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no.012 その力は誰が為に

よろしくお願いします。



 


「痛っったい!!」



 拳が弾かれ、伝わる雷撃にのたうち回る。想像よりも遥かに痛く痺れも強い。調子に乗らずにおけば良かったと、コウタは二秒前の自分の行動を後悔した。



「俺相手に殴りかかってくるたぁ見上げたオートロイドだな。残念ながら俺は機械に強いんだ。戦闘力的な意味でな」



 そんなセリフながら、ユーリは追撃を叩き込む。連撃ながら一発一発が確実にアルヴェニウムの身体にダメージを与える程度には強い。拳の威力もかなりなものなのだが、それよりも雷がコウタを苦しめていた。



「つっ……! もう! 痛い!」



硬いだけでは防げず、拳を紙一重で避けても喰らい、防御しても喰らい、離れても飛んできて喰らう。そして当たってしまうと、問答無用で痺れて動きが鈍くなってしまうからだ。



「これ以上浴びてられるか……! バリア!」



 バリアを展開し、ユーリの一撃を阻む。バリアは拳に触れると、その運動をぴたりと止めさせた。

弾くでもなく逸らすでもなく、ただただ止める。纏う雷霆も同様に、触れたそばから掻き消えている。



「ははは! なんだこれ! 殴ってるけど感触が消える! 雷も消えてんのか!」



 なにかが琴線に触れたのか、ユーリは楽しそうな表情で何度か拳を繰り出し、バリアを殴りつけてゆく。時折雷霆を飛ばしたり、岩を投げつけたりするが、しかしそれらがコウタに届くことはない。



「しかし、面白いバリアだな。触れた途端にエネルギーがゼロになってる。さっきまで使ってなかったのは制限があるからか?」

「他人にバレたら厄介なことになるって言われてたからね。もう既になってたから解禁した」

「なるほどな。面白いが……弱点を見つけたぞ」

「な、なな、ないよ?」



 その言葉に、ぎくりと擬音が聞こえそうなくらい、コウタはわかりやすく狼狽えた。それはもはや肯定にも等しい。燃費が悪いなどといったありがちなものではなく、アンチフォースバリアのその性質が強すぎるが故に生じてしまう隙。



「重力や気温、その他諸々。俺たちが当たり前に享受しているモノからもエネルギーを奪っちまうんだろ? 真球状に展開していないのがその証拠だ。だから、横がガラ空きになる」



 ユーリはたった数回の打撃でバリアの性質、性能、そして燃費以外の唯一の弱点を看破してみせた。彼の言う通り、コウタのバリアはこの世に存在する全ての力に作用する。それは重力や気温、大気圧等様々だ。重力が完全にゼロになるということはつまり、地球の自転や公転の影響を受けられずに吹っ飛ぶということだ。故に効率も併せ、バリアは半球状にしか展開していないのだ。



「【雷心流】」



 ユーリは構える。全身に青い稲妻を纏わせ、両脚に力と雷を溜める。そして稲妻の残滓を残し、一瞬のうちにコウタの視界から消え失せてみせた。



「消えた……!?」



 雷心流とは()()()()()()()人々によって創られた武術の流派である。己の内なる雷を操り、鎮め、生き延びる為の技術。それを格闘術に転用したものだ。



「飛雷」



 稲妻が地面を這い、青い閃光を放つ。その眩さを脳が認識する前に、雷の衝撃を認識する前に、音が聴覚に伝わる前に。コウタはいつの間にか青空を仰いでいた。



「な、にが……?」



 右の頬から全身に伝わる衝撃の余韻、雷霆の激痛、遅れてやって来た音。初撃に似た感覚だということだけがわかる。バリアは強制的に解除され、本来隠すべき奥の手が通用しなかったという事実だけが残った。



「痛たた……。あいつは……居た」



 痺れが残る身体を無理やり起こし、数十メートル離れた先にいるユーリを見つける。その拳の先からは煙が出ており、それを視認してようやく、コウタは自分が再び殴り飛ばされたのだと認識出来た。




「これでも意識あんのか。ちょっとショックだぜ」



 飛雷は、雷心流の七つある型の中で最速の攻撃だ。電磁加速を駆使し、相手が反応出来ない速度で打ち抜く超音速の一撃だ。ユーリのそれはマッハを軽く超える。それをモロにくらい原型を留めているコウタの硬さに半ば呆れ、半ば畏敬の念を抱く。しかし、そう口にする姿はどこか楽しげで、新しいおもちゃが再び立ち上がるのを心のどこかで待ってさえいた。




「……不本意ながら、頑丈さだけは自信があるんだ」



 ――うまく身体に力が入らない。



「どうした? もう終わりか? まだあるだろ?」

「……君の雷は通常のそれとは随分違うみたいだね。これが魔法なのか?」



 雷撃の痺れに耐えながらコウタはそう返す。全身が導体で覆われているならば、静電遮蔽により奥まで電気は通らない。だというのにミスリルドラゴンは感電して、堕ちた。びっしりと金属の鱗で覆われていたのにだ。コウタも全身金属で覆われているのに内部の機構にまでダメージがある。その不可思議を魔法と疑うのも無理はない。しかし。



「魔法じゃねぇ。そもそも俺は魔法使えねぇし、電気は魔法じゃ造れねぇ。これくらい常識だぞ」



 しかしユーリは魔法が使えず、かつ電気は通常の魔法では造れない。その返答に当然コウタはさらに首を傾げる。



「……じゃあなんなのさ。その雷はどこから出てるんだ」

「俺のここだ」



 そう言ってユーリは心臓のあたりをとんと拳で叩いた。それを見てコウタはははんと納得したように頷き、一言。



「そうか、その手のひらの先にある……心か」

「心臓だな。俺の心臓は発電機だと思ってくれたらいい。雷心症っつってな」



 人類が魔法を獲得して以来、未知の症例が爆発的に増えた。それが魔素疾患である。魔素や魔力が身体に様々な影響を及ぼしてしまうのだ。その中でも特に珍しい疾患のひとつ、電心症。心臓が血液を送り迎える度に発電してしまうという疾患だ。発電量と症状の重さは比例し、重篤になると雷心症と呼ばれるようになる。通常発症後数日から数年で生命を落としてしまうが、ユーリのような例外もいる。



「……じゃあその雷を止めるには君の心臓を抉りださなきゃならないってことか」

「物騒な奴だな。だがその通りだ。俺の心臓は動く限り発電し続ける。そして今までそれをしようとしてきた奴は文字通り返り討ちにしてやったよ。こんな風にな」



 かつての敵を鼻で笑い、ユーリはついでに雷撃を放つ。コウタはかろうじてそれを避けると、やはり痺れの残る身体を何とか起こしながら会話を続けた。



「危なっ……! そういえばやけに親切に教えてくれるね」

「教えたところでどうにかなる訳でもねぇからな」



 ユーリの雷を止めるためには心臓を止める必要があるのだが、心臓を止めるためには雷を掻い潜る必要がある。雷をどうにか出来なければ雷をどうにか出来ないし、雷をどうにか出来るなら雷をどうにかする必要はない。実に本末転倒である。



「じゃあついでに俺も聞くが、さっきからほとんど足技しか使ってねぇがなにか信条があんのか?」

「機式剛術、鉄踵!」



 コウタの渾身の不意打ちカカト落としを難なく受け止め、ついでに雷を流しながら、ユーリはそう尋ねる。



「痛っっ!! それしか習ってないから……」

「どんな流派にしろ普通は正拳突きからじゃないのか?」

「さぁ、あの人ら頭おかしいから」



 激痛に飛びのき、痺れの残る左脚を何度か地面に叩きつけながら、コウタは仮にも自分の上司を臆することなく頭がおかしいと評す。



「苦労してんだな。俺の同僚も大概頭おかしいぜ」

「君も充分……いや話通じるしハーク隊長たちよりまともか?」



 コウタが師匠の名を口にすると、ユーリの動きがぴたりと止まった。そして首を少し傾げて、尋ねるようにその名前を反芻する。



「……ハーク?」

「僕の上司で一応師匠的な感じの人間の皮を被ったゴリラだよ。まだ師事して一ヶ月しか経ってないけど」

「【銀腕(アガートラム)】のハーク・ベンジャーか?」

「なんだそのカッコイイ二つ名……。うちの脳筋鬼ゴリラ半巨人サイボーグ……ゴホン。義眼に義腕のハーク隊長のことを指してるならそうです」



 そんな厨二心をくすぐる二つ名はハークからもメニカからも聞いたことがない。仮に二つ名があったとしても【ゴリラの中のゴリラ(ゴリラオブゴリラ)】くらいだろうとコウタは考えていた。



「……その打たれ強さにようやく合点がいった。シンプルに硬ぇのもあるが精神性がイカれてる。お前日頃ろくな扱いされてねぇだろ」

「失礼な。僕の仲間たちは君と違ってオートロイドとオートノイドの区別はついてるし、そもそも僕のことをちゃんと人間扱い……してくれてるよね?」

「知らねぇよ。……しかし、このずば抜けた耐久性と、歪んだ精神性に疑問も持たないイカれ加減。危ういな」



 ユーリがどこか悲しげにそう言ったのを見て、コウタは何故か無意識的に後ずさった。殺気、あるいはそれに似たなにかが強まった気がしたからだ。



「……何が?」



 嫌な予感がしながらも、それを口にせずにはいられない。尋ねずにはいられない。そして嫌な予感ほど、よく当たる。



「お前は今後世界を脅かす存在になるかもしれない」



 それは事実上の精神異常者宣告である。当然自身のことを限りなく常識人であると認識しているコウタには、当然受け入れ難い勧誘であった。なんとか拒絶の言葉を絞り出す。



「……何を言ってるかわからないけど、僕は世界なんてどうでもいい。身の回りの人の安全と、僕のちっぽけな願いさえ叶えばいい」

「正解だ。ひとまずは」



 ユアコレクト。コウタは勇者ポイントを1ゲットした。



「世界の脅威なんざなろうとしてなれるもんじゃねぇ。なりたくてなるもんでもねぇ。だが、お前のそれは大正解だ。【はじまりの勇者】アーサー老が、勇者とは在り方だと言うように、同じく脅威もほとんどがその在り方に問題がある」

「なんか勝手に評価上がったし聞いてないのに勝手に解説始めた……」

「精神力は言わずもがなだ。世界を絶対に救うという狂気じみた思想、あるいはそれに準ずる強い信念を他の勇者に感じさせ、認めさせること。たとえこれが嘘でも認められさえすれば条件は満たされる」

「なるほど。狂気に近しいそれを感じさせるほどの嘘をつけるやつって認識されるのか。……ん? てことは僕それ並みのイカレ野郎って思われてるってこと?」



 心外すぎる評定に意義を申し立てたいコウタだったが、ユーリはそれをさせぬが如く話をやめない。



「次いで大事なのが戦闘力だ。最低でも単騎で純粋な龍種のドラゴンを倒す必要がある。ちなみに神器の適性は必要ない。全員神器持ってるが、勇者になった後に手に入れた奴も何人か居る。アーサーのジジイからして神器なしで勇者と呼ばれるようになったからな。どうせお前の身体かコアか、或いはどっちもそうなんだろ」



 はじまりの勇者アーサーが持つ剣は現在こそ聖剣エクスカリバーとして神器登録されているが、もとはただの剣であった。エクスカリバーという名も、持ち主がアーサーという名前だから大衆が勝手に呼び始めたものである。



「お前はどのオートロイドとも違う。中に人が居るでもない。お前はなんなんだ?」

「僕の仲間が言うには僕みたいのを機械人間、さしずめオートノイドって呼ぶらしいよ」

「そうかいオートロイド。シンギュラリティ的なアレにしてはやけに人間臭い。お前元人間か」

「そうだよ。僕は普通の生身の人間に戻るんだ。勇者にはなれない」



 そう言いきって立ち去ろうとするコウタの足元に、凄まじい雷撃が炸裂する。



「……危ないな」

「これは持論なんだが、力を持つ者にはその力を正しく使う責務が存在する」

「今のが正しい使い方だって? 言論封殺が?」

「見方によればな」



 例えば『他人を銃で撃ち殺した』という結果だけを見るならばただの銃殺事件だが、『凶悪な通り魔犯を、警官が警告の後射撃、その後犯人は死亡』という筋書きを辿れば、警官が単に職務を果たしただけとなる。

 ユーリのこれも『未知の脅威に対する警告』ととれば、いわゆる『正しい使い方』となる。



「お前は俺たちと同じだ」

「……僕のこれは人に押し付けられた。君たちみたいに自分で得たものじゃない」

 


 コウタからすれば、オーバースペックすぎるこのメタルボディは半ば無理やり強いられたものだ。全ての責任は元凶たるアミスに存在すると思っている。しかし、その主張を聞いたユーリの返答は、実に素っ気ないものだった。



「で?」



 否、それは返答というよりかはむしろ、続きを促す相づちが近い。自分なりの免罪符的主張をだからどうしたと言わんばかりのそれで一蹴され、コウタは閉口する。

 それ以上の主張はないと悟ったのか、呆れたようにユーリは続けた。



「お前の過去や事情なんざ知ったこっちゃねぇわ。それが産まれつきだろうが、勝ち取ったものだろうが、偶然得たものだろうが、幸運だろうが事故だろうが、一切合切微塵たりとも興味ねぇ」



 ユーリは静かで落ち着いた、けれども強い口調で。



「それを手にした時点で、お前はこっち側なんだよ」



 ユーリの眼差しは鋭く、冷たい。



「それを踏まえた上でもう一度聞く。その力をどう使う?」



 ユーリは勇者となってから今まで、幾度かこの質問をしてきた。自分が師にそうされたように、目覚しい力を持った者たちを少しでも導こうという彼なりの責務の果たし方だ。

 ここでコウタがナメたことを抜かすならば、それ相応の対応をするつもりでいた。しかし。



「さぁ……」

「は?」



 正直に答えるでも取り繕うでもなく、コウタはユーリとのこの問答をどうでもいいと断じた。



「そんなどうでもいいことより、僕はムカついてるんだ」



 コウタは怒っていた。アミスに叱っているような怒りとは違う、これは紛れもない憤怒だ。



「責務がどうとかはまぁ、言葉では理解出来るよ。実際君の言ってることは正論だ。僕も出来ることなら、人の役に立つようなことがしたい。けど今、君にそれを決められたくないし、決めたくもない。僕は今、君のことが大嫌いだからだ」



 コウタは最大限にユーリを睨めつける。



「……けっ、ガキかよ」

「ガキだよ。まだ16、今度の誕生日で17だ。この身体になってからを数えるなら、34日」



 まだ試用期間すら終えていないぺーぺーの新入社員。多少のミスは管理者の責任だ。



「だから大目に見ろってか? 俺は勇者として最年少のひとりだが、生憎と同い年だ」

「生後1ヶ月?」

「そっちじゃねぇ」

「びっくりした。クローンかなにかかと」

「オリジナルだ俺は」



 コウタの天然か煽りか判別のつかないそれを軽くあしらい、ユーリは言葉を続けた。



「いいか、強大な力を持つ奴はそれを正しく使う義務があるっつってんだよ。お前が世界に害をなさないとする根拠がない。なんのために造ったか知らねぇが、お前は世界の脅威になりうる」



 ユーリが苛立った様子でコウタを睨めつける。勇者の秘匿されている義務のひとつ、脅威の選定と剪定。勇者となる者は10億にひとりだが、それに近しい力を持つ者は平均一国にひとりは居る。ハークもそのひとりだ。その多くは出来る範囲で役立てたり、封印したりと他者とあまり変わらない生活を送っている。彼らの様に善に寄る人間だけでなく、当然悪に傾く人間も少なからず居る。勇者たちは彼らの存在を危惧しているのだ。



「アミスさんはきっとそんな使い方を望んじゃいない。誰が為に使うとか、大義とか正義とか、そんな大それたものの為じゃない。きっと僕が、僕の為になれるようにこの身体を創ったんだ。……趣味全開だけど。だから僕もそれに応える。託されたからにはね」



 コウタも珍しく怒りを見せ、恐怖の対象だったはずのユーリの正面から動こうともしない。



「答えになってねぇんだよ。……ふん、せいぜい足掻け」

「当然。覚悟しろよ勇者サマ。僕は泥仕合なら得意だ」



 そう言うと、ユーリは先程までとは比べ物にならないほどの雷霆を纏う。それは明らかに人智を越えるほどの纏い方で、先程までは本当に事情聴取のために殺さず無力化を狙われていたんだな、とコウタは理解した。



「雷心流」



 ユーリが消える。雷の残滓を残して。



「また消えた。アミスさんが居たら、なにか策が……いや、やっぱりアテに出来ないな」



 猶予はほんの数瞬きもない。無敵のバリアはもう使えない。相手は人類最強たる勇者のひとり。絶望的な状況を前に、コウタは思考を放棄する。だが決して諦めたのではない。彼の身体はなんの抵抗もなく、するりと勝手にその構えをとった。



「機式剛術」



 構えから生じるのは回避や逃避、防御のどれでもない。ただ見様見真似で、記憶に残っている一番強烈なワンシーンの再現をするだけだ。構え方こそ違うが、ちょうど今のような状況で、高速で迫る自分を容易く撃退してみせた師に倣う。それだけだ。

 ミスゴンにぶつけた残りカス、ユーリの連撃から幾ばくか奪えたエネルギー、そしてアークに残る総エネルギーの半分。全てを運動エネルギーへと変換し、その全てを右の拳の一点に乗せた現時点でコウタが出せる最大最強の一撃。師の名を冠するこの拳のひと振りは、大地すらも揺るがす。



「ハークスマッシュ!!!」



 コウタが地面に拳を叩きつけると、隕石が堕ちたかのような轟音、そして地面が爆裂した。半径15メートル、深さ20メートルほどのクレーターが出来上がる。ゴリラの片鱗があることを垣間見せる一撃。



「来い!! ユーリ・サンダース!!」



 コウタはクレーターに仰向けに飛び込むと、恐怖や不安を振り払うかのように吼える。ユーリならばこのクレーターを容易く回避し、遠距離からの攻撃も出来るだろう。だからこうして穴を開けて、そこに飛び込んで攻撃の道を一本に誘い込む。

 そして、コウタの思惑通りの雷が落ちた。



「飛雷!!!」



 ユーリはコウタの読み通り、真っ直ぐ突っ切って、真っ直ぐその土手っ腹に最速の雷拳を叩き込んだ。

多少向きが変わろうともお構い無し、寧ろ重力による加速も併せて都合がいいとした。

通常の落雷と比肩するほどの電力量に、マッハをゆうに越える拳。直撃した瞬間、コウタの意識は飛びかけた。しかし。


――来る場所さえわかっていれば、きっと。



「……く、来るところはわかってた。 だから、耐えたんだ! 頑丈さには自信があるから……!」



 きっとこの忌まわしいボディは耐えてくれる。耐えさせてくれる、耐えなければならない、

コウタは己と師、そして彼女らに賭けた。踏ん張れないぶんは母なる大地に背を預けた。



「捕まえたぞ、ユーリ・サンダース……!!」

「こいつ……!」



 コウタはがっしりとユーリの左手首を掴んで離さない。万力の如き握力で、手首ごと握り潰すつもりで力を込め続ける。

ユーリも負けじと自分の手を掴んでいるコウタの右腕を空いた手で掴んだ。無論握り潰すほどの力を込めて。



「逃げんなよ」

「……逃げやしないさ」



 コウタはこれ上等と更に力を加え、しばし金属の擦れ合う不快な音だけが掻き鳴る。これで互いに、自分の意思では逃げられない。どちらかがどちらかを倒すまで。



「さぁこっからどうすんだ!? 魅せてみろ! オートロイド……いや、オートノイド!」



 口角を大きく歪めて笑いながら、ユーリはそう叫ぶ。それを受け、コウタはいっそう掴む力を強めた。決して逃がさないという強い意志を持って、()()()()をしっかり構える。



「覚悟しろよユーリ・サンダース! 僕の全力はかなり熱いぞ!!」



 コウタが逃げ回り、駆けずり回ったルートには持ち込んでいたリュックがあった。コウタはそれにアミスを安置するために、その中身を全て撒き散らした。その中に【どこでもブラスター】が入っていたのは、偶然ではない。

そして左腕は既に純白の手甲で覆われている。クレーターを作った際に起動していたのだ。

そして、残った全て、持てる全てを注ぎ込む。



()()()()()!!」



 いつか見た、己が出せる最大出力。爆熱を迸らせ、全てを白で埋め尽くす。



「フルブラスト――!!」



 爆熱の閃光がふたりを呑み込んだ。

ありがとうございます。ブクマや感想等いただけるととても励みになります。

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