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機人転生 魔法とSF科学の世界に来たはいいけど、身体が機械になった上にバトルの八割肉弾戦なのなんで?  作者: 島米拾尺
第二章 力を持つ者が惹かれ合うのは物理学的にも証明されている。
55/69

no.054 切り札は複数あるとなお嬉しい

よろしくお願いします。追記したので再アップです

 シンデレラとの戦闘から今まで、バリアを使う度に蓄えていた莫大なエネルギー。

 大半が熱エネルギーだが、それをアークは拳に加算する運動エネルギーと、魔力に似たエネルギーへとそれぞれ過不足なく変換し、全てをコウタの右拳に宿した。



「うおおぁぁ!!」



 コウタは咆哮する。

 仇を果たせなかった師の無念、友となり損ねた龍の悲愴、自身ら弱者を守るためその身を捧げた令嬢の信念。ついでに自分を痛めつけた分の恨み。それらを背負い、乗せて、叫ぶ。

 マリアのように信念があるわけではない。

 ハークのように怨恨があるわけではない。

 ましてやスレンヒルデのような愛憎などあるわけもない。

 だが、それでも。


「いけえええ!!」



 そのエネルギーは可視化されるほどの密度を有し、空間を陽炎のように歪め、炎のバリアを削り、抉り、破壊し、やがては貫通した。

 ついにというべきか。

 その様々なモノが、物理的にも精神的な意味でも込められているコウタの文字通りの鉄拳が。ついに、スレンヒルデの腹部へと炸裂した。



「ぐっ……!!」



 拳の威力そのものは筋肉と魔力の防御である程度まで減衰させた。だがそれを差し引いても余りある運動量とダメージが、ユグドラシルの上に長い電車道を作り、スレンヒルデの顔を苦悶に歪ませ、身体を大きくたわませ、そしてその膝を地につかせた。



「がはっ……!」



 決して少なくない量の血液を吐血し、スレンヒルデはその場にうずくまる。

 マリアの一撃を顔面に受けても立ち上がったスレンヒルデでさえ、身に余す一撃。だが、アークの真髄はそこではない。



「これは……」

 


 回復魔法を施そうと腹部に手をやったその時、ようやくスレンヒルデは自身に生じていた違和感に気付く。



「魔導臨界が……!」



 魔力とよく似た性質のエネルギーを強制的、かつ大量に流し込まれたことにより、スレンヒルデの魔力波長は大きく乱れた。それにより、纏う魔力のオーラは霧散してゆき、彼女の魔導臨界はその状態を保てず、莫大なエネルギーは還元することなく空に消えていった。

 コウタが拳を経由して流し込んだ莫大なエネルギーが、魔導臨界を維持するために固定していた魔力波長を崩し、その状態を強制的に解除させたのだ。



『これがアークの真骨頂その3! エネルギー変換による波長の乱調及び破壊! どんな強い魔法も結局は科学、莫大なエネルギーで魔術反応式を乱しちゃえばいいのです! 魔導臨界といえど例外なく!』

「よくわかんないけどかがくのちからってすげー」



 全ての物質が化学式で表せるように、魔法も魔術式を元に構成されている。それは臨界魔法ですら例外ではない。

 酸素に炭素を組み合わせれば二酸化炭素になるように、余計なものが入ってはその組成は崩れてしまう。

 川の流れに例えるならば、雨が降れば増水し、水量が増えれば水流が乱れ、水流が乱れると透明は消え失せ濁り、やがては濁流となる。

 そして、それらをすべて飲み込む土石流がくれば、その流れは消え失せる。



『ちなみにユーリさんも似た感じで雷で魔法を乱したりして戦ってたりします』

「なんかパクったみたいでヤダなぁ」

『実際ちょっと参考にしてます』

「言わなくていいのに……」



 呑気するふたりをよそに、スレンヒルデの苛立ちは頂点に達していた。

 わなわなと肩を震えさせ、爆発しそうな何かを堪えているようにも見えた。



「不愉快な真似を……!」



 スレンヒルデは嫉妬した時とはまた違う、とても不快そうな表情で顔を歪め、ぎりりと歯ぎしりしてコウタらを睨めつけた。



「めちゃくちゃ怒ってる!?」

『煽りすぎですよコウタさん!』

「全部このクリオネが言えって……!」

『連帯責任! 連帯責任です!』

「上司なら責任取ってください!」



 醜い責任の擦り付け合いをする二人だが、今回の件は全く関与していない。スレンヒルデの地雷を踏んでしまったのは事実だが、それは別なところだ。



「私に向けて!!! あの女狐と同じ技を!!! よくも……!!」



 怒気を混じえた魔力と炎を放出し、不機嫌をぶつけるように地面を何度も踏みつける。その程度で揺らぐユグドラシルではないが、スレンヒルデはお構い無しにその苛立ちをぶつけ続ける。



「女狐……隊長の奥さん?」

『すっごいとばっちりな気がしてきました!』

「たまには気が合いますね。同じ技ってのは?」

『隊長さんの奥様、【轟鎚の勇者】サラ・ベンジャーさんは先代の雷の勇者なんですよ。詳しくは知りませんが、なんでもユーリさんにその名を譲ったとかで』

「じゃあ、ユーリが出来ることを出来ても不思議ないわけか……」



 ユーリが雷の勇者となったのは、実は今から一年ほど前のことだ。ただのめちゃくちゃ強い一般市民だったところを先に勇者となっていたシェリーの推薦とサラのスカウト、そして堕者の一人を打ち倒し、勇者となったのだ。



「つまり雷扱えるから、同じように魔法解除ができて、スレンヒルデは隊長の奥さんが嫌いだからキレた? 流石に理不尽過ぎるでしょ」

『メンヘラなんてそんなもんです。自分の都合しか考えず自分勝手で人を騙しても平気で常に被害者面する、常人には理解不能なサイコパスです!』

「じゃあアミスさんもメンヘラ……?」

『どういう意味ですか!?』



 ――もちろん常人には理解できないという点で、だ。それを懇切丁寧に説明して泣かしてやりたいところだが、生憎とまだ終わってはいないことを、嫌でもその気配で察してしまう。



「お気付きでしょうが、私には魔導臨界をもう一度するほどの体力も魔力も残っていません。仮に残っていたとしても、同じように強制解除させられてしまうでしょう」



 強制解除と復讐の一撃はスレンヒルデに少なくないダメージを残し、代わりに体力と大量の魔力を奪っていった。

 魔導臨界は発動だけでなくその維持にも莫大な魔力を要し、使えばだいたい決着が着く、というのもあるが、その消費魔力から一度の戦闘で二回以上使うことはほとんどない。


 ――通常魔法の出力ならば、我慢しながら戦える。アミスですらそこそこ前線に出られる。マリアも参戦出来るかもしれない。

 だが、それでも勝てる気が湧かない。



「ですが、それとあなたがたを皆殺し出来なくなるかは別問題です」



 奥の手のひとつを潰されたと言うのに、スレンヒルデの表情には未だ焦りが見えない。それどころか不敵な笑みさえ携え、嘲るようにコウタらに尋ねた。



「まさか、奥の手がたったひとつだけとは思っていませんよね?」



 そう言って、スレンヒルデは天に向けて通常魔法の火球をひとつ放った。

 それは特に空中に停滞したり隕石のように降ってきたりする訳でもなく、ただ真っ直ぐ天へと昇って行く。

 コウタも当然警戒するが、その火球はやはりただ昇るだけでなんの脅威もない。



「どこ狙って……」



 ――一見、無意味に思えるその行動。ただの行動爆発か、あるいは暴発か。

 だが、そんなはずがないのだ。

 相手は堕者と呼ばれる、この世界で指折りの強者だ。そんな無意味なことをする訳がない。

 十中八九これは策、つまり件の奥の手である。そしてそれはどんな策か。



「……まさか」



 その意図に真っ先に気付いたのは、意外にもコウタだった。


 それは、己の身体に神器を宿すコウタだからこそ、幾度もその攻撃を受けたからこそ気付けた違和感。それに対する、野生の勘とも言うべき、生物の生存本能に直結した直感。


 ――グングニルはどこに行った?


 咄嗟にマリアの方へ振り向き、簡潔に意図を伝える。



「マリアさん、グングニルは!?」

「わたくしが上におかっ飛ばして……まさか!」



 次いで、マリアもその意図に気付く。

 いくら彼方まで飛ばすつもりで打ち返したとはいえ、そもそも宇宙空間に行っても戻ってくる魔法の神槍だ。今の今まで、戻っていないのがおかしい。

 これは戻れなかったよりも、戻さなかった、の方が正しい。



「連戦だとしても、私にこの奥の手まで出させるとは……。心の底から賞賛に値しますよ。コータさん。だからこそ、ここで殺しておきます」



 それは聞くものが聞けば、結構な賛辞だと受け取るだろう。強者から殺しておかねばならない、と認定されるのは戦いに生きるものならば悪い気はしない。

 だが、コウタからすればそんなもの知ったことではない。貶していいから、嘲っていいから、構わなくていいから、とにかく生き延びさせろというのが本音だ。



「もう邪魔しないからそれやめてくれない?」

「お断りします」

「ケチめ」



 一応交渉を試みるが、当然拒否され、最早その場すら設けられない。



「なお、私をこれを出すまで思い至らせたコータさんに全ての原因はあるので悪しからず」

「言いがかりにも程がある……!」



 理不尽な理屈を押し付けられて恨めしそうにするコウタをよそに、スレンヒルデは何かを指折り数えていた。



「さあ御三方。残り3分もありませんが、それまでに私を倒してみますか?」



 それは死が迫るまでのタイムリミットだ。宇宙空間まで行ったグングニルが、帰ってくるまでの時間。

 大惨事を引き起こさせないためには、残りの時間でスレンヒルデを倒さねばならない。



「それが出来たら苦労してないんだけど……!」

『こうなったら……! コウタさん! アレをやります!』

「どれですか! 今ちょっとアミスさんのお遊びに付き合ってる暇ないんですけど!」



 いつも通り辛辣なコウタだが、今回ばかりは本気の割合が強い。なにせ魔導臨界に次ぐ奥の手だ。今自分が立っている大樹を見るに、生半可では絶対に済んでくれないだろう。

 だが次のアミスの言葉に、その考えを覆すことになる。



『合体……いえ、ドッキングです!』

「話変わってきたな」



 聞き慣れた聞き慣れないそのフレーズに、コウタの少年ごころが大きく揺らいだ。



ありがとうございました。

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