no.049 ハーフandハーフ
修正したので再アップです。よろしくお願いします
「……凄まじい威力、直撃すればコトだな」
プライはすぐさま追撃をかけるべく、一歩、二歩と駆けてゆく。先程と同じく力学魔法を用いた反作用のベクトル調整による加速。
しかし、それを阻む影があった。
「えーい!!」
プライの脳天目掛けて繰り出される、アレックスの巨大な平手打ち。コウタが囮になる、など事前に打ち合わせしたわけではないが、タイミングはどんぴしゃりだった。
作戦を立てずとも、ハスキィから聞いた情報で知っていたからだ。コウタに対して、遠慮は必要ないと。巻き込む心配をする必要はなく、前のめりに攻撃出来る、と。
「――!」
アレックスの図体に似合わぬ完璧なタイミングでの不意打ちを、経験則と火事場の馬鹿力的反応速度で、なんとか既のところで回避。
象の顔面すらも握りつぶせる巨大な手は、プライの薄皮を掠め、空ぶったひと振りは豪風となって辺りに撒き散らされる。
「このデカブツが……。やはりお前から殺してやろう!」
「あ、あたしデカくないもん! 平均だもん!」
524cm、体重[禁則事項]t。平均よりは少し小さいくらいだが、残念ながらアレックスはまだ成長期にある。巨人とはいえ乙女。デカいのも重いのも気になるのだ。
アレックスはその癇癪に身を任せてその巨拳を解き放つ。ハークすら倍以上上回るその巨体から繰り出されるひと突きは小さな地震さえ止めてみせる威力があるが、プライはそれを正面から迎え撃った。
「力学魔法・正転」
「くっ、またそれ……! なめないで!」
迎え撃つ拳と拳。轟音と衝撃波があたりに吹きすさび、既に割れているガラス窓が更に砕け散る。
その大きさと質量には圧倒的はおろか絶望的な差があるのだが、プライには押し負けるかもしれないという懸念は微塵も感じられない。現にアレックスの巨力と張りあっており、互いに一歩も引かない。
「忘れたか、巨人女! 先程も同じように吹き飛ばしてやった事を! 力学魔法――」
再び反転の魔法を準備し、空いた左拳を振るおうと引き絞る。しかし、その魔法と拳がアレックスに向けて放たれることはなかった。
「言っただろ、時間が無いって」
――たった数十メートル程しかない距離だ。この身体ならばひと瞬きで飛び越えられる。
だから、数秒しかないであろう拳での押し合いの二合目が始まる前に追い付ける。
「コーくん!」
「せっかくの魔法だし考察とかしておきたいとこだけど、マジで時間ないからもうアミペディアに答え聞いた!」
コウタの視界の片隅には、即興で分かりやすく要点だけをまとめた資料が表示されている。
「さっき僕は弾き飛ばされるでも殴られるでもなく、後ろに進まされたんだ! お前の魔法は言うなれば歯車――ギアだ! 力を極力損なわず、そのベクトルを変える! あと30秒!」
プライの魔法を看破し、コウタは再び駆ける。
「そうか、ならばどうする! 力学魔法・反転!」
「機式剛術、コータストライク!」
先端が亜音速に迫るその一撃は、プライに直撃する寸前で不自然に角度が変わる。
――予想通り、まだ力学魔法の適用範囲内だ。このままでは右足を起点に回転して吹っ飛んでいってしまうだろう。
だから。
「ギアってことは、回るってこと、180度しか回らないなら、一旦回させて、更に加速させる! こんなふうに! アレックスさん、僕ごとお願いします!」
「えっ、えっ……えーい!!」
いくら巻き込む心配をしていないとはいえ、流石に諸共やれと本人から言われるとは思いもしておらず、アレックスは戸惑った。しかしコウタがとち狂ったとも思えず、数瞬の逡巡の後、やってから後悔せよとばかりにその背中に強大な蹴りを叩き込んだ。
「ぐぉっ……!!」
「ぬぅっ!?」
アレックスの蹴りはコウタ諸共力学魔法の適用範囲を一周まわってを突き破り、プライに炸裂した。しかし直撃こそすれ、大したダメージにはならなかった。
プライは自身にも正転の力学魔法をかけており、そのまま独楽のようにくるくるくるくる回って威力を分散したからだ。
「なめるな! これしきの小細工、備えぬわけがなかろう! 」
蹴りの勢いですっ飛んでゆくコウタに追撃を加えるべく、アレックスの蹴りの勢いすらも集約し、プライは己の力と変える。
だが、コウタの策はまだ終わっていない。ここまでは姿勢を崩すためだけの布石だ。
「そしてもうひとつ、力学魔法の対処法」
コウタは慣れた様子で体勢を直しており、迫るプライの追撃も予期しており、容易くそれを耐えた。
「……っ、その名の通り、力学的エネルギーにしか対処出来ない。それだけでも物理ほぼ無効でめちゃくちゃ強いけど」
「ぬかせ!」
「あと10秒。もう準備は終わってるし、敵のあんたに容赦はしない」
コウタは実質の勝利宣言をしてみせた。
そして、それはシャウトと共に実現する。
「――今だ! ハスキィさん!」
「なっ――」
コウタの叫びに反応し、影が差す。
プライは咄嗟に自身の後ろに振り向き、背後いっぱいに力学魔法の一撃を叩き込む。
しかし、そこには誰もいなかった。ただ、布を被ったドローンが浮いていただけ。
デコイだ。
「しま――」
時間にしては一秒にも満たないくらいのとても短い刹那とも呼べる時間。だが戦闘において、その隙は死に等しい。
コウタの右腕がいつの間にか白い筒に覆われていたことを、プライは思い返した。
咄嗟に振り返るが、既に時は遅い。自身に向けられているその砲身の中心には、溢れんばかりの光が集約していたからだ。
「――フルブラスト!!」
光の柱が、プライの全身を呑み込んだ。
ユーリやエイプに放ったそれの出力とは天と地ほどの差があるが、それでもプライを殺さずに仕留める程度には殺傷能力はあった。
丸焦げになったプライと共にしゅたっと地面に着地し、コウタは次へと急ぐ。
「よし、ジャスト一分! じゃあアレックスさん、あとはお願いします!」
「まっかせて!」
――アレックスにその場を任せ、合流地点へと駆ける。
そこにはアミスがある程度の武器を持って待機しており、ピットインさながらに殆ど速度を落とさず突っ込んだ。
「準備は?」
『バッチリです!』
「じゃあ今度こそ、マリアさんの援護に向かい――」
瞬間、地響きがコウタのその言葉を遮った。
巨大な質量を持つ何かが充分すぎる勢いを持って激突したような轟音と、全てが吹き飛んだような爆裂音。そして、震度3はあろうほどの大地の揺れ。
『――スタジアムの方向! 超超高熱源反応! と超濃度魔力反応!! これは……! とてつもないエネルギー量です! コウタさんの3000フルブラストを超えてます!』
「まさか……! マリアさん!」
地響きの中、コウタ達が目にしたのは、天を衝かんばかりに現在進行形で伸び続けている、巨大で長大な柱だった。
「は……!?」
『あれは……ユグドラシル!?』
――アミスの言う通りに、たしかに今の地震を生んだであろう、天にまで届く巨木が既にそこにあった。
その太さはスタジアムの円周よりも少し太く、あたりの地面を当然の権利のように破壊しながら、先が見えないほど高く伸びていた。
但し、その半分は炎の柱で構成されていた。
「燃えてますけど!?」
ありがとうございます
・力学魔法
力学的エネルギーの働きを制御できる魔法。力学的エネルギーならなんでも無造作に制御できる訳ではなく、相応の質量やエネルギーには相応のリソースが必要となる。
プライは自身に適用することで高速機動やアレックスに負けぬ程の攻撃強化、全身スリッピングアウェーなどを実現した。
実際は正転と反転に性質としての違いはなく、どれくらい動かすかのさじ加減を、ブラフの意味も込めてプライがそう呼称しているだけ。その他にもうひとつ、動きを止める 滞留がある。




