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機人転生 魔法とSF科学の世界に来たはいいけど、身体が機械になった上にバトルの八割肉弾戦なのなんで?  作者: 島米拾尺
第二章 力を持つ者が惹かれ合うのは物理学的にも証明されている。
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no.027 哲学のちち

 


 ――点。そう感じた。赤よりも、白い点。



「っ!!」



 コウタは瞬間的にシンデレラが突き出した腕を蹴り上げ、なんとかその軌道を逸らす。

 それは一瞬で数百メートル先の壁面まで駆けると、容易くスタジアムの観客席を切り裂いてみせた。



「今度は熱線か……!」



 その熱線は無駄な破壊を生むことのない、ブレスの熱量をたった直径数センチに凝縮した莫大なエネルギーの塊だ。



「しかし、対策を平然と取ってくるな……」



 コウタは内心冷や汗を垂らしながら、シンデレラの知能の高さに驚嘆していた。

 二回のブレスで広範囲の高火力ブレスが効かないとみると、範囲や火力を捨て、速度と貫通力に長けたレーザー式に切り替える。それを即座に実行出来るほど高い判断力に、そもそもその手段を用意しておく、高い想像力。


 ――おそらく、知能だけで言えばミスゴンより上だ。



「ふふ。コータ。避けた」



 シンデレラは楽しそうに、本当に人間かのように笑う。コウタはそれを見て、不気味さとは別のベクトルで戦意が削げるのを感じていた。



「……熱いのは嫌だからね」

「避ける。だめ。人間。いっぱい」



 無闇やたらと人間に攻撃したくないのか、それとも脅しをかけているのか。コウタにはそれがどちらかわからなかったが、なぜか前者だったら良いなと思っていた。

 コウタは、自分がシンデレラに抱きはじめている感情と、その思考がわからなくなってきていた。



「じゃあ、撃つのやめてよ」

「やだ。まだ撃つ」

「――尻尾か!」

 


 判断と同時にコウタが宙に翻ると、立っていた場所に熱線が突き刺さる。それは硬い地面を容易く貫き、焼き焦がすほどの熱量だ。威力こそブレスに及ばないものの、牽制としては充分に満たしている。



「この距離なら……礫脚砲!」

「!」



 コウタの放った瓦礫がシンデレラの左脇腹と右肩、右脚を貫通する。

 シンデレラはバランスを崩し、地面に膝から落ちる。



「作戦会議するからそのまま崩れてて!」



 コウタはそう言って、速さと予備動作のなさを加味して、ドラゴン形態の時と同じくらいの距離を取った。



「自分から離れといてなんだけど、遠いな。かなり小さくなってるってのもあるんだろうけど。……遠距離武器が要るな。アミスさん、観察の結果はどうですか?」



 観察と解析を任せていたアミスにそう問うと、彼女はとても驚いた様子で語りだす。



『コウタさん、これはとんでもないことですよ……!』

「ええ、人の姿を模すだけならまだしも、言葉を話すなんて――」

『かなりおっぱいが大きいです……! Gはあります!』

「いやそこ!?」



 やはり変態(アミス)は目の付け所が違った。

 ドン引きするコウタをよそに、変態は性癖展開を続ける。



『かの昔、えろい人は言いました。《我思う。故に我あり》。つまり、世の中のすべてのものの存在を疑ったとしても、おっぱいを目の前にしている自分自身の存在だけは疑うことができない、ということです!』

「よく知らないけど絶対に違う意味だってことだけはわかる」

『さすがは哲学の父の乳の哲学……はっ! デカルトのデカって乳がデカいって意味かもしれません!』

「全世界のデカルトさんに謝れ」



 コウタは既にキレているし呆れている。しかし、この変態はその程度で収まらない。

 さらなる偉人に泥を塗り始めた。



『そうなってくると、ニュートン力学もそういう意味だった可能性が生まれてきますね』

「だまれ」

『アイカップ・ニュートンが提唱した万乳引力により、私はあのドラゴンバスト(直喩)から目が離せません!』

「お前ほんまええ加減にせえよ」



 ――人が真面目に戦ってるのになんてやつだ。マジでクビにしたい。


 呆れすぎて、コウタの心の中の関西人が躍動してしまう始末だ。なにせ今は戦闘中、普段でさえ聞くに絶えないというのに、そのウザさは八割マシだ。



『コウタさんはあのドラゴンボール(暗喩)を見てなにも思わないんですか!?』

「書類上だとしてもこいつが僕の上司なのマジで納得いかないんだけど……。キショすぎる」

『そんなこと言って、コウタさんもおっぱいは大きい方が好きですよね? いつもメニカちゃんの胸ばっかみてますもんね!』

「は? 全っ全全くこれっぽっちも見てないし。いや見てるけどそれは身長差があるからであって決して下心じゃないから勘違いしないでくださいでかいのは好きですけどそもそもアミスさんが僕の相棒をどっかやっちゃったから下心なんてないんですよわかりましたか?」

『めっちゃ早口』



 いつものメニカらに負けないくらいのスピードで、コウタはまくし立てた。


 ――照れ隠しでもなんでもなく、事実を伝えようと前のめりになってしまった結果の早口だ。そもそも巨大なものには誰でも目を引かれるし、角度的に本当に目に入ってしまってるだけだ。本当に。本当だよ? コウタウソツカナイ。



「それに、たとえシンデレラが人間を模した姿がいくら巨乳だとしても関係ないです。任務なので。あと僕にガチケモノのケはないです」

『ちっちっちっ。乳だけに。コウタさん、乳に貴賎なし、ですよ? メニカちゃんの叡智が詰まったおっぱいも、シンデレラの灰かぶりおっぱいも、ケイトさんのプレートおっぱいも、どれも堪らなく愛おしく、尊いんですよ』


 

 なにか名言風なことを言っているが、ようはただの猥談だ。つまり、話題は1ミリも変わっていない。


 ――よし、一回シバこう。



「一回シバいていいですか?」

『え? 普通に嫌です』

「……」



 一瞬の沈黙。



「おらァ!」

『ひぃ! キックでしたよいまの!』

「ちィっ!!!」

『ガチの舌打ち!?』



 蹴りもそこそこ本気だったのは言うまでもない。



「ちっ……、ちっ。変質者さん、被害状況は?」

『幸い人気のない方角でしたので大丈夫です。ですがまだ避難が終えていないところもあり、例によってあんまり撃たせるのは得策じゃないですね』

「了解。そうなると手数が欲しいな。あんまり地面崩すと下に落ちそうだし……。遠距離武器ないですか? 瓦礫だとあんま効かなくて」



 シンデレラを行動不能にするのに、あと一歩足りない。どうにか策を講じる必要がある。コウタとアミスが再び作戦会議に入ろうとした、その時だった。

 ノイズ混じりに、通信が入った。



『あーあー』



 それは聞き慣れた声。つい先程、下世話な話題の的となってしまった人物の声。



『ふたりとも聞こえる? メニカだよ』



 会場から避難していたはずの、メニカであった。

ありがとうございました。短いですが、あと四日続けて投稿します。

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