no.069 龍王 VS 黒鋼の勇者
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「はっ、はっ、はっ……!」
水切りのように、水面を跳ね飛び駆ける黒い影。咆哮のごとき笑い声が轟く。
「クハハハハ!! いい脚捌きだ!」
閃光が数度瞬くと、そのすぐ側の海面を次々と切り裂いて行く。預言者ほどでは無いにしろ、一瞬で海面が縦に割られ、水蒸気の膨張を残して足場が消え去る。
咄嗟に海面を蹴り、次の足場まで飛び越えるコウタだが、背中を押すかのようにありがた迷惑な爆発が襲いかかる。
「バカヤロー!!」
コウタ渾身の叫びが海原に、水蒸気に呑まれて消える。
――もう何度目になるだろうか。5回目くらいで数えるのはやめた。どうもそこまで精密に狙ってはおらず、爆発によるダメージと足止めが目的のようではある。
つまり、足を止めると大技が飛んでくる可能性が高い。
「ひとまず耐久と、その逃げ足は褒めてやろう!」
「人間性とかで褒められたい!」
「だが、逃げてばかりでは合格点はやれんぞ?」
「別に落ちてもいいけど……! なんか癪だし痛い目見せてやる!」
そう言ってコウタは一転し、リヴァイアさんの麓まで駆け――水上を滑走してゆく。地面と比べて摩擦の少ない水面、急には止まれないが、それはリヴァイアさんとて同じ。
「――む!」
加速は出来ても、急減速、ブレーキは効きづらい。それは質量が増えるほど顕著だ。動作予測が簡単で、大振りな技でも攻撃が通る。通ってしまう。
「機式剛術!」
コウタは加速の勢いを保持したまま、右足を軸として回転しつつ、ストッパーとなる左脚を水面に強く踏み込み――蹴り付ける。その加速力と踏み込みの反作用、つまり足場の力を捻れによって合わせる。
両足から伝うエネルギーを更にアークのエネルギーと合わせ、迅速に、コンパクトに、かつ、広く、その背で叩き込む。
「メカ山靠!!」
ブレーキが効かないために従来のかたちとは違い、ほとんど体当たりに近い。が。
コウタが備えた莫大なエネルギーが一気に炸裂し、リヴァイアさんの身体を構成する水面が激しく波打ち、全体がへし折れんばかりにぐわんと大きくたわむ。
「ぐお……! これは……!」
想定外の威力に戸惑うリヴァイアさん。接触部から一瞬で伝わった莫大なエネルギーを一身に受け止めるが、有り余るそれはついにその巨躯を仰け反り、宙に浮かせた。
しかし、そこまでだ。浮きはする。たわみもする。ダメージすらあったかもしれない。だが、固体のように決壊はしない。
――感触こそあるが、水の入ったビニールか何か、頼りないが崩れもしないなにかを叩くようだった。
「これで足りないのか……!? 結構溜めたんだけど!」
積載量満載の大型トレーラーですら軽く数十メートルは吹き飛ぶほどのエネルギー量であったが、リヴァイアさんはそれに耐えた。
地面ではないためにブレーキが効かず本来の威力ではないとはいえ、それを差し引いても水面を手のひらで叩くほどに頼りない。ある程度は押し退けられても、その圧倒的な質量と融通性の前にほとんど無に帰している。
「……ふむ。ワイバーン級程度の大きさならばほぼ即死だろうな」
「どう見ても効いてない!」
「そこはほれ、儂は龍王であるからの」
「マジで僕の相手バケモンばっか……!」
そう悪態を吐き捨てるコウタだが、降伏は初手以外選択肢にない。外れ値との邂逅および戦闘はもう三回目を超えているのだ。慣れてきてすらいた。
「……水の鎧が厄介だな。シンデレラと同じか? けどあっちは灰でyogiboみたいだったし、殴れば弾けた。こっちはエクスプロードも効かなそう。それにこの大きさ。端は水中か?」
シンデレラの時のように指向性エネルギーを与えて爆散、という手を取るのは難しいだろうと、コウタは結論付けた。
アークのエネルギーは変幻自在だが、物質の強度や密度により与えられるエネルギーの密度も変わる。例えば氷なら保持できるエネルギーでも、水や水蒸気はその密度の低さから、エネルギーを保持出来ずに逃がしてしまうのだ。
「なにやら小細工を考えているようだが、我にはあまり効かぬぞ」
「小細工ってかやることは割と力技なんですが。ちなみにですけど毒とかは効きます?」
むろんコウタは毒など出せない。出せたとしても、宇宙線にすら耐え、なおかつ超巨体のリヴァイアさんには毒類は非常に効きづらく、抗体の種類も豊富だ。仮に効くものを用意できたとしても、それらをトン単位で接種させなければならない。
「効かぬが、発想が容赦ないのう。ナントカ条約でそういう類の兵器は禁止ではなかったか?」
「核使っといて言います?」
「問題あるまい。核融合ゆえ放射線も少ない」
その代わりにエネルギー量が数倍であり、放射線もゼロではないのだが、勉強不足のコウタはまだそれを知らない。
――完全に遊ばれている。それに対して腹が立つわけではないが、いかにももどかしい。
内心歯噛みするコウタをよそに、リヴァイアさんは食レポでもするかのように分析をはじめる。
「ふむ……耐久、次いで速力は凄まじいな。数千年生きておるがこうも耐えられた記憶はないぞ。しかし攻撃は特筆することはないか。魔法を使う様子もなし。……つまりは奥の手があるな? この龍王に手加減なぞ、勇者様はお優しいのお」
硬く素早いだけでは勇者には選ばれないだろうと、リヴァイアさんはコウタが全力を出していないことを看破した。
普通ではない攻撃力をあえて普通と貶し、それをけたけたとわざとらしく嗤いあげるリヴァイアさんだが、そのテの挑発はコウタには効かない。
「老体とて慮るな。それは侮りと知れ。儂を嘗めておるのか?」
そもそも出さないのではなく、出せないのだ。これはアークの出すエネルギーの性質が起因する。
アークのエネルギーは隣接するエネルギーの影響を受ける。運動なら運動、熱なら熱と、まるで感染するように変質していく。そのため、チャージ部位を固定しておく必要がある。仮に脚に溜めるとするなら、ほとんど歩くことすらままならなくなる。
「神器は無理でも、どこでもブラスターのひとつでも持ってくれば良かったな」
――体感からして、リヴァイアさんに効く攻撃を撃つには30秒以上のチャージが必要だ。海面ということを差し引いても、遊ばれていることを加味しても、それはあまりにも悠長すぎる隙だろう。
となれば。心の底から不本意であるし絶対にやりたくもないが、スレンヒルデにそうしたように、再び死地を呼び込み、飛び込むしかない。
「……そっちこそ、龍王って割にドラゴンブレスのひとつも使わないなんて、人の事なめてるんじゃないか?」
――正直、かなり馬鹿なことをしようとしている。普段なら絶対にやらないし、なんなら止める側に立つ確信がある。
そんな考えを胸中に抱きながら、意を決して必要のない息を深く吸い込み、その確信を嘲笑うかのように叫ぶ。
「勇者たる僕を怒らせるのがそんなに怖いのか! ドラゴンブレスでもなんでも撃ってこいやぁ!!」
虚勢、挑発、啖呵。むろん本心ではないが、完全な嘘でもない。
何かしらの矜恃だろうか。ほとんど強がりではある。けれども、不思議と「なめやがって」という気持ちは、確かにコウタの胸の内に湧いているからだ。
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