no.000 転生したらスーパーハイパースペックメカニカルメタルインフィニティインビジブルイモータルボディだった件
幼い頃から、身体が弱い方だった。風邪は長引くし、運動では女子にだって負けた。
だからか、僕――キガミ・コウタはその誘いに乗ってしまった。
それが持つ意味さえも知らずに。
『チャージ完了! コウタさん、やっちゃってください!』
その鋼の巨兵が立ち上がったのを見て、巨大クリオネ型オートロイド――アミスは合図をする。
『私に遠慮せずやっちゃえコータくん!』
それに合わせるようにして、メカニックの少女、メニカが通信機越しにそう激を飛ばす。
この時既に、コウタの恐怖心や焦りはどこかへ掻き消えており、それどころかどこか充足感が心を満たしていた。
腕を砲身に見たて、その掌をターゲットへと向ける。はち切れんばかりのエネルギーを手に宿し、教わった解号でそれを解き放つ。
「フルブラスト!!」
白い光の帯は瞬く間にぶつかり、凄まじい衝撃波と熱波を発生させる。強化ガラスを粉々に砕き、目も開けられない暴風を巻き起こす。
さて。一介の病弱男子だった僕が、何故巨大マシンに向けてビームを放っているのか。事の発端はほんの15分前。僕が目覚めたところから始まる。
15分前。コウタは目覚めた――というよりも飛び起きていた。
「あいたぁっ!?」
胸を抉られるような激痛が走り、跳ねるようにベッドから転げ落ちる。
どごんと重たい音が部屋に響き、痛みにのた打ち回ろうとしたが、その必要はないことにすぐ気づく。
「……痛くない?」
確かめるように胸をさすっても、痛みの余韻はどこにもない。心臓を抉られたかのような胸の痛みは、ほんの一瞬、それが幻であるかのようにいつの間にか消えてしまっていた。
なんとも不思議な目覚ましに、コウタはてなと首を傾げた。そしてすぐに、自分の置かれている状況にも首を傾げることにもなる。
「……ここどこ?」
最後の記憶は確か夜の自室だ。やけに明るかった満月を覚えている。
しかし、いまは見覚えのない殺風景な白い部屋、どこか病室のようでもある場所だ。これといった家具などは全くなく、あるものといえば、たった今起きた狭い柵付きのベッドくらいのものだ。
「……」
部屋を見渡すと、コウタは異変に気付いた。まず、窓がない。次に、扉も見当たらない。擬態しているのか、四面全てまったく同じ壁だ。外からの音も聞こえない。どこからどう入ってきたのかも見当がつかず、さらに首をかしげたが、ある意味当然の結論に辿り着いた。
「夢か」
この奇妙な現状をコウタが夢だと断定するのに、そこまで時間はかからなかった。
思えばどこか身体が重く動かしづらい気もするし、鼓動も感じない。夢でなければ死んでいるということになる。
明晰夢というやつだろう。
「……二度寝しよ」
寝ればどうにかなる。そう思って、コウタは再びベッドに横たわる。
ぎしりと、ベッドがそこそこ大きな音を立てて軋んだのが、少し気になった。
目を閉じ、眠るために訳の分からぬことを考えようとコウタが思考を巡らせた、その時だった。
まるで、待ったをかけるかのようにちょうどいいタイミングで突然その声がコウタに聞こえた。
『夢じゃありませんよ?』
それも、直接脳内に。
「ほぎゃあっ!?」
コウタは反射的に飛び起き、勢い余って壁に激突してしまう。
ぐらりと部屋が揺れ、みしりと壁が音を立てる。
一瞬、幻聴かとも思った。しかしその女性の声は確かに耳元で聞こえた。
現に今もなにやら文句のような、小言のようななにかをぶーぶーと垂れている。
『そんなに驚かなくてもよくないですか? そりゃあちょっとはびっくりさせようとは思いましたけど、ほぎゃあって』
その声を聞いていると、段々とコウタの記憶がよみがえってくる。
知っている。この人を。この人は。なぜ僕がここにいるのかを知っている。
気配は背後からする。意を決し、振り返った。
『おはようございまーす! コウタさん、朝ですよ!』
そこには、体長50センチほどの、バカデカい機械製のクリオネがふよふよと浮いていた。
「……おはようございます、アミスさん」
白く細長いどんぐりを逆さにしたような丸い円錐形の胴体に、羽にも手にもなりそうにない、謎の平たいパーツが二対着いている。そして何故かにっこにこ笑顔の顔文字がディスプレイ表示されている、まるいコマのような頭部。
そんなドローンタイプのオートロイドが、コウタの目の前に浮いていた。
「やっぱりアレは、夢じゃなかったんですね」
昨晩のことだ。コウタは夢の中で、この目の前の巨大クリオネ――アミスにとある提案を持ちかけられた。
『強く新しい体を手に入れて、見たこともない世界に行きたくはありませんか?』
そんな、ありがちな提案だった。
「……しかし、新しい体って言われても何も変わった気がしませんが」
包帯の巻かれた腕を見ながら、コウタはそう言った。
痛々しい見た目だが、痛みは全くない。
しかし。次にアミスが放った言葉に、頭の痛さを抱えることになる。
『同調は問題なさそうですね。私特製の超高機能駆動金属無限無敵不滅スーパーハイパースペックメカニカルメタルインフィニティインビジブルイモータルボディのボディ心地はいかがですか?』
「……なんて?」
アミスがさらりと放った語句に、頭痛と、とてつもない嫌な予感を覚える。脳が追い付けず、聞き返す以外、口からなにも出すことができなかった。
『まぁ、説明するより見てもらった方が早いですね』
コウタの困惑をよそに、アミスはテキパキと話を進める。
待ったをかける間も詰問する間もなく、カチリとなんらかのスイッチが起動する音が聞こえる。
天井から壁一面にかけて、大きな鏡が静かに降りてくる。
嫌な予感は消え去るどころか、より強まっていく。
そして、それは的中することになる。
「…………は?」
鏡に映った自身の姿を見て、コウタは絶句した。
まず、黒い。肌が黒めの人種になったとかそんなレベルではなく、構成材質がほとんど黒の金属だ。
緑に光る両眼と黒鋼色に鈍く光る肌、というよりもむしろ、グリーンのカメラアイと剥き出しの黒い金属装甲のカラダ。
耳をすませば鼓動でなく静かな駆動音が聞こえ、触れると見た目通りとても硬い。指で弾けばにぶい金属音がした。
金属鎧のような、ロボットのような、モビルスーツのような、そんな人間型のマシンがそこにいた。
ありがとうございました。感想、ブクマ、評価等いただけると励みになります。




