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機人転生 魔法とSF科学の世界に来たはいいけど、身体が機械になった上にバトルの八割肉弾戦なのなんで?  作者: 島米拾尺
第二章 力を持つ者が惹かれ合うのは物理学的にも証明されている。
23/69

no.022 内骨格総機械型サイボーグ

よろしくお願いします

 





 ロイドレースの翌日、総合格闘大会、通称バトル・オブ・ノイド&ロイドが開催された。

 今回で8回目を迎えるこの大会は、格闘家から魔法使い、サイボーグ、果ては遠隔操作のオートロイドまで参加する大会で、2~3年に一回くらいのペースで不定期に催される。なお、前回と前々回の優勝者はハークである。

 既に一回戦の第二試合までを終え、三試合目、ケイトの試合が始まろうとしていた。



『皆様お待たせしました! 一回戦第三試合、開始いたします!』



 アリーナの中心に置かれた50メートル四方の武舞台の両端からケイトと、その対戦相手が現れた。



『赤コーナー! ウィカル代表、ゴンザレス・ゴンザレス! で、デカぁーい! チャンピオンのハーク・ベンジャーに勝るとも劣らない巨躯の持ち主です! 主要戦闘方法は、なんとこの見た目で魔法だそうです!』



 ケイトとの体格差は大人と子ども、どころではない。見た目からパワー系であることが簡単に伺えるが、提出されている書類では魔法使いとして扱われている。

 ゴンザレスは木製の棍棒のようなぶっとい杖を肩に担ぎながら、ずかずかと中央へと歩みを進める。

 ケイトは倍ほどもあるゴンザレスとの体格の差に少しも臆する様子はなく、同じように迷いなくすたすたと歩いている。




『続きまして、青コーナー! メカーナ代表、ケイト・ロード! 所属はメカーナのサイボーグ部隊とありますが、本職は医師だそうで、ここアストで医療技術の普及活動に従事してくれています。そのスレンダーな見た目とは裏腹に、サイボーグ化されたその体は横転したトラックを軽くひっくり返すほどの怪力の持ち主でもあります! 主要戦闘方法は格闘です!』



 アリーナの中空にはそれぞれの現在の姿を映した巨大なホログラムが投影されており、両者とも、片腕を上げて歓声に応える。


 その様子を関係者席から観覧しているコウタたちは、ケイトについて話していた。



  「やけに力強いなって思ってたけど、ケイトさんもやっぱりサイボーグなんだね」

「そうだよ。ケイトのどこがサイボーグなのか、コータくんわかる?」

「五体満足で見た目は普通の人間ってことを考えると、中身が機械……みたいな?」



 コウタは己の推測を出来る範囲で話す。己のように全身機械の見た目でもなく、ハークのように一部が機械とわかるでもない。

 そうなると、おのずと答えは絞られる。

 ケイトの皮膚は全て地肌だ。腕も足も自前のもので、見た目ではサイボーグとはわからない。つまり、内部が機械であるとの推測だ。

 それは概ね当たっていたようで、メニカは肯定しながら補足する。



「そ。正確には骨格を機械化したんだ。初めは一部だったけど、改造に改造をかさねて、ほぼ全ての骨をサイボーグ化したよ。そのおかげで、今やハーク隊長に継ぐ剛力の持ち主になった……あ、コータくんがいるから今は三番目かな。あとこれ言うとめちゃくちゃ怒るけど、あの体格で体重三桁あるよ」

「どおりでハグが鯖折りだったわけだ。今までに被害者いたりしない?」

「居ないよ? 医者なだけあって器用だから、手加減は隊長より上手だし。コータくんの弟性が強すぎたのかもね」

「僕一人っ子なんだけど……」



 よくわからない評価を受けていることに釈然としない思いを抱きながら、コウタは観戦に戻る。

 ザワつく場内に審判のアナウンスが響き渡り、試合開始の宣誓が述べられる。



『命を奪わなければなにをしても構いません。清濁併せた試合をよろしくお願いします。それでは、試合開始!』



 試合開始を今か今かと待ちわびる観客に対し、選手の二人はとても静かにその時を待っていた。 

 そして、ゴングが鳴らされる。



「では、私から。魔動人錬成(ロイド・アルケマ)(オーア)



 ゴンザレスは棍棒を地面に突き立てると、それを核として魔力を注ぎ込む。地面を吸い上げ素体とし、そこへ爆熱を奔らせる。術式は試合前から杖を兼ねた棍棒に刻んでおり、生成に時間はかからない。あっという間に岩石の体を爆熱で燃やした、マギカロイド――ゴーレムが形作られた。


 高度な魔法の発動に会場がどっと湧き、コウタもそれに漏れず興奮を隠せないでいた。



「め、メニカ、魔法だ! 魔法だよ! なんかゴーレムみたいなのが出来上がってく! ユーリみたいななんちゃって魔法じゃなくて、ガチ魔法だ! すっげぇ!」

「うんうん、魔法だねぇコータくん。興奮しちゃって可愛いんだから」



 まるで遊園地に来た少年のようなはしゃぎよう。産まれてはじめて見る、魔法という未知の存在に、コウタはそれはもう興奮していた。

 その様子をしばし可愛がっていたメニカだったが、ふと。



「……なんでいつも私がメカ勧める時はそんなに反応しないの?」

「え? 見飽きた」

「なっ……!」

「そもそも機械初心者の僕に関節の丸みがどうとかボーンこそ真の美とか言われても……」

「ふん、だ! 魔法だって科学なんだからね! コータくんの浮気者! ばーかばーか!」

「そんなに怒らないで。ビリビリしないで、痛い痛い」



 コウタの腕にスタンガンを当てながら、メニカはぶすくれて駄々っ子のように地団太を踏む。

 それを慣れた様子で片手間に諌めながら、コウタは再びリングへ目を向けた。


 そんなやりとりを繰り広げる発端となったとも知らず、ゴンザレスとケイトと一定の距離を保ったまま、互いに機を伺っていた。



「なるほど、マギカロイド……ゴーレム使いってやつ?」

「左様。さらに私も攻撃に加わる故、申し訳ないが二対一だ」

「いいよ、気にしてない」



 状況はケイトの不利のように見える。しかし、ゴンザレスが動けていないことが示しているように、実際はそうでもなかった。

 そもそも体格差が違いすぎるのに、更に同じようなものがもう一体増えた。そこまでしても、ゴンザレスは攻めるに至らない。

 そんなゴンザレスを煽るかのように、ケイトはくいくい手招きする。



「いつでもおいで」

「承知」



 ゴンザレスはゴーレムの背に乗ると、陰にその巨体を隠し、岩の巨兵を駆けさせる。並行して魔法の発動も準備する。



『仕掛けたのはゴンザレス選手! ゴーレムの背に乗り突貫して行きます!』



 両者の距離は20メートルもなく、ゴーレムはほんの数秒でケイトを間合いに入れた。

 ゴーレムは燃え盛る腕を振るい、容赦なく捕縛にかかる。

 しかし、ケイトは動じない。冷静にゴンザレスの戦略を分析、評価する。



「ゴーレムに乗って身を守りつつ、魔法やらで攻めるかたちか。悪くないね」



 迫る燃え盛る巨岩の怪物に、ケイトは逃げようとも避けようともしない。少し脚を広げて、腰を落として構えただけだ。どこかハークの構えに似ている。

 ケイトは足元を確かめるように何度か踏みつけると、迫るゴーレムにすら手招きした。



「おいで」



 ケイトはにやりと笑ってみせ、一度ゴキリと両腕を鳴らし、弓のように引き絞る。

 そして、両者は激突する。



『ゴーレムの魔の手がケイト選手に――おーっとぉ!?』



 実況の驚愕する声とともに、場内もどよめきに包まれる。

 剛力たるゴーレムの両腕が、ケイトの細腕に正面から止められていたからだ。



『ケイト選手、まさかのゴーレムとがっぷり四つ! ゴーレムのパワーに競う――否! 競り勝っているように私には見えます!』

「今日は弟が見てるからね、頑張っちゃうよ、ボク……!」



 体重も体格も、位置関係すらもケイトに不利だ。さらにゴーレムは爆熱の鎧を身にまとっている。しかし、それらをまったくものともせず、彼女はゴーレムの豪熱の怪力を押し返してゆく。

 それを目の当たりにして、ゴンザレスはドン引きしながら驚愕する。



「な、なんという怪力だ……!」

「どっ……せぇい!」



 ケイトは気合いの掛け声とともにゴーレムの両腕を握り砕き、力まかせにその肩口から先を引きちぎった。腕を失ったことによりバランスが崩れ、ゴーレムは倒れてしまった。



「ちぃっ……!」


 ゴンザレスは体躯に似合わぬ機敏な動きでその背から抜け出すと、転がりざまに魔法を放つ。



熱反応魔法(サーマル)



 空気中のチリや酸素を魔力による熱反応で温度を上げ、発火させた炎弾。

 死角から飛来したそれはケイトの体をかすめた。



「ひゃぁっ!」



 ケイトは思わず本能的に仰け反り、可愛らしい声を漏らしてしまう。その隙を逃すゴンザレスではなく、容赦のない追撃を見舞う。



「手は緩めん!」



 次いで、倒れ込んだゴーレムを再び操ってケイトにけしかけ、再び炎弾を放つ。

 しかしこの程度では、最先端技術が詰め込まれたサイボーグであるケイトには効かない。



「もう! 熱いし! キミも邪魔!」



 ケイトは追加で飛んできた魔法の炎弾を、ハエでも払うかのように素手で叩き落とし、逆の手でゴーレムに鉄拳を叩き込んだ。

 轟音が場内に轟くと、ゴーレムが崩れはじめた。



『――な、なんという攻防でしょうか! 私、一瞬言葉を失ってしまいました! 魔法を素手で弾き返し、ゴーレムを一撃のもとに粉砕してみせる! 恐ろしやメカーナ! 恐ろしやサイボーグ! 恐ろしやケイト・ロード! しかし対するゴンザレス選手も負けておりません! 手を変え品を変え、ありとあらゆる手段で目の前のターゲットを叩き潰さんとするその姿には畏敬すら覚えます!』



 核を砕かれ、ゴーレムはその組成を保てずにただの瓦礫と化してしまった。



「……」



 ゴンザレスはゴーレムの残骸から核としていたひび割れた棍棒を引き上げると、肩に担いで呆れたような、関心したような声音で語る。



「岩石のゴーレムを素手で粉砕し、当然のように魔法を弾き返す。……相変わらずメカーナの技術力は恐ろしい。弟君はこんなに強い姉がいてさぞ誇らしいだろう」

「そうかな? そうだといいんだけど、まぁ血は繋がってないぶん信頼は築きたいかな」

「……これは失礼した。複雑な家庭環境かも知れぬのに、部外者が軽々と口を開いてしまった」

「いいよいいよ。弟になってまだ日が浅いけど、ボクもコータも、そんなこと気にしないし」

「……そのわりには随分と弟君のことを知っているのだな。家族になる前から仲が良かったのだろうな」

「いや? 知り合ったときから弟だよ」



 そのケイトの返答に、ゴンザレスはどこか違和感を感じたが、国の文化の違いなのかと軽く流した。

 しかし、そのかいはなかった。



「まぁ知り合ったの昨日だけど」

「え?」

「え?」



 流したと思っていた疑問が急旋回し突撃してきた。

 ゴンザレスが『何を言ってるんだのこいつは』の疑問符を浮かべているのに対し、ケイトは『なんでわからないんだこいつ』の疑問符を浮かべている。

 両者の間には、実力差以上に絶対に埋まらない深い溝があった。



「……試合の続きをしようか」



 ゴンザレスはケイトの色々に戦々恐々としながらも、気を取り直して再び歩み始める。

 観客は、固唾を飲んでそれを見守る。実況でさえ静かだ。

 そして再びケイトの間合いに入ると、ゴンザレスは立ち止まった。



「どうする? 魔法使いは接近戦が苦手ってのが相場だけど」

「生憎と、こう見えて肉弾戦は得意だ」



 ゴンザレスは言いながらニヤリと笑う。

 そして大きい棍棒を軽く振り回して、瓦礫の小石のひと粒だけを飛ばすという、体格に似合わない小器用なデモンストレーションをしてみせた。



「こう見えてってどう見てもそうだよ。むしろ魔法使ってきたことの方が実はちょっとびっくりだったよ」

「よく言われるが、私もその通りだと思う」

「あはは」

「ふふ」



 両者は一度だけ笑顔をかわすと、それきり静かになった。時間にしてものの1、2秒だったが、そのほんの一瞬だけの沈黙が、観客には長く永く感じられた。

 そして。



「――ふんっ!!」

「えいっ!」



 ゴンザレスが凶悪なスイングスピードで棍棒を振り、ケイトはそれを左拳で正面から迎え撃つ。



「こう易々と防がれては、鍛錬のかいを見失うな……!」

「涼しい顔してるけど、実は結構冷や汗かいてるよ」

「それならよかっ――消えた!?」

「うしろだよん」



 ケイトはゴンザレスの背後に回ると、そのまま腰の当たりを抱くように固定し、大木を引っこ抜くかの如く勢いで仰け反った。

 爆砕音が轟き、もうもうと土煙が立ち込めた。



『凄まじい速度のスープレックスが炸裂! 強固な岩石を一撃で砕く膂力で地面に叩きつけるなど、想像したくもありません!』



 土煙が立ち込めてしまい、二人の姿は見えなくなるが、すぐにその中からふたつの影が飛び出てきた。



「ぬ……!」

「嘘でしょ? 今の『ぬ……!』で耐えるの?」

「生憎と、こう見えて身体は頑丈でな」

「さっきも言ったけど、こう見えてってどう見てもそうだよ」



 ゴンザレスはハークに勝るとも劣らない大男だ。筋肉も体格に準じた筋量がしっかりとついている。普段から鍛えてもいる。耐久力もサイボーグほどではないが、それなりにある。



「ノックダウンするのは骨が折れそうかな……。 棄権する気ない?」

「生憎と、こう見えて頑固でな」

「こう見えてって――それはもういいや。じゃあ、荒っぽくなるけど謝らないよ?」

「望むところだ」

「それはよかった」



 朗らかに笑いあって居たのも束の間、両者が激突する。

 ケイトの四肢と、ゴンザレスの棍棒がぶつかり合う。互いに一歩も引かず、足を止めて目の前の相手を打ち倒すことだけを考えている。



「ぬっ、くっ、はっ!」



 掴まれただけで怪力に潰されて終わり、という無理ゲーにゴンザレスはその身を削りながら抗う。



「右、左、上下、上!」



 払い、逸らし、スカし、ケイトは繰り出される棍棒の殴打と魔法の炎を退けながら、致命の一撃を狙う。

 ゴンザレスもただ闇雲に攻めているだけではなく、奥の手を発動していた。

 ケイトの背後の地面が隆起してゆき、影があらわれ、その影は次第に大きくなってゆく。



「ケイトさんの後ろにゴーレムが出来上がってく……! あの杖が核じゃなかったのか!?」

「ブラフか。上手いね」



 ゴンザレスはゴーレムを作る際、確かに棍棒を核にしていた。しかしゴーレムの背に乗って攻める際に、一度行動不能になった場合に備え、新たな核となるように仕込んでいたのだ。



「卑怯とは言うまいな!」



 完璧に虚を突いた一撃。ゴーレムとゴンザレスのクロスが、見た目華奢な女性を押し潰すように襲いかかる。巻き込まれればいくらケイトがサイボーグといえど、無傷ではすまない。



「うん、言わない」



 しかし、虚を突かれ反応が遅れようと、ケイトは己の行動を変えるつもりは毛頭なかった。ただ機械のように、備えていたプログラムを実行するだけだ。



「機式剛術」



 ケイトはぴょん、と軽く飛び上がり、そのクロスを紙一重で回避した。ゴーレムとゴンザレス、両者の側頭部に狙いをつけると、その筋力を遺憾無く発揮する蹴りを放つ。



風車(かざぐるま)!!」



 コマのように腰から下半身を回し、そのねじりの勢いで前後の敵を蹴り砕く一撃、或いは二撃。

 ゴーレムの頭部を粉砕し、棍棒を根元からへし折ると、ケイトは華麗に着地した。



「……見事」



 ゴンザレスは、棍棒をへし折って余りあるケイトの蹴りを咄嗟に空いた左腕でガードしていたが、その左腕は原型を留めていなかった。

 そしてガードしてもなお有り余る衝撃は、既に満身創痍たる彼の意識を刈り取るには充分だった。



「ナイスファイト」



 力なく崩れるゴンザレスを、ケイトは優しく抱き留める。そして、試合終了のゴングが鳴り響いた。



『――試合終了ーー! 一回戦第三試合、激闘を制したのはケイト・ロード! 勝者はケイト・ロードであります!』














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