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機人転生 魔法とSF科学の世界に来たはいいけど、身体が機械になった上にバトルの八割肉弾戦なのなんで?  作者: 島米拾尺
第二章 力を持つ者が惹かれ合うのは物理学的にも証明されている。
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no.047 ワンミニッツ

よろしくお願いします

 




 閃光がマリアたちを包む少し前。

 コウタはマリアが【コルヌ=コピア・ベネディクト】を放ったころには既に仲間の元へ到着しており、今はハークの応急処置が終わるのを待っていた。

 視線の先にある抗菌カーテンの向こうでは、ケイトとアミスが慎重に手術を進めていたが、それももう終わり、ふたりは汗を拭って簡易手術室から出てきた。



「ふぅ……。まあこんなものかな。アミスちゃん、アシストありがとう」

『いえいえ。これくらい御茶の子さいさいです』



 手術とはいうものの、あまり設備の整っていない機内で出来ることは限られており、やったことといえば応急処置的な縫合による止血と薬剤の投与、苦痛を和らげる処置がほとんどであった。



「……ケイトさん。ふたりの容態は?」

「隊長は全身ズッタズタのバッキバキ。まぁこれはほとんど持病のせいだけどね。その他は失血とやけどが多いけど、幸い命に係わるほどではないね。隊長の治癒力が高いのもあるけど、コータが迅速に連れてきてくれたからってのも大きいよ。シンデレラちゃんのほうは結構危なかったけど、傷口が綺麗だったのと、魔力で失血をカバーしてたのが幸いして、なんとか一命は取り留めたよ」

「よかった……。ほんとに」



 ――詰まっていた息が安堵のため息として放出されるが、それでも、ずしんと重さが残る肩の荷はなかなか降りてくれない。


 その浮かない、落ち着かない、不安がる様子は、コウタが機械の身体といえども簡単に見て取れた。



「コータくん、大丈夫?」

「……なんともないよ。ありがとう」



 明らかに何ともなっていない声音と間の返事だったが、メニカはそれ以上なにも追求しはしなかった。

 ただ隣に座り、優し気な笑みを浮かべながらくだらない言葉を紡ぐ。



「……そう、よかった。今日は帰ったら一緒に寝てね」

「割といつも一緒に寝てる気がするけど……。僕は寝ころがってるだけだけど」

「最近は任務行ってたり検査してたりで全然寝てないよ!」

「そう……? あと前も言ったけど僕絶対硬いと思うんだけど」

「それがいいんじゃないか!」

「……ふふ」



 相変わらずよくわからない持論を展開するメニカに笑っていると、コウタはいつの間にか肩の荷が少し軽くなっている気がした。

 メニカのその励ましに合わせるように、ケイトも激励の言葉を伝える。



「コータは凄いね。隊長とか勇者の援護があったとはいえ、堕者と戦えてたなんて」

「スレンヒルデが本気じゃなかったってのもあるんでしょうけど、先日ユーリと遭遇したのが大きい気がします。あの時からなんか、身体が思う以上に動くというか。度胸も着きましたし」



 男子三日会わざれば刮目して見よとはよくいったもので、事実、ユーリと遭遇してからのコウタはそれ以前よりはるかによく動く。

 機体スペックに右往左往していた一か月前のころからは比べ物にならぬほど、その体を十全とは言えぬまでも使いこなしていた。

 コウタはそう話しながら、自身の右の手のひらを少しの間じっと見つめていたが、やがて何かを握りこむようにその拳を固く握りしめ、立ち上がった。



「――っと。そろそろ戻ります」

「豊穣の勇者……マリアさんが来たじゃないか。コータくんがわざわざ出なくても……」 



 せっかく戻ってきたコウタが、それも実力が足りていないことは明らかで、かつマリアが来ている状況でわざわざ戻る必要性があるのかとメニカは問う。

 その問いはなにも間違っていない。コウタが勇者に劣ることはすでに二度ほど証明されており、先だってメニカの装備がなければ宇宙空間に追放されてしまっていたであろう。それくらいの実力差がある。

 それは当然、二人ないし三人の力を間近で見たコウタも理解している。

 しかし、だからこそ赴くべきなのだと主張してみせる。



「マリアさんがめちゃくちゃ強いのはわかってるけど、スレンヒルデだって同じくらい底が知れない。この足と身体があれば、戦えなくても壁くらいにはなれる。熱いって言ってもすぐ消えるしね。吹っ飛ばされるのは……気合で耐えるよ」



 こう言って上げ連ねた理由には何一つ偽りはない。しかし、最も重要な理由についてコウタは敢えて何も言わずに黙っていた。

 コウタは自身が()()()()になるべきであると自覚していた。

 不死身のボディに加え、現存する戦力では、とてつもなく大きな隔たりがある、という謙遜が着きはするものの、おそらく自分がマリア達の次点に立っているという自負。

 無論メニカがそれをわかっていないはずもなく、コウタも()()を察せていないわけがないのだが。



「……えい」

「おっと」



 しばらくの沈黙。そして、メニカが根負けして、コウタに抱き着いた。

 そしてまた少し押し黙ってから、ようやく口を開いた。



「……わかった。じゃあ、上司命令。絶対に帰ってきて」

「了解。絶対無事で帰ってくる」

「私スポンサーだから。隊長より権限上だから。絶対だからね」



 最後に一層強く抱きしめ返し、コウタがいざ地獄へ舞い戻ろうとハッチの開閉ボタンへ手を伸ばした、その瞬間。

 ずずん、とブルースワローにそこそこ大きな揺れが襲い掛かった。



「なんだ……!?」

「うわっと!?」

「おっと」

「あ、ありがとうコータくん……」



 何かがぶつかったわけではなく、質量の大きいものが近くに落ちたような、そんな揺れだ。

 態勢を崩しかけたメニカを片腕ながらやさしく抱き留め、コウタは周囲の状況確認をアミスへと促す。



「アミスさん!」

『外部カメラ……土煙がすごくて何も見えません!』

「……ケイトさんはアミスさんと一緒に、隊長達とメニカを見ててください。僕が出ます」



 ハッチを開け、コウタは臨戦態勢に入り、急いで表へと繰り出した。

 そこには夥しい数の生傷を帯び、息も絶え絶えで、血塗れになって仰向けに倒れている女戦士がいた。

 身長5メートルほどの。



「巨人……!?」



 衝撃の正体はこの女巨人戦士が勢いよく倒れたことによるものだ。

 彼女には明らかに何かと戦っていた形跡があり、その傷は生々しく痛々しい。

 手に持つのは武器であろう、一見鉄柱だが、よく見ると先に鉄塊が着いている。戦鎚だ。しかしそれもかなり傷んでいるようで、所々が凹み、欠けていた。



「きみ、ハークさんの……? そうか、こんなところまで追いやられちゃったのか……。ごめんね、すぐ遠くに行くから……!」



 巨人の女は傷んだ身体にムチ打ち、なんとか起き上がろうと地面に巨大な拳を突き立てる。地面が容易くひび割れるほどの圧力が加えられるが、痛みと疲労からか中々立ち上がることが出来ない。



「ぐ……!」

「無理しないでください! これと言って迷惑を被ったわけじゃ……。そもそもなにが――」



 コウタはそこで言葉をとめた。なにも「やっぱ迷惑だなこいつ……」と思い直したわけではない。

 勇者クラスとは言えぬまでも、強い気配とそいつが発しているであろう殺気を感じ取ったからだ。

 振り向くと、ゴミの山となった仮設屋台の上に何者かが立っていた。



「ほう、これは都合のいい。スレンヒルデ様のご命令を二つも一挙に完遂できるとは。やはり日頃の行いというものか」



 その声は高くはあったが明らかに男で、逆光で見えにくいシルエットが持つ武器も槍などではなく、スレンヒルデではないことはすぐにわかった。

 コウタは最大限の警戒をしながら、そのアンノウンに問いかける。



「……誰だ」

「貴様こそ誰だ。鉄クズに用はない。我の任務はアスト亜人部隊の掃討、そしてハーク・ベンジャーの確保。殺されたくなければ去ね」



 自分の存在を知らない。つまり、これはあらかじめ用意されていた策だろうとコウタは当たりをつける。それは実際その通りで、スレンヒルデはハークと会敵してから一度たりとも自軍と連絡を取っていない。

 この男が来たのはあくまで、事前に予測されていた策によるものだ。



「こっちには怪我人と非戦闘員が大勢いるんだ。僕も色々と忙しいし、戦うならよそでやってくれ」

「ああ、その死に損ないを置いてゆけ」

「……相手してる暇ないんだけど」



 コウタは右足にエネルギーを溜め、ついでに巨人の女が衝突したことでできた瓦礫をいくつか足元へ集めてゆく。



「ならば抵抗するな。指令にない貴様なぞどうでもいい。それとも廃棄物(スクラップ)にされたいか?」

「生憎とまだやることがあるんでね。そっちこそ、今なら見逃してあげるけど?」

「善し。死――」

「交渉決裂礫脚砲!」



 有無を言わさぬ早業で、その男が何かをしようとした瞬間に先制の質量拡散弾。亜音速に近い速度で飛来した凶弾は、回避の暇すらなく直撃した。

 しかし、今までの経験から大して効いていないだろうと確信しているコウタは、迎撃の体制を整えはじめる。



「まだ動けますか? えーと……僕はコウタっていいます。お姉さんの名前は?」

「あ、あたしはアレックス。それとごめんね、連れてきちゃって……。ハスキィくんとか、ゴンザレスさんとかと一緒にサタニアの軍勢と戦ってたんだけど、みんな上手いことバラけさせられたんだ。アイツはその中で軍を率いてた奴だよ」

「……なるほど。率いるって言っても単騎でいるってことは、戦闘能力に自信があるタイプか」



 アレックスからの情報と自身の考察からコウタは現状を類推してゆく。


 ――思い返せば、スレンヒルデが負傷者たちに構わずハークに注力していたのもそうだ。

 マリアが居たのが大きいだろうが、それでもこいつがいるから、スレンヒルデは追跡を簡単に諦めたのだ。


 コウタは少し考えて、ブルースワロー内部にいるアミスへ通信を繋げる。



「……アミスさん、予定変更」

『どうしますか?』

「マリアさんには悪いけど、戻るの遅れるって伝えてください」

『了解です。それで、どのくらい遅れそうですか?』

「そうですね、まぁ……」



 ひの、ふの、とコウタは指折りで何かを数えてゆく。値踏みをするような視線も添えて。



「60秒で終わらせる」



 そして、駆け出した。




ありがとうございました。


アレックス・リーン(25)

ホモ・サピエンス=ヨトゥン

身長 524cm

体重 ひ・み・つ・♡(踏み砕かれた地面)

スリーサイズ

B300 W200 H320



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