表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機人転生 魔法とSF科学の世界に来たはいいけど、身体が機械になった上にバトルの八割肉弾戦なのなんで?  作者: 島米拾尺
第二章 力を持つ者が惹かれ合うのは物理学的にも証明されている。
56/69

no.055 相対速度調整 軸線修正 接続

よろしくお願いします

 


「アミスちゃん、おドッキングの前に、わたくしの名前で周囲の全員に避難命令を。可能な限りユグドラシルから離れて、地下に退避をお願いしますわ、と」

『了解しました! それじゃあ行きますよ、コウタさん! ドッキングセンサーオンライン、伝送マニュピレーターフルオープン、エンゲージ!』

「ドッキング!」

『ドッキングコンプリート リンクタイミングをコウタに譲渡』

「ナーヴリンク!」



 アミスのワイヤー型マニュピレータがコウタの胴体にたすき掛けを交差するように巻き付き、ブッピガァンとその背に装着された。

 さらにナーヴリンクを用い、コウタはアミスのマニュピレータを己の手足のように認識させた。計24本もの触手だが、手指を操作するのとなんら変わらない。

 さて、肝心のスレンヒルデの感想だが、その顔はとても訝しげだ。



「何をするかと思えば、ただの二人羽織……? 手数が減った分寧ろ弱体化のように感じますが」



 コウタはこれみよがしにマニピを24本全て動かし、右の人差し指とともに、煽るように左右に揺らした。



「ちっちっちっ。わかってないな。アミスさんの手数なんてあってないようなもの。足でまといを背に纏うことで庇う手間がなくなるのはアドだ!」

「……確かに、一理ありますね」

『ちょっとひどくないですか!? 』



 役立たずのレッテルを敵味方双方から貼られて憤慨するアミスだが、その裏ではきっちりと仕事をこなしている。既に各部のチェック、同期等の調整を終え、ドッキングシーケンスは最終段階に入っていた。



『各部エネルギーラインをアーク接続に切り替え、供給開始、全武装オンライン!』



 ビーム砲が6種10門、単騎大気圏突入用対物耐熱融除シールドが二対、対魔力コーティング実体剣、出力可変魔電式ビームソードが二振りずつ。自律推進式ロケットアーム(外装型)、巨龍拘束用磁性グラップリングクローが左右分ずつ。

 合計で20もの武器だ。残りの4本のマニピュレータはフリーとなっている。

 この武装やらは全て、技術展に出展していた企業の有志達から、メニカとケイトがかき集めたものだ。コウタとハークが地下に降りた頃、せめてなにかの役に立ちたいと彼女なりに動いた結果がこれだ。それをアミスが受け取り、今に至る。



「いけ! アミス・ファンネル!」

『了解です! フルバースト!』



 コウタの合図とともに、アミスはビーム砲を起動する。

 厳密には有線誘導方式なのでどちらかと言えばインコムに近いのだが、コウタはそこまで細かいところを気にしていない。アミスもそれを指摘するのは野暮とわかっており、勢いそのままに武装のいくつかをマニュピレーターで操りながら、多角度から砲撃を開始する。

 高密度のビーム掃射に晒されるスレンヒルデだが、やはりそこに焦る様子はない。



「いくら弱っているとはいえ、通常兵器が通じるほどではありませんよ」



 スかして躱して燃やして、渾身のフルバーストは一片たりともスレンヒルデに触れもしない。



『命中ゼロ!』

「火器制御、姿勢制御、その他諸々任せます! 近接は僕が!」

『了解です! レデちゃん姿勢制御お願い!』

『承知しました』

「突貫します!」



 コウタはアミスを背に括り付けたまま、いつもの速度で駆け出した。

 スレンヒルデが多少動こうとも問題のないほどの速度で瞬く間にエンカウントすると、勢いそのままに、右手に携えた実体剣を振り抜く。



「せい!」

「あまりに単調。その触手を活かしては――っ!」

『ふぁいあー!』

「!」



 コウタを炎で呑み込もうとしたその時、またも多角度からの砲撃が襲いかかる。

 スレンヒルデは炎を防御に転じてビームを遮って身を守り、追撃を警戒して一旦距離を取ろうと後退する――が。



「逃がすか! クロー!」



 コウタはクロー付きのマニピを手繰り、文字通りの追撃を見舞う。一見不規則にしか見えない規則的な可動の連続で、まるで生きているかのように蠢き、空を這いずり回り、獲物を狙う蛇のようにスレンヒルデに追い縋る。

 しかし追い付きはしたものの、速度も威力も足りておらず、容易く対処されてしまう。



「だから、なんだと ! 言うのです!」



 乱雑に蹴られ、はたき落とされ、二対のクローのひとつはあらぬ方向へ飛んでゆき、もうひとつは地面に突き刺さる。

 文字通りの一蹴だが、コウタにとってそれはやはり、布石でしかなかった。

 迎撃の為に一瞬だけ、速力が落ちたそのごく僅かな隙。それを狙い穿つための。



「コータストライク!!」



 突き刺さったクローを支点にし、ロケットアームのブースターを加速の補助とし、あとは己のフィジカルで押し迫る。

 時速は数歩の間に最高速にまで迫り、その速力を乗せて放つ蹴り足の先端は音速をゆうに凌駕する。壁を抜けた音と、蹴りが炸裂した音が混じったような破裂音が轟く。



「直撃していれば、危なかったですね」



 しかし。コウタ渾身のその蹴りを、スレンヒルデはゆうに片腕で受け止めた。そしてその足首を掴むと、耐え難い爆熱を伝わらせる。



「くっ……! アミスさん!」

『びーむ!』

「おっと」



 ビームを翻るように飛んで躱し、スレンヒルデは今度こそコウタらから距離を取る。

 未だ底と得体の知れないコウタの能力と耐久性、自身の負ったダメージや残魔力から算出できる継戦能力と、そしてまだ生きている勇者。

 それらを加味して、スレンヒルデは少しだけ疎ましそうな表情を浮かべた。


 ――個々はさしたる問題ではない。奥の手が到着するまでの時間があるとはいえ、それも問題ではない。

 しかし、なかなかどうして。



「なるほど。確かに、想定より厄介ですね」



 ――厄介と評価する割には、渾身の蹴りを含めて全てをいなされている。どうしても、スレンヒルデの顔から余裕は消えない。



「……避けた、か。レディ、近接でおすすめの武器ある?」

『単体大気圏突入用融除シールドを装備しますか? 殴打による効果を見込めます』

「大気圏……今はいいかな」

『了解しました』



 余裕こそ消せないが、これが有効な手段であることはコウタも実感していた。自身の速度に無理矢理引きずられているため、今までのようにわざわざ速度やらを調整してタイミングを合わせる必要がなく、機動格闘の合間合間に的確に差し込んでゆけるのだ。

 アミスはそれを若干自慢げに、背中からコウタに主張する。



『どうです? コウタさん。ドッキングの力は。知の私と力と耐久と技とその他諸々のコウタさん。ふたりが合わされば正に鬼に金棒、機動兵器に拡張ユニットです!』

「なかなか効果的ですね。アミスさんファンネルのタイミングもバッチリです。たまには信じてみるもんですね」

『いつもいつでも100%の信頼を持ってくださいよ。それはともかくコウタさん、ファンネルって本来そういう意味じゃないですよ?』

「そういう意味?ちょっと何言ってるか分かりませんね。単にアミスさんの形が漏斗みたいだからですけど? 文句あるならアミスビットでもアミスファングでもアミスドラグーンでもいいですけど?」

『わかってて言ってますよね!?』

「なんのことだか! 第二波行きます!」



 コウタはアミスの小言と諸々の不安感を振り払う為に、あまり間を開けずに再び攻勢に出る。

 しかし。



「マニピ六刀流!」

「所詮は素人と機械の剣捌きですね」



 体術と混じえた剣とクローによる剣術も。



「ロケットクロス!」

「動きが直線的です」



 ロケットパンチによる死角からの攻撃も。

 


『びーむ!』

「四度目ともなると射線が読めますよ」



 アミスによるビーム砲フルバーストも。

 尽くがいなされ、辛口のコメントまで付けられる始末だ。



「今度はこちらから!」



 しかし、スレンヒルデもまた攻めあぐねていた。

 今までのお返しとばかりに、バスケットボール大の火球を数個まとめて放ちはするが。

 コウタ本人に当たると当然のように効かず、または武装を狙ったとしても、レディによる的確なシールドの差し込みで阻まれていた。



『シールド』

「ちっ……」



 三度、膠着する。コウタらからすればあまり間を置きたくないのだが、有効ではあるがアミスの言う通り、決定打に欠けている。


 ――時間に余裕があれば作戦タイムと行きたいところなのだが、そう時間もない。

 しかし、希望がないわけでもなさそうだ。



「……」

『どうしますかコウタさん! せっかくドッキングしたのに決定打何もありませんよ!』

「……いや、いけます」

『えぇっ!? まさか私が知らないびっくりドッキリがあるんですか!?』

「ないです。けど、ようやく僕の土俵です」



 火急の土壇場ではありますが、とコウタは付け加えた。そして、大きく息を吸うと。



「スレンヒルデ、もう限界なんじゃないのか!」



 大空と眼前の強敵に向けて、そう叫んだ。


 着弾まで、残り2分を切った。

ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ