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機人転生 魔法とSF科学の世界に来たはいいけど、身体が機械になった上にバトルの八割肉弾戦なのなんで?  作者: 島米拾尺
第二章 力を持つ者が惹かれ合うのは物理学的にも証明されている。
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no.056 ブーステッド・スマッシュ

よろしくお願いします

「ほう……その心は?」

「時間ないし説明は戦いながら!」



 そう言って、コウタは何度目かになる突貫を敢行する

 疲れとダメージで動きに精彩を欠くスレンヒルデとは違い、そのマシンボディは一切の衰えがない。触手をタテガミのようになびかせ、やはり脅威的な速度で駆け迫る。



「いろいろ理由はあるけど! まず火力が落ちてる! 僕はおろかシールドすら溶かせてない!」



 度重なる炎ダメージを経て、コウタはその威力がどれくらいのものかわかるようになっていた。

 いくらシールドの耐熱性が高いとはいえ、スレンヒルデは本来音速の瓦礫すら難なく溶かす火力の持ち主なのだ。それが今も可能だとするならば、表面を焦がすだけに留まるのはあまりにも理にかなっていない。



「クローも! 溶かせばいいのに! ビームも! ほとんど避けてた!」



 つらつらと述べながら、コウタは肉薄する。マニピュレータを動かすことに慣れてきたのか、動きにキレが増しており、スレンヒルデに攻撃が掠め始める。



「連戦でもう限界だろスレンヒルデ!」

「……ふふ」



 ずびしと人差し指、そして空いているマニピュレータを突きつけ、コウタは観測と観察、そして実体験から導いた推論の是非を問う。

 当然スレンヒルデは答えないが、しかし、不敵な笑みを浮かべた。


 ――着弾まではおおよそ1分半。聞けば、件の神器解放には詠唱が必要という。



「声も出せないくらいにぶちのめす!」

「コータさん! ご油断なさらず!」

「わかってます! こうなってもまだ僕のはるか上、だからこそ!」



 マリアの忠告を背に、コウタは再び駆け出す。なんとか絞り出した、束の間の千載一遇だ。決して逃す訳にはいかない。


 ――こちらにはろくな決定打がない。フルブラストをするにはタメが要る。それはスレンヒルデもわかっているだろう。

 だから、今もなおマリアに警戒のアンテナを向けている。

 だからこそ、あえて。その望み通りにしてやる。



「マリアさん! お願いします!」

「お承知しましたわ!」



 コウタの合図で、今まで温存していたマリアが飛び出す。

 高まる魔力、変わる風向き、そして貫くような殺気を向けられ、当然スレンヒルデの警戒はマリアに重きを置かれる。

 暴風、轟音、あるいはユグドラシル。

 だがそのいずれもが、スレンヒルデに襲いかかりはしなかった。


 ――既に魔力は凪いでいる。つまり、魔法は既に発動している。

 暴風でも轟音でも植物でもない、しかし有効な攻撃手段とするならば。


 スレンヒルデの脳に、ある記憶が浮かぶ。

 自身の意識を刈り取りかけた、血糖値スパイクの記憶だ。そしてそれに追い討ちをかけるように、密かに蓄えていた炎が掻き消えたことで確信に至る。



「っ――!」



 反射的にスレンヒルデは自身の口を抑え、呼吸をも自主的に止めた。

 何を散布されたかこそ判断出来ないものの、この土壇場で。残り少ない魔力で。差し迫った状況で、気絶させるだけという生易しい手段を、マリアは最早取りはしないことだけはわかっていた。



「流石の判断ですわね。今あなたの周囲にあるのは通常の二十倍ほどの濃度のお二酸化炭素。一呼吸でも吸えばお陀仏でしたのに」



 マリアが散布したのは高濃度の二酸化炭素だ。

 正確には散布ではなく、大気中の二酸化炭素を増幅させた。



「……」



 それを聞いて、スレンヒルデは沈黙ながら炎が消えたことにも納得する。

 スレンヒルデやゴンザレスが使う熱反応魔法は、炎を直接生み出しているわけではない。魔素を高速で分子運動させることで熱を持たせ、それを空気中の酸素や水素を燃料にして発火させている。つまり、炎としての組成は通常のそれと何ら変わらない。

 だから、周囲の空気の二酸化炭素濃度が上昇すれば、炎は着きすらしない。



「炎が消えた、アミスさん! 畳み掛けます!」

『了解です! 出力最大、フルバースト!!』



 千載一遇をかけた攻撃がその毒物撒き散らしだけで終わるはずもなく、最大出力のビーム砲がスレンヒルデを狙い撃つ。



「っ……!」



 スレンヒルデは炎で光の屈折角を変えることと、熱による電磁誘導でビームを凌いでいた。しかし、酸素がなくては炎は産まれない。

 そして酸素がなければ、生物は長時間動いていられない。

 明らかに動きが鈍ったスレンヒルデに、高出力のビームが掠める。そして、コウタの猛攻はまだ終わらない。



『射角固定 電磁出力12000 射出』

「今!」



 レディの発した合図とともに、ロケットアームをブースターにしたクローが射出される。

 その双頭の蛇は、スレンヒルデを絞め殺さんばかりのトルクで、その全身に絡みつき、ユグドラシルに噛み付くことでその場に固定した。




「……!」



 しかし、そのままでは一時的な拘束に過ぎない。事実、スレンヒルデは魔法を使わずともその剛力でその物理的な戒めを解き始めていた。

 今のコウタでは、十数秒留めておくことが関の山だ。



「なんて力だ……!」



 互いを繋ぐマニュピレータを引き裂かんばかりに引き合うが、若干ながらスレンヒルデが優勢で、ほんの数秒でこの猛攻は泡と消えてしまうだろう。

 しかし。ワイヤーが悲鳴をあげるよりも速く、コウタが逡巡するよりも早く、火傷だらけの右腕がそれを掴み取った。



「コータさん、おワイヤはお任せを! ツタの扱いはお手の物ですわ! 貴方は攻撃にお集中を!」

「助かります! ――アミスさん、解除!」

『ガッテンです!』



 拘束の役目をマリアに託し、コウタはアミスに装備解除の指示を出す。少しでも軽く、かつカウンターを受けた際の被害を自分一人で済ませるためだ。



「ドッキング解除! コウタさん、行ってらっしゃい!』

「行ってきます!」



 相棒の激励を背に受け、コウタは全速力で駆け出す。



「レディ! ライトアーム、フルメカニクス!」

『了解』



 コウタの指示を受けたレディが、クローに取り付かせていたロケットアームを主の元へ帰還させる。



『レーザー誘導開始 相対速度調整 軌道軸固定 エンゲージ』

「ナーヴリンク!」



 装甲を全展開させた左右のロケットアームは互いに補うように重なり合い、そのままコウタの右腕を重厚でバカげた様相に変化させる。



「イグニッション!」

『ブースト 最大推力』



 重量と体積が増した拳に、ロケットの推進力を上乗せする。

 義肢で欠損部位を補うだけでなく、マシンを装備することで攻撃の出力を向上させる、機式剛術の真骨頂。

 いつもに比べ鈍重な動きだが、相手が動かぬ的ならなんら問題は無い。

 空すらも飛べる推進力を我がものとしながら、今ここに居ない師の敵討ちを右腕に載せ、コウタは叫んだ。



「ブーステッド・ハークスマッシュ!!」



 まるで隕石の如き軌跡と破壊力を伴う一撃は、スレンヒルデに直撃してもその勢いを留まらせない。魔力防御諸共彼女の鋼のごとき腹筋を揺らし、外部と内部に余すことなく、容赦もなく、その破壊エネルギーは炸裂した。


ありがとうございました

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