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機人転生 魔法とSF科学の世界に来たはいいけど、身体が機械になった上にバトルの八割肉弾戦なのなんで?  作者: 島米拾尺
第二章 力を持つ者が惹かれ合うのは物理学的にも証明されている。
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no.051 ユグドラシルXXXXXX〜Lサイズ、ハーフ&ハーフ 生と死

よろしくお願いします。

 


「では、遠慮なく」



 スレンヒルデの纏う炎が大きく揺らめき、翼のようにはためいた。

 そう認識した瞬間、マリアはほぼ反射的にガードを固めていた。全身に力を込め、吹き飛ばされないように大木のごとく根を張る。

 そして。



「――くっ!」



 そのガードの一番固く、厚いところ。そこを打ち抜かれた。

 纏う茨の鎧は瞬く間もなく焼け落ちて灰となり、その下の生身に容易くたどり着き、焼き焦がす。



「どうですか? 防いでも内部までしっかりと焼けているでしょう?」

「おハンバーグの調理が、捗りそうですわ……ねっ!!」



 マリアは腕がぶすぶすと煙を立てて焼けているのもお構い無しに、スレンヒルデの顔面に焼けた拳を見舞う。

 しかし、それは揺らめく炎のようにひらりと躱されてしまう。



「痛みと火傷で速度が鈍っていますよ」



 超速で治しているとはいえ、痛いものは痛いし火傷で組織が癒着したりで突っ張りもする。ましてや内部まで焼かれているのだ。痛みや火傷による影響は無視できないものになっている。

 マリアの反応速度と行動速度は、かなり遅くなってしまっていた。

 そして、それを同情してやるほどスレンヒルデには情も油断もない。



「速度と熱量が増しただけではありません。打撃で生じる衝撃の波すらも熱を帯びる……つまりは防御不可の爆熱です」



 物体が衝突した際に生じる応力波。それに高熱を付与し、熱伝導によるものだけでなく、内部から焼き尽くす魔法だ。

 スレンヒルデの凶拳が、ガードを固めたマリアの両腕に次々と叩き込まれてゆく。

 外部と内部、両側から焼かれるその激痛はもはや耐え難く、今まで耐え凌いでいたマリアですら悲鳴をあげてしまう。



「ああぁぁっ……!!」



 腕の感覚を伝わる激痛と熱で認識し、マリアはそこに魔力を集中させる。

 激痛に顔を歪めながら、肉体が焼き尽くされないように全開で回復魔法を巡らせているのだ。



「耐え忍べばどうにかなると考えているのでしょうが……。あと10分は魔導臨界を維持できますよ」

「……!」



 魔導臨界とて無敵ではない。エネルギー効率は確かに爆発的に良くなるが、それはあくまで火力出力に対してのもので、使うエネルギーの割合に対して威力がとても高いという意味でしかない。そもそもの消費エネルギーそのものは、通常魔法よりも数倍に跳ね上がっている。

 それを踏まえてさえ、スレンヒルデはあと10分は使えると言ってのけた。



「今の貴女には1分を耐えることすら出来ないでしょうが」



 スレンヒルデが角笛を奪わんばかりに引くと、そのままするりと、なんの抵抗もなく引っ張れてしまった。

 マリアの左腕が、ボロクズの炭となって崩れ落ちていた。棒引きの慣性に従って手の届かぬ方へ放り投げられた角笛が、がらんと落ちる音だけが無情に響く。

 もはやマリア自身、左腕は痛みを感じてすらいなかった。動かしている感覚もなかった。握る角笛から伝わってくるエネルギーだけを頼りに動かしていた。

 それが、今焼け落ちた。

 あまりの抵抗のなさゆえに、スレンヒルデが勢い余って体勢を崩してしまうくらいには唐突だった。



「――」



 マリアは悲鳴をあげはしなかった。あげることすらできなかったのかもしれない。

 左腕だったボロ炭がそよ風に崩れ落ち、無造作に放り投げられたコルヌ=コピアの角笛。

 もはや力尽きていると判断しても無理はない。

 スレンヒルデは若干崩れた体勢ながら、自身の勝利を確信しており、不敵な笑みを浮かべていた。

 ここまでで、角笛を引いてから、ほんの一秒にも満たない。

 スレンヒルデはマリアの健闘を讃えようとさえした。



「貴女は――」



 そんな、刹那の油断。




 振り向いたスレンヒルデの顔面を凄まじい衝撃が襲った。

 ずがん、でもばごん、でもどごん、でもない。そう、それはまるで戦車砲のような、音の壁が叩き割られるときに生じる轟烈音を伴う衝撃だ。

 そんな一撃が、スレンヒルデの顔面にクリーンヒットした。



「――ッ!!!?」



 頭から地面に叩きつけられ、地面が砕けても勢い余さずに吹き飛び、咄嗟に放出した推進用の炎が勢いを緩めようともその威力は留まらない。

 叩きつけからノーバウンドで百メートルほど吹っ飛んでゆき、その先にある壁面に半ば突き刺さるかたちで激突することで、ようやく止まった。



「がっ……!!」



 背中と顔面に伝わる二種類の衝撃。

 飛びそうな意識の中、スレンヒルデが目にしたのは、マリアが拳を振り抜いた残心を残す姿だ。



「――もう、あっついですわ!」



 今にも焦げ落ちそうな右拳と、肘から先が綺麗さっぱり消えてしまった左腕を回復魔法で止血しながら、マリアはそう悪態をついた。

 左腕を捨て、神器さえも囮に、スレンヒルデの顔面に決死の剛拳を叩き込んだのだ。

 肩で息をするマリアを睨めつけながら、スレンヒルデはめり込んだ壁面を溶かして脱出する。



「腕と、神器を囮に使うと、は……っ」



 ぐらり。スレンヒルデの視界が歪む。一瞬意識を持っていかれそうになるが、既のところで足が出て堪える。

 脳震盪を狙っての一撃ではなかったが、それでも有り余る衝撃がスレンヒルデの脳へと叩き込まれていた。くらくらする意識とともに、だーっと、鼻血が勢いよく垂れ出す。



「……っ」



 ――口内に違和感がある。

 舌でそれを弄ぶと、なにがぽろりととれた。

 無造作に吐き出すと、それは歯だった。右の奥歯だ。

 それを認識すると、右頬を中心に鈍い痛みを伝えていたのに気づいた。恐らくは顎も割れているだろう。頭蓋骨が粉砕していないのは不幸中の幸いか。



「……カウンター気味とはいえ、瞬間的に魔力を頭部に集中させていなければ頭が弾け飛んでいましたね。膂力だけならば確実に今までのどの相手より上……。まぁ、だからどうしたという話ですが」



 少しでも反応が遅れていれば頭部が粉砕されていたというのに、スレンヒルデの胸中には恐怖はかけらもない。むしろ、ここで確実に息の根を止めるべきだという意思がより強固なものになっていた。



「――ライジング・サン」



 スレンヒルデは先程の極小太陽を再び手のひらに宿し、今度はそれを天にかざすように掲げる。それは先程のような手に収まる大きさに留まることはなく、魔力を吸い上げるようにしてシームレスに大きくなってゆく。

 やがて、直径10メートルほどの球体を形成した。



「神器は……いや、それを気にしている暇はないですね。そうしないうちにコータさんが戻って来るでしょうし。シンが足止めしたとしても長くはもたないでしょう」



 戦闘の影響で天井が崩落し、神器は瓦礫に埋もれてしまっていた。大方のあたりはつけているが、それを探しているほど暇ではない。

 なぜなら、マリアから莫大な魔力が放たれ、消えていくのを感じているからだ。



「あれだけ傷付いておいて、まだここまで……。全く、本当に勇者の相手は嫌になりますね」



 嫌な様子を隠そうともしないスレンヒルデだが、それはマリアからしても同様である。

 頭を粉々にしてやるつもりで放った不意の一撃が、命を刈り取るどころか意識さえ飛ばせないのだ。育ちゆえか、口にも態度にも出しはしないが。

 お互い、次が最後の大技であると察知していた。



「――にも、――てよ」

「……遠いのでもう少し大きな声で言ってくれませんか!」



 ふたりは百メートル弱離れている。さらに臨界魔法の燃え盛る音もそうだが、先程の一撃で鼓膜が片方弾けていた。聞こえなくとも無理はない。



「――わたくしにも、ありましてよ!! 奥の手が!!」



 ごう、とマリアから風が巻き起こる。それはスレンヒルデに襲いかか――りはしない。ただそれは吹き荒び、大気をかき回すようにして、元の所へ巡る。



「ただ黙って、わたくしが耐えていたとでも!!」



 マリアは叫ぶ。

 マリアは臨界魔法の対処が難しいと悟った瞬間、反撃は諦めて自身の防御と回復、そしてコルヌコピアに魔力リソースを送っていた。

 基本的に通常魔法では臨界魔法には対抗できない。

 臨界魔法を構成する臨界魔力は通常の魔力を取り込み、その糧とするからだ。それは魔術反応式を通る魔力も例外ではない。

 簡潔に言えば、臨界魔法には通常魔法の発動を阻害する効果があるということだ。マリアが風圧魔法で対抗しなかったのはそのためだ。

 だが、一定以上の質量を持つ物質に取り込まれた魔力は物質内の原子と結びついているため、臨界魔力を前にしても揺らぎづらい。それが神器となると尚更だ。



「お隙を!! 見せましたわね!!」



 それは隙と呼べるほどのものでもない。現にスレンヒルデは反撃の体制を整えている。

 だが、マリアは熱い空気を吸い込むと、焼け付く喉をものともせずに()()をはじめた。



「『銀の器に白塵の山。卯ノ花は芽吹き、巡る白血』」



 それは解号。言うなればパスワードだ。

 マリアは魔力を込めたそれを、角笛に向けて唱え始める。



「……まさか!!」



 マリアの意図を察知したのか、スレンヒルデは掲げていた特大炎球を即座に射出する。

 それは周囲を溶かして特大の轍を残しながら、およそ時速400キロほどでマリアに迫る。だが、当の彼女はそれを意に介さず、詠唱を続けた。



「『鉄の滝壺を煽る篝火。覆天(ふてん)の大匙』」



 神器には、セーフティのような機能が幾つか設けれられていることが最近の研究でわかっている。持つ者を選ぶというのもその一種だ。

 この解号は神器の力を十全に解放するためのものだ。むろん言葉だけではなく、適合した魔力波長と、相応の魔力量が必要になる。



神纏(ジンてん)


 

 ほとんど眼前まで迫った太陽に目もくれず、コルヌ・コピアを地面に突き立てる。

 それは苗木だ。

 北欧神話では、世界を支えているとされる神樹。その苗木。

 マリアはそれをこの場に突き立て、それを呼び起こすための祝詞を唱える。



「おいでなさい、【神樹天衝(ユグドラシル)】!!」



 それは、無数の木や枝葉、花、蔦で形作られた。

 それは、はち切れんばかりの命を含んでいた。

 それは、太陽を呑み込まんばかりに覆い尽くした。

 それは、自身が内部から焼かれようとも、半分が炎の幹となろうとも意に介さず、真っ直ぐに天へと伸びてゆく。



「わたくしも恋する乙女ですもの。こんな所で死んではいられませんわー!!」



 半分が燃え盛り、半分が生い茂る。生と死が混濁した神話の大樹は、そのままスタジアムを粉砕し、周囲に地震を引き起こしながら、マリアたちを天へと連れてゆく。



「スレンヒルデ。わたくしはそろそろ限界が近いですわ。とても名残惜しいですが、最終ラウンドですわ」

「……ふふ、精一杯楽しませてくださいね」



 マリアの魔力と体力は底を突きかけている。しかし、それはスレンヒルデも似たようなものだ。

 だが、それでも両者は不敵に笑う。お互いに、自分が負けるとは微塵も考えてはいない。



「あぁ、そうそう。言い忘れていましたわ。最終ラウンドは特別に――」



 マリアは気付いていた。ユグドラシルを起動した辺りで、莫大なエネルギーの奔流が躍動し、こちらに近付いてきているのを。

 そして、どこからだろうか。声が聞こえた。



「ギガブラスト」



 どこからともなく聞こえたそれは、マリアとスレンヒルデの間に割って入るように天まで伸びていく。

 莫大な熱量を伴ってユグドラシルの幹を貫き、爆炎を吹き飛ばし、やがて雲を貫いた。



「これは……」



 スレンヒルデはこの光線に見覚え――身覚えがあった。なにせ一度食らったのだ。致命傷にこそ至らなかったが、一度ダウンする程度のダメージがあった。忘れるはずがない。



「……ふふ。大胆ですわね」



 マリアはこの光線に見覚えこそなかったが、心当たり――確信があった。

 光が止んだ頃、黒い影が視界の隅から飛び出してきた。



「マリアさん! お待たせしました!!」

『お待たせしましたー! コウタ&アミス、現着です!』

「いえいえ、助かりましたわ。では、おひとり増えたことですし、改めまして。最終ラウンドは――」



 コウタはユグドラシルの幹を駆け登って来ていた。ほぼ垂直に伸びてはいるものの、面そのものは起伏に飛んでいる。コウタの脚力とアミスの誘導があれば、地面と大差ない。



「三対一、ですわ」



 正真正銘の最終ラウンドが、始まった。


ありがとうございましたそろそろ終わりが見えてきたかも

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