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機人転生 魔法とSF科学の世界に来たはいいけど、身体が機械になった上にバトルの八割肉弾戦なのなんで?  作者: 島米拾尺
第二章 力を持つ者が惹かれ合うのは物理学的にも証明されている。
25/70

no.024 たかが、ごとき、その程度。

よろしくお願いします。

 

 体高2メートルを超えるオオカミ男となったハスキィは、音もなく消えた。



「――速」



 その音を口が出力し切る前に、コウタの腹にはハスキィの蹴りが叩き込まれていた。

 その胴はくの字に折られ、まるでサッカーボールのように容易く蹴り飛ばされる。



『ハスキィ選手の高速の一撃が炸裂! キガミ選手が宙に舞い、転がってゆく!』



 数メートル転がされたものの、コウタは慣れた様子で即座に立ち上がる。ハスキィからの追撃はないと見るや、土埃を軽くはらいながら文句をつける。



「おかしい。明らかに体重が増えてる。どっから出てきたんだその質量!」



 ――今更、反応できない速度で攻撃された程度のことに、驚きはしていない。

 それよりもまず疑問に浮かんだのが、攻撃の重さだ。先程までとは比べ物にならないほど、重さが増している。つまり、この変身は見かけだけではないということだ。中身も伴っている。



「大気中の魔素を取り込んでうんぬんかんぬんって話らしい。科学の詳しい話は知らん。そしてやっぱり打撃は効かないか。かなり強めに蹴ったんだがな」



 スロゥプの一部には、その肉体そのものと体外の魔素を反応させることで、一時的に性質を変化させ、質量を生み出す体質を持っている者がいる。それは殆どが特殊な興奮状態のときに行われる。

 ハスキィもその特性を持つひとりで、アンプルの薬剤でホルモンバランスやら脳内物質やらを調整し、変身している。

 なお、このビルドアップは一定時間を過ぎれば次第に性質と質量は失われ、変身は解けてしまう。



「科学的に無理なことは無理って聞いてたけど、大概なんでもありだな魔素」

「そうか。なら、こういうのも見たことないんじゃないか?」



 ハスキィはだらんと右腕を右肩からかけて脱力すると、風切り音がするほど素早く振り抜いた。



「A.I.R」



 次の瞬間、コウタの胴体に五本のカマイタチが炸裂する。



「痛っった!?」



 裂くような衝撃が胴体を通り抜け、それに伴う激痛がコウタの膝を折った。

 大気による、見えない衝撃炸裂斬。本来はその威力を持った爪で近接攻撃するのが主だが、ハスキィほどになると斬撃を飛ばせるようになる。



「……なにも見えなかった。なんだ今の」



 傷も跡もないが、激痛の余韻だけはしっかりと残っており、コウタは腹をさすりながら立ち上がる。

 原理としてはソニックブームに近く、魔力による鋭利な得物で空気を裂くことで発生するとの見解がなされている。



「打撃よりかは随分と効いたみたいだな。斬撃や刺突に弱いのか? 接地面積の問題か?」

「見かけによらず冷静な分析力……! 狼男になったら知能が低下するなんて甘い考えだったか!」



 そもそもオオカミは犬よりも賢い。

 ハスキィの脳がオオカミなみの大きさになったならばコウタの言う通りに知能が低下していたかもしれない。しかし実は四肢などの骨格は変わったが、頭蓋骨だけはほとんど変化がない。そのおかげで脳が小さくなることもなく、知性を保てているのだ。



「興奮状態ではあるから、さっきより遠慮はないぞ」

「しなくて結構ですよ! 礫脚砲!」



 コウタは隙ありとばかりに瓦礫を蹴り飛ばす。ハスキィはそれをひらりと避け、またもコウタに肉薄する。



「威力は凄まじいが一対一の近接戦闘向きではないな。面制圧に便利そうだ」

「ち、的がでかくなっても当たらないか!」



 足が止まったその瞬間をハスキィは逃さない。ビースト形態特有の敏捷性で一気にコウタへ詰め寄ると、魔力を込めた爪で近接戦闘を仕掛ける。



「A.I.R / C.Q.C」



 遠距離でなく、本来の使い方による重く鋭い一撃。やっていることは空手でいう抜き手だが、殺傷力は比べるまでもなく、そこいらのナイフ術や剣術より余程鋭い。



「ぐっ……!!」



 しかし、コウタは倒れない。激痛に顔をしかめ、爪が直撃した腹がこわばっても倒れない。不意でなければ、勇者の一撃すら堪えてみせるボディだ。

 いくら刃のように鋭いとはいえ抜き手の一撃程度、踏ん張るのは造作もない。



「崩れすらしないか。時間をかけるのは愚策だな」

「やられてばっかじゃ……!」



 コウタは右腕にエネルギーを溜め、地面に叩き込もうと振りかざす。

 しかし。



「おっと、させないぞ」

「速い!?」



 ハスキィはテコの原理的なアレでコウタの腕を絡めとり、その剛力を止めると、地面に背負い投げで叩きつけた。

 ろくに受身を取れず背中から叩き付けられたが、コウタにはこの程度柔らかいソファに飛び込むのとなんら変わらない。しかし、マウントを取られたことは事実。ハスキィのターンは終わらない。



「くっ……!」

「まだまだ」



 ハスキィの容赦ない連撃。地面は更に鋭利に抉られ、コウタの身体を裂かれる激痛が通過してゆく。



「めちゃくちゃ痛い……!」

「これだけやっても痛いだけで済むのか。逆にこっちが突き指しそうだ」

「この! あっち行け!」

「おっと」



 コウタの突きをハスキィはひょいと退いて躱し、五指の痛みを誤魔化すように、ぐっぱぐっぱと手のひらを開閉する。



「見たところ傷も凹みもない。逆にこっちが凹むな」



 既に10程の刺突や斬撃を同じ箇所に叩き込んではいるが、傷はおろかへこみすらしていないコウタの硬さに、次第に辟易してきていた。



『キガミ選手、変身したウルソン選手に手も足も出ていない様子! やはり地力の差、経験値の差が出てきてしまったか!』



 しかし、いくら外見的にノーダメージとはいえ、コウタが圧倒されて手も足も出ていないのは紛れのない事実だ。

 事情を知らない観客からは、7:3ほどでコウタの不利と判断されている。



「……らしいが、観客はあまり見る目がないな。飛ばしこそしてるが労力に見合うダメージは入ってないというのに」

「そう思ってくれたなら耐えたかいがあるってものですけど、そもそもなんでこの世界の人々は軽々と200キロの金属を素手で殴り飛ばしたり投げ飛ばしたり出来るんですかね……!」



 文句を垂れながら、コウタは当然のように立ち上がる。痛みはまだあるものの、日頃を鑑みればこの程度で立ち上がれないわけがなかった。



「そういうお前はどんな硬さだ。俺の爪はそこらのオートロイドくらいなら軽く引き裂くんだが?」

「それはもう爪より指の力の方が凄い気がしますけど、僕の身体は特別製なので」

「どうやらそうらしい。あまりいたぶるのは好きじゃないんだがな」

「……随分と説得力のある表情ですね」



 コウタのこれはもちろん皮肉だ。ハスキィの表情には申し訳なさなど微塵もなく、どう料理するか考えているほんのりと嗜虐心が含まれている。

 じりじりと隙を伺いながら対峙するふたりに水を差すが如く、突然大音量のアナウンスが鳴り響いた。



『ここで臨時ゲスト解説の方が来てくれました! 今戦っているキガミ選手の専属メカニックの、メニカ・パーク博士です!』

『アストのみんな、こんにちは。天才メニカちゃんだよ』



 コウタが試合に出て、ケイトは医務室でゴンザレスの見舞い、アミスはハークについて行ったので、メニカはひとりだった。

 解説を聞かせる相手もおらず、しかしコウタの魅力を存分に伝えたい。そう考えた彼女のとった行動はシンプルだ。近くに話し相手が居ないならば、大音量で轟かせればいいのだ。



『一見ウルソン選手が圧倒してるように見えますが、博士はどうお考えでしょうか?』

『コータくんは確かに弱いし、現状手も足もでてないけど、この程度でやられるわけないよ。普段から隊長に殴られまくってるし、なにせユーリ・サンダースと戦って生き延びたからね』

『雷の勇者と!? それは凄まじいですね。彼は機械にめっぽう強かった記憶があるのですが……主に戦闘力的な意味で』

『それを言うなら、コータくんの身体は物理的な意味で最強なのさ。あの速さを見たでしょ? 身長190cm、体重200kgかつ二足歩行であの速度、コータくんの最高速度は時速500kmに近いけど、それを出すにはそもそも普通のオートロイドじゃ構造もそうだけどなにより材質がもたない。それをエネルギー変換速度が抜群に優れているかつめちゃくちゃ硬い材質にして、加えて全身にエネルギーを吸収し続ける特殊な粒子を巡らせることで、負荷さえもある程度は自身のエネルギーとして取り込むことができる。端的に評しちゃうと、コータくんの身体はダメージをダメージと認識する前にエネルギーに変換しちゃうんだ』



 素人に配慮しつつ専門用語を廃してはいるものの、相も変わらず怒涛の早口。しかし、その聞き手はトークスキルに長けている実況解説者だ。こういう手合いは大抵、結論だけをオウム返しすればいいという処世術を身に付けている。



『なるほど……。つまり、殆どダメージが通らないと思っていいと?』

『そうだ、と言いたいんだけどそうもいかなくてね。接触面積あたりの吸収量には限りがあるから、それを超えるとダメージを受けちゃうみたいなんだ。だから隊長とかユーリ・サンダースの規格外の打撃とか、ハスキィがやってるみたいな斬撃や刺突は少なからず効くんじゃないかな』



 弱点と個人情報を垂れ流されまくっているが、コウタは最早気にしない。いちいち気にしていたら身が、彼の場合は身体が無敵なので主に心が、色々ともたないからだ。



「またあの子はなにやってんだか……」



 コウタは実況席の辺りを眺めながら、呆れたように呟く。そんな無防備同然の隙をハスキィをが見逃すはずもなく、加速の勢いが載った迅爪の一撃が顔面に叩き込まれた。

 またも吹っ飛ぶかに思われたコウタだったが、一歩も動かずに踏ん張っていた。



「……油断した」

「それなら膝くらい着けよ」



 コウタはハスキィの攻撃に慣れてきていた。日頃ハークからの暴力を受け続けている彼にとって、攻撃とは避けて見切るものではなく耐えて受け切るものだった。そしてその受け方も、攻撃を喰らう度に洗練されていく。そうしないと死ぬからだ。



「いくら硬いとはいえ、反撃がないとつまらんな。勇者と対峙した話が本当なら、この程度で終わりなわけがないよな?」



 ハスキィは有効的な反撃をしてこないコウタに業を煮やしていた。なぜそのフィジカルがあって、そんな動きしかできないのだと、宝の持ち腐れに若干ムカついてさえいた。

 そんな様子のハスキィに対し、コウタは再度ファイティングポーズを取って、わざと煽るような口調で。



「そりゃあもちろん。そっちこそこの程度で終わりなわけがないですよね?」



 こいこい、と手招きさえしてみせた。不敵に笑っているようにも見える。



「初めからその状態じゃないってことは、何かしらの制限があるってことだ。持久戦なら僕は得意だ」



 ――耐えて耐えて耐えまくって、疲れきったところを仕留める。おそらくそれが一番勝率の高い戦法だ。だけど。



「それで勝っても意味がない」



 コウタが一兵卒程度の平均的なスペック()()を有しているなら、ハスキィのような格上に耐久勝ちは大金星だ。



「戦闘の技能面じゃ、今の僕はあなたに逆立ちしてもロンダートしても、たぶん勝てない。何年かしごかれて、ようやくスタートラインに立てる」



 仮にコウタが生身であったならば、ハスキィに一撃当てるまでに、軽く20回は意識を刈られているだろう。ふたりの間にはそれくらいの技能差がある。



「その硬さは充分過ぎるほどに脅威だが」

「それじゃダメなんだ」

「……」

「そんなんじゃ、絶対に彼らに追いつけない。僕は力を持ってしまった。友達が言ってたよ。力を持つ者はそれを正しく使う義務があるって」



 戦いは技術だけでは決まらない。優れた技術を持つ者が、巨大な資本に押し潰されてしまうことがあるのはどの界隈でも共通項だ。そして、コウタには圧倒的な耐久力がある。それでじわじわと押し潰すだけなら、今でも可能だ。彼もそれをわかっている。

 しかし、だからこそ。



「僕はもう――」



 ――こんな自分を友と呼んできた変人と、強制的に師事することになったサイボーグゴリラ。彼らに少しでも縋り付くために。



「あなた()()()に負けてられない」



 たかが身長が1メートル近く大きくなって膂力が爆増したとか、たかが鋭い爪がめちゃくちゃ痛くてしっかりダメージが残るとか、たかが反応出来なかった速度が更に速くなったとか。

 そんな「たかが」如きに、コウタは耐久ごり押し勝ちで形だけの勝利をもぎ取るつもりは毛頭なかった。



「ははは! ごときか! なかなか言ってくれる!」



 ハスキィは先程の苛立ちを吹き飛ばすように笑った。目の前のマシーンは自身が想像しているよりもはるかに傲慢であったからだ。勇者に追い縋れると、彼らに並び立てると、そう言ってみせているのだ。

 ふつう、夢見る子どもや余程の世間知らずでもない限り、勇者に匹敵できるなどとは思いもしない。実際に対面したことがあるとならば尚更だ。



「それならコータと言ったな。まず俺を倒してみろ。なに、彼らには及ばずともかなり頑丈だ。絶対に耐えてやる。さっきまでみたいな手加減はいらない」

「言われなくても。まず一撃、ぶち込ませてもらいます」



 ふたりは笑いながら構えを取って、互いにじりじりと距離を詰めてゆく。

 やがてコウタが踏み込んだ、その瞬間。地面がぐわんと大きく、波打つように揺れた。



「……地震?」



 コウタはその揺れに首を傾げる。踏み込みこそしたものの、エネルギーを込めてもいないし、そこまで強く踏み込んでもいない。

 しかしその揺れは確かに現実で、ふたりのちょうど中央あたり。そこの地面が、ぼこんと隆起した。



「……まったく、今度は地盤ごと崩す気か? ステージを作ってくれた人に申し訳ないと思わないのか」



 ハスキィは膨れる地面に呆れながらそう言う。コウタが踏み込んだら地面が揺れ、次は隆起した。 既にむき出しとなっている地面の抉られ具合を加味すると、それもこれも同一人物の仕業であると断定するのにはそう時間がかからない。

 しかし。



「違う! これは僕がやったんじゃない! それと、高熱源反応がする!」



 ちょうど、コウタのセンサーは地下の異常を感じ取っていた。先程より地下の温度が数百倍にまで跳ね上がっている。



「は……?」

「そこから離れて!!」

「っ!」



 ハスキィが全力で跳び、コウタが叫ぶと同時。

 地面が紅く染まった。そして、それを無理やり突き破るようにして、半径30mを覆い尽くすほどの爆炎が天に昇る。



「この炎は……!」

「これもお前の力か?」

「そんなわけあるか! なんで()()……!」



 その業炎の柱の中にいる巨大なシルエットを、コウタは睨めつけていた。

 それは明らかに人の形をしておらず、明らかに人間よりも数倍巨大で、明らかにこちらに敵意を向けている。そんな敵対生物は巨躯に見合う翼を広げ、爆炎の勢いに乗って飛び立った。



「グオォォォ!!!」



 ――そして、灰の鱗を身で纏った、赤眼のドラゴンが現れた。



「なっ……! ドラゴン!?」

『ドラゴンが出現!? パーク博士、これもキガミ選手の機能のひとつでしょうか!?』

『そんなわけないよ!?』



 突然のドラゴンの出現に驚くハスキィだが、コウタはその背に乗っかっている知人を見つけ、そちらの方に驚きを奪われていた。



「隊長にアミスさん!?」



 見覚えのあるメカゴリラと、見覚えのあるデカクリオネ。戦闘の痕なのか、全身煤だらけだ。



「外に出すつもりはなかったんだがな……! アミス、警報!」

『了解です! みなさーん! ドラゴン警報でーす! にげてくださーい!』



 アミスにハックされた拡声器から、危機を煽る警告音声が轟く。



『どど、どうやらこれは演出ではないようです! 皆さん、落ち着くのは無理でしょうができるだけ速やかに怪我なくこの場から逃げてください! 私も逃げます! 博士もご一緒に! 非常口があります!』

『むむ、見たいけど流石に危ないね。隊長とコータくんにアミスちゃん、任せたよ!』



 観客はその音声と、突如として現れたドラゴンに逃げ惑う。



『隊長さん! 観客の方を狙ってます!』

「やはり知性は高いか! アミス、離れていろ!」

『合点!』

「機式剛術」



 ハークは一呼吸吸って、右の拳を固く握り、照準をその背に定める。



「轟鎚!!」



 そして、なんの躊躇いもなく()()で叩き込んだ。



「ガッ……!!」



 隕石が落ちたような轟音と衝撃が、コウタらの頭上で爆裂し、ドラゴンは凄まじい速度で地面に叩きつけられた。



『まだ息があります! ダメージ不定!』

「ちっ、やはり灰鱗龍(グレイスケール)……。打撃は効果が薄いか」



 ハークはコウタらの少し離れた場所に着地し、ドラゴンの様子を伺う。当のドラゴンは何事も無かったかのように起き上がり、その赤い目で彼らを睨めつけた。



「隊長、なにやってるんですか!」

「ハークさん!?」



 コウタとハスキィは突如現れたドラゴンに戸惑いながらも、ひとまず同じく突如現れた師の方へ駆け寄った。



『あ、コウタさんです!』

「む、いい所にきたなコータ。対戦のカードはハスキィとだったな。……よしコータ。アミスと協力してあのあのトカゲを仕留めろ」

『ガッテンです!』



 アミスはコウタの傍らに飛んでゆき、いつものポジションに留まった。



『ただいまです!』

「おかえりなさい。隊長、いきなり仕留めろったって! 隊長はどうするんですか!」

「俺はそいつより厄介な相手を足止めする。始末出来次第こっちに来い。見てたからわかると思うが打撃は効果が薄いぞ。詳細はアミスから聞け。それとハスキィ、手伝え」

「り、了解!」



 ハークは簡潔にそう告げてコウタに場を任せると、ハスキィと共に再び穴の中へ飛び降りてしまった。



「……ドラゴンより厄介な相手って、ひとつしか想像できないんですけど」



 脳裏に浮かぶのはつい先日友人となってしまった勇者だ。ハークの言葉を単純に飲み下すなら、ユーリクラスの化け物が来ているということになる。しかもハークが警戒するほどの、明確な敵対意識を携えて。



『それは一旦置いといてください。先のことより今はドラゴンです。やれますか?』

「二日に一回のペースでドラゴンに遭遇してるんですけど……滅多に遭遇しないって実は嘘ですよね。今のところゴキブリより遭遇してますよ」

『コウタさんはドラ運がないですねぇ』

「ドラ運てなに!?」



 ドラ運はドラが乗るかどうかの運である。ドラゴンとはおそらく全く関係がない。



「ここまで立て続けに来ると、僕はドラゴンを呼び寄せる体質なんじゃないかって勘繰ってしまうんですが」

『ぎくり』

「え、ほんとなんですか?」



 コウタはなにか確信があって言ったわけではなく、なんなら責めるつもりもない、冗談を混じえた軽口のはずだったが、アミスはそれはもうわかりやすく狼狽えた。



『えーと、あーと、そのぉ。……あっ、それロンです』

「いやどんな嘘!?」

『心当たりを言っても怒らないですか?』

「余程じゃないと怒らないですけど……。心当たりがあるんですか?」

『アークの放つエネルギーがなんらかの事象を引き寄せる因果関係がないこともないかもしれない可能性がゼロではないかもしれないので……』



 アミスはコウタのボディについては詳しいが、アークについては使用方法と少しの特性しか知らない。



「つまりよくわからないけどなんらかの因果関係があって、何故か遭遇しまくってるってことですか?」

『端的に言えばそうですね。まぁ仕様外の挙動、言わばバグですね。ただちょっとドラゴンと遭遇しまくるだけの!』

「即刻全回収(リコール)しろそんな製品」



 コウタはキレながらそう吐き捨てた。



『おっとコウタさん、ドラゴンが穴に戻ろうとしています!』

「それはまずい! させるか、礫脚砲!!」



 コウタの放った瓦礫は今日イチの速度で飛んでゆき、寸分違わずグレイスケールの顔面に直撃した。

 そして灰の龍は、そのオートノイドを一撃で敵と認識した。



『目標、こっちを向きました!』

「えーと、こういう時はなんて言えばかっこいいんだろ……。お前の相手はこっちだ? かな」

『かかってこいトカゲ野郎はどうです?』

「あんまり口荒いのはキャラに合わない気が」

『気付いてないかも知れませんが、コウタさんってわりと口悪いですよ?』

「えっ」



 思いもよらぬ客観を聞かされ、コウタのドラゴンスレイが始まった。



ありがとうございました。

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