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機人転生 魔法とSF科学の世界に来たはいいけど、身体が機械になった上にバトルの八割肉弾戦なのなんで?  作者: 島米拾尺
第二章 力を持つ者が惹かれ合うのは物理学的にも証明されている。
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no.033 大砲

 



 コウタがハークに説教している間、スレンヒルデはずっとその様子を眺めるだけで、なにも仕掛けなかった。それどころか、どこからか持ち込んだティーセットで優雅にティータイムを満喫していた。



「お待たせしました」

「おや、もうお話は終わりですか?」



 そう言って、こくりと紅茶を飲み干すと、スレンヒルデは悠然と立ち上がる。確実に隙だらけなのだが、コウタはどうしてもその隙を突けなかった。



「……お陰様で。わざわざ待ってくれてどうもありがとうございます」

「いえいえ」



 スレンヒルデからすれば、たった数分の会話を咎める意味はない。言い残すことがあれば言い残せばいいし、策を弄した作戦会議だって、いくらでもすればいい。油断でも余裕でもない。隙だっていくらでも晒す。

 仮にそれらの何を誰がどう駆使しようと、心の底から、本当に、どうとでもなると思っているからだ。

 コウタはそれを、本能的な部分で察していた。だからこそ動けなかった。



「かなり頑丈ですね、コナーさん。鉄くらいは余裕で溶ける温度にしたはずなんですが」

「鉄程度と比べてもらっちゃうちの女性陣が怒りますよ。というかその名前で呼び続けるなら、本名明かさせた意味は?」

「礼儀ですが、なにか?」

「後ろから爆炎投げつけてくる狂人に礼儀とか言われてもって感じですね」



 コウタは口調こそ丁寧だが、スレンヒルデに向ける言葉は皮肉が多く含まれていて、どれも刺々しい。無理もない。ついさっき焼き殺されそうになったからだ。



「随分と嫌われてしまいましたね。愛のためなら仕方ありませんが……。これでは交渉が難航しそうですね」



 スレンヒルデは困ったように顎に指を当て、首を傾げながら悩むような仕草をして、さも話し合うつもりかのように振る舞う。コウタはそれを受けて、またも少し驚いた。



「……驚いた。まさか交渉する気があるとは」

「期待するだけ無駄だぞコータ」

「任せてください隊長。僕はこう見えて初対面の勇者と友達になった実績があります。コミニュケーションってのは相手を威圧しちゃダメなんですよ?」

「好きにしろ。そのうちわかる」



 ハークはそれ以上何も言わなかった。コウタは話せばわかると思っているわけではないが、それでも言葉が通じる以上、ある程度のコミニュケーションは取れると思っていた。

 しかし、それは儚く終わることになる。



「コナーさん。あなたの命だけは助けてあげますので、ハーク様と神器を置いていって貰えますか?」

「……はい?」



 それはおおよそ交渉とは呼べない、一方的な意見の押付けた。命だけは見逃してやるから、邪魔せず消え失せろと。それをさせない為にコウタは恐怖をおしてこの場に立っているのだが、スレンヒルデからすればそんなのは心底どうでもよかった。

 スレンヒルデはコウタのその返事を、言葉の意味が理解できなかったからと解釈すると、より噛み砕いて説明した。



「ですから、私も鬼ではないので、そこまで命を欲しがっていません。私の生涯の旦那様ハーク様と、本来の目的物である神器を置いていっていただければ、コナーさんは殺さないと約束します」



 本当に同じ言語を使ってるのかと疑いたくなるくらい、コウタにはスレンヒルデのその言葉が理解できなかった。


 ――意味はわかる。だからこそ、意味がわからない。

 


「だから言ったろう。話が通じる相手なら、わざわざ人類の敵として認定されることもない」



 ハークは淡々と、その事実だけを告げる。最早驚くだとかそういう段階ですらない。



「はいそうですか。わかりました――って、なると思います?」

「思うから言ってるんですよ。人は思想を変えることなどいくらでも出来ます。賢ければ」

「じゃあ僕はバカでいいので、交渉決裂ですね。さっさと荷物まとめて帰ってください」

「ふふ、では予定通り目撃者は0、と」



 そう言って、スレンヒルデはコウタに向けて手をかざす。

 次の瞬間、半径3メートルを越す爆炎球がコウタらの前に出現した。



「退けコータ!」

「詠唱とかないのか……!?」



 ハークに無理やり引きずられながら、コウタはその爆炎をなんとか寸でで回避する。

 手をかざしただけで、そこに爆炎が出現する。先程の不意打ちのときもそうだった。スレンヒルデはなんの前兆もなしで、コウタを爆炎で呑み込んだのだ。



「あなたは書き慣れた文字を書くとき、いちいち書き方を一角ずつ確認しますか?」

「……なるほど。よくわかるたとえをどうも」



 コウタは軽い調子で礼を言うが、内心戦々恐々としていた。予備動作がほとんどない上、殺傷力もかなり高い。もしこのマシンボディでなければ、などとは考えたくもなくなる。



「お願いがあるのですが、もう少しハーク様から離れて頂けませんか? 巻き込んでしまうので加減が必要なんですよ」

「それを聞いて、はいそうですかと離れるわけないでしょ」



 スレンヒルデがその気を出せば、コウタを殺せるかはともかく、戦闘不能にすることは容易だ。だというのにその気を出さないのは、目的であるハークの命を極力脅かさない為だ。



「では仕方ありませんが……まず突き放すところから始めましょう」



 そう言って、スレンヒルデはどこにともなく手をかざす。



「来なさい」



 次の瞬間、天井を貫いて一閃が降ってきた。それはすぽりとスレンヒルデのかざした手に収まると、ようやくコウタの目にもその正体が視認できた。



「槍?」

「……槍だ」



 ハークは苦虫を嚙み潰したような顔でそう返す。しかし、コウタはその槍も気になっていたがそれよりも、降ってきた際の一閃にどこか覚えがあった。



「強いエネルギーを感じたので投げてみましたが、特に収穫はなさそうですね」



 スレンヒルデは穂先についたなにものかの血を拭いながら、つまらなさそうな顔でそう言う。

 それを聞いて、コウタはある考えに至る。


 ――覚えがあるというのは、シンデレラを貫き瀕死に至らせ、さらに地面を崩落させる原因となった、地面から現れた謎の一閃のことだ。

 強いエネルギーがアークによるものだと仮定すると、すべてのつじつまが一応合う。


 コウタは疑いを確かなものにすべく、スレンヒルデへと問いかける。



「……シンデレラって知ってますよね。あなたが連れてきたドラゴンです」

「ええ」

「その槍に貫かれて、死にましたよ」



 もちろんこれはブラフだ。シンデレラは現在、死にはしていない。生死の境をさまよって居るし、コウタたちは必死に助けようとしている。

 少しでも揺らげば、と考えていたコウタだが、それは無駄に終わることになる。



「それで?」



 スレンヒルデは心の底からどうでもよさそうに、それがなにか問題でもあるのかと問い返す。それは心の底からそう思っていると、彼女の事をよく知らぬコウタからでもありありと感じ取れた。



「……」

「運が悪かったのでしょうか? まぁコナーさん程度に足留めされるくらいなのですから、いてもいなくても変わりませんが。どの道あなたがここに来てしまった時点で始末することは確定してますので、一石二鳥というものですね」



 それを聞いて、コウタはなぜだか苛立ちを覚えた。シンデレラへ情が移ったこともないわけではないが、それとは別の、もっと、言語化できないところから発生する苛立ちだ。



「……よかった、あなたが話も通じなくて、血も涙もないヤバ女で。言葉が通じても、人と思わなくて済む」



 コウタは半身に構えて、右脚にエネルギーを充填させていく。



「手加減なしだ」



 コウタは蹴りの体勢に入る。右脚を大きく振り上げ、射線上にスレンヒルデを捉え、全力でその脚を解き放つ。

 そしてそれよりも早く、速く。ハークが地面に拳を叩き込んだ。



「――フンッ!!」



 ハークの拳は強烈な破壊を孕んでおり、地面はぐわんと波打って、瞬く間に張力の限界を突破する。

 コンクリートは辺り一面に砕け、大量の瓦礫と化す。



「何を……?」



 スレンヒルデは訝しみながら、崩れた地面に巻き込まれぬよう、コウタの蹴りが届かぬよう、後ろに跳んだ。

 その浮いた一瞬を、コウタは狙っていた。


 ――これで仕留められるとも、ましてやダメージがあるとも思っていない。これは開戦の号砲だ。



「機式剛術」



 コウタは自身の右脚に、普段の脚砲の数倍のエネルギーを込めていた。そして、ハークが作り出した現在進行形で砕かれている出来たてホヤホヤのバキバキ地面へ、その全てが注ぎ込まれる。

 一切の加減なしで放たれたコウタの剛脚は、音すらも越える。



礫脚大砲(れっきゃくだいほう)!!」



 音速を超える質量拡散弾が、スレンヒルデへと襲いかかった。


ありがとうございます。

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