)!!」



 収束したエネルギーが右脚から一気に放出される。可視化された高密度のエネルギーは飛ぶ斬撃と化し、リヴァイアさんすらも飲み込み、かの預言者のごとく海を割った。

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