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機人転生 魔法とSF科学の世界に来たはいいけど、身体が機械になった上にバトルの八割肉弾戦なのなんで?  作者: 島米拾尺
第二章 力を持つ者が惹かれ合うのは物理学的にも証明されている。
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no.045 血糖値爆上がり気絶魔法

よろしくお願いします

 



「……行ってしまいましたね。まぁ、あとで必ず取り戻しますが」



 スレンヒルデは獲物を横取りされたというのに、特に感情を乱すこともなく淡々とした様子でいる。ハークがいない分、どこか落ち着きを取り戻したかのようでさえある。



「そのあとで、があると思って?」

「ええ、もちろん。そろそろ離して貰えませんか? 私にそちらの趣味はありませんので」


 

 スレンヒルデは疎ましそうにしながら手の熱を高めていくが、マリアにはそれを苦しむ素振りは一切ない。



「……」



 ――なぜ離れない。とうに1000度は超えているというのに。


 マリアは一向に手を離そうとせず、それどころか握る力はどんどん強まるばかりだ。そして、その筋肉淑女は淡々と告げる。



「貴女の失態は、わたくしをこの距離まで近付かせたこと。そして、負傷者をむざむざと退かせたこと、ですわ。人質にでもしさえすれば、わたくしも力を抑えざるを得ませんのに。ですが、ここには貴女とわたくしだけ。おわかり?」



 マリアは押し潰す力を更に強め、スレンヒルデの両足が地面にめり込まされてゆく。潰されこそしないが、その場に釘付けにされてしまう。

 そして、マリアはにこりと笑って。



「この繋がれた両の手で、どうやって音を遮れると?」

「――!」

「わ!!!」



 有無を言わさず、間髪も入れずにそれは轟く。完全無遠慮な手加減なし、かつ超至近距離。龍すら堕とすマリアの咆哮。

 ひといきで爆炎を掻き消す肺活量が全て音に変換され、その全てが全方位からスレンヒルデに襲いかかる。

 実体のない音という物理現象、遮るものがあれば著しく効果は下がるが、耳を塞ぐはずの両手は剛力によって食い止められている。



「――……!」



 夥しい振動数により脳組織が幾ばくか破壊されたのか、スレンヒルデの鼻や目からどくどくと血が流れる。

 


「あら、魔力で鼓膜をガードしましたわね。まぁ、この程度で倒せるとも思っていません――わ!!!」



 二度目。轟音と振動に耐えきれず、地面がぐずぐずと崩れて半ば液状化してゆく。



「……」



 意識はまだあるが、スレンヒルデは沈黙してしまっていた。マリアは当然、手を緩めるつもりはない。

 三度目。すぅぅと大きく、ひときわ深く息を吸う――が。



「がはっ……!?」



 突如、マリアは血を吐き出した。出血量こそ多くないが、明らかにダメージのある出血の仕方だ。

 マリアは血を吐き出しながらも、追撃されないように距離を取った。そして膝を着きながらも、即座にその出血の原因をつきとめた。



「お空気を……!」

「その通り。いかがでしたか? 灼熱の空気のお味は。貴女はかなりの健啖家らしいですが、さすがに熱い空気を食べたことはないでしょう?」



 スレンヒルデは拘束を焼いて外すのはやめ、周囲の空気の温度を上昇させることにリソースを割いていた。

 マリアの呼吸量は凄まじく、本域で吸い込めばあたりの空気を吸い寄せてしまうほどだ。それを見越し、かつ悟られないように離れた箇所の空気を熱していた。

 熱が届くまで耐えられるかは賭けだったが、スレンヒルデの想定より吸気量が桁外れに多く、たった三度目で炸裂したのだ。



「こんなすぐに食らわせられるとは思いませんでしたよ。すさまじい肺活力ですが……。なんとか脱出できました」



 膝をつき動かないマリアから距離を十数メートルほど距離をとると、スレンヒルデは両手に火球を作り上げた。更にそれを混ぜあわせ、刃のように、矢のように研ぎ澄ましていく。



「隙あり」



 炎の矢が放たれようとしたその時。かくん、と一瞬スレンヒルデの膝が抜けかけた。

 主の意識が一瞬飛んだことで、混ぜ合わされた凶悪な炎はその精密な組成を保てず、掻き消えるように霧散する。



「これは……」



 意識が朦朧とするのを踏ん張って堪え、原因を分析する。


 ――顎が揺らされて脳が揺れた、などという生易しいものではない。もっと本能的で抗いがたい、根源的な欲求。



「……眠い」



 スレンヒルデを襲ったのは強烈な眠気だ。

 薬を盛られたかと疑るが、そんな隙は微塵もありはしなかった。さらにマリアの性格上、そんな小細工はしないはずだとその考えをすぐに改めた。

 ならばなぜと思考を巡らせるが、意外にもそれはマリアによってすぐ明かされた。


 

「大気に何かできるのが自分だけだと思って?」



 マリアは口元を豪快に拳で拭いながら立ち上がると、大きく深呼吸をして、ぺろりとそれを味わう。



「甘ーいスイーツお空気のご賞味はいかがでした? 空気はたくさんありますので、いくらでもおかわりできますわよ?」



 マリアは周囲の空気に高濃度の糖分を気化させたものを混ぜこんだ。食物魔法による栄養生成と、風圧魔法の気体操作を組み合わせたものだ。急激な眠気は、体内の血糖値が爆発的に上昇したことによるものだった。



「本来は消化器官が衰えた方に点滴代わりとして使うものですが、こんな使い方もありましてよ」



 空気と魔力を糖分やらアミノ酸やらに変換する栄養魔法。マリアの放つそれは音に乗って広がり、最早音色からも栄養を摂取できるほどだ。



食物魔法(フードレス)、意外に厄介ですね。対象が空気ともなると焼き払うのも面倒です」



 スレンヒルデはおもむろに自身の左薬指の先をつまむと、欠片も躊躇うことなくその爪を剥いだ。



「ひとまずはこれで眠気も消えるでしょう」



 痛みに顔をしかめることすらせず、スレンヒルデはただただ指先から血を垂らす。ぽたぽたと地面に血が垂れてゆくはずが、垂れたそばから蒸発してゆく。



「やはりこういうちまちまとした戦いはわたくしの性分に合いませんわ。淑女たるものおステゴロで豪快にいきたいですが……貴女は素手だと手に余りますわ」



 マリアは角笛を再び手に取ると、ぶんふんと何度か振るう。



「今度は武器を使って殴り合いますか? 良いでしょう、それも一興」

「おや、まだお寝ぼけすけさんでいらっしゃいますわね。よろしい、このマリア直々にその目を覚まさせてあげますわ」



 スレンヒルデは神器相手でも構わないとばかりに構えを取るが、マリアはそれをろくに取り合わなかった。



「残念ながら、角笛は人を殴るものでも、風を巻き起こすものでもありませんわ」



 そんな当然のことを言いながら、マリアは自身の魔力を高めてゆく。



「楽器とは奏でるもの。そして、満たすもの」



 そっと、角笛の吹き口に優しく口付けた。



「恵みの一撃を受けなさい」



 そして、ふぅと息を高めた魔力と共に吹きこんだ。

 迫る炎を容易くかき消し、人体組織を破壊し、空を駆ける龍すらも屠ってみせる。そんな人外――生物の理からかけ外れた肺活量をひと息で放つ。



「コルヌ=コピア・ベネディクト!!」



 台風を数百分のいちにまで圧縮した空気が一瞬で放出され、回避する間もなくスレンヒルデを呑み込んだ。



ありがとうございました

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