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機人転生 魔法とSF科学の世界に来たはいいけど、身体が機械になった上にバトルの八割肉弾戦なのなんで?  作者: 島米拾尺
第二章 力を持つ者が惹かれ合うのは物理学的にも証明されている。
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no.015 スクランブル

お待たせしました。

 



 荷物をあらかた積み込み終え、待機していろとのお達しゆえ、大人しく隅っこで体育座りをしつつ、コウタは支給された端末で神器について調べていた。



「『神器とは。それは外宇宙に存在するとされる別の人類型生命体によって作られたとされるオーパーツ的道具、またはそれに準ずるものの総称である。それらはまるで意思があるかのように持ち主を選ぶ。神器の名は神話や伝承を元に、イメージに最も近しいものを名付けられる。例えば【はじまりの勇者】アーサー・ライズ=ナイツの剣は聖剣エクスカリバーと呼ばれている。これは彼の名がアーサーであることから、いつしか大衆がそう呼んだ。余談ではあるが勇者の団体【円卓】もアーサーという名にあやかって付けられた。そしてエクスカリバーは唯一の地球産の神器である――』……なるほど。宇宙人がいるんだなぁ」



 解説の最初の1ページすら読み終えず、コウタはデバイスの電源を切った。


 片手間に読める文量ではなく、後で時間等の諸々の余裕のある時に読もうと思いなおしたからだ。

 なお、コウタがこのページを開くことは二度となかった。


  やることがなにもなくなったコウタがボケーッとしていると、アミスがやってきた。



『――えーと、コウタさんは既に機内。メニカちゃんはドック内で最終確認。隊長さんはなにやらお電話。大体出発まで五分くらいですね』

「アミスさん、なにかする事ありますか?」

『いえ、特にありませんのでそのまま待機していてください。私もスワローちゃんのシステムチェックと同期するだけですし』

「了解です」



 手持ち無沙汰で聞いてはみたものの、やることはないようだ。メニカを手伝おうとも一瞬頭によぎったが、特に知識のない奴にうろちょろされても邪魔だろうと、コウタはやはり首を横に振った。決してニート根性の芽生えではない。



『エネルギー充填完了。CPC設定完了。ニューラルリンケージ。イオン濃度正常。駆動翼全て正常。第一第二第三エンジンまで全て臨界。パワーフロー正常。オートパイロット起動。到着目的地設定。ルート最適化。火器管制システムオンライン。並びに全武装オンライン。システムオールグリーン。ブルースワロー、システム起動!』

「なんて?」



 疾風怒濤の早口を少しも噛まずに言えたアミスに若干引いていると、慌てた様子のメニカがどたどた機内に入ってきた。



「あー! 言われた! 私が言おうと思ってたのに!」

『ふっふーん、早い者勝ちですよ!』

「次は負けないからね!」



 この意味不明なやり取りに、コウタはもはや疑問すら抱かない。理解できないものはどう足掻いても理解できないのだと、納得して諦めて受け入れているからだ。そんな考えをしながらも、ふと今更なことに気付いた。



「というかメニカも来るのか。危なくない? 主に見知らぬ怪しい機械に釣られて着いてったりしない?」



 当たり前のように非戦闘員のメニカが同行する流れにようやく気付いた。誰も気にしていないので気付くのが遅れてしまった。



「私のことなんだと思ってるのさ。遠隔で解析するくらいわけないよ。そもそもメカニックが私しか居ないからね。サイボーグ部隊なのに。前線には出ないし、自衛の手段はちゃんとあるから安心してよ」

「それならまぁ……」



 自衛云々はあまり心配していない。そもそも危険な兵器の実験を一人で行ってきた経緯がある。そこは微塵も気にはしてはいない。遠隔で解析できると言ってはいるが信用ならない。

 少しばかりの不安を抱いていると、ようやく最後の一人、ハークがやってきた。



「全員いるか? アミス、点呼」

『ばんごーう、イチ!』

「に!」

「3。ハーク隊長、なんですか? そのバカデカ長い箱。棺桶ですか?」



 お馴染みのゴリラが見慣れない棺桶のような大きさの箱を担いでいる。妙に似合っているのがむしろ気になる。



「俺の武器だ」

「武装なんてして国でも滅ぼすんですか?」

「お前は俺を何だと思っているんだ」

「キ〇グコング」



 心優しき破壊神、という評である。



「そう褒めるな。俺だって武器くらい持つ」

「五体すべてが武器だとか言うものかと」

「五体が武器などそんな事は当たり前だ。だが俺は軍人でこれは任務だ。趣味嗜好と戦略は別個に考えるのは当たり前だ」



 なるほど、一理あるとコウタは納得した。

 しかし、その理屈ならば、非領域区などという危険地帯に単身の丸腰でぶち込まれたのかが、コウタには余計わからなくなってしまった。



「僕もなにか武器を持つべきですかね?」

「お前にはそのボディがあるだろう」

「自分で言っておいて!?」

「今作ってるからもうちょっと待っててね」

『鋭意製作中です!』



 女性陣にはどうやらコウタの強化プランがある様子。



「それで、結局その棺桶の中身はなんなんですか?」

「これは長距離用機関狙撃ライフルだ」

「いやいや、さすがにそれはオーバーマッスルでしょ」



 混乱のあまり謎の造語を生み出してしまったコウタをスルーし、ハークは操縦席へ向かった。



「本当だよコータくん。ハーク隊長に近接戦闘をさせると、味方も巻き込んじゃうからね」

「それは容易に想像出来る」

「で、義眼を強化して遠距離支援に徹すればいいのではと私が提案した」

「また君の提案か。碌でもないことばかり思い付くね」



 ただでさえ化け物じみた戦闘力を持つゴリラに武器を持たせるなど、日頃ボコボコにされているコウタからすれば悪夢でしかない。



「えへへ、もっと褒めて」

「褒めてないけどえらい! ……どのあたりを褒めたらいいのかわからないけど」

「うーん、全部!」

「さすメニ?」

「えっへん!」

「これでいいのか……」



 呆れた様子でコウタはそう返す。

 発進までもう間もなく、平穏の時間は終わりを告げようとしていた。



「アミス、数値は正常か?」

『モーマンタイです。隊長さん、座り心地は如何ですか?』

「問題ない」



 操縦席に座ったハークが、レバーを倒したりボタンをカチカチしたりトグルを切り替えたりと、ガタイと普段の破壊活動に似合わない細やかな作業をしている。

 思いのほか器用なゴリラ隊長に、コウタは困惑しつつも感心していた。



「本部、こちらG3のハーク・ベンジャー。スクランブル発生につきカタパルトの使用を許可願う」

『――スクランブル確認、使用を許可。連絡路開放、移動開始せよ』

「了解」



 カタパルトへの連絡路は地下にあるため、ジェットが地面ごと下降しはじめる。5メートルほど下った先には暗い中に線路が続いていて、その上をまた地面ごと移動し始めた。



「ほぇー……。なんか、カタパルトって感じだ」

『こういうのワクワクしますよね!』

「さあコータくん。シートベルトをしっかり締めて。怖いだろうから手を握ってあげよう」



 線路がジェットの下を潜っていくのを眺めていると、コウタの隣に座っているメニカが震えた声でそんな事を言う。

 そちらに目をやると、震えているのは声だけでなく、差し出そうとするその手も肘掛けを全力で握っている方の手もプルプルと震えていることがわかった。



「アミスさんの言う通りワクワクしてるんだけど」

「そ、そうかい? それはそれとして手を握ろうか」



 メニカの様子がおかしいことにコウタは違和感を覚えた。

 普段もおかしいといえばまぁおかしいが。いつものように自信満々で背筋もピンと張っているのではなく、今は猫のように縮こまっている。



「アミスさん、メニカのバイタルを教えてもらえますか?」

『えーと、心拍数が高くて発汗もしてます。極度の緊張状態かと思われますね』

「……メニカ、高いところが怖いの?」

「ななな何を言ってるのコータくん戯れ言も大概にしなさいあんまりからかうと怒るよ私この天才美少女サイエンティストが高所恐怖症なんてあるわけがないよね私は博士号を三つ持ってるんだよその気になればこの飛行機を自爆させることだってわけないのさまったくコータくんひどいよコータくんねぇコータくんコータくんコータくんコータくん」



 据わった目でコウタに問い詰めるその様子にコウタは若干のヤンデレみを感じ、少しばかり萌えた。



「可愛……こわいい。ほら、手を握ったよ。これでいい?」

「最初からそうしてればよかったんだよコータくんそうすれば怖い目に遭うことかなかったのにねぇコータくんねぇってば聞いてるのコータくんねぇ」

「はいはい」



 コウタは震えるメニカの手を握り、空いた方の手で優しく背中をさする。鋼の手では温もりも柔らかみもを与えることは出来ないが、それでも少しだけ、メニカの心拍数は落ち着いていった。

 そうしているうちに一度がたんと大きく揺れた。カタパルトに到着したようだ。



『ボルテージ上昇、ハッチ開放。進路オールクリア』



 そのアナウンスと共に、数百メートル先に光が差し込んだ。



「そろそろ発進だ。忘れ物はないな?」

『大丈夫です!』

「大丈夫大丈夫私は大丈夫」

「ハーク隊長、メニカっていつもこうなんですか?」

「あぁ。医者が言うには高高度恐怖症らしい。ヘリが飛べる程度の高さなら大丈夫だが、それ以上ともなるとな。なんとか症状を改善させて隣に人がいれば乗れるようになって、飛行が安定していれば震えも収まるが、やはり離着陸はそうなる」



 コウタはそれを聞いて、深呼吸すると、一拍おいて、どんと胸を叩いた。鈍い金属音が機内に響く。



「コータくん……?」

「メニカ、少しの辛抱だよ。僕がいるから安心しろ、なんて恥ずかしくてまだ言えないけど、それでも君の隣に僕は居るよ」



 精一杯の励まし、というにも及ばないなにか。それでも、コウタの心はメニカに伝わった。



「……ありがとうコータくん。もう少し、手を強く握ってもいい?」

「もちろん」

 


 そう言ってやると、手を握る力がぎゅっと強くなった。普段は大人びていて言動がちょっとおかしくても、やはりメニカも女の子なのだと、コウタは再認識した。



『ボルテージ最大値。射出権限をベンジャーに譲渡』

「了解。アイハヴコントロール。お前達、準備はいいな?」

『ルート確認、マップ正常、エンジン回転数良好。完璧です!』

「メニカは任せてください」



 しっかりとメニカの手を握りなおし、コウタはそう返す。



「良い返事だ。Gスリー【ブルースワロー】――発進する!」



 機体はあっという間に音速を超えて超音速へと到達し、ついに大空へと飛び立った。


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