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機人転生 ―機械の身体で魔法世界を生き……たくないよ!? 肉体返して!―  作者: 島米一尺
魔法も科学も関係ない。どっちもよくわかんないから。
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no.067 問題はない!! 15000kmまでなら!!!

よろしくお願いします!

 勇者となってしまった翌日、明朝。朝食のパンを咥え、コウタはいつものように全力疾走していた。



「うおおおお! 遅刻遅刻遅刻ー!!」



 今回の旅程はアストからウィカルまで、直線距離でおおよそ8000kmの道のりだ。



「くそ、パンが塩味だ!」



 当然その間陸続きということもなく、当然のように洋上を駆けることを強いられている。

 むしろ周囲にほとんど気を使わなくていい分、陸より気楽とは、もちろんアミスとメニカの弁だ。ちなみに全身が金属のコウタには浮力なんてものはなく、足を止めようものなら深海までノンストップだ。



「ちゃんと道合ってんのかな。僕どっちから来たっけ……?」



 見渡す限りの青と蒼。天地も前後も左右も青、蒼、碧。高速道路よりも数倍単調な景色は、視界にルートガイドがありながらも前後不覚となるのも当然であった。

 しかし、コウタの不安をよそに、依然針路は良好である。

 波打つ水面もその脚力とスタミナの前では殆どコンクリートの地面と変わらず、夜ごと駆け抜けたにも関わらず、殆ど最高速度を維持していた。



『上陸まであと二時間です。あと、ユーリさんからメールが来てます。発表はまだ先だから、勇者ということは隠せ、と。お土産も欲しいそうです。甘いものがいいと』

「とりあえずうるせぇ馬鹿って返しといてください」



 コウタがウィカルに向かっているのはもちろん、件の学校に行くためだ。だが何故、ろくな装備を持たずに洋上を駆けているのか。

 その答えはとてもシンプルだ。差し迫った期限の中、それが最善の手段だったからだ。



「それにしても人権がなくなるの早過ぎ……いや、前からこんな扱いだった気もするな……」



 ブルースワローは長距離電磁砲狙撃の影響で墜落して故障しており、修理まで数日かかる。さらにアストの飛行場は現在、復興支援やら軍のなんやらで埋まってしまっているため、民間の飛行機は軒並みストップしている。

 仮になんとかメカーナに戻ったとしても、何時間かけてメカーナに戻り、またそこからウィカルに何時間もかけて行くより、コウタが全力で走った方がまだ早く着くという結論が出た。



『ごめんねコータくん。ブルースワローを直したらケイトに送って貰うからさ、それまで先行って待っててね。他のメカニックに浮気しちゃダメだよ?』

「メニカ以外には見せないよ。機密らしいし」

『プロポーズ? いいよ。あと二年待ってね』

「今のプロポーズ要素あった?」



 メカーナではサイボーグがメンテナンスを一人に一任するのはプロポーズに等しいものとする文化――などは当然ない。仮にそうだった場合、おっさんとおっさんの婚約が爆増してしまう。



『私も見てますよコウタさんの機密! 重婚します?』

「アミスさんは人としてカウントしてないので」

『ひどい!』



 最低の提案を最低の振り方で突っぱね、コウタはなおも海上を爆走する。

 ちなみに今回、アミスは着いてきていない。ウィカルではオートロイドは特に目立つ上、そもそも戦闘任務ではないため急を要していないのと、なにやらメニカと企み事があるため、一旦は離れ離れということになった。



『寂しいと思うけど、用意が出来たらすぐ行くからね』

「どうせすぐ会えるだろうし通信は出来るし、別に寂しくないよ。隊長とハスキィさんたちに挨拶しそびれたのが気になるけど』

『私から言っとくよ』



 メニカが諸々の準備を済ませ、出立可能になるまでおおよそ一週間程度の見込みだ。コウタは完全に束の間の自由を楽しむ気でいるが、それにやれやれと文句を付けたのはアミスだった。



『やれやれ! もう! コウタさんは女の子ゴコロがわかってませんね! そこはあいみすゆーとぅーと返すべきなんですよ! はーやれやれ!』

「うざ」

『うざ!?』

『いいよアミスちゃん。コータくんがツンデレなのは今に始まったことじゃないからね。身体と同じでかったいんだこれが。どっちもそこがいいんだけど』

『むむ……。コウタさん、私の野次馬根性が叫んでますよ? 抱け、抱けー! って』

「そのまま喉枯れるまで叫んでてください」



 アミスの戯言を迫る波と共に海原に聞き流し、コウタは景色の変わらぬ水面を突き進む。

 それから一時間ほどして、ちょうど退屈がピークに達してきた頃。



『うーん、ドレス型アーマーも捨て難いなぁ。飛べるスカートがいいかな。式場は宇宙ステーションってのもいいかもね。コータくんはどう思う?』

「その話まだ続いてたの!?」

『もう、ちゃんとして? 式の段取りで不満が溜まって離婚するケースって結構あるんだから』

「莫大なお金があれば解決するんじゃない? よくわかんないけど」



 コウタが実に夢のない解決策を提案したその時、聞き慣れない警告音が大爆音で鳴り響いた。



「うるさ……!」

『救難信号受信! 同時に高魔力反応探知! 共に進行方向です!』

「この辺陸地見えないですけど、船ですか?」

『小さい無人島がいくつかあります。航空、海上共に運行予定にはないので、おそらくは個人レベルの遭難かと。救難信号を送れているあたり、私有船が座礁したとかでしょうか』

「魔力反応が気になりますけど、どうせまたドラゴンでしょ? 僕知ってます」



 度重なるドラゴンとの遭遇により、コウタは高魔力反応=ドラゴンと認識していた。危険であるという認識としては合っている。



『ちょっと待ってね……あ、もしかして。アミスちゃん、リヴァイアさんの予想進路は?』

『あ! えーと……あー。まるかぶりしてますね』

「リヴァ……なんでしたっけ」

『リヴァイアさんです』

「えーっと、公民のやつ?」



 コウタが想起したのは政治哲学思想の方のリヴァイアサンだが、この場合のリヴァイアさんはそれの元となった、本当の意味の方の海龍だ。

 リヴァイアさんは超巨大な一体の海龍であり、意志を持って動き回る一本の海流だ。史上初めて人類と地球人類型言語による対話を行った人類以外の知的生命体であり、その蛇型ゴジラのような見た目とは裏腹に、とても友好的な存在だ。多くの隕石が海に落ちるのと同じく、海に落ちた龍の卵が悪用されないように回収して回っている。



『違います。リヴァイアサンのリヴァイアさんです』

「なんですかそのクソしょうもないダジャレは……」

『案外そうでもないですよ? 例を挙げるならグッドマンさんとか、タカヒトさん、みたいな感じですよ』

「……なるほど?」



 コウタが納得したように、種族名を個体名に用いることは人間社会的になんら不自然ではないのだ。なお、正式名称はリヴァイア・ストリームだ。



「で、そのリヴァイさんがどうしたんですか?」

『地球中の海を回遊してて、今回はたまたまこの付近に来ているんです。海に沈んだ龍の卵を回収してるので。とても強くて、かつ強烈な魔力を発してるので、監視対象になってるんです。友好的なんですけどね』



 だが友好的といえど、その性質そのものは人類にとって害も多い。リヴァイアサンが放つ魔力は極めて強く、周囲数キロから、場合によっては数百キロが電波障害を引き起こすほどだ。 ついでに放射線も放っている。

 実際、一世紀弱前に初めて地球に来た時は、アーサー・ライズ=ナイツが派遣されるほどの事態にまで発展した。



『コータくん、助けに行くのはいいけど、魔力障害で通信切れちゃうかも』

「それ割と起きてるけど、どうにかなんないの?」

『魔力と電波ってめちゃくちゃ似てるから干渉し合っちゃうんだ。逆に魔力通信使ってるなら電波が多いとこだと通信しづらくなるよ』



 互換性を持たせた通信方法もあるにはあるが、結局のところ濃度が高いとそれさえも阻害されてしまう。

 そもそも通信出来ないほどの高濃度の魔素あるいは魔力に浸るなど、余程の危険地帯か強者との戦闘でもない限りそうそうありはしない。幾度もその死地に飛び込んでいるコウタがおかしいのだ。

 当人はそんなことはいざ知らず、気の抜けた返事で返すのみだ。



「へー」

『テキスト読んでないの? 割と最初にやるとこだよ?』



 魔法も科学の一分野であることは常識だ。極端に魔素が薄く、国土のほとんどで魔法が使えないメカーナにおいてもそれは研究されており、当然教育のカリキュラムに組み込まれている。



「まず教科書貰ってないよ」

『あ、そうか。口頭で予習しとく?』

「うーん……いいや。覚えられる気しないし、なあなあでなんとかするよ。というかそっちいま夜でしょ? 早く寝なよ」

『やることあるしまだ寝――』

「……メニカ?」



 ぷつん。ノイズが走る間も無く通信が途切れた。ミスゴンの時と違うのは、コウタが高速で高濃度の魔素領域内に突っ込んだからだ。



「……アミスさんも通信不能か。これ既にナワバリに入ったってことなのかな。友好的とは言ってたけど。さっさと抜けた方が良さそうか」



 ――懸念はある。友好的ではあるが、決して味方ではない場合だ。人類の思考では理解できない地雷を踏んでしまう可能性は充分にある。



「救難信号が届いたってことは、魔素領域範囲外での遭難かな。方角が同じならもっと先か?」



 国際規格として規定されている救難信号は魔力と電波双方に互換性があるが、今回のような高濃度魔素領域内では使い物にならない。

 つまり信号が届いたということは、要救助者は魔素領域外にいるということだ。



「結局走り続けるだけなのは変わらないか」



 ――現状、この魔素領域がどこまで続いてるのかもわからない。引き返せば脱出出来るのかもしれないが、そうでなかった場合が厄介だ。

 ミスリル鉱山とは違い、リヴァイアサンは自由自在に動くらしい。引き返す動きに追随されては元も子もない。


 少し悩んで、コウタはこのまま突き進むことにした。



「反転するのめんどくさいしこのままでいいや」



 通信が切れたことでGPS機能も不調になり、方向がよくわからなくなっている。ただでさえ前後不覚の海上にいるのだ。視界のガイドにそってただ真っ直ぐに進むしかない。



 ふと急に影がかかり、辺りが暗くなった。



「雨でも――」



 雲の位置を確認しようと天を仰いだその瞬間だった。



「へぶっ!?!?」



 突如、コウタの前面を凄まじい衝撃が襲った。

 なにかに攻撃されたとかではなく、むしろコウタの方から減速なく突っ込んでいった。

 少しだけ弾力のある壁は半音速の鉄塊を押し返し、水切りのような軌道で水面を跳ねさせた。



「いってぇ……」



 コウタは数百メートルほど後退したところでようやく止まる。

 分厚いゴムでぶん殴られたような感触が残る患部を確かめながらコウタは立ち上がり、そしてすぐにそのことへの違和感に気付いた。



「……なんで浮い……立ってるんだ僕」



 ここは相も変わらず海面で、のっそり立ち上がるなんて真似事は不可能だ。

 コウタが下に目をやると、足元を10cmほどの水が漂っており、その下にとてつもなく巨大な、パンパンに空気が詰まったビニルの浮き輪――のような質感のなにかがあった。

 波の少し下で堂々としているそれは、おおよそ波の立つ海面とは思えないほどの安定感でコウタを支えていた。



「さっきと似た感触……」



 コウタはその地面(?)をぐにぐにと脚で押しながら、記憶にある触感と擦り合わせる。恐らくはこれにぶつかったのだろうと当たりはつくが、何故、どうやってかまではわからなかった。



「端っこは……見えないな」



 その全貌は一見しただけでは把握出来ないほどに大きい。航空写真でもなければそれを把握することは不可能だ。

 だが、コウタはその正体について心当たりがあった。それも当然だ。つい先程までその話をしていたのだから。



「……出来れば穏便に済ませたいなぁ」



 コウタの全身に影が差す。やはり雲は出ていない。だが、今度はその原因がわかっていた。既にそれと真正面から顔を突き合わせているからだ。



「でっけー……」



 あまりの大きさに感想すらも大雑把になる。

 コウタが目視したのは頭部と胴の一部だけだが、大きさの制限がほぼない海洋生物だけあり、その顔面だけでドラゴンを丸呑みにできる大きさだ。



「ヒトの子よ。む。子か? そもそもヒトか? ……まぁいい」

「喋っ……いや喋りくらいするか」



 シンデレラの件があり、コウタは龍が人語を発した程度では動じなくなっていた。



「儂のことは敬意と共に、リヴァイアさんと呼ぶがよい」



【龍王】リヴァイア・ストリームがあらわれた!


 コウタはどうする?


 にげる

 はなす ◁

 たたかう


 コウタの平和外交がはじまった!









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