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機人転生 魔法とSF科学の世界に来たはいいけど、身体が機械になった上にバトルの八割肉弾戦なのなんで?  作者: 島米拾尺
第二章 力を持つ者が惹かれ合うのは物理学的にも証明されている。
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no.062 戦う理由を教えてください。はい。諸般の事情により、貴方をぶちのめします

よろしくお願いします!

 


 硬い金属がぶつかり合う高音が響く。しかしそれは武器どうしのぶつかり合いでなく、コウタが一方的に嬲られる音だった。



「ぐ……! この……!」



 片手に振るう斧は充分な速度を有しているが、スレンヒルデは最小限の動きで通り抜けるようにしゅるりと躱す。

 そしてすれ違いざまにコウタの四肢を斬りつけ、その剛体にかすかではあるが傷痕を残した。



「ん゛ん゛……!」

「やはり予想通り、あなたの身体は神纏の出力でなら貫ける。それでも爪を立てる程度なのは驚嘆に値しますが、ゼロとイチの違いは大きいですよ?」



 スレンヒルデはその振るう槍で、 今度こそ文字通りコウタの身を削ってゆく。

 コウタも負けじと撃ち返すが、躱すか払うか弾かれて、せっかくの破壊力を何にも役立てていない。



「当たれ……!」

「いくら神器を持ち上げたとて、偽装起動の出力では纏装神器はおろか、神正起動にすら適うはずもありません」

「知らない単語ばっか! なんもわからん!」



 纏装神器は、神纏により変容した神器のことを指す。この変化は一時的な強化形態のようなもので、莫大な魔力と周囲への被害を引き換えに、ほぼ全ての能力が爆発的に向上する。

 神正起動は適合者によって神器が起動することで、偽装起動は今のコウタのように無理やり起動することだ。

 その揺さぶったつもりのない揺さぶりはコウタによく効き、次の一撃を躱す隙を与えなかった。



「つまり結論は変わらず、私を倒せはしないということです」

「――っ!!」



 中段突きのような構えから、音速の槍がコウタの腹を穿つ。それは浅浅ながらその腹に突き立てられ、小指の先ほどの深さを抉り、彼を間合いの五倍ほど遠ざけた。



「戦いとは、始まる前に結果は殆ど決まっています。事前準備もそうですが、結局物を言うのは積んできた研鑽の数です。神器の奪取という、勇者が出張るであろう大任を単騎で任される理由がお分かりですか?」

「ぐ……、痛ぇ……。協調性皆無だから……?」



 コウタは素でそう返すが、文言は100%煽り文だ。痛みから出た本音とはいえ言って良いことと悪いことがある。しかし、スレンヒルデはその程度で気を乱さない。



「ふふ、単に強いからですよ。私が」

「それはもうこの身に染みてわかってるよ……!」


 

 疲労で弱体化してる上、コウタは神器までも手にしたのに手も足も出ないのは相変わらずだ。全身に刻まれた引っかき傷が、圧倒的な格闘センスの差を物語っている。



「それがわかっているというのに、貴方は依然立ち上がり、立ちはだかる。勇者でもない貴方が。それがわからない」

「……結果はわかってるんだからさっさと降参しろって?」

「そこまでは言ってませんが、貴方がここまで体と命を張る理由が気になったもので」



 スレンヒルデからすれば、コウタの戦闘技能はやはり素人と変わらない。物理離れした頑強さは確かに驚嘆ものだが、慣れればそう言うものとして戦える。事実、二度ほど戦闘不能まで追い込んでいる。

 だが、その意志もとい、意思の強さだけは解せなかった。



「戦う理由……じゃないな。諦めない理由……?」



 その問いにコウタは足を止め、少し深く考える。彼自身、なぜ自分がこうも真剣に立ち向かっているのか理解していなかったからだ。


 ――確かに謎だ。戦っているのは仕事だからと言う理由がある。この意思にもそれを言えばそれまでかもしれないが、そもそも自分はこんなに責任感があった人間だったろうか。

 走ったり、跳んだり、殴ったり、殴られたり。そんなのとは無縁だったから、嬉しい……という時期はとうに過ぎている。

 騎上晃太――もといキガミ・コウタを命懸けの戦いに突き動かす、そんななにかがあるはずだ。



「電車でお年寄りに席を譲ったり、落し物を交番に届けたり、店員さんにお礼を言ったり、外食でもごちそうさまをちゃんと言ったり……うん、そんな感じかな」

「……意味を理解しかねますが」



 スレンヒルデが訝しむのは無理もない。その行為自体の理解が出来ないのもあるが、そもそもコウタですら自分が何を言ってるのかあまり噛み砕けていない。だが、理性や理屈で整えられずに出たそれは、彼の本音が色濃く出ている可能性が高い。



「あの時ああすればよかった、なんて思いたくない。それならああしなければよかった、って思う方がずっと楽だ……これはちょっと違うかな。なんだろう……」



 ――戦えている理由はわかる。まだ立てるし、拳を握れるからだ。

 だがその先、その前がわからない。

 なぜ立てる? なぜ拳を握れる? なぜ、戦いの場に居る?

 理由は何個も何種も思い浮かぶが、そのどれもがしっくりこない。



「まず大前提として」

「はい」

「僕はあんたが大嫌いだ」



 普段は乱暴な言葉を使いたがらないコウタがわざわざ「あんた」と雑に呼んでいるだけあり、その嫌悪感は相当なものだ。しかしスレンヒルデは慣れているのか、特にこれといった感情の揺らぎを見せず、その本音に冗談交じりで返す。



「あら、悲しいですね。私はコータさんのこと好きですよ? ハーク先輩には劣りますが。しつこく立ち向かってくるところなど好感が持てます」

「皮肉だと受け取るよ」



 よよよ、とわざとらしい仕草をみせたスレンヒルデをコウタは軽くあしらい、話を続ける。



「お前は僕の大事……な人達を傷付けた。メニカを泣かせたし、隊長はメンタルグズグズな上死にかけだし、ケイトさんを強がらせて、アミスさんを真面目にした」

「……だから立ち向かうと? 月並みですね」

「それもある。けど、それだけじゃ多分ここまで頑張れてない」



 ――言葉にするのは難しい。だが、確かにそれは自身の内にある。



「……それをしなくても自分が自分じゃなくなるとかはないけど、そのあと二日くらいはちょっぴり引っかかる、なにか。それがいくつも束ねられてるから、僕は立つんだと……思う」



 正義と呼ぶには心許なく、偽善と腐すには純真で、無益と吐き捨てるには心に残るそれを、コウタは言語化するすべを持ち合わせていなかった。



「……まぁゴタゴタ言ったけど、まとめるとね」



 ――自分の深層心理はわからないが、こんな時に何を言うべきかはわかる。


 コウタは肩に担いだ斧を左手一本でまっすぐ、柄の突端でスレンヒルデに狙いを定めるように持ち直す。

 真っ直ぐ向けられたそれは銃口を向けるようであり、鋒を突き付けるようでもあったが、もっと相応しい呼称がある。



「諸般の事情により、あんたをぶっ飛ばす」



 それはまるで、予告ホームランの構えだった。






ギリギリセーフ!

来週も投稿します!

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