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機人転生 魔法とSF科学の世界に来たはいいけど、身体が機械になった上にバトルの八割肉弾戦なのなんで?  作者: 島米拾尺
第二章 力を持つ者が惹かれ合うのは物理学的にも証明されている。
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no.042 豊穣の勇者

よろしくお願いします

 コウタがはるか上空で目覚めた頃、地上では。



『隊長さん!』



 高さ10メートルにも及ぶ、巨大な紅炎のドームがアミスを阻んでいた。

 部下を目の前で消された怒りによるハークの猛攻はスレンヒルデに少なくはないダメージを与えたが、それも命までは届かなかった。

 それどころか、スレンヒルデはハークが近づいてきたことをこれ幸いとばかりに抱き着くと、そのまま炎のドームを作り上げたのだ。



『どうしよう……! コウタさんはまだ上だし、メニカちゃんに来てもらうわけにはいかないし……!』



 アミスが珍しく口調を乱し、わたわたドームの周りをうろつく。

 しかし現状のアミスがこの状況を打破することは不可能であり、彼女自身もそれを理解している。そんな木偶の坊と化したクリオネに光明が差すかのごとく、電子音がぴこんと鳴った。



『アミス様。ただいま戻りました』

『レデちゃん!』



 それはグングニルから脱し、魔素やら高度やらの通信妨害をようやく抜けて連絡してきた、支援AIの【レディ】だ。



『ただいまコータは上空8000メートルの地点を通過。到着までおよそ38秒』

『了解! コウタさんが来るなら、えーと、あーと……この地点に落下してきて!』

『承知致しました』



 アミスはレディに爆炎ドームの中心から少し外れたポイントを座標として送った。

 中心にはハークたちがいることが予想され、スレンヒルデはともかく味方を巻き込むわけにはいかないからだ。



『隊長さん、あと30秒でコウタさんが戻ってきます! だからなんとか耐えてください!』

『死に体に無茶を言う……! 了解した……!』



 ハークは息も絶え絶えながらそう返し、残る30秒足らずに死力を尽くしてスレンヒルデに抗う。



『コウタさんはやくはやくはやく……! なんで設計時に臨時用ブースターの一つでもつけなかったんだろ……!』



 アミスが自分の至らなさを後悔するのも束の間。黒い影がひとつ、スタジアムの地下から空いた穴に見えた。



「なんだあのドーム……! ちょっと待った待った待――」



 コウタの抵抗は何の意味も持たずに、容赦なく摂氏3000度の炎に突っ込まされた。

 そのコンマ数秒後、バリアを展開して難なく着地した。



『バリア展開。着地ダメージはゼロです』

「一瞬めちゃくちゃ熱かったんですけど!!」

『ではアミス様、コータ。私はこれでアミス様のバックアップに戻ります』

「ああ、ありがとう……だからなんで僕だけ呼び捨て?」



 そこにいたのは。



「うえっ!?」



 衣服を剥がれ半裸となって横たわるハークと、その鍛え上げられた美しい肢体を惜しげもなくすべて晒して、今にも交わろうとしているスレンヒルデの姿だった。



「へ……?」



 師匠の濡れ場を目の当たりにし、コウタの脳は先ほど上空で目覚めた時よりも混乱していた。



「あらコータさん。宇宙旅行にしては早かったですね。いまこのとおり取り込み中なので、出て行ってもらえますか?」



 スレンヒルデは一糸まとわぬ姿をコウタに見られているということを全く気にせず、堂々と出ていけと伝える。

 ハークは意識を失っているのか、その傍らで眠るように横たわっている。



「はい、すみませんでした……とはならんでしょうよもはや。戦闘中におっぱじめないでください」

「私としてはもう終わったと思ってるんですが、まだやりますか?」



 スレンヒルデは出ていかないコウタに少しうんざりした様子でにらみつけ、愚痴るように言い放ちながら立ち上がる。

 しかし、コウタは依然やる気満々だ。



「終わった? 僕はまだ立てるし、この通り余裕で拳だって握れる。いいとこ中盤戦ってとこでしょ」



 コウタは足元をしっかり確認し、拳を握ってスレンヒルデへと立ちはだかる。

 そんなしぶといコウタの様子を見て、スレンヒルデは顎に右手のひとさし指を立てて少し考える仕草をする。



「ふむ。では……あなたの希望をなくすニュースを教えてあげましょう」



 そのまま顎にやった手を顔の前に持ってくると、さらに中指を立てて「2」をかたち作り、またも口を開いた。



「私はまだあと二回、奥の手を残しています。この意味が分かりますか?」



 どこかの宇宙の帝王のように、そんな絶望的なバッドニュースを淡々と告げた。

 それは煽りでも脅しでも何でもないことをコウタはスレンヒルデの声音と表情からすぐに理解したが、それで怖気づくならばとうの昔に心は折れていると、一笑に付すような態度で言葉を返す。



「……えーと、僕が怒りによってスーパーアルヴェマンになってあんたをボコボコにする伏線?」



 金色に輝く自身の姿を想像し、コウタはそれもありだなと少し思った。



「よろしい。では、そのひとつを見せてあげましょう。あなたのその心と体、両方を屈服させるために」



 スレンヒルデはにたりと笑うと、すうと息を吸って魔力を両手に集中させていく。



「物質の相転移が可能な上限を、臨界点と呼びます。当然、魔素にもそれは存在します。魔素を臨界に至らせ、それさえも越えさせると、通常の魔力とは違った反応を引き起こします。その現象、またはその技術。それらを魔導臨界と呼びます」

「……」



 コウタは何も答えない。いや、答えられなかった。スレンヒルデが言ったことがなにもわからなかったからだ。



「必要なのは超高温と超高圧。それらを臨界密度に至るまで、魔素に与え続ける」



 スレンヒルデは両の手を擦り付けるように合わせ、莫大な魔力を用いてそこに空気中の魔素を練り込んでいく。



「風が……!」

『魔力出力、計測できません! 周辺の魔素がスレンヒルデのもとへと集まっていきます!』

「あ、隊長は!?」

『ちゃっかり守られてます!』

「いいのか悪いのか……! アミスさん、せめて僕の後ろに!」



 スレンヒルデはこの期に及んでもハークを諦めていないのか、影響の少ない自身の傍らに置き、魔導臨界の影響から守っていた。



「魔導――」



 スレンヒルデが奥の手を発動しようとした、その瞬間。

 それを遮るように甲高い声が轟いた。



「そこまでですわ!」



 それは、とてもよく通る声だった。



「――パンがなければお菓子を食べればいいじゃない!」



 まるでどこかの王妃のようなセリフとともに、影が飛び降りてきた。



「お菓子がなければお米を」



 その人物――マリアは降りてくると、回る火の手を掻き消していく。

 その手には木製バットほどの大きさの角笛が握られている。



「お米がなければお肉を。お肉がなければお魚を」



 マリアがふっと優しく角笛を吹くと、炎が掻き消える。

 美しく手入れされ整えられた長い金髪をドリルウェーブに垂らし、ふわりと自然の香りが漂う。



「お魚がなければお野菜を」



 マリアがぶんと角笛を力強く振るうと、コンクリの亀裂の隙間からきれいなお花畑があらわれる。

 サファイアのように透き通る蒼い目は燦然ときらめいて、惨状の首謀者を見据えている。



「お野菜さえもないのなら!」



 コウタの隣に並び立つと、角笛を地面に突き立て、マリアは自信満々に胸を張る。

 栄養がしっかりと行き届いて育った逞しい体は、オーダーメイドの豪奢なドレスに包まれており、隣に立つコウタに劣らない体躯だ。



「わたくしの元に来なさい!お腹いーっぱい! 食べさせてあげますわ!」



 ひらりとはためくドレスから覗ける逞しい両足は大木を思わせ、大地にしっかりと根付いているかのように微動だにしない。



「【豊穣の勇者】マリア・グレイス。ただいま参上、ですわ! おーほっほっほ!」



 龍すらも喰らう豪食グルメ貴族の高貴な高笑いが、容易く天まで届いた。











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