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機人転生 魔法とSF科学の世界に来たはいいけど、身体が機械になった上にバトルの八割肉弾戦なのなんで?  作者: 島米拾尺
第二章 力を持つ者が惹かれ合うのは物理学的にも証明されている。
22/69

no.021 苦顔ゴリラ

よろしくお願いします。毎日投稿は無理なので毎週金曜に投稿していきたいです。ただの願望です。

 


 大荒れのロイドレースを終え、ヒーローインタビュー的なものを、コウタの書類上の所有者たるメニカが受けている頃。



「コータって言うんだね……かわいいね……」

「いい金属光沢してるね、ワックスしっかりしてるんだ?」

「ウチのマギカロイドとまぐわってくれないか?」

「その装甲の曲線美について小半日ほど話さないかい?」

「ラボ、行こうぜ!」



 コウタはナンパされていた。



「こ、困ります……」



 メカーナの代表、ひいてはメニカの保護下にあるという立場上、突き飛ばして逃げる訳にも行かず、コウタは身を捩りながら彼らを避けており、そして、アミスに助けを求めていた。



「アミスさん、どうせ見てるんでしょ、何とかしてください……!」

『アミスです! 今留守にしてるので、ピーって鳴ってからメッセージをどうぞ!』

「は?」



 アシスタントに助力を要請するが、なぜか留守電音声が流れた。

 コウタは苛立ちのまま拳を壁に叩きつけ、恨み節を放つ。



「あの役立たず……!」



 怒りに足を止めてしまったコウタ、そこが運の尽きだった。

 瞬く間にわきわきと怪しげな指の動きで触診され、貼り付けられるようとしている謎の器具は多岐にわたる。そして、勝手に撮られるローアングルからの写真。

 コウタは鳥肌が立った。



「ね、ね、先っちょ、センサの先っちょでいいから!」

「地肌のケアにウチのコンパウンドとワックスはどう? ほら、試供品あげるからさ……」

「ほら、可愛いだろう? 粘度のある液体をボディにしたスライムタイプさ。男女はもとより、生やしたりなくしたりも出来るよ!」

「その美しい曲線にはどのパーツが似合うだろうか……スカート履いて、お空飛びたくない?」

「ラボでヤろうぜ!」

「ひ、ひぃぃ……!」



 メカーナ以外にも変態がいるのか、もしやロイド事業に携わる人間は変態しかいないのかと、アシスタントの職務放棄もあわせ、コウタは絶望した。



――――



 コウタが情けない悲鳴をあげている頃、アミスは呑気にもやはり、メニカについていた。留守電に気付いてすらいない。まぁそもそもアミスが助けに行ったところで、大したことは出来ないのだが。

そしてメニカはというと、優勝者インタビュー的なものを受けていた。




「それで、武道大会にも出す予定だそうですが、自信のほどはいかがです?」

「日頃からハーク隊長、あ、チャンピオンね。あの人と特訓と称して殴りあってるから、かなりいいとこまでいけるんじゃない……ん?」



 何かを感じたのか、メニカは彼方を向いた。

 そして数秒後、壇上から駆け出していた。



「ぱ、パーク博士!?」

「ごめん、今日はここまで! また明日、武道大会の後で聞いて!」

「え、あ、はい! また明日!」



 メニカは迷いのない足取りで、出口のひとつへ一目散に駆けていく。



『どうしたんです? 急に』

「コータくんの貞操が危ない気がする!」



 とうに職務を放棄しているアシスタントを尻目に、メニカはコウタの元へ駆けていく。



――――



 メニカが辿り着くと、コウタは更なる変態たちに囲まれており、謎の粘度のある液体触手に拘束されていた。



「た、たすけてメニカー!!」



 コウタはメニカを見つけた途端、情けない声でそう叫んだ。ありとあらゆるところをスライムロイドにまさぐられ、余裕なんてなかった。藁にも縋る想いだ。



「こらー! コータくんからはなれろー!」



 懐から出した大きめのスパナを携えて、変態共に駆け迫るメニカ。



「げ、メニカ・パーク!」

「ちっ、今日はここまでか! これ連絡先!」

「あ、ずるいぞ! これ触手のかけら!」

「尻をひとなで」

「ラボで待ってるね!」



 おのおの捨て台詞を残し、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。



「うぅ、ひどい目にあった……」

「よーしよし、怖かったろう」



 地面にへにゃりと膝を着く情けない鋼鉄の男を、メニカはやさしく抱き寄せ、頭をそっと撫でる。



「……なんで撫でるの?」

「べ、べつに来る時に醜態晒したから挽回狙って私は頼れるんだよアピールをしてるんじゃないよ? 単に親切心だよ? ホントだよ?」

「そういうことにしとくね。ありがとうメニカ」

「……どういたしまして! それにしてもひどい奴らだね。私のコータくんに勝手するなんて。紙切れもぽいしちゃおうね。触手は研究に使えそうだから持って帰ろう。あいつらのラボには隊長を向かわせるよ」

「それはやめたげて?」



 コウタが大人しくメニカに抱き締められていると、アミスが煽るような口調で。



『コウタさんは情けないですねぇ。女の子に助けてもらうなんて無敵ボディの持ち主として恥ずかしくないんですか?』



 ――留守電にしていた奴が何を言うのか。喧嘩を売っているのなら、ぜひ買わせて頂こうじゃないか。



「だまれ役立たず」

『ひどい! いくら根拠に基づいた発言でも言っていいことと悪いことがありますよ!』

「正論は正しいから正論なんですよ?」



 コウタは最早苛立ちを隠す気もない。煽られたら煽り返す、殴られたら殴り返す。表に出ろやこのポンコツ、とさえ思っている。



『ぐぬぬ……! メニカちゃん、コウタさんがいじめてきます! 事実陳列罪です!』

「はいはい、ふたりともどうどう。聞く限りじゃアミスちゃんが悪そうだけど、コータくんもあんまり正論パンチしちゃだめだよ?」

「はーい」



 メニカに諌められ、コウタは出そうと思っていた正論の数々をひっこめた。



「さ、二人も仲直りしたことだし、気を取り直して。コータくんのおかげで大儲けしたし、今日はパーっといこうじゃないか!」

『わーい!』



 手を取り合ってくるくる回っている二人を尻目に、コウタは知人が二人ほど居ないことに気付いた。

 きょろきょろと遠くを見渡してみても件のふたりは居らず、メニカに聞いてみることにした。



「隊長とケイトさんは? 居ないけど」

「ケイトは呼び出されたって走ってったけど、隊長は知らないや。筋トレでもしてるんじゃない? なんか用だった?」

「特に用はないけど、ちょっと気になって。隊長に聞きそびれたこともあったなと思って」



 コウタは昨日遭遇した、ストーカー疑惑のヤバ美女を思い出していた。ハークに知り合いかどうかそれとなく聞くつもりが、あれよあれよと時は過ぎて聞きそびれたのだ。



「まぁそのうち会えるよ。コータくん何食べたい?」

「それもそうか。うーん、せっかくのお祭りだし、めちゃくちゃお祭りっぽくて健康に悪そうなやつ食べたい」

「それいいね、採用! 片っ端から出店をまわろう!」

『わーい! コウタさん、ジャンクフードで気絶するまで食べてやりましょう!』

「この身体に血糖値とか関係ないのでは……?」



 ――血の流れぬ鋼の体では、ドカ食い気絶すらままならない。なんなら太りすらしない。


 コウタはいくら食べても太らない身体になったことを感謝しつつ、メニカたちと共に、暴食の旅へと駆けた。



――――



 時は少しばかり進み、コウタが食べ過ぎで気分の悪くなっているメニカと、何故か寝てしまったアミスを介抱している頃。

 黒い装束に身を包み、銀の左腕を輝かせた大男が、アリーナの地下に居た。



『所属コードと名前をどうぞ』

「M235、ハーク・ベンジャー」

『メカーナ Gスリー所属 ハーク・ベンジャー 登録確認 入室を許可します』



 地下に至るまでの道のりは巧妙に隠されており、さらにオートロイドやマギカロイドによって厳重に警備されている。そのほかにも人間の精鋭が数人ほど集められている。ハークもそのひとりだ。



『こちら資料になります 目を通しておいてください』



 資料を受け取ると、ハークは地下とは思えないくらいの明るさの元、カツカツとその中央へ歩いてゆく。

 人目を引くその巨体に加え、ハーク自身も界隈では有名人であることもあり、一瞬で注目の的となった。



「あれハーク・ベンジャーか?」

「銀腕の? 初めて見た。でっけぇ」

「しかし噂よりはゴリラではないな」



 ざわつきが大きくなるが、ハークはその視線やらを特に気にするでもなく、中央に鎮座しているコンテナの元へ歩いてゆく。

 厳重なアクリルコンテナの中には、今回の発端となったブツが鎮座している。



「……今回は斧か」



 受け取った資料には、今回の神器のことがわかる範囲で綴られている。

 突き刺さった穂先から柄の石突までで、およそ2メートルほどもありそうな巨大な斧であり、触れるだけで大怪我する、などといったことはなく、単に持ち上がらないだけだ。

 今のところ適性者はおらず、アスト政府内でも【円卓】に管理を任せるか自国で管理するか意見が割れている。



「……奴らは来るか。どうだろうな」



 渋い顔で考え事をするハークに、呼ばれた精鋭のひとりが話しかけた。



「アンタが銀腕のハークさんかい。噂は聞いてるよ」

「……出来ればその名で呼ぶのは控えてもらえると有難い。こうなってしまったのは自分にとって、恥でしかないからな」



 アストに来てからずっと疼いている左腕の幻肢痛に身体が強張るのを感じながら、ハークは男にそう返す。

 ハークが左腕を失ったのは六年前で、ある人物との戦闘で失ったものだ。それ以来一年ほど退役軍人病院で腐っているところをメニカに拾われ、今に至る。



「アンタがその銀の腕で、魔王の手先――サタニアの暴徒から何百人もの人々を救ったのは事実だろうに、何を謙遜するんだ。……ともかく、頼りにしてるよ」



 男はそう言ってぽん、とハークの左肩をたたいてそれきり、つかつかと歩いてどこかに行ってしまった。

 そんな男の背中を、ハークは苦い顔で見送る。



「……本来の腕があったら、零れる命はもっと少なかったはずだ」



 銀の腕を忌々しく睨みつけながら、ハークはそう呟いた。



ありがとうございました。

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