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機人転生 魔法とSF科学の世界に来たはいいけど、身体が機械になった上にバトルの八割肉弾戦なのなんで?  作者: 島米拾尺
第二章 力を持つ者が惹かれ合うのは物理学的にも証明されている。
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no.065 この中に何人か勇者がいます

よろしくお願いします。

 ――珍しく、生身の夢を見た。

 願望が入っているのか、元気に外を遊び回り、友達と遊び、可愛らしい女の子といい感じの関係を築きそうになっていた。

 それを俯瞰で見ていた。そんな夢だ。


 そんな夢から覚醒すると、コウタは天井を見上げていた。その天井を知るか知らぬかは彼にとって重要ではなく、何を見上げるかの方がよっぽど大事だった。



「……同じ見上げるならおっぱいの方がいいよな」



 コウタは覚醒にはまだ程遠い様子だ。夢を見てはいないが、現実を見てもいない。

 その発言を傍らで聞いている男がいた。



「起きるなり何言ってんだお前」



 鼻で笑うように呆れながら、土産物のメロン半玉に炭酸飲料(極甘シロップ入り)をぶち込んだものをスプーンで掬い、いまにも頬張ろうとしている、ユーリ・サンダースがそこにいた。



「っ!? ユーリ!? なぜここ……てかここどこ! そもそもいつ!? そのメロン僕の!?」



 とてもわかりやすい混乱を見せながらベットから転げ落ちるように出たコウタだが、ユーリはそれを落ち着かせるべく、優しげな声音でその全てに答えてやる。



「落ち着けコータ。俺がいるのはお前らの護衛ってとこだ。ここは普通に病院で、例の件からはちょうど一週間だ。メロンはやんねぇぞ」

「メニ、アミ、ケイ……隊長、マリアさんは……!?」

「全員無事だ。多少の怪我はあるがな。マリアはそこにいるぞ」



 ――ユーリが指を指す方に向くと、マリアがそこに居た。いたる所が包帯だらけだが、見える箇所では大丈夫そうに見える。

 この際無駄に豪奢でバカでかいベッドに腰掛けながら、ステーキを頬張っているところは無視する。



「もぐもぐもぐ……ごくん。コータさん、ごきげんよう」



 マリアはつ、とシーツの端をつまんでスカートに見立て、座りながらではあるがカーテシーのような仕草で軽く会釈をした。

 向こうが見えなくなるほど皿が積み重ねられており、既にとんでもない量をその胃袋に収めたことが窺えるが、コウタはそれを見なかったことにした。



「……勇者なのに相部屋なんですね」

「いや、こいつが勝手にベッド持ってきただけだ。担いでな」

「なにしてるんですか……?」

「一人は寂しかったんですもの」



 デカさと可愛らしさのギャップにコウタは脳がバグりかけた。



「マリアさん、腕とお腹は……」



 コウタの記憶の中のマリアの最後は、隻腕で、土手っ腹に風穴を開けられながらも、スレンヒルデに一矢報いたところで止まっている。



「内臓の損傷が激しかったですが、おいしいごはんをたくさん食べたので完治しましたわ。腕の方は再生ギプスで再生中ですわ。感覚がありますのでもう少しかと」

「人間ってそうだっけ……?」



 科学技術と魔法技術の融合は、医療も飛躍的に発展させた。腕の一本や二本程度は、充分生やすことが出来るのだ。

 マリアがつけられている再生ギプスは、科学魔法技術によってアストで開発された。



「こいつ翌日から肉食ってたからな。胃袋に穴空いてんのに」

「なるほど人間じゃないのか」

「コータさん。おぶちたたきつぶしのめしますわよ?」

「どれが何かわかんないですが遠慮しときます」

「おほほ、お冗談ですわ。わたくしお淑やかなお淑女ですもの。そんな乱暴なこといたしませんわ」



 乱暴ではないものの豪快ではあるな、とコウタの頭には「果たしてマリアは淑やかか」という疑問が浮かんでいたが、ユーリがそれに小言をつけ加えた。



「お淑やかなお淑女はドラゴンステーキ三桁喰わねぇよ」

「あら目敏いですわユーリさん。シェリーちゃんにおチクリましてよ? コータさんへのお見舞いの品をお食べ尽くしてることを」

「やっぱりそのメロン僕のじゃん! クッキーとかのゴミもまさか君か!」

「バレたか。まぁ減るもんだけど許せ。残り食うか?」



 そう言ってユーリが差し出したのは、身がごっそりくり抜かれてぺらぺらの皮となったメロンだった生ゴミだ。



「皮じゃん」

「喰えるだろ。お前消化器官物理的に強そうだし」

「全部の歯が虫歯になればいいのに」

「俺は病気しねぇ体質なんだ」

「君の歯にだけ通用する虫歯菌を開発したい」



 ユーリはその生ゴミをゴミ箱に投げ捨て、残っていた極甘の炭酸飲料を一気にあおる。



「げふ。それよりコータ、よく勝てたな」

「露骨に話逸らすね。あれは勝ちに入る……いやまぁ入るか……」



 複数人で寄ってたかって、勇者も交えて、さらにほぼ無敵、エネルギー無限状態で秘密兵器をいくつか踏まえて、ようやくもぎ取った撃退という結果だったが、コウタは一瞬迷うだけで、それをすぐ白星に含めた。



「潔いいな。下手に謙遜してたらぶん殴ってやったのに」

「だって僕弱いもん。千回やって一回だけ勝ったとしても、一生その一回を擦り続けるよ」

「いい性格してんな」

「へへ」



 コウタからすれば、宝くじの一等に一度でも当たれば一生涯自慢出来るのと似た感覚だ。皮肉らしい返しにだって得意げになる。



「そういやユーリ。今日シェリーちゃんは来てないの?」

「別にいつも一緒って訳じゃないが……。あいつは基本的に医療施設出禁だ」

「彼女に何が!?」

「あいつの体質の問題だな。本人は全く気にしてねぇから変に気遣うなよ」



 シェリーはその体質から、医療施設や介護施設、小等部以下の学校施設など、免疫力や体力の低い者が居る場所への立ち入りを全人議会から原則禁じられている。

 なおユーリの言う通り、シェリー本人はこの件を全く気にもかけていない。弱者を気遣うのは強者の責務としているからだ。



「それで、本題に入るが」



 雑談は打ち切り、ユーリは本題を伝えるため、真剣な眼差しでコウタに向き直る。



「コータ。お前の沙汰が決まった」

「……沙汰って。物騒だね」



 わからないふうな口ぶりと態度だが、コウタとて、理解していないわけではない。


 ――傷病人の護衛というのなら、もっと外を守るべきだ。それをせず、ユーリが目の前にいるというのは、なにか他に用があるからという可能性が非常に高い。


 適合しないはずの神器を持ち上げ、多くの助けがありながらも、堕者を退けた。

 枕詞がどれほど着こうと、それそのものが持つ意味を。



「処刑なら普通に逃げるよ僕」

「俺から?」



 ユーリは感心してそう言いながら、挑発するような笑みを浮かべている。コウタの頭には、全速力で逃げても先回りされたという記憶がよぎった。



「……先に金的五発くらい入れていい?」

「私的に殺すぞ」

「ちっ。じゃあいいや。早く罪状を読み上げてよ」

「罪状言うな」



 ユーリはコウタの見舞い品の中から、丸めた羊皮紙のような紙の筒を取り出した。その封蝋を電気で焼き切ると、しゅるりと滑らかにその紙を広げた。ひとつ咳払いをし、声音を整えて続けた。



「【はじまりの勇者】アーサー・ライズ = ナイツに代わり、【雷の勇者】ユーリ・サンダースが宣言する」



 ユーリはうだうだとコウタの功績が書かれている前置きを無慈悲に読み飛ばし、早速本題を読み上げる。



「『円卓の主席【はじまりの勇者】アーサー・ライズ = ナイツの名において――』」



 ――ユーリが読み上げるそれは、その声音や表情、マリアの穏やかな笑みからむしろ、罪状よりかは、表彰かなにか、慶事であるのだろうと感じた。



「『メカーナ国のオートノイド、キガミ・コータを――』」



 ――もしかして、自分は取り返しのつかないことをしてしまったのではないか。

 被害を出さずドラゴンに勝利し、偽装ながらも神器を挙上し、命からがら堕者を退けた。そのどれもが賞賛に値するとは自分でも思うが、まさか。


 コウタの脳裏に過ぎったのはある記憶だ。ユーリ・サンダースとはじめて邂逅した際の、会話のワンセンテンス。

 そして、無慈悲にその審判が告げられる。そして、本当の意味で知ることになる。



「『【黒鋼の勇者】に任命する』」



 ドラゴンに勝利し、神器を挙上し、堕者を退ける。その偉業が持ってしまう意味、付加されてしまう価値、そして、自らが背負ってしまった責務を。


ありがとうございました!

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