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機人転生 魔法とSF科学の世界に来たはいいけど、身体が機械になった上にバトルの八割肉弾戦なのなんで?  作者: 島米拾尺
第二章 力を持つ者が惹かれ合うのは物理学的にも証明されている。
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no.064 一名限定片道宇宙旅行

よろしくお願いします

 


 コウタの全身全霊を込めた大撃砲は深さ数十メートル、長さ数百メートルにもおよぶ巨大なクレバスを作り出し、アストの大地に甚大な被害をもたらし、またも【十秒前の世界地図】を描き換えていた。



「はぁ、はぁ、はぁ……!」



 ――間違いなく直撃を目視した。だが。

 右肩口から袈裟斬りになった創傷と、夥しい鮮血が散っている。しかし。

 完全に殺してもいいつもりで放った。それでも。



「くそ……!」



 やはり、スレンヒルデは生きていた。

 ひと目で只事でないとわかる傷を刻まれながらも、その表情は恍惚に満ちていた。



「素晴らしい一撃です……! 直撃すれば! 私とて絶命していたでしょう! そう思えるほど! 強烈、豪胆! 間違いなく勇者のそれと言って過言ではありません!」

「このパターン何回目だよ……! もういいって……! もう飽きてるって!」

「ふふ、貴方にも同じことが言えますよ?」



 愉悦とも歓喜とも取れる様子のスレンヒルデに最早辟易としながら、コウタは突如襲ってきた強烈な脱力感と眠気に抗っていた。エネルギーを一気に放出した反動だ。



「……っ。今のを、よく、耐えたね」



 意識を保つべく、脳を回転させるため、時間を稼ぐため、コウタはなんとか言葉を紡ぐ。

 笑う膝を恨めしく思いながらも、手に持つ神器を地に下ろしはしない。



「やはり、戦闘経験が圧倒的に不足していますね。私にも防御手段があるだろうということは、容易に想像が出来たはずです」

「……確かに」



 攻めるか避けるかで、今までスレンヒルデがろくな防御をしていなかったのは、防御する術がなかったのではなく、防御するに値しなかったということだ。攻撃は最大の防御であるし、そもそも避けられるならば、防御する必要は無い。



「次回以降への改善点としてフィードバックしとくよ」

「あるといいですね。その機会が」



 スレンヒルデは槍を振りかぶる。彼女が何かをするよりも速く、それをなんとかする作戦を組み立てるより早く、既にコウタの身体は駆け出していた。



「――っ!」



 残りカスのエネルギーをかき集め、生成したそばから送り込み、無我夢中で大地を蹴る。

 軽く500kgは下らない神器を携えながら、引きずりながら。最高速度には及ばないが、それでも数秒の間にその距離を詰めてゆく。

 コウタにろくな策はない。

 最短でまっすぐ一直線にいって全力の一撃でぶっ飛ばす、というシンプルな命令を、頭が下す前に全身が動き出しただけだ。



「ぐぎぎぎ……!」



 これが正真正銘、全身全霊を込めた最後の一撃。これを撃てばコウタはスレンヒルデの攻撃を待たずダウンするだろう。

 だが待たずとも、気合いによるアディショナルタイムはそう長くなく、ものの一分もしないうちにそうなる。

 だから、走り出したのだ。


 だが、それでも。



「死に体でそこまで動く精神力も評価に値します。ですが」



 スレンヒルデには三歩、届かない。



「まだ、遅いですよ」



 スレンヒルデは抑えていた魔力を解放し、そのほとんどを神器へと吸収させる。それだけではない。防御の際、神器にコウタの大撃砲から吸収していたいくらかのエネルギーも合わせ、特大の出力とする。

 なにもこれはグングニルの性能によるものではなく、全ての神器が持つ、周囲のエネルギーを取り込むという特性によるものだ。

 ともかく、スレンヒルデは何度目かになる、爆炎を纏う槍を携えた。



「さようなら。勇者となれた傑人よ」



 スレンヒルデに油断はない。足場の確かさや伏兵の有無、標的の位置予測など、この期に及んでも基本は怠らない。

 勿論コウタからは注意を切らさないし、なにやら策を弄していることも知っている。

 それが恐らく超長距離狙撃だということも察知しているし、ほぼ掠りすらしないことも悟っている。万が一それが自身に命中する軌道だとしても、回避する用意も出来ている。


 だが、ただひとつだけ失念していた。

 マリアやハーク、コウタと比べれば明らかに異質でありながら、未だ戦場にいるその存在を。



『コウタさん! そのまま!』



 待ってましたとばかりに、アミスがマリアの傍から離れて、戦況に躍り出る。

 だが武装と言えるものはもう何もなく、やっていることと言えばただ放射螺旋状に触手を拡げていた。

 それをスレンヒルデは一瞥すらしない。

 地上型デカクリオネに戦況をひっくり返す実力がないことは、マシンに詳しくないスレンヒルデから見ても明らかだった。せいぜいが、コウタの付属パーツのような認識であった。

 だからこそ虚を突け、裏を掻き、風穴を空ける。



 〜〜〜〜


 コウタが超大出力の攻撃をする直前、メニカたちは作戦の最終確認をしていた。



「チャンスは一瞬かつ、一発だけだ……が。5km先の人間大の標的、その1.5秒後を予測して当てるなど到底不可能だ。だから策を講じる。アミス、聞いていたな?」

『もちろんです! して、私は何をすれば?』

「そこは私が説明するね!」



 ハークの傍らからひょこりと出てきたメニカが、待ってましたとばかりに空中に作戦の概要を投影した。



『これは……』

「アミスちゃんの浮遊機構は反重力に似た効果を用いてるよね?」

『はい。出力はそこまで高くないですが』

「そこに私の天才的なひらめきとアミスちゃんの力学魔法の解析、それらをまとめためんどくさい計算を経た結果、その機構は『力学魔法』とほぼ同じ構造をしてると判明した。今回はこれを使う」



 メニカにしては非常にざっくりした説明だが、状況が状況だ。いつもならば細かい理論やら機構やらを説明するが、今はその時間も惜しい。さらにアミスならこれで理解するだろうという判断でもある。



『なるほど! 私が座標を固定して、かつ反射先を絞るんですね! 範囲を絞ればそのぶん出力に回せます!』

「さすが話が早い! 出力調整プログラム送るね!」

『助かります! 通信切れちゃうかもなので時刻合わせしときましょう!』

「おっけー! 通信切断から20秒以内には攻撃開始するよ! 着弾時間はおおよそ1.5秒! 狙撃手はもちろん隊長!」

「必ず当てる。悪いがアミス、その後は任せた」

『了解です!』



 〜〜〜〜


 この作戦を受けたのがほんの数十秒前。

 コウタが作り出した立ち上る白煙と、巨大なエネルギーの奔流を皮切りに、既に引き金は引かれていた。



「グングニル・フル――」



 凶槍がまさに投げつけられようとしたその時。既に、乾きつつも重く、空気の壁を破る音が響いていた。ハークたちの放った超長距離狙撃が迫る合図だ。それもこれも、スレンヒルデの想定通り。

 ここまでは。



『――1.5秒、です!』



 アミスはメニカの通信を受けてから、ずっと自身の座標を固定させていた。

 遠方かつ動き回る1.5秒先の標的を狙い撃つことは無理でも、不動かつその位置を明確に知らせている標的ならば、技量と計算の精度にもよるが、命中させる確率は充分だ。



科学魔法(サイエンス)!』



 魔法による物理現象を魔導と呼ぶが、魔導にしか出来ない物理現象を科学的に再現することを、俗に科学魔法と呼ぶ。

 そして、擬似的に再現した反射とはいえ、たった数十メートルの距離ならば。その誤差はほぼ無視できるほどに小さくなる。



『メカニクス!』



 アミスの命令を受け、展開したマニピュレータを土台に反転の力を持つ力場が、メニカが算出した計算式に基づいて構成される。

 ハークが1.5秒前に放った超音速の弾丸は違うことなく面を捉え、その上を滑るようにして少しずつその軌道を変え、ほとんどその速度を損なわず尖端を反転する。



『――リアクト!!』



 それはスレンヒルデからは大きく外れる軌道であったため、そもそも攻撃として扱われず、そのため防御も回避もする必要がない。

 だからこそ、その油断ですらない不意を穿つ。



「……は?」



 コウタの背後から、その隙間を縫うように跳ね返った白銀の弾は、動線をスレンヒルデの右肩に引いていた。

 赤い液体が飛び散る。肩口に空いた風穴からは向こう側が望め、槍は支えを失って、ついにがらんと力なく落ちた。

 そしてアミスのスピーカーから、その狙撃手の声が聞こえる。



『お前用に開発した特製の対魔力弾。これが俺の気持ちだ。有難く受け取れ』

「先輩……!」



 痛みと歓喜と驚嘆と、様々な感情に顔を歪めるスレンヒルデだが。不意をつかれこそしたものの、まだコウタからの距離はある。



「……っ!」



 一旦距離をとるべく後ろに跳ぶ。が、そうはさせぬとばかりに、右足に植物のツタが絡みついた。

 それはスレンヒルデをその場に縛り付けるには弱かったが、動きを数瞬鈍らせるには充分だった。



「っ!?」



 その見覚えのある植物は地面を抉るように生えており、魔力の導線を辿れば、ほとんど屠ったはずの勇者がそこに居た。

 血と汗と泥と涙の混合物に這いつくばり、血に塗れた頬を拭うこともせず、頑としてその拳槌を地面にめり込ませ、絞り出した根性で、マリアは芽吹きを生み出した。



「お根性、ですわ……!」

「死に損ないが……!」



 スレンヒルデは苛立ちでマリアを睨み付けるが、すぐにその行為の愚かさを悔いる。

 叡智と根性で、既にその差が二歩埋まっている。

 そして一歩くらいならば、コウタは気合いで踏み潰す。



「――ぁあぁあ!!」



 スレンヒルデの意識と動きが一瞬鈍ったのを合図に、コウタは既に限界を超えている脚部に根性という名のエネルギーを送り込み、爆発的な加速を見せた。

 加速の勢いをそのままスイングスピードへと変換させ、超音速のアッパースイングがスレンヒルデに襲いかかる。



「――グングニル!」



 回避が間に合わず、咄嗟にグングニルを間に入れ身体への直撃を防ぐ。

 とてつもない激突音と衝撃波が辺りに炸裂し、ほんの一瞬だけギリギリと鍔迫り合いのような拮抗状態になるが、コウタはそれで止まりはしない。



「あ、とは……お任せ……しますわ……」



 ばたりと力なくマリアが倒れ、それに伴い植物からも力が抜ける。これ幸いとばかりにスレンヒルデは回避を試みるが、最早それを許すコウタではない。

 加速こそ止まったものの、その慣性とそれを生み出した剛力は未だ生きている。

 それらはコウタを通じて合わさり、神斧の刃先へと集約していく。



「任され、ました……!」



 だが、コウタは鍔迫り合いなど眼中にはなく、その勢いを微塵も損なうことなく、更に力を加え、スレンヒルデをグングニル諸共かち上げ、持ち上げる。



「おっ……らぁ!」



 コウタが気合いで力んだその瞬間、スレンヒルデに凄まじい重力が襲いかかる。

 コウタのボディからアークへ、アークから神斧へと、更なるエネルギーと命令が伝わる。

 メタルボディはそのエネルギーが最も効率の良い伝導を発揮するために、エネルギーに付き従うように動く。



「宇宙旅行のお返しだ……!!」

「これは――!」



 超加速によるGは地球重力の十数倍にも上り、グングニルで防いでいなければスレンヒルデは真っ二つになっていただろう。

 最早この物理学的拘束から逃れられる体力も猶予もなく、まるで神斧と身体が一体化したかと誤認してしまう程の推力と圧力が、その諦念ごと重力の鎖を引きちぎる。



「機式剛術!」



 コウタのそれに呼応するように、アークと神斧から眩い光が溢れる。

 天を穿つこのひと振りは、ついに解き放たれる。



穿天撃砲(がてんげきほう)!!!」



 仰角80度を超える超絶アッパースイングは、高く、高く、スレンヒルデを文字通り天まで吹き飛ばす。

 重力を振り切り、ソニックブームを撒き散らし、雲を突き抜けながらも加速は収まることを許さない。

 やがて第一宇宙速度に達したその白線は、空の彼方へと消えていった。



「へ、へへ……」



 全身の力が抜けたせいか、口部から力のない笑い声が漏れ、膝が抜けると時を同じくして、神斧をつなぎ止めていた手の力も失せる。

 神器はそのまま重力に従って、荒れた地面に重く突き刺さった。



「どんなもん、だ……」



 コウタは糸を切った人形のように力なく崩れ、不動となった神器に寄りかかりながら、ようやく、その意識を手放した。

ありがとうございました!

次話で二章完結です!

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