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機人転生 魔法とSF科学の世界に来たはいいけど、身体が機械になった上にバトルの八割肉弾戦なのなんで?  作者: 島米拾尺
第二章 力を持つ者が惹かれ合うのは物理学的にも証明されている。
58/69

no.057 決着

よろしくお願いします

 



「なんてお威力……!」



 拘束をまとめて引きちぎり、ユグドラシルを揺るがせる一撃にマリアは舌を巻く。

 その震源たる箇所には半径数十メートルもの巨大なクレーターが形作られ、硝煙と冷却の排気が混じった土煙がもうもうと立ち込めている。

 その傍らに、コウタは立ち尽くしていた。



「はぁ、はぁ……」



 呼吸が必要のない身体で息を切らしながら、コウタはたたじっと、己が開けた大穴の先にぽつんとある、影を見つめていた。

 その影が動くか、動かまいか。それを確認するためだ。

 コウタの願いはもちろん前者であったが、それはやはりというか、簡単に叶いはしない願いだった。咳き込む声の少し後に、何か大量の液体が飛び散る音が聞こえたからだ。



「がはっ……!」



 スレンヒルデの存命を認識したその瞬間、コウタは再び拳を引き絞っていた。



「まだ……! イグニッション!」



 リロードするかのように限界まで引き絞られた異形の右腕だったが、コウタのその命令に従うことはなく、代わりに警告音が鳴り響いた。



『警告 オーバーヒート 冷却完了までお待ちください』

「じゃあこのまま殴る!」



 コウタは歪な腕のまま、クレーターで仰向けになりながら倒れているスレンヒルデへと再び殴りかかる。

 ロケット推進がない分先程よりも威力は随分控えめだが、それでも充分な殺傷能力を持っていた。



「!」



 凄まじい勢いで進んでいたはずのコウタの拳は、ある地点でぴたりと止まってしまった。無論自ら止めるはずもなく、急になにかに抑えられるように動けなくなったのだ。



「くそ……!」



 土煙が晴れ、止まった拳の先が明らかになる。やはりというか、スレンヒルデがその諸手で止めていた。吐血と出血の混じった紅を全身に浴びながらも、フル回転させた回復魔法でも未だ癒しきれぬダメージを負いながらも、彼女には未だにそれほどの余力があった。

 抱き潰すように力を込められていく。

 金属が軋む音、亀裂が入っていく音、圧力超過のアラートが不協和音として聞こえる。



「この……!」



 間違いなく自身で最高の物理的一撃を叩き込んだはずだというのに、それが致命的なダメージになっていない。その事実はコウタに少なくない動揺をもたらした。

 殺意があったかと問われればそれには首を横に振らざるを得ないが、死ぬ可能性があることは考慮していた。それほどの一撃だった。

 だが現にスレンヒルデは生きており、息は途切れ途切れながら、超人的な回復力で回復しつつある。



「……貴方の敗因は。本気で、私を殺そうとしなかったこと。今の一撃も、躊躇なく頭を、潰すべきでした。そうしていれば……勝負は付いて……いました」

「……っ!」



 それが決して負け惜しみではないことを、コウタは閃くように一瞬で理解出来てしまった。その生半可な覚悟に、彼自身もたった今気付いたからだ。


 ――死んでもいい相手だとは思っていた。だから、余裕があったとしても手加減をするつもりなんてなかった。事実本気で蹴ったし、殴ったし、撃った。


 それでも、コウタには覚悟が足りなかった。

 頭蓋骨を粉砕し、脳漿をぶちまける覚悟が。引き金を引き、相手の人生を終わらせる覚悟が。おそらく一生涯消えない感触を、拳と脳にこびりつける覚悟が。

 スレンヒルデはそれ見抜いたからこそほぼ確信を持ってヤマを張り、自身の腹部に魔力を集中させ、致命傷を防いだのだ。



「……さて。残念ですが、そろそろお時間です。せめてマリアがもう少し保った、あるいは……もう一人ほど戦える方がいれば、結果は変わっていたやもしれません」



 勝ちを確信したようなスレンヒルデの発言に、コウタは動揺を隠せない。



「……何を言ってるんだ。まだ時間はあるはず」



 スレンヒルデが忠告した時間に偽りはなかった。アミスが魔力反応の接近速度から算出していた時間とほぼ同一だったことから、それは間違いなく真実だった。

 この瞬間までは。



「コータさん。これがブラフというものですよ」



 それはとても単純なものだった。

 スレンヒルデはグングニルを呼び寄せる際、加速を最高速に至る前で一旦止めて、再び加速させた。それだけだ。

 それだけで、コウタに少なくない絶望を与えた。



「『黒竜。断頭。爪を剥ぎ、皮を削ぎ、髄を抜く。赫灼たる金剛』」



 スレンヒルデはコウタの拳を受け止めたまま、解号を唱えはじめる。

 それは音の届く範囲を飛び越えて、上空のグングニルに伝わる。グングニルは詠唱を受け、予め受け取っていた魔力と反応して加速をはじめた。

 その瞬間、爆音の警告が鳴り響く。



『警告 魔力反応が急加速 着弾までおよそ20秒』

『速度が数倍になってます! 推定破壊規模も拡大!』



 アミスとレディの報告、そしてグングニルが爆発的な加速を見せたのはほぼ同時だった。


 ――風を斬る音、太陽と遜色ない光、身に染みるような熱。

 それらグングニルから放たれる力を、一斉に察知してしまった。

 どれも、ついさっきまでは感じすらしなかったものだ。



「バリアは!?」

『再起動間に合いません!』

「くそっ……!」



 スレンヒルデの懸念はコウタのA・F・バリアだった。カウンター気味にエネルギーを返されることもそうだが、それよりも、何物も寄せ付けない防御性能だ。容易く臨界魔法すらも防いでみせた。

 仮に物理的に正面突破が可能なものだとしても、諸々を踏まえると、失敗した時のリスクが大きすぎる。下手をすると相手の強化になりかねない。

 だから、こんな策を弄した。



「貴方のバリアはとても厄介ですが、性能の代償か、インターバルがかなり重い。まだ……そう、あと40秒ほどは使えないはずです」

「……ちっ」



 図星を突かれ、コウタは品がないことを承知しつつも、苛立ちから舌を打った。



「誇ってください。勇者でもない相手に、私がこんな小細工を弄したんですから。まぁ、誇れる相手が生き残っていれば、の話ですが」



 そもそもの話だが、敵にわざわざ次回の攻撃の詳細を教えてやる義理はないのだ。

 嘗めている、あるいは出方を見る段階ならまだしも、最終局面だ。スレンヒルデは既にもう、コウタにそんな温情をかけてはくれない。

 完全に排除すべき敵として認識してしまっている。



「『清流、研ぎ澄ます白砂。煮え滾る竈の裡』」



 スレンヒルデは二節目の詠唱を唱える。

 グングニルが更に加速する。



「……」



 コウタは最早それを妨害しようともしない。諦めているのか、はたまた絶望しているのか。口を噤んだまま、じっとスレンヒルデから目を逸らさず、微動だにしない。



「『七指の柏手。振る舞うは日輪の扇』」



 もはやそんなコウタに構うはずもなく、最終節の詠唱を終え、スレンヒルデはグングニルを迎えるかのように高く、高く跳び上がった。


 それから一秒ほど遅れてのことだ。

 コウタが遅ればせながらクレーターから跳び出て、叫んだ。


 

「マリアさん! アミスさん連れて逃げてください!」

『コウタさん!?』

「お承知いたしましたわ! アミスちゃん、失礼あそばせ!」

『わ、ちょ……! コウタさん! いくらあなたの身体でも、神纏の出力は……!』



 アミスはがしりとマリアの小脇に抱えられながらも、柄にもない心配をコウタに向けた。

 臨界魔法なら魔法の延長でしかなく、ある程度の予想はつけられる。だが、神纏による神器の出力向上とその影響は、彼女からしても未知数なのだ。

 それを、コウタはあっけらかんといつものように嫌味を交えて返す。



「普段から僕のこと散々酷い目に遭わせてるのに、この期に及んで心配ですか?」

『それは……!』



 被害者に直接それを口にされては返す言葉もないのか、アミスは続きを言い淀む。

 アミスが普段敷くそれは、許容範囲内での無茶や無謀だ。コウタもいつも文句を言いながらそれを理解していた。だから、この心配が道化でもなんでもないことも理解していた。

 しかし、退くわけにはいかない理由があるのだ。



「……僕が逃げたら、逃げた先に追従してくる可能性もあります。マリアさんが万全なら任せましたけど、たぶん今は僕の方が役に立てます」

『……!』

「勇者として恥ずかしいばかりですが、アミスちゃん。これはコータさんのおっしゃる通りですわ。今のわたくしはせいぜい数人の方を守れる程度。とても神器の一撃を防げそうにありませんもの」

『……』



 マリアは自身のなくなった腕の先を見つめながら、コウタの発言を肯定する。

 無論アミスとてそれは理解している。だが、その結論に納得がいかない人情を持ち合わせているし、自分の判断でコウタの身体がそうなってしまっているという責任もある。


 だが、彼は自ら立ち向かうことを選んだ。

 だから、彼女はもう沈黙するしかなかった。



「……お武運を、コータさん。後日盛大なお茶会を開きますので、是非御出席お願いいたしますわ」

「ありがとうございます。めちゃくちゃ高いお茶飲ませてくださいね」

「うふふ、とびきりお高いのを用意しておきますわ」



 優しげな笑みを残して、マリアはユグドラシルから飛び降りた。

 そして、コウタは改めて上空の光に対峙する。



「……レディ、通信切っといて。メニカからのも。多分うるさいから」

『了解』

「いくつまでいける?」

『継続戦闘を考えるならば2000 一度限りならば3000 生命を顧みないならば6000の出力が計算上可能です』

「よし――6000%、フルブラスト!!」



 コウタは上方に迫る光の帯に向けて、フルブラストを放った。

 昇る極太の光は堕ちる光を一瞬飲み込んだが、それに全く影響を受けることなく、グングニルは進撃を続ける。



『目標 依然として直撃コースを維持』

「ちっ! 次弾! 連続射出!」

『了解』



 今度はマニュピレータの先に装備している多様な武装に運動エネルギーを与え、礫脚砲のように次々、グングニルの予想進路へと射出していく。



「僕、結構諦めが悪いんだよね! 割とすぐに隊長を諦めたアンタと違って!」



 コウタは最早スレンヒルデの相手をすることはせず、ドッキングに用いた武装の各種を次々と起動し、それら全てを限界出力で射出していく。



「うおおお!!」



 だが、それらがグングニルの軌道を逸らすことはない。


「……さようなら。神纏(ジンてん)



 スレンヒルデはどこか寂しげ、悲しげな表情で、コウタに別れを告げた。

 サマーソルトキックをグングニルの石突に見舞い、その真名を告げると共に蹴り放つ。



神の裁杖(ダィンスレーヴ)



 完成した詠唱と、スレンヒルデの蹴槍により、グングニルは最終段階の加速をする。



「ハーク――」


 ――最後に感じたもの。それは光だった。


 一条の光となったグングニルは音速の十数倍の速度に達し、抵抗するように突き出された巨拳をバターのように切り開き、コウタに敗北の念すら悟らせる暇も容赦もなく、瞬きする間もなく呑み込んだ。



「――」



 それでも勢いは止まらず、極太の幹をまるで紙切れのように真っ二つに焦がし削り裂き、紅蓮の一直線をユグドラシルに描いてゆく。

 やがて、隕石をも越える速度と破壊を孕んだ凶星が、アストの大地に着弾した。




ありがとうございました。

二章もようやく終わりそうです

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